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1巻

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 リビングに移動してしばらく談笑していると、夕食の時間になった。
 今日の夕食は、野菜のスープと牛肉のステーキに塩を振ったものだ。
 肉なんて、ドルドランドで貴族になる前は滅多に食べたことがなかった。
 おそらく今回は、ルナさんの代表就任のお祝いを兼ねているから出てきたのだろう。
 食事をしながら母さん達に今日あった選挙のことやウェールズのことを話していたら、いつの間にか夜がけてきた。

「さて、そろそろ寝ましょうか。二人の部屋だけど……シーラさんはメリスの部屋でいい?」
「大丈夫です」
「それでルナちゃんだけど……」

 ルナさんはどこに泊まるんだろう。


 この家に人が泊まれるような部屋は四つ。俺の部屋、母さんの部屋、おばあちゃんの部屋、そしておじいちゃんの部屋だ。四つともそこまで広い部屋ではないので、一部屋に三人は泊まれないだろう。
 まあ普通に考えればおばあちゃんの部屋かな。

「リックくんの部屋ね」
「「えっ? えぇぇぇぇぇっ!」」

 俺とルナさんの声がリビングに木霊する。
 今おばあちゃんはなんて言った? ルナさんを俺の部屋に泊める……?
 普通恋人でもない男女を同じ部屋に泊まらせるか?

「わ、私がリックさんの部屋にぃ! そうなると夜は……同じ……エッ……いっぱい……今夜は寝か……ない……みたいな展開ですか!」

 ルナさんは何やらぶつぶつ言っている。
 だが今はそんなことより……

「それはまずいでしょ!」
「そう? けど泊まれる部屋がないのよね。私の部屋は荷物があって二人は無理だし、おじいさんの部屋に泊まらせるわけにはいかないでしょ?」
「それなら俺がおじいちゃんの部屋に泊まるよ。ルナさんは俺の部屋を使って」

 おじいちゃんは俺のことが好きじゃないと思うけど、さすがにルナさんと同じ部屋に泊まるわけにはいかない。こういうのはもっと手順を踏んでからじゃないと……

「おじいさんがそれでいいならいいわよ」

 おじいちゃんも、ルナさんを俺の部屋に泊めるのはまずいと考えているはずだ。
 俺はおじいちゃんの答えを聞くため、そちらに目を向ける。


 ◇ ◇ ◇


 孫と同じ部屋に寝る……じゃと……
 そうなったら孫ともっと親密な関係になり、「おじいちゃん大好き」と言われる展開が待ち受けているに違いない。
 最高じゃ……もう思い残すことはない。我が生涯に一片の悔いなしじゃ。
 じゃが孫とルナさんをくっつけるには、ここはノーと答えるしかない。自分の欲望を満たすか孫の幸せを願うか……
 うぉぉぉ! どうすればいいんじゃ! これはばあさんにプロポーズをした時以来の究極の選択じゃ!


 ◇ ◇ ◇


「ル、ルナさんはリックと一緒の部屋に泊まればいい」

 やはりおじいちゃんは俺と同じ部屋は嫌なようだ。だけど気のせいか、今のおじいちゃんはガッカリしているようにも見える。

「でもルナさんが嫌なんじゃ……」
「わ、私は泊めさせていただく身、文句などありません。それにリックさんのことを信じていますから」

 そんなキラキラした目で見られると、絶対に信頼を裏切ることはできないな。
 今日の夜は過酷かこくな戦いになりそうだ。

「決まりね。シーラさんはメリスの部屋に、ルナちゃんはリックくんの部屋に……それじゃあ私はおじいさんの部屋に泊まるわね」

 おばあちゃんはウインクをしながら、茶目っ気たっぷりな顔でおじいちゃんに寄り添う。その姿はとてもじゃないが、孫がいるようには見えない。
 二十代後半と言われても驚かないぞ。

「おじいさんそれでいい?」
「ふ、ふん! 好きにせい!」

 おばあちゃんの部屋に泊まる宣言により、先程まで寂しそうに見えたおじいちゃんが、喜んでいるように感じるのは気のせいではないだろう。
 こうして部屋割りが決まったが、この時の俺は、ルナさんと同じ部屋に泊まることに混乱していて、おばあちゃんの部屋が空いたことに気づいていなかった。


