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ドルドランドの長い夜(10)

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 名前:キングクラブ(魔王化)
 性別:雄
 種族:甲殻類
 レベル:92/200
 称号:カニの王・魔王の祝福
 力:1321
 素早さ:532
 耐久力:2321
 魔力:632
 HP:2333
 MP:362
 スキル:力強化C・スピード強化C・魔力強化C・聴覚強化+・物理攻撃耐性B・魔法攻撃耐性B・ウォーターカッター・ウォーターバリア・地中移動・隠密
 魔法:なし

 魔王化⋯⋯だと⋯⋯
 当たって欲しくない予感が当たってしまった。
 あの巨大カニは、ウィスキー侯爵が知っている個体とは違うという話から、魔王化しているんじゃないかと疑っていた。
 そして耐久力がかなり高い。並の攻撃ではキングクラブの殻は突き破れそうにないな。物理と魔法の耐性スキル、それにウォーターバリア。
 おそらくさっき炎嵐ファイアストーム創聖魔法ジェネシスを防いだのはウォーターバリアだ。炎系の魔法は効かないと考えた方がいいだろう。
 だがカニ、水系の魔物とくれば弱点は決まっている。

 俺は皇帝陛下と戦った後、いつか必ず必要になると思ってある魔法を造っていた。その魔法がとうとう日の目を見る時が来たようだ。

「クラス6・稲妻ライトニングボルト創聖魔法ジェネシス

 上空に雷雲が現れ、キングクラブに向かって荒々しい稲光が降り注ぐ。
 雷は水系の敵に大ダメージを与えることは、ゲームでは常識だ。

 今度こそ! と思ったがキングクラブは俺の魔法が放たれた直後、なんと地中に潜り、稲妻をかわしたのだ。
 確かに【地中移動】というスキルがあったが、まさかかわされるなんて思ってもいなかった。
 もしかしたら【聴覚強化+】で大気の異常を瞬時に察知したのかもしれない。
 だが今の攻撃でウィスキー侯爵達が街に入る時間は稼げた。
 後はこのキングクラブを倒すだけだ。

 キングクラブは地中に潜り、気配を隠している。
 探知のスキルを使えば居場所はわかる。だけど頭に入ってくる情報が多過ぎて、咄嗟の判断が出来なくなるため、このまま相手の出方を待つしかない。

 静寂が辺りを支配する。
 地面から来るのは確実だが、見えない敵が襲ってくるのは恐怖でしかない。
 俺はキングクラブの気配に集中する。
 すると僅かに足元が揺れたので後方へ回避すると、勢いよく右手を上げてキングクラブが地面から出てきた。

「危なかった」

 もう少し遅かったらさっきの兵士見たいに挟まれる所だったぞ。

「だがチャンスだ!」

 俺は目の前にいるキングクラブの足を狙って剣を振る。
 キングクラブは避ける素振りがない。俺の攻撃など受けても大したダメージにならないと考えているのだろう。

 しかしその油断が命取りだ!

 俺は足の関節の部分を狙う。
 するとキングクラブの一本の足が切り落とされ、無色透明の血が流れる。

 やはりいくら硬いとはいえ、関節部分は脆いようだ。
 このまま全ての足を狩り取ってやりたいが、相手ももう油断はしないだろう。

 その証拠に⋯⋯

「ヨクモ⋯⋯ヤッタナ⋯⋯」

 たどたどしい口調だが、キングクラブが言葉を発してきた。
 やはり魔王化している魔物は人の言葉を喋るようだ。

「オマエ⋯⋯ゼッタイニユルサナイ」
「最初に攻撃してきたのはそっちなのにひどい言い草だな」
「⋯⋯⋯⋯」

 自覚があるのか黙ってしまった。
 だが黙るのは聞きたいこと聞いてからにしてくれ。

「どうしてこんな所にいるのか教えてくれないか。ザガト王国の差し金か?」
「⋯⋯⋯⋯」

 だんまりか。元々口数が少ないのか、魔王化した魔物はあまり喋らないのかそれとも⋯⋯

「フェニシアの命令で⋯⋯」
「フェ、フェニシアサマ⋯⋯モ、モウヤメテ⋯⋯」
「フェニシア様?」

 どうやらキングクラブはフェニシアのことを知っているようだ。だけどフェニシアの名前を聞いて震えだしたぞ。まさか実験台として逆らえないように調教でもされたのか?
 とにかくこの様子では、フェニシアに逆らってまで情報を話すことはなさそうだ。
 それならもうこの巨大カニには用はない。
 人に仇なす魔物は始末させてもらう。

 俺は改めて剣を手にキングクラブと対峙する。
 そして足をもぐために接近し、関節を狙って剣を振る。
 しかしキングクラブは再び地中へと潜って、俺の攻撃を避けてしまう。

「くっ! またかくれんぼか。だがお前の攻撃は俺には当たらないぞ」

 俺はキングクラブの攻撃を察知するためにも、聴覚強化のスキルを使用する。
 これで少しの異変も耳で感知し、キングクラブの攻撃を避けやすくなるはずだ。

 俺は地中のキングクラブに集中し、再び現れるのを静かに待つ。
 するとキングクラブから、命を一瞬で狩り取る攻撃が迫ってくるのであった。

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