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1巻
1-4
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「リックちゃん!」
俺を守ろうと母さんがデイド達の前に立ち塞がる。
母さんには戦う力はないのに、それでも俺を……
「そうだ。母親のお前は奴隷として飼ってやろう。それがリックが一番苦しむことだろうからな。本当に娼婦として成り下がる姿を見せてやる」
デイドが立て続けに母さんを侮辱したことで、俺の頭の中で何かがブチギレた。
俺は母さんの肩を掴み、後ろに下がらせる。
「私は何を言われても我慢できるから」
「ごめん母さん……俺が我慢できないよ」
「リックちゃん……」
俺は怒りを噛みしめるかのようにゆっくり歩き、デイド達と対峙する。
「もう母親に甘えなくていいのか?」
「黙れデイド。一応聞いておくが、帝国の法律で貴族は家族同士で殺し合うことは禁じられている。まだ正式な承認をもらっていないのに、そんなことをしてもいいのか? もしその法律を破ればお前でも死罪は免れないぞ」
これは過去に家督争いが多く起きたため、皇帝が定めた法だ。
今までデイドは問題を起こした時、貴族の権力を使ったり、父親に尻拭いをしてもらったりしてなかったことにしてきた。
だが今の俺とデイドのやり取りは、この場にいる大勢の人が見ている。
いくらなんでも言い逃れはできないと思うが……
「確かに帝国に提出した書類の承認には、まだ時間がかかるだろう。だが別にこれは殺し合いじゃない。ただの兄弟ゲンカだ。しかし当たりどころが悪くて再起不能になったり、死んだりすることがあるかもしれないがな」
そんなのただの言葉遊びだ。だがその提案は俺にとっても悪くない。
「その言葉……お前にも適用されることを忘れるなよ」
「ハッハッハ! 補助魔法使いごときが何を言う! 補助魔法なんてちょっと身体を強くするだけだろ? そもそも勇者パーティーに入れたのも、エミリア様のコネがあったからだ。身の程を知れ!」
デイドの取り巻き達が、ジリジリと距離を詰めてくる。
「デイド様! 勝ったらあの女は好きにしていいんですか?」
「ああ……娼婦の女など汚らわしくて、俺は抱く気にはならないからな」
「了解でさぁ!」
取り巻き達はデイドの許可を得て、一斉に襲いかかってくる。
「リ、リックちゃん……」
母さんは取り巻き達が迫ってくるのを見て、恐怖で声を震わせた。
デイドよ……母さんを侮辱し、怖がらせた罪は重いぞ!
「クラス2・剛力創聖魔法」
自分自身に創聖魔法をかけると、力がみなぎってきた。
「まずはてめえからだ! その後じっくり女を嬲ってやるぜ!」
こいつらもデイドと同じ穴の狢だ! デイド同様に痛い目を見てもらうぞ!
「簡単に殺すなよ。俺にも殴ら……」
しかしデイドは、命令を全て言い終えることはできなかった。
何故なら俺が、取り巻き達五人の腹部を目掛けて拳を繰り出し、一瞬で西門の壁まで吹き飛ばしたからだ。
「せ……ろ……ってはぁぁ! な、なんでお前達がやられている!」
「俺の攻撃を食らったからに決まってるだろ」
俺はデイドに向かって、ゆっくりと近づいていく。
デイドは腰を抜かし、必死に後退った。
「く、来るな! 補助魔法の支援なんて、一割くらい能力が上がるだけだろ……な、なんでリックにそんな力が……」
おかしなことを言う。俺は補助魔法でも、二、三倍くらいには能力を上げることができるぞ。だが今使用した創聖魔法なら、四、五倍はいける。
「ま、まさか……リックが勇者パーティーに選ばれたのは実力だったのか!」
勇者パーティーがどうだとかそんなことに興味はない。
俺は母さんを侮辱したデイドを許せないだけだ。
ふと地面を見ると、握り拳くらいの大きさの石があったため拾い上げる。
「ま、まさかその石を使って、俺の頭を砕くつもりか!」
デイドは取り巻き達を一瞬で倒した俺に恐れを成したのか、先程までの強気な態度は見る影もない。
「それもいいかもな」
俺が右手を思いっきり握ると、石は音を立てて砕けた。
「次はお前の頭がこうなる番だ」
「ひぃぃっ!」
デイドは自分の頭が砕けるのを想像したのか、悲鳴をあげる。
見ると、デイドの股関に染みが広がっていた。
「お、おい? デイド様を見ろ」
「股が濡れてる?」
「まさか漏らしたのか!」
どうやらデイドは恐怖のあまり失禁してしまったようだ。