 そしてリビングでの団欒だんらんは終わり、各自割り振られた部屋へ向かう時間になった。
 俺はルナさんを連れて自分の部屋に向かう。
 会話はない。
 これから部屋で二人っきりになるため、緊張しているからだ。
 自室に辿り着くと、俺はルナさんを部屋の中へ導く。

「どうぞ」
「し、失礼します」

 ルナさんは顔を赤らめ、うつむきながらゆっくりと部屋の中に入っていく。
 そして俺も部屋に入りドアを閉めると、二人だけの空間になった。
 何を話せばいいのか……親がいる状況で変なことをするわけにもいかないし、今日は色々なことがあったから、ルナさんもきっと疲れているだろう。早めに休んだ方がいいかな。
 とりあえず俺はベッドに腰かけた。
 ルナさんにもう寝るかと問いかけようとした時。

「リックさん」
「な、何?」

 突然ルナさんが話しかけてきた。なんだか名前を呼ばれただけでドキッとするな。

「少しお聞きしたいことがあるのですが……」
「うん。なんでも聞いて……とりあえず、立っていると疲れるから座ろうか」
「わかりました」

 この部屋には椅子が二つあるため、どちらかに座ると思っていたが、ルナさんが選んだのはベッド。つまり、俺の隣だった。
 ただ近くに座って話がしたいだけだと思うが、ルナさんの甘い香りが鼻をくすぐり、心臓の鼓動がどんどん速くなっていく。

「それで聞きたいことって……」
「それは……私とお母さんがリックさんのお家に来たのは、ウェールズさんに味方をする人達が、何かしてくる可能性があったからですよね?」
「う、うん。そうだよ」

 どうやら真面目な話のようだ。
 俺は別のことを考えていたので、ちょっと恥ずかしくなった。

「また月の雫商会に嫌がらせをされたらと思うと……」
「確かにその可能性はあるかもしれない。だからウェールズ達を引き渡す時、衛兵の人達に月の雫商会の辺りを見回ってもらうよう頼んでおいたんだ」
「それなら大丈夫ですね」

 だが、言葉とは裏腹にルナさんの表情は暗い。
 まあ衛兵の中にもウェールズ派がいるから、安心できるわけないよな。
 俺もなんとかしてあげたいけど、さすがに月の雫商会とこの家を二十四時間守るのは不可能だ。
 今いる衛兵達の良心を信じるしかない。

「心配なら探知スキルで視てみるね」
「お願いしてもよろしいでしょうか?」
「了解」

 俺は探知スキルで月の雫商会を視てみたが、特に目立ったことはなかった。それに二人の衛兵が、周囲の見回りをしてくれている。
 このことを伝えれば、ルナさんも少しは安心してくれるだろう。
 ん? だがこれは……
 俺は月の雫商会とは違う場所で、異変が起きていることに気づいた。

「ルナさん、怪しい影を四つ見つけた」
「えぇ! 本当ですか!」
「静かにして……このまま座っていてくれないか」
「わ、わかりました」

 まさかこんなことをするなんて。ルナさんのことばかり考えていて、注意が足りなかったな。
 俺はゆっくりと立ち上がり、気配を消しながら部屋の外へ向かう。
 そして勢いよくドアを開けると、四人の大人達が部屋の中に雪崩なだれ込んできた。

「母さん、おばあちゃん、おじいちゃん。いったい何をしているのかな?」
「えっ? お母さんまで!?」

 そう。俺が視た怪しい影は母さん達だった。どうやら俺とルナさんの様子を覗いていたらしい。

「お母さん……何をしてるの」

 ルナさんは怒りに震え、低い声でシーラさんを威圧する。

「それは、ほら……娘が大人になるところを見守る的な?」
「的な? じゃないでしょ! よそのお家に来てまで恥ずかしいことをしないで!」

 どんな時でも娘をからかうなんて、本当にシーラさんはお茶目な人だ。
 だがやっていい時と悪い時がある。
 さて、俺も身内を問い詰めないと。

「母さん達も何やってるんだよ。しかもおじいちゃんまで」
「ち、違う! わしはばあさんとメリスに誘われて仕方なく……」
「えっ? お父さんもけっこうノリノリだったよね」
「そ、それは……ふん! わしはもう寝るぞ!」
「あらあらおじいさんったら照れちゃって。それじゃあ私達は寝るね。おやすみなさい」

