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ドルドランドの長い夜(2)

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 ドルドランド南区画の貧民街にて

「ヒャッハー! 燃えろ燃えろ!」

 荒くれ者達の集団が貧民街に焔石を投げ、建物を燃やし破壊していく。

「この街には兵士がいねえからやりたい放題だぜ!」
「金ももらえて最高の仕事だな!」
「後はずらかるだけだ! だが貧民街のゴミ共なら殺してもいいと言われている! 街を綺麗にするために少し掃除していくか!」

 荒くれ者達は貧民街の奥深くに侵入し、次々と建物を破壊して周囲は地獄絵図へと生まれ変わった。
 やりたい放題の荒くれ者達、だが突然動きを止める。

「ん? 何だかおかしくねえか?」
「何がだ」
「一斉に貧民街を攻撃する手筈はずじゃねえのか? 他の場所からは火の手が上がってねえぞ」
「今日参加する奴ら全員に酒が振る舞われたから、飲み過ぎて寝てるんじゃねえ?」
「ぎゃははっ! どんだけ飲んでんだよ!」
「それに貧民街の奴らが全くいねえぞ。こんな夜遅くにどこかに行くなんて考えらんねえ」

 荒くれ者の一人が言うように、どれだけ家を燃やして破壊しようが、周囲から人の気配はまるでなかった。

「確かにおかしいな。これはとっととずらかった方がいいかもしれねえ」

 荒くれ者達の集団は周囲の異様な雰囲気を感じとり、踵を返して貧民街から脱出しようとする。

 しかし⋯⋯

「どこへ行くつもりなの?」

 突然一人の少女が現れ、荒くれ者達の逃げ道を塞ぐのであった。


 リックside

 俺はドルドランドの南門から街を出て、小高い丘へと昇る。
 そして街に視線を向けると、夜中とは思えないほどの明るい光が見えた。

「始まったか」

 現在はちょうど日付が変わった時間。
 どうやら荒くれ者達が建物に火をつけたようだ。

 本来なら直ぐにでも街へと向かい、消火活動や火をつけた者の捕縛、民の避難誘導を行わなければならない。
 だが俺は目もくれず、ドルドランドの街の外へと視線を向ける。

 すると一個小隊程の人数を率いたウィスキー侯爵が現れた。

 やはり来たか。
 必ず侯爵は来ると思っていたぞ。

「火の手が上がったぞ! 急ぎドルドランドへと迎え! 我らの手で無法者達を追い払うのだ!」
「「「うおおぉぉぉっ!」」」

 ウィスキー侯爵が号令をかけると兵士達は、一斉にドルドランドへと向かう。

 ドルドランドにいる荒くれ者達は、アールコル州から来たというのは間違いない。そしてその数は少なくとも千人を超えている。ウィスキー侯爵はこの少ない人数で荒くれ者達を追い払い、街を救ったとなれば英雄として扱われるだろう。
 例えこれが自作自演だとしても。
 バレなければ英雄、そしてその功績を持って俺やエミリア、サーシャを無能扱いをして、ドルドランドの領地を頂く。

 ウィスキー侯爵はそのようなシナリオを描いていると
 だが実際にはこのシナリオを描いた人物は他にいる。
 その証拠にドルドランドへと向かっていたウィスキー侯爵の小隊は、突如自分達の数倍はいる戦力に取り囲まれる事態となった。

「何奴! まさかドルドランドの兵士か?」
「ウィスキー侯爵様。ドルドランドの兵は五十人程しかいないはずです。しかし目の前の兵達はあきらかにその数を超えています」
「そ、そうだな。それに我々を囲むように配置している」

 味方であれば、わざわざウィスキーの小隊を取り囲む必要はない。これは明らかにウィスキーの小隊を逃がさないための配置だ。

「お前達は何者だ!」

 ウィスキー侯爵の小隊は皆剣を手に相手の出方を窺う。だが相手は自分達の数倍の人数がおり、逃げ場はない。
 もし戦いになれば誰もが絶望的な状況になることを覚悟していた。
 しかしそれでも目が死んでいる者はいなかった。何故ならこの最悪な事態の中でも、やらなくてはならない使命を秘めているからだ。
 それは主であるウィスキー侯爵だけは、この場から逃がすということだった。

「何者だ? 私の顔を見忘れたのか?」

 そしてウィスキー侯爵の問いに答えるように、囲いの一角から白馬に乗った男が現れるのであった。
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