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ドルドランドの長い夜(13)

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「お兄ちゃん何を作るの?」
「三百人程いらっしゃるので、何を作ればいいのか⋯⋯」

 サーシャが迷うのも仕方ない。
 これだけの大人数の食事を作るのは一苦労だろう。
 だから半分は自分達でやってもらうつもりだ。

「俺がカニを解体するから二人は野菜を切ってくれないか」
「野菜を? わかりました。それでリック様は何を作るのでしょうか」
「それは――」

 俺はこんなこともあろうかと、創聖魔法で生み出していた物を二人に渡す。


 そして三十分程経った頃。

「みなさん今回は街を救って頂いてありがとうございました。これはそのお礼になります。どうぞ召し上がって下さい」

 俺は切り分けたカニをいくつもの大皿に乗せ、ウィスキー侯爵やエミリア達の前に置く。

「これはもしや先程の⋯⋯」
「キングクラブの身ね!」

 エミリアの目が輝いている。
 昔から美味しいものには目がなかったからな。
 ヨダレが見えるのは気のせいだと思いたい。

「切り分けたので、好みの焼き加減で食べて下さい」
「これって私達も食べていいんですか!?」
「もちろんです。お酒もあるのでたくさん飲んで下さい」

 俺が兵士達の分も用意していると口にした瞬間、周囲から歓声が沸き起こる。
 今回の荒くれ者確保には、ここにいる全員のおかげで何とかなった。遠慮なく食べてほしい。

「兵士達にも分け与えるとは」
「おかしいですか?」
「いや。兵士達の士気は大切だ。だが近来部下を大切にしない貴族が多くてな。リック殿の行動に感心しただけだ」
「ありがとうございます」

 やはりウィスキー侯爵は、数少ない心ある貴族の一人のようだ。

「ウィスキー侯爵! あんた紛らわしいのよ」
「これはこれはエミリア様。ご活躍は――」
「そんなおべっかはいらないわ。それより何よ! ドルドランドは荒れている。周辺の領主も迷惑している。あなた達のような若者で解決出来るとは思えない。ドルドランドは私の管理下において治安復興してやるって、いかにも悪役みたいなことを口にして⋯⋯勘違いしちゃったじゃない!」
「少し内容が変わっているような⋯⋯」
「気のせいよ」

 気のせいじゃない。明らかな捏造が入っている。
 確かウィスキー侯爵はあなた達のような若者と言ったはずだ。まさかとは思うがウィスキー侯爵が使えないと思っている若者の中から自分を外したんじゃないだろうな。それとウィスキー侯爵は、ドルドランドを自分の管理下においてやるなんて言ってないぞ。

「あれは君達を奮起させるために言った言葉だ。ドルドランドを支配する気など私にはないよ」

 やはりそうだったか。
 荒くれ者達がウサン州から来ていたと聞いた時から、ウィスキー侯爵は何となく悪い人ではないような気がしていた。

「ま、まあ私は最初からあなたが敵じゃないってわかっていたけど」
「そうだったか?」

 ウィスキー侯爵と領主館で会った後、とっちめてはかせてやるって滅茶苦茶怒っていたけどな。

「そ、そうよ! それより何かまた料理が来たわ」

 話を誤魔化したな。どもっていたことから、どうやらエミリアはウィスキー侯爵と会った時のことを覚えているようだ。

 そしてノノちゃんとサーシャ、何人かの兵士達が大きな鉄鍋といくつかの材料持って現れた。

「何よこれ。鉄鍋に何かスープが入っているわね。材料は他に白菜と魚とネギとキノコ?」
「ノノ達もわからないんだ。お兄ちゃんから材料を切るように言われただけで、後のお楽しみだって」
「確かにスープからは良い匂いがするけど」

 時間がなく、大勢に食べてもらうならこの日本料理が最適だ。
 本当だったら豆腐もほしい所だけど今日は我慢しよう。

「これから俺が作り方を見せるから、みなさんも真似て下さい」

 そして俺はこれらの材料を使ってあるものを作る。
 すると食欲をそそるような匂いが、辺りに充満するのであった。
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