こいつもこれで終わりだな。公衆の面前で漏らした貴族なんて、もう権威のかけらもない。
俺が処分しなくても、ゴルドが処罰を下すだろう。
「母さん、行こう」
「うん」
俺達は、失禁したデイドを置いて西門の外へと向かう。
すると母さんは、自分の腕を俺の右腕に絡めてきた。
母さんに視線を向けると、笑顔で今にもスキップでもしそうな様子だ。
「母さん、なんか機嫌がいいね」
デイドに好き勝手言われたから、機嫌が悪くてもおかしくないのだが。
「そうね。気分は悪漢から救われたお姫様って感じだわ」
デイドが悪漢? 確かにそんな感じだな。
俺は母さんのたとえが面白くて、思わず笑ってしまった。
「これからの旅や、実家があるズーリエでの暮らしを考えると楽しくなってきたわ。だってリックちゃんが側にいるんだもん」
だもんって子持ちの母親が言う言葉ではないけど、可愛らしい母さんが言うとなんだか似合ってしまう。
「俺も母さんとの暮らしが楽しみだよ」
本当に楽しみだ。
ようやく勇者パーティーからも、父親と兄、婚約者からも逃れることができたんだ。
後は新しい土地で母さんと幸せに暮らすだけだ。
こうして俺は因縁をつけてきたデイド達を痛い目に遭わせ、母さんと共にドルドランドから実家があるジルク商業国へと向かった。
第四章 運命? の出会いは突然に
リックがズーリエに向けて出発した頃。
ドルドランドにあるルーンセイバー公爵家の別荘にて。
エミリアはここ数日自室に閉じこもり、終始イライラして落ち着かない様子を見せていた。
自室を出なかったのは、誰かに会ってしまったらこの苛立ちをぶつけてしまうと思ったからである。
エミリアの心を乱す原因……それはもちろんリックだ。
──今まで私に従順だったのに逆らうなんて……
エミリアの知っているリックなら、母親や今の生活を守るために、彼女の足を舐めるはずだった。
しかし、拒絶された。
今は父に待ってもらっているが、このままでは正式に婚約がなくなってしまう。
──それだけは絶対に嫌! リックは私のものよ!
そこまで固執するなら自分からリックに謝りに行けばいいのだが、エミリアはプライドが邪魔して行動に移すことができなかった。今のエミリアにできるのは、リックが泣きついてくるのを待つことだけだ。
トントン。
突然部屋のドアがノックされた。
エミリアはその音を聞いて気分を高揚させる。
──きっとリックが来たんだわ! そうよ、リックが私から離れられるわけないじゃない。ふふ……私の心を乱した罰よ。謝っても簡単には許してあげないから。
エミリアはにやけるのを我慢し、ドアの外にいる者に返事をする。
「入りなさい」
「エミリア様失礼します」
エミリア専属の執事であるセバスが、美しい所作で部屋に入る。
「セバスどうしたの?」
「お嬢様にお客様がいらしています」
「だ、だれ?」
「ニューフィールド家の者ですが、いかがいたしますか?」
──ふふ……やっぱりね。でも私はリックに会えなくて二日間つらい思いをしたわ。リックにも少しは苦しんでもらおうかしら。
「一時間くらい待たせてから行くわ。リックもこの私に会ってもらえるのだから、ありがたく思うことでしょうね」
──それにどうせなら服を着替えてお化粧もして、綺麗になった私を見てほしい。きっと可愛い私を見てさらに惚れ直すと思うわ。ふふ……リックは幸せ者ね。
「お嬢様……申しわけありませんが、来客はリック様ではなくデイド様です」
「えっ? リックじゃ……ない……誰よそれ」
「リック様の腹違いの兄君になります」
これまでニューフィールド家にもリックの兄にもまったく興味がなかったエミリアにとって、初めて知る名前だった。
「リックじゃないなら会う必要はないわ。帰ってもらいなさい」
「ですがお嬢様……デイド様はリック様のことでお伝えしたいことがあるとおっしゃっていますが……」
「すぐに部屋に案内しなさい!」
今のリックのことがわかる。そう考えるとエミリアは反射的にそう答えてしまった。
「承知しました。デイド様は応接室でお待ちになっております」
エミリアは逸る気持ちを抑えながら、早足で応接室に向かう。
そして彼女が勢いよく応接室のドアを開くと、豚のように太った醜い人間がイスに座っていた。
──これがリックの兄!? 不摂生な生活をしていることが一目でわかるわ。
「これはこれはエミリア様。本日も美しく……」
豚……いや、デイドはニヤリと笑い、舐めるような目でエミリアを見た。
エミリアの背筋に悪寒が走る。
──絶対無理! この人は生理的に受け付けられない!
