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ノノちゃん・・・おそろしい子

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「区画整理をして、ドルドランドの貧民街を無くそうと考えている」

 二人は俺の言葉を聞いて目を見開く。それだけ思いがけない提案だったのだろう。

「それは力ずくで排除するということですか?」
「違う。貧民街にいる人達にも納得した形で進めるつもりだ」

 サーシャとエミリアは怪訝そうな顔で俺の話を聞いている。
 公爵家の令嬢として生きてきた二人には、底辺の暮らしがどうなろうと興味がないのかもしれない。
 だがこの後、俺の予想は良い意味で裏切られることになる。

「わかったわ」
「わかりました」

 二人は俺の言うことに対して、肯定の言葉を述べてくれたのだ。

「だけど問題点はたくさんあるわね」
「ええ⋯⋯住民への理解、区画整理の費用、貧民街の人が普通に暮らせるように教育もしなくてはなりません」

 そして次々と改善点を上げ、意欲的に取り組んでいるように見えた。

「ちょっと待ってくれ。二人はいいのか? 貧民街のために金を使っても」
「私は異論はありません。以前から貧民街の方を遊ばせておくのは非生産性だと思っていました。働くことが出来ればもっと税金が回収出来て、領地が潤います」

 サーシャらしい合理的な考えだな。

「それにリック様がやると決めたなら領主代行として⋯⋯いえ、私一個人としてリック様従います」

 サーシャは熱く語ったせいか、頬が紅潮していた。

「ありがとうサーシャ。サーシャが支えてくれると助かる」
「そう言って頂けると嬉しいです」

 いくら前世の記憶やゴルドの教育を受けたからといって、俺には足りないものが多々ある。それに一人で何もかもやれるとも思ってはいない。信頼できる仲間がいることは嬉しい。

「エミリアもありがとう」
「勘違いしないでよね。私は暇だから手伝ってあげるだけよ」
「それでもありがとう。本当に助かるよ」
「ふ、ふん! 別にあんたのためじゃないから! 感謝しなさいよね!」

 ツンデレか! とツッコミたくなる言葉だな。
 だが皇帝陛下との戦いで、命をかけて参戦してくれたエミリアなら信頼できる。本当素直じゃないな。

「そうですね。エミリアはノノさんのために頑張るんですよね?」
「そ、そんなんじゃないわよ」
「どういうことだ?」 

 エミリアはサーシャに確信を突かれたのか、明後日の方へと顔を背ける。

「先程食堂で、ノノさんが貧民街の子達を助けたいって言っていたからですよね」
「そ、そんなことないわ」
「エミリアはノノさんのことが大好きみたいですから」
「ま、まあ⋯⋯嫌いではないわね」
「嘘おっしゃい。先程大好きなシャインアップルをノノさんにあげてたじゃないですか」
「そういうあんたもノノにあげてたじゃない」
「私はノノさんのことを好ましく思っていますから、別に問題ありません」

 確かに二人はノノちゃんを挟んで、楽しそうにシャインアップルを食べていたな。

「そ、それにあんた! ノノにあ~んして食べさせてもらったわね! 私はしてもらってないのに⋯⋯」

 そういえばサーシャがノノちゃんに食べさせてもらっているのを横目に、エミリアが悔しそうに親指の爪を噛んでいたな。
 だがサーシャは自分から食べさせて欲しいと、ノノちゃんにお願いしていた。エミリアは恥ずかしかったのか、口にすることが出来なかったからこれは仕方ない。

 二人はまた言い争いをしてしまったが、今回の内容は微笑ましいものだ。
 しかし公爵家の令嬢の心をあっという間に虜にしてしまうとは。
 ノノちゃん⋯⋯おそろしい子。

「ふふ、あれは極上の味でした。エミリアは味わえなくて残念でしたね」
「くっ! こうなったらあんたの口に辛いものを突っ込んで、その幸せな記憶を奪ってあげるわ!」
「ちょ、ちょっとやめて下さい」

 やれやれ。段々と争いが激しくなってきたからそろそろ止めた方がいいな。

「二人ともそろそろやめてくれ」
「私は何もしていません。エミリアが突っ掛かってくるだけです」
「サーシャが挑発するからでしょ」

 やはり二人は水と油、犬猿の仲だな。仲良くしている姿が想像出来ない。

「とにかく貧民街の区画整理には、資材や食糧問題があるから商人の協力が不可欠だ」
「そうね。その部分がしっかりしていないと、今の貧民街を壊してもまた逆戻りする可能性があるわ」
「もしよろしければ私が手配致しましょうか?」
「いや、知り合いの商人がいるからお願いしようと思っている」
「わかりました。では、さっそくその商人の方の所へ向かいましょう。今度は私が行きますがよろしいですね?」
「仕方ないわね。でも何かあっても私は責任は取らないわよ」
「いつも問題を起こしているあなたに言われたくありませんね」
「なんですって!」

 また言い争いが始まってしまった。
 この二人は能力が高いから、力を合わせれば絶対に素晴らしい結果が出せると思うのだが。

「やっぱりリックには私がついていくわ」
「もう私がお供することに決定しましたから」
「ポンコツのサーシャは、暗い部屋でチマチマと書類整理でもしてればいいわ」
「エミリアは領主代行なのにドルドランドのことを知らなすぎます。あなたこそ書類に目を通す作業をした方がいいのでは?」

 やはり今の二人を見ていると、そのような未来は永遠に来ることはないだろう。
 とりあえず俺はこれ以上争いが激化しないように、二人の間に割って入るのであった。
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