 おばあちゃんはおじいちゃんを連れて、さりげなくこの場を離脱していく。
 おばあちゃんも問い詰めたかったけど、うまく逃げられたな。
 こうなったら残った二人に聞くしかない。

「それで? なんで母さん達はこんなことしたの?」
「リックちゃんが大人になるところを見守る的な?」

 シーラさんと同じ答えが返ってきたよ。両方の親がいるのに手を出すわけないでしょ。

「とりあえずそれはもういいから」
「えへへ」
「えへへじゃないよ」

 笑って誤魔化ごまかそうとしてもダメだぞ……可愛いけど。
 本当は叱りたいところだけど夜も遅いし、既におばあちゃんとおじいちゃんはいないので、明日また問い詰めることにするか。

「そういえば布団が一組足りないから、もらってもいいかな?」

 今俺の部屋にはベッドが一台しかない。このままだと寝る場所が一つ足りないことになる。

「ないわよ。こんなこともあろうかと、リックちゃんのベッドは二人で寝られるように、大きめのものになってるはずよ」
「こんなことってどんなことだよ!」

 母さんは何を考えているんだ。
 もし本当に布団がないなら、俺は今日ルナさんと同じベッドに……

「ほら、もう遅いから早く寝なさい」
「いや、ちょっとまって」

 そう言うと母さんはルナさんに叱られていたシーラさんの手を取り、部屋から出ていってしまう。
 そして部屋に残されたのは俺とルナさんの二人だけになった。
 どうしろって言うんだよ。
 こうなったら俺は床で寝るか。
 でもルナさんのことだから「リックさんが床で寝るなら私も床で寝ます」って言うよな。
 それなら覚悟を決めて同じベッドで寝るしかない。

「とりあえず居間で寝巻きに着替えてくるから、ルナさんも着替えて」
「……わかりました」

 俺は逃げるように部屋から出ていく。
 そして居間で素早く着替え、自室の前まで戻ってきた。
 今、このドアの向こうでルナさんが着替えていると思うと、なんだか変な気分になるな。

「ルナさん、もう入っても大丈夫?」
「ダ、ダメです! いえ、大丈夫です」

 ダメ? いや大丈夫なのか? とりあえずルナさんの許可を得たので、俺はドアを開けて部屋の中に入る。すると、薄いピンクで少しエッチィ寝巻き、いや、ワンピースタイプのネグリジェを着たルナさんの姿が目に入った。
 ルナさんはなんてものを着ているんだ!
 胸元がけっこう開いていて、ネグリジェの丈が膝上十五センチくらいしかないぞ。
 これはベッドで横になった時、足側からは下着が見えてしまうんじゃ……

「こ、これはママが! 私はちゃんとパジャマを入れたのに……」

 どうやらシーラさんが、ルナさんの寝巻きをすり替えたようだ。ルナさんには悪いが、このようなセクシーな姿を見られたのはちょっと嬉しい。俺は心の中でシーラさんにありがとうとお礼を言う。
 それにネグリジェも素晴らしいが、顔を真っ赤にして恥ずかしがっているルナさんの表情が、また最高だ。
 俺はそんなルナさんから目を離せずにいる。

「そ、そんなにジッと見ないでください」
「ご、ごめん!」

 くっ! 可愛いな。だがルナさんは俺を信じて、同じ部屋で寝ることを了承してくれたんだ。
 その気持ちを裏切るわけにはいかない。

「そ、それじゃあ寝ようか。一緒のベッドでいいかな?」
「は、はい……」

 そして俺とルナさんはベッドに入り、互いに背を向ける。
 さすがに今のルナさんの顔をずっと見ていたら、欲望が爆発してしまうかもしれない。これは必要な措置だ。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