リックと結婚したら親戚付き合いは最低限にすると、エミリアは心に誓った。
「そういう話はいいから……それで? 私に言いたいことがあるんでしょ」
早くリックのことを知りたいというエミリアの願いが叶ったのか、デイドはリックのことを話し出す。だがそれはエミリアにとって、到底受け入れがたい内容だった。
「リックは勇者パーティーから追い出されたことにより、ニューフィールド家からも追放となりました」
「ニュ、ニューフィールド家から追放!」
だがそうなると……
「ですので、リックとエミリア様の婚約は解消させていただきたく……」
──リックはもう貴族ではないということ? さすがに父も私が平民と婚約することは認めてくれないわ。まさかニューフィールド家がこんなに早く手を打ってくるなんて、迂闊だったわ。
「ですがせっかく結ばれた、ルーンセイバー家とニューフィールド家の縁。リックの代わりに私と婚約していただきたく馳せ参じました」
「ねえあなた……」
「はい」
「リ、リックはそれでどこへ行ったの?」
リックがいなくなったショックで、エミリアの目の焦点は合っていなかった。
しかしこれだけは聞いておかないと後悔すると考え、彼女は声を振り絞る。
「リックですか? ドルドランドから逃げるように西へと向かいました」
本当は逃げるようにリックから離れたのはデイドだが、デイドはエミリアに弱いところを見せたくないので強がりを言った。
「そう……」
「それで……私との婚約は考えていただけるのでしょうか?」
リックごときがエミリア様と婚約することができたんだ、俺ができないはずがない、とデイドは自信に溢れていた。
「セバス……この方はお帰りになるわ」
「承知しました。ではデイド様……お帰りはあちらになります」
セバスはデイドに部屋から出るよう促す。
「えっ? あっ? ちょっと! 婚約の件は……リックごときより私の方がエミリア様に相応しいと思います」
デイドがこのまま黙って出ていくなら、エミリアも大人しく彼を見送ろうと思っていた。だがデイドが自分の方がリックより上だと発言したことで、エミリアの中で何かが切れた。
「あなたが私と婚約? それは自分の顔を見てから言いなさい!」
「えっ?」
エミリアは殺気を含んだ目でデイドを睨む。
デイドは突如変貌した令嬢に驚き、思わず声をあげた。
「あなたは見た目だけではなく心も汚れているわ! 家族が傷ついて帰って来たのに労るどころか追い出すなんて……二度と私の前に現れないでちょうだい!」
──私もリックに頼って欲しくて、ニューフィールド家から勘当されると本人に言ったけど、まさか本当に実行するだなんて。こんな豚に構っていられない。今は一秒でも時間がおしい。
「エミリア様! 必ず私が幸せにしてみせます! ですから……」
「セバス!」
エミリアが声をあげると、セバスは瞬時にデイドのふくよかな腹部に拳を放つ。するとデイドはなす術もなく気絶し、その場で取り押さえられた。
「この豚はどこかに棄てておきなさい。それより一刻も早くリックの居場所を調べて!」
「はっ! 承知いたしました」
◇ ◇ ◇
俺と母さんはドルドランドを出て、街道を西へと進んでいた。
途中の村で一泊すると、ちょうどジルク商業国に向かう馬車を見つけたので、銀貨十枚を支払い乗せてもらうことにした。ちょっと痛い出費だが、背に腹は代えられない。
