狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

連載

懐かしき我が家へ

「どこに行ったのリック！」

　俺は武器屋を出てすぐの曲がり角に隠れて、弾丸のように飛び出すエミリアを眺めていた。

「こ、怖い⋯⋯このままだと俺は殺されるかもしれない。領主館に戻る時は何か差し入れでもしてご機嫌をとった方がいいな」

　そして俺はノノちゃんを迎えに行くため、再び武器屋の中へ入る。

「お兄さん大丈夫ですか？ お嬢さんが凄い勢いで追いかけて行ったけど」
「ええ、なんとか」

　領主館に戻った後が怖いけど今は考えないようにしよう。

「ノノ、エミリアお姉ちゃんは清らかな乙女だと思うけどなあ」
「ソウダネ」

　思わずノノちゃんの問いに片言で答えてしまった。
　ノノちゃんは心が綺麗だから、エミリアの暴君っぷりを見てもそう言えるんだ。

「とにかくこれでライトニングソードを破壊したことは目を瞑ろう」
「エミリアにそう伝えておきます」

　これで当初の目的は果たせたな。
　いや、今日は街で情報を仕入れてくるはずが、ほぼ１日無駄になった。何の目的も達成出来ていないな。

「それにしても本当にエメラルドユニコーンの角が手に入るとは思わなかったよ」
「それは⋯⋯清らかな乙女に当てがあったので」　
「こっちのお嬢さんですか？ 確かに顔立ちがいいから将来が楽しみな逸材ですね」
「そのとおりです」
「そんなことないよぉ。だけどお兄ちゃんの役に立てて、ノノすごく嬉しい」

　今回のエメラルドユニコーンの角の採取は、間違いなくノノちゃんのお陰だ。
　俺は感謝の意味を込めてノノちゃんの頭を撫でる。

「えへへ」

　するとノノちゃんはまるで猫のように目を細めて、気持ち良さそうな表情をする。

「仲がいいご兄妹ですね」
「そうですね。大切な妹です」
「でも気をつけて下さいよ。最近この街はがらの悪い人達が多いですから」

　おっ？ ちょうど俺が知りたい話題を振ってくれた。武器屋の店主に街のことを訪ねてみるか。

「そうみたいですね。前はここまで治安が悪くはなかったと思うのですが」
「領主様が街から追放された後、突然アールコル州から人と酒が多く入るようになりまして」

　サーシャが言っていた内容と同じだな。

「ちなみに何か被害とか出でいるんですか？」
「う～ん⋯⋯軽いケンカとかは耳にするけど、よく考えてみると明確な被害は出ていませんね」

　被害は出てない？ それなら奴らはいったい何のためにドルドランドにいるんだ。

「アールコル州の商人が販売しているエールを飲んで、こんな旨いエールは飲んだことがない！ と騒いで少し暴れているくらいですね」
「それはそれで迷惑な話ですね」

　アルコールを飲んで気が大きくなり、暴れる人はどこの世界でもいるんだな。俺からすると何故暴れるとわかっていて、アルコールを飲むのか理解できない。まあおそらくその大半は、アルコール中毒という病気なんだと思うけど。
　だけど俺は今の店主の話におかしな点を見つけた。これは調べる価値があるかも。

「それでは私は仕事に戻りますので。武器が欲しくなったらいつでも来て下さい。ただし暴れるのはやめて下さいね」

　店主は他のお客さんが来たため、俺達から離れていく。

「それじゃあ俺達も出ようか」
「うん」

　そして俺とノノちゃんはもうここには用がないので店を後にする。

「お兄ちゃん、今日は領主館に戻るの？」

　現在は夕陽が出る前の時間。
　本当はもう少し他の場所で情報収集をしたかったけどどうするか。とりあえず領主館にはまだ戻りたくない。いずれ戻るにしても、エミリアの頭が冷える時間が欲しい。
　今戻ったら待っているのは確実な死だ。

「ノノ、行ってみたい所があるんだ」
「どこ？」
「お兄ちゃんが住んでいたお家なんだけど」

　貧民街か。このドルドランドで最も治安が悪い場所だから、なるべくなら避けたい所ではある。
　だけど今日はノノちゃんのおかげで、エメラルドユニコーンの角を取ることが出来たので、願いを叶えてあげたい。

「いいよ。それじゃあ行こうか」
「ありがとうお兄ちゃん」

　そして俺とノノちゃんは、街の南にある貧民街へと向かう。
　東区画から南区画に入ると世界が一変する。建物が木や藁の物になり、すれ違う人々の服装がみすぼらしい物へと変わる。
　それに道の清掃をしていないことと、ここにいる人達が身体を清めていないことで周囲から異臭がしていた。
　普通ならこの臭いで気が狂いそうになるが、俺もノノちゃんも貧民街出身であるため、それほど気にならない。

　それにしても人が増えたな。
　俺が追放されてからまだそんなに時が経っていないのに、あの頃と比べて一・五倍の人がいる。
　みすぼらしい姿格好からして、これはアールコル州の人達ではなく、元々ドルドランドにいた人達だろう。
　本当にゴルドとデイドは何をしているんだ。
　民がいなければいずれこのドルドランドは崩壊して、自分達の地位や権力を維持することが出来なくなるのに。
　今の自分達さえよければいいと考えていたのか？
　二人の無責任さに俺は呆れるしかない。

　そして俺達は貧民街を進んでいくと、かつて俺と母さんが住んでいた場所へと到着したが⋯⋯そこには何もなかった。