 後は目を閉じて寝るだけ……背中を意識してはいけない。大丈夫。MPはほぼ0だし、疲れているからすぐに寝ることができるだろう。
 そしてベッドに入って十分、二十分と時間が過ぎていく。しかし眠気は一向に訪れてくれない。
 こうなったら創聖魔法で眠る魔法を作製するか? いや、麻痺耐性スキルを創ってからまだ二十四時間経っていないから、それは不可能だ。それにMPがない。
 この地獄の時間は、理性で耐えるしかないのだ。
 だけどこの時、俺に試練が訪れた。
 背中が突然熱を帯びる。
 えっ? ルナさんの手? 何故俺の背中に?
 しかも熱を感じる場所が広がっていないか?
 背中、脇、胸、足……これは抱きしめられているというやつですな。
 さすがに俺でもわかる。これはもう完全に誘われているぞ。
 誘ってくれているのに乗らなかったら、ルナさんに恥をかかせることになってしまう。

「ル、ルナさん?」

 俺は覚悟を決めてルナさんに問いかける。
 しかし返事はない。まるで寝ているようだ……寝ている!
 耳を澄ますと、確かにルナさんの寝息が聞こえる……ということは、ルナさんはもう夢の中で、俺は抱き枕というやつですか。
 さすがに寝ている人を襲うなんてことはできない。
 いや、ちょっと待て! これってもっと最悪な状況じゃないか! 俺はルナさんの温もりを感じながら、我慢して寝なきゃいけないの!
 しかも背中にルナさんの柔らかい胸が押しつけられているし! 
 どうやらこれは長くつらい戦いになりそうだ。
 こうして俺はルナさんの鼓動を感じながら寝ようとしたが、当然眠れず、結局夢の中に突入したのは夜がかなり更けてからであった。


 ルナさんと一夜を共にした翌日の朝。
 うぅ……なんだ? 苦しい……苦しいけど気持ちいい。
 俺は相反する感触に驚いたが、まだ眠くて起きたくない。
 昨日はルナさんの誘惑によって、中々寝ることができなかったんだ。
 えっ? けどおかしいぞ。昨日就寝する前は、背中に温もりをたくさん感じていたのに、今は顔とか身体の前面が温かい。
 仕方ない。息もうまく吸えないし、この異常事態に対処するには起きるしかないのか。
 重いまぶたを開けると……
 俺はルナさんの胸に顔を埋めていた! しかもがっちりとホールドされているじゃないか!
 あれ? けど俺はルナさんに背を向けて寝たよな? いつの間にこっちに回り込んで来たんだ!
 そういえばシーラさんが、ルナさんの寝相が悪いと言っていたけど、まさかこのことか。
 それにしても……世の中にはこんなに気持ちいいものがあるとはな。ルナさんの胸は柔らかくてぷにぷにだ。だが今はそれぞれの親が家にいるし、誤解されないためにも、なんとかこの場を脱出した方がいいな。
 後ろ髪引かれる思いだが、俺はルナさんを起こさないように、そっとベッドから抜け出す。
 とりあえずこれであらぬ誤解をかけられることは……はっ!
 寝惚けていてすぐに気づかなかったが、部屋の入口付近に気配を感じてそっと見る。
 そこにはドアの隙間からこちらを覗く、シーラさんの姿があった。

「昨夜はお楽しみでしたね」

 そしてシーラさんは定番のセリフを口にする。

「ち、違いますから! 俺は何もしていません!」

 昨日だって背中に胸を押しつけられながらも耐えたんだ。そんな自分を褒めてあげたい。

「今の娘の惨状を見て信じられるとも?」

 娘の惨状? どういうことだ? 確かに同じベッドで寝て、俺はルナさんに抱きしめられていた。
 状況は限りなく黒に近いが、あえて言おう。
 それでも俺はやっていない!