この世界、エールドラドは魔物が蔓延っていて、街や村の移動はとても危険なものだと言われている。そのため、冒険者として魔物を生み出すダンジョンや集落を多く浄化すると、国に勇者認定されて様々な特権を得られる。たとえば、武器や防具が格安で購入できる他、宿への宿泊は無料だ。非常時には、公爵以上の権限が与えられることもある。
ちなみに日本の通貨と比べると、銅貨一枚は百円。銀貨は一万円。金貨は百万円。白金貨は一億円だ。だから銀貨十枚は高額ではあるが、母さんの安全を考えると安いものだ。
「リックちゃんごめんなさい。私の分のお金まで払わせて……」
「母さん、俺達は親子だろ? そんなこと気にしないでくれ」
最近魔物が増え、異常な活動をしている。
ハインツ達に裏切られた誘いの洞窟でも、前もって手に入れた情報では、ミノタウロスは一匹のはずだった。だが突然十匹も召喚され、死にそうになったのだ。どんな時でも用心するにこしたことはない。
「坊主の言う通りだ。最近この辺りも魔物が増えてきた……あんたら馬車に乗って正解だよ」
今話しかけてきたのは、この馬車の所有者であるトーマスさんだ。
「そうだぜ! 護衛で俺達もいるからな」
そう言ったのはBランク冒険者のパウロさん。
他に仲間の方が四人いて、馬車の前後左右を護衛してくれている。
Bランクの冒険者か……一応、俺も少し前まではSランク冒険者だった。
冒険者のランクにはSSランクからFランクまであり、依頼の達成状況によってランク分けされる。
Fが一番下のランクで、SSランクになると単独でダンジョン攻略ができるレベルらしい。しかし今までSSランクに認定された者はいないようだ。
ちなみに勇者パーティーのメンバーは自動的にSランクに認定されるけど、今の俺って何ランクになるのだろう? 勇者パーティーを抜けたからSランクじゃないことは確かだ。そうなると最底辺のFランクか……何かちょっとショックだな。
「このまま人類は魔物にやられてしまうのかねえ」
トーマスさんがため息をつく。
「そうだなあ。俺達は儲かるからいいが、こうも多忙だとそのうち倒れちまいそうだぜ」
「あなた達に倒れられたら俺達が困るよ」
魔物が多いこのご時世、商人は冒険者がいなくては街の外を出歩くことは難しいだろう。
「勇者様が早く魔物を滅ぼしてくれればいいのにな」
勇者……その言葉を聞くと、どうしてもハインツ達の顔を思い浮かべてしまう。
もう忘れろ。そう思っていても、リックとしての記憶が奴らのことを忘れさせてくれない。
「確かグランドダイン帝国の第二皇子であるハインツ様が勇者で、いくつかのダンジョンを攻略してたな。この調子でもっと頑張ってほしいものだ」
トーマスさんの口から、ピンポイントでハインツの話題が出た。
「それってリックちゃんがいた……」
母さんも俺がいた勇者パーティーのことだと気づいたようだ。
「トーマスさんよ。その情報はちょっと古いぜ」
「古いとはどういうことですか?」
「そのハインツ皇子の勇者パーティーだが、二回連続でダンジョン攻略に失敗したらしい」
「それって本当ですか!」
「お、おう。どうしたいきなり話に食いついて」
パウロさんが口にした勇者パーティーの話に驚き、思わず割って入ってしまった。
ハインツ達がダンジョン攻略に失敗?
