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エミリアという少女
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俺とノノちゃんは領主館に戻り、建物の陰から入口に視線を送ると、そこには門番二人と仁王立ちしたエミリアいた。
「エミリア様ここは私達にお任せ下さい」
「リック様が戻られたらお知らせしますから」
「信用出来ないわ。あなた達は私じゃなくてリックの味方でしょ?」
「「⋯⋯⋯⋯」」
エミリアの言葉に二人は口をつむぐ。
鬼のようの形相をしたエミリアの前で、無言だが俺の味方をしてくるの素直に嬉しいぞ。
だがこのままでは、いつその怒りが門番の二人に向かうかわからないので、ここは覚悟を決めて行くしかないな。
「それじゃ行こうか」
「うん。でも何でお兄ちゃんは隠れてエミリアお姉ちゃんを見てたの?」
「大人には色々あってね」
「そうなんだ」
ノノちゃんには俺がこのままだとエミリアに始末されるということが、わかっていないようだ。
だがノノちゃんはそのままでいい。汚れた大人の世界には染まらないでくれ。
俺は意を決して足を進める。
するとエミリアが俺の存在に気づいたのか、猛スピードでこちらに向かってきた。
「リックゥゥゥ! よくも私を出しに使ってくれたわね!」
やはり怒ってらっしゃる。しかも腰に差した剣を抜いているぞ。このまま何もしなければ、俺はエミリアの手によって串刺しにされるのは間違いないだろう。
だが俺には奥の手がある。以前取っておいた物を異空間に残しておいて良かった。
俺は迫るエミリアに向かって一言言葉をかける。
「エミリア、シャインアップルがあるんだが一緒に食べないか?」
「シャイン⋯⋯アップル?」
俺の言葉を聞いてエミリアの動きがピタリと止まる。
そしていつの間にか殺気も薄れていた。
「そうだ。確か好きだったよな? たくさんあるから早く領主館の中に入ろう」
俺はリクの記憶を取り戻す前に、エミリアが言っていた言葉を思い出した。
シャインアップルの赤い宝石のような輝き⋯⋯口の中に入れるとジュワッと広がる極上の糖度⋯⋯まさに私のために生まれた果物だわと。
「でも⋯⋯リックは私をこけに⋯⋯」
「エミリアお姉ちゃん、シャインアップルって凄く美味しいんだよ」
ノノちゃんはエミリアの手を引いて、領主館の中へと向かう。
「ちょっとノノ! わかったから」
「ノノ、シャインアップル大好きなの。早く一緒に食べよ」
「リック、今回はシャインアップルとノノに免じて許して上げるわ」
そしてエミリアとノノちゃんは領主館へ入っていくのだった。
俺はエミリアの溜飲が下がったことに安堵する。
やはりノノちゃんに頼んでおいて正解だったな。
俺はシャインアップルだけではエミリアの怒りは収まらないと考えていた。
予めノノちゃんには、シャインアップルが食べたいと言ってエミリアの手を引き、領主館に戻って欲しいとお願いしていたのだ。
ノノちゃんは何のことかわかっていなかったが、快く引き受けてくれた。その結果エミリアの怒りが静まったというわけだ。
「リック、そんな所に立っていないで早く私にシャインアップルを献上しなさい」
「ああ、今行く」
そして領主館の中にいるサーシャ達も交えてシャインアップルを食する。するとエミリアはご満悦になり、エメラルドユニコーンのことはすっかり忘れているように見えた。
そして俺はエミリアとサーシャを執務室に呼び、今日聞いた話で気になったことがあったので話すことにした。
「ちょっと二人に聞いて欲しいことが⋯⋯」
「お待ち下さい。リック様のお話の前に私から一つよろしいでしょうか?」
「何? 話の腰を折るんじゃないわよ」
「今日街で気になることがあったのでご報告を」
サーシャはエミリアの言葉を無視して話を続ける。
すると二人は一触即発状態になり、この場の空気が一気に悪くなってきた。
勘弁してくれ。二人の間に挟まれる俺の身にもなってほしいぞ。
「本日の午前中に武器屋で騒ぎがありました」
「武器屋で騒ぎ?」
ま、まさか。
「少女が男を蹴って、商品を台無しにした聞いているのですが何か御存知ですか?」
「知らないわ」
エミリアは自分が起こした騒動なのに、涼しい顔で嘘をつく。
「本当ですか? 二人が領主館を出てすぐに起きたことなのですが」
「今は街に粗暴な奴らがたくさんいるから、たぶんそいつらじゃない?」
「そうですか。目撃証言ではその少女はとても美しい容姿をしていたとのことですが」
「当然ね。その目撃者はわかっているじゃない。私が女神のように美しいということを」
俺は頭をかかえる。
もう自分が犯人だと言っているようなものじゃないか。しかもエミリアは女神という最上の言葉を付け足してきたぞ。どんだけ自信家なんだ。
「やはりあなたでしたか」
「は、嵌めたわね!」
いや、今のはむしろエミリアが自分から罠にかかったように見えたが。
「何度も言っていますが問題を起こしたら公爵家に戻ることになりますよ?」
「その件については和解済みよ」
「いや、和解したのは店主の方で、蹴られた男とは遺恨が残ったままだから」
サーシャはエミリアの言葉に大きくため息をつく。
「公爵家に帰る時は私を巻き込まないで下さいよ」
「大丈夫よ。もし次にそいつを見つけたら始末するから」
全然大丈夫じゃない! むしろもっと問題が大きくなりそうだ。
「そんなことより、リックの話を聞かせてちょうだい」
「あなたという人は」