「目を逸らさないで! ちゃんと自分の目で現実を見てちょうだい」

 シーラさんの指差す方を見ると、そこにはあられもないルナさんの姿があった。
 ワンピースタイプのネグリジェのスカートは、胸の下近くまでめくり上げられて、純白の下着は丸見え。そしてその下着は半分脱げかけているため、もう少しでルナさんの大事なところが見えてしまいそうだ。

「こ、これはその……僕がやったわけじゃなくてですね……」

 もちろん俺はやっていない。だけど寝ている時に無意識にやった可能性もあり、思わず敬語で言いわけをしてしまう。

「これはもう責任を取ってもらうしかないわね」
「せ、責任!」
「娘のハレンチな姿を見られたら、もう他にお嫁に出すことはできないわ」

 えっ? でもこれは俺が意図してやったわけじゃないし、それで責任を取れと言われても……だけどルナさんのあられもない姿を見たのは事実だ。
 突然の出来事に頭が混乱し、シーラさんになんて答えればいいかと悩んでいると、ベッドから声があがった。

「う~ん……あれ? ママ……おはよう……」

 どうやらルナさんの目が覚めたみたいだ。
 だけど、まだ目がうつろで、意識がハッキリしていないように見えた。

「ルナ……リックくんもいるのよ。身だしなみを整えた方がいいんじゃない?」
「えっ?」

 ルナさんはゆっくりとこちらに顔を向けると、俺と目が合い、動きを止める。

「きゃあぁぁぁっ!」

 そして甲高い声と共に、慌てて乱れた下着とネグリジェを直す。

「なな、なんでリックさんがここに!」
「昨日一緒のベッドで寝たのを覚えてないの?」
「そ、それは……覚えています」
「安心しなさい。リックくんは紳士的に対応してくれたから、気づかないうちに大人になってました……なんてことにはなっていないわ」
「お、お母さん何を言ってるの!」

 あれ? さっきは俺に責任を取れとか言っていたのに。
 どうやら俺もシーラさんにからかわれていたようだ。

「今の声は何? やっぱりリックくんは行き場のない欲望をルナちゃんに向けたの?」
「やはりわしの判断は正しかったようじゃな」
「この年でおばあちゃんになるの? それも悪くないわ」

 ルナさんが大きな声をあげたからか、この家の住人達が続々とこの部屋に集まり始めた。

「いや、違うから」

 しかもおばあちゃんはやっぱりって。俺がルナさんを襲うと思っていたのか! 会ったばかりだけど孫のことを信じてくれよう。
 とにかく俺の血縁者達は勘違いしているので、誤解を解かないと。
 こうして俺は朝から眠い中、母さん達に身の潔白けっぱくを証明するために労力を費やすことになってしまった。




 終章 一件落着?


 太陽が空の頂点を過ぎた頃、昨日の事件のことで改めて話を聞きたいと衛兵から呼び出しがあった。
 選挙の不正、月の雫商会襲撃についてノイズは黙秘、ウェールズは「私はやっていない! 私はめられただけだ!」と罪を認めないらしい。そして衛兵内でもネルドを筆頭に、誰がウェールズ派となって不正に手を貸していたのかの取り調べが始まっている。
 この件の全てが明らかになるには時間がかかるだろう。
 だが、思わぬところから密告があり、事件は早期解決することになったらしい。
 ナバルが選挙の不正の証拠を持って、自白したのである。何故今になってナバルが事件の全容を話したかというと、それは母さんが関係していた。
 どうやら母さんは、衛兵の待機所に捕らえられたナバルと面会をしたようだ。そして母さんの説得により、罪を認めたらしい。ナバルは母さんに再会して、立派な衛兵になりたいと語っていた自分を思い出したと言っていたそうだ。
 確かに今になって考えてみると、選挙当日のナバルが何かをした形跡はなかったし、不正が発覚した時も、抵抗する素振りは見せなかったな。
 こうしてウェールズ、ノイズ、ネルド、そして一部の衛兵達は逮捕されることとなり、事件は無事解決した。
 しかしこの後、グランドダイン帝国からズーリエに来た一人の人物によって、新たな騒動に巻き込まれる羽目になることを、俺はまだ知らない。











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