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ドルドランドの長い夜(5)

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「な、何をしている! 立て! 立つんだ!」

 クーサイはウィスキー侯爵の兵達によって、羽交い締めにされながら喚き始める。

「む、無理です。クーサイ様は御存知ないのですか? 元勇者パーティーのリック様と言えばジルク商業国の英雄ですよ」
「英雄⋯⋯だと⋯⋯」

 クーサイが驚くのもわかる。
 皇帝陛下との戦いは非公開だったし、俺はつい先日までハインツ王子に勇者パーティーを追放された無能力者だからな。

「クーサイ、お前は知らないのか? リックくんは千を越える魔物からズーリエを守った英雄だぞ」
「そ、そんなこと聞いてないぞ!」

 それは情報を仕入れていなかった自分が悪い。現に同じ立場であるウィスキー侯爵は俺のことを知っていたからな。

「だが英雄だろうがなんだろうが関係ない! 命を睹して私を助けるのがお前達ゴミくずの役目だろ!」

 初めは丁寧な物言いだったけど、段々と本性を表してきたな。
 大抵の貴族は一般市民を見下している。クーサイもその類に漏れなかったようだ。

「いえ、私達はもうあなたの命令は聞けません」
「なんだと!」
「もう悪事に手を染めるのはごめんです」
「ふざけるな! 貴族であるこの私に逆らうのか!」

 兵士達は根っから悪い人達ではないようだ。
 領主であり、貴族であるクーサイの命令に逆らうことが出来なかったと言った所か。

「今のセリフは二度と使うことは出来ませんよ⋯⋯あなたはすぐに貴族の地位を剥奪されますから」
「こ、この私が平民に落ちると言うのか⋯⋯」
「いえ、平民ではなくただの犯罪者です」

 俺の言葉で現実を知ったのかクーサイは黙り項垂れる。
 これでここは何とかなったな。後は⋯⋯

「リック殿」
「ウィスキー侯爵大丈夫ですか?」
「ああ、君のおかげで助かったよ。ありがとう」
「いえ、ドルドランドも関係していることですから」
「だがまだ終わった訳ではない。早く街へ向かわなくては!」
「あ~⋯⋯たぶん街は大丈夫です。むしろやり過ぎないか不安ですね」
「ん? どういうことだ? 街はクーサイが放った無法者達のせいで燃えているだぞ!」
「それは――」

 俺はウィスキー侯爵に何故街が燃えているか、どうして急ぐ必要がないのか説明するのであった。

 貧民街side

「どこへ行くつもりなの?」

 突然一人の少女⋯⋯いや、エミリアが現れ、荒くれ者達の逃げ道を塞ぐ。

「何だよ。人がいるじゃねえか」
「しかもかなりの上玉だ」
「これは高く売れる! 戦利品として持ち帰るぞ!」

 荒くれ者達はエミリアの美しい容姿を目にして沸き立つ。

「バカね。よく見なさい。後ろに兵士達がいるのがわからないの?」
「兵士だと? 確かにいるな」
「それにもう一人上玉がいるじゃねえか!」

 ドルドランドの兵士達の中にいるリリを見つけ、荒くれ者達はさらに沸き立つ。

「あの視線⋯⋯気持ち悪い」

 リリは荒くれ者達の舐めるような視線に不快感を示す。

「少しの間そこで待っていなさい。すぐに終わらせてあげるから」
「お願い」
「それと兵士達! 私一人でやるからあなた達はおとなしくリリを守っていなさい」
「「「承知しました」」」

 兵士達は敬礼をして、命令通りエミリアの行動を見守ることにする。

「バカじゃねえか! 一人でやるだと!」
「こっちは三十人近くいるんだぞ!」
「すぐに裸にひん剥いてやるから、そこで見ていやがれ!」

 荒くれ者達はエミリアの服を引きちぎる未来を想像しているのか、下卑た笑みを浮かべていた。

「死にたい奴からかかってきなさい」

 エミリアは腰に差した剣を抜き構える。

「エミリア様! 殺してはいけないとリック様からの言付けが⋯⋯」
「わかってるわ! 雰囲気で言っただけよ!」

 エミリアは兵士に言い返しながら荒くれ者達の元へと突撃する。

「くそっ! 舐めやがって!」
「野郎共! やっちまえ!」 

 そして荒くれ者達も武器を手にエミリアへと向かい、両者が激突するのであった。
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