俺とサーシャはエミリアの傍若無人な態度に唖然としてしまうのだった。
――――――――――――――――――
昨日より新しく【敗北から始まる物語~】を投稿しています。
もしお時間がありましたら、そちらも読んで頂けると嬉しいです。
「エミリア様ここは私達にお任せ下さい」
「リック様が戻られたらお知らせしますから」
「信用出来ないわ。あなた達は私じゃなくてリックの味方でしょ?」
「「⋯⋯⋯⋯」」
エミリアの言葉に二人は口をつむぐ。
鬼のようの形相をしたエミリアの前で、無言だが俺の味方をしてくるの素直に嬉しいぞ。
だがこのままでは、いつその怒りが門番の二人に向かうかわからないので、ここは覚悟を決めて行くしかないな。
「それじゃ行こうか」
「うん。でも何でお兄ちゃんは隠れてエミリアお姉ちゃんを見てたの?」
「大人には色々あってね」
「そうなんだ」
ノノちゃんには俺がこのままだとエミリアに始末されるということが、わかっていないようだ。
だがノノちゃんはそのままでいい。汚れた大人の世界には染まらないでくれ。
俺は意を決して足を進める。
するとエミリアが俺の存在に気づいたのか、猛スピードでこちらに向かってきた。
「リックゥゥゥ! よくも私を出しに使ってくれたわね!」
やはり怒ってらっしゃる。しかも腰に差した剣を抜いているぞ。このまま何もしなければ、俺はエミリアの手によって串刺しにされるのは間違いないだろう。
だが俺には奥の手がある。以前取っておいた物を異空間に残しておいて良かった。
俺は迫るエミリアに向かって一言言葉をかける。
「エミリア、シャインアップルがあるんだが一緒に食べないか?」
「シャイン⋯⋯アップル?」
俺の言葉を聞いてエミリアの動きがピタリと止まる。
そしていつの間にか殺気も薄れていた。
「そうだ。確か好きだったよな? たくさんあるから早く領主館の中に入ろう」
俺はリクの記憶を取り戻す前に、エミリアが言っていた言葉を思い出した。
シャインアップルの赤い宝石のような輝き⋯⋯口の中に入れるとジュワッと広がる極上の糖度⋯⋯まさに私のために生まれた果物だわと。
「でも⋯⋯リックは私をこけに⋯⋯」
「エミリアお姉ちゃん、シャインアップルって凄く美味しいんだよ」
ノノちゃんはエミリアの手を引いて、領主館の中へと向かう。
「ちょっとノノ! わかったから」
「ノノ、シャインアップル大好きなの。早く一緒に食べよ」
「リック、今回はシャインアップルとノノに免じて許して上げるわ」
そしてエミリアとノノちゃんは領主館へ入っていくのだった。
俺はエミリアの溜飲が下がったことに安堵する。
やはりノノちゃんに頼んでおいて正解だったな。
俺はシャインアップルだけではエミリアの怒りは収まらないと考えていた。
予めノノちゃんには、シャインアップルが食べたいと言ってエミリアの手を引き、領主館に戻って欲しいとお願いしていたのだ。
ノノちゃんは何のことかわかっていなかったが、快く引き受けてくれた。その結果エミリアの怒りが静まったというわけだ。
「リック、そんな所に立っていないで早く私にシャインアップルを献上しなさい」
「ああ、今行く」
そして領主館の中にいるサーシャ達も交えてシャインアップルを食する。するとエミリアはご満悦になり、エメラルドユニコーンのことはすっかり忘れているように見えた。
そして俺はエミリアとサーシャを執務室に呼び、今日聞いた話で気になったことがあったので話すことにした。
「ちょっと二人に聞いて欲しいことが⋯⋯」
「お待ち下さい。リック様のお話の前に私から一つよろしいでしょうか?」
「何? 話の腰を折るんじゃないわよ」
「今日街で気になることがあったのでご報告を」
サーシャはエミリアの言葉を無視して話を続ける。
すると二人は一触即発状態になり、この場の空気が一気に悪くなってきた。
勘弁してくれ。二人の間に挟まれる俺の身にもなってほしいぞ。
「本日の午前中に武器屋で騒ぎがありました」
「武器屋で騒ぎ?」
ま、まさか。
「少女が男を蹴って、商品を台無しにした聞いているのですが何か御存知ですか?」
「知らないわ」
エミリアは自分が起こした騒動なのに、涼しい顔で嘘をつく。
「本当ですか? 二人が領主館を出てすぐに起きたことなのですが」
「今は街に粗暴な奴らがたくさんいるから、たぶんそいつらじゃない?」
「そうですか。目撃証言ではその少女はとても美しい容姿をしていたとのことですが」
「当然ね。その目撃者はわかっているじゃない。私が女神のように美しいということを」
俺は頭をかかえる。
もう自分が犯人だと言っているようなものじゃないか。しかもエミリアは女神という最上の言葉を付け足してきたぞ。どんだけ自信家なんだ。
「やはりあなたでしたか」
「は、嵌めたわね!」
いや、今のはむしろエミリアが自分から罠にかかったように見えたが。
「何度も言っていますが問題を起こしたら公爵家に戻ることになりますよ?」
「その件については和解済みよ」
「いや、和解したのは店主の方で、蹴られた男とは遺恨が残ったままだから」
サーシャはエミリアの言葉に大きくため息をつく。
「公爵家に帰る時は私を巻き込まないで下さいよ」
「大丈夫よ。もし次にそいつを見つけたら始末するから」
全然大丈夫じゃない! むしろもっと問題が大きくなりそうだ。
「そんなことより、リックの話を聞かせてちょうだい」
「あなたという人は」
俺とサーシャはエミリアの傍若無人な態度に唖然としてしまうのだった。
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