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ドルドランドの長い夜(7)

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「クーサイ侯爵は荒くれ者達に毎日エールを振る舞っていましたよね?」
「それがどうした!」
「だからそれを利用させてもらったんですよ」
「利用⋯⋯だと⋯⋯」

 そう。これはセバスさんから得ていた情報だ。
 荒くれ者達への報酬の一部のつもりなのか、クーサイは毎日エールを渡していた。
 だから俺はそれを利用させてもらったのだ。

「たぶん今日は襲撃する当日だったこともあり、クーサイ侯爵からエールの差し入れがなかったので、俺があなたの名前を使って代わりに酒を渡しておきました」
「まさか酒に酔ったことで無法者達は動くことが出来なかったのか!」
「バカを言うな! どれだけ酒を飲もうが奴らが酔って動けなくなることはない!」

 確かに普通のエールならそうだろう。

「これを飲んでみて下さい」

 俺はクーサイの拘束を解き、異空間から酒を取り出して二人の侯爵に渡す。

「こ、これは! 私の領地で作った酒ではないな」

 そして二人は一気に酒を飲み干す。
 おいおい。そんなに飲んで大丈夫か? この世界にある酒と比べてアルコール度数は段違いだぞ。
 俺は二人の身体を心配したが、それは杞憂だった。

「こんなに旨い酒は飲んだことないぞ! 身体の中にアルコールが染み渡ってくる!」
「だがいくらこの酒が旨かろうと、襲撃の前に酔っぱらう程飲むとは思えん」
「そうですね。だから俺はこれを使いました」

 俺はさらに異空間からある物を取り出してみせる。

「これは⋯⋯」
「花? まさか⋯⋯ネムネムの花か!」

 どうやらウィスキー侯爵はこの花が何なのか知っているようだ。

「ええ、煎じて酒の中に入れさせてもらいました。個人差があると思いますが飲んでから十~二十分程で眠りにつきます。だからあなたの頼みの綱である荒くれ者達は、夢の中という訳です」
「だがあの火の手は⋯⋯」
「あれはあなたを誘き寄せるために、わざとネムネム花を入れなかった部隊を作っただけですよ」
「なっ!」

 クーサイはガックリと崩れ落ちて、地面に膝をつく。
 一応襲ったという事実を作っておかないと、後で言い逃れをされかねないからな。

「く、くそぉぉぉぉっ!」

 そしてクーサイ侯爵は力強く叫ぶと完全に諦めたのか俯き、動かなくなるのであった。

 よし。これで後は寝ている荒くれ者達を拘束するだけだ。
 だが千を越える数を、ドルドランドにいる兵士だけで対処するのは厳しい。だがここにはそれに対応できる人達がいる。

「街にいる荒くれ者達の素性は確認できるのでしょうか?」

 俺はクーサイの兵士達に問いかける。

「え、ええ。後で成功報酬を渡すことになっているので⋯⋯」
「一応? なるほど。全て始末するつもりですか」

 俺が推測した言葉を口にするとクーサイは視線を反らす。
 正解ということか。確かに今回の件を隠すなら、命を奪う方が早いし確実だ。
 口に戸を立てることなど出来ないし、ましてや荒くれ者達のことなど信用出来るはずがない。必ず後でゆすられるのは目に見えている。

「貴様! 命を何だと思っているんだ!」

 ウィスキー侯爵がクーサイの胸ぐらを掴む。

「生きてても害にしかならない奴らを処理してやるんだ。むしろ感謝してほしいな」
「クーサイ貴様! 本当は私の手で⋯⋯私の剣で八つ裂きにしてやりたい! だがそれでは貴様と同じだ」

 そうだ。ウィスキー侯爵は家族をクーサイに殺されたんだ。誰よりも自分の手でクーサイを始末したいと思っているはずだ。

「貴様は司法で必ず裁いてやるから覚悟しろ!」

 多くの罪を重ねているクーサイをこの場でウィスキー侯爵が手を下しても問題ないはずだ。
 俺だったら母さんやおじいちゃん、おばあちゃん、ノノちゃんの命が奪われたら冷静でいられるだろうか。

 いや、無理だ。

 俺はそいつを絶対に許さないだろう。
 だから自分の感情をコントロール出来ているウィスキー侯爵は本当にすごいと思う。

「では皆さん、街の中にいる荒くれ者達の捕縛に協力して頂けませんか?」
「承知しました」
「私の兵も好きに使ってくれ」

 クーサイの兵とウィスキー侯爵の兵を合わせれば三百人近くになる。
 これで大分楽になったな。
 後は街に戻り、眠っている荒くれ者達を捕縛するだけ⋯⋯そう考えていたその時。

 ゴゴゴ⋯⋯

 突如地面が激しく揺れ、どこからかけたたましい音が聞こえて来るのであった。
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