一回目はミノタウロスが十匹出てきた時だな。
その次も失敗なんて、俺の代わりに入った神聖魔法を使う娘との連携がうまくいかなかったのだろうか。
「すみません。それでハインツ皇子のパーティーはどうなったのですか?」
「あ、ああ……その二回の失敗のことを聞いて、公爵家がクレームを出しているらしい。大事な娘をそんなパーティーに入れておけないと」
公爵家というとサーシャの父親だ。
以前サーシャが、父親は自分が旅に出ることに反対していると言っていた。
「それで今、三回目の挑戦をしているらしい。噂だともし今回ダンジョン攻略に失敗したら、勇者の認定を取り消されるようだぜ」
「そうですか……」
正直な話、何がうまくいっていないのかわからない。
だが、今の俺にとっては、勇者パーティーの認定なんてどうでもいい。
ハインツ達は俺を殺そうとしたんだ……むしろいい気味だ。
ダンジョンの最深部にあるコアを破壊しないと、魔物の発生を食い止めることはできない。そういえば創聖魔法に目覚めた時、ミノタウロスは倒したけどコアは壊してなかったな。
俺がざまぁみろと思っている間に、馬車はリズムのいい音を立ててジルク商業国へと向かっていった。
◇ ◇ ◇
暗闇の洞窟の中、元騎士であるレイラを先頭に、ハインツ達は誘いの洞窟の最深部を目指していた。
「くそっ! 前回はミノタウロスと戦うどころか、洞窟の最深部まで行くこともできなかったぞ! お前らちゃんと戦っているのか!」
リックをパーティーから追放した後、ハインツ達はリディアを迎え入れ、再度誘いの洞窟に挑戦した。しかし、魔物に阻まれて撤退したのだ。
「ハインツ様申しわけありません~。前回は身体の調子が悪くて~、思うように動けませんでした~」
フェニスはハインツをこれ以上怒らせないようにと頭を下げる。
「私もそう感じました。もしかしたら魔物討伐で多忙だったせいで、疲れが溜まっていたのかもしれません」
レイラは冷静な声でフェニスに同調する。
「そんなことが言いわけになるか! 次に失敗したら、俺は勇者の称号を剥奪されるんだぞ! そうなったら次期皇帝の座が……」
グランドダイン帝国の次期皇帝には第一皇子が指名される可能性が高いが、ハインツは勇者として名をあげて、自分が皇帝になろうと企んでいた。しかしダンジョン攻略に二度失敗し、サーシャの父親である公爵に見限られようとしている今、ハインツにはもう後がない。
勇者の称号を剥奪されれば、ハインツが皇帝になる道は完全に絶たれるだろう。
俺を守ろうと母さんがデイド達の前に立ち塞がる。
母さんには戦う力はないのに、それでも俺を……
「そうだ。母親のお前は奴隷として飼ってやろう。それがリックが一番苦しむことだろうからな。本当に娼婦として成り下がる姿を見せてやる」
デイドが立て続けに母さんを侮辱したことで、俺の頭の中で何かがブチギレた。
俺は母さんの肩を掴み、後ろに下がらせる。
「私は何を言われても我慢できるから」
「ごめん母さん……俺が我慢できないよ」
「リックちゃん……」
俺は怒りを噛みしめるかのようにゆっくり歩き、デイド達と対峙する。
「もう母親に甘えなくていいのか?」
「黙れデイド。一応聞いておくが、帝国の法律で貴族は家族同士で殺し合うことは禁じられている。まだ正式な承認をもらっていないのに、そんなことをしてもいいのか? もしその法律を破ればお前でも死罪は免れないぞ」
これは過去に家督争いが多く起きたため、皇帝が定めた法だ。
今までデイドは問題を起こした時、貴族の権力を使ったり、父親に尻拭いをしてもらったりしてなかったことにしてきた。
だが今の俺とデイドのやり取りは、この場にいる大勢の人が見ている。
いくらなんでも言い逃れはできないと思うが……
「確かに帝国に提出した書類の承認には、まだ時間がかかるだろう。だが別にこれは殺し合いじゃない。ただの兄弟ゲンカだ。しかし当たりどころが悪くて再起不能になったり、死んだりすることがあるかもしれないがな」
そんなのただの言葉遊びだ。だがその提案は俺にとっても悪くない。
「その言葉……お前にも適用されることを忘れるなよ」
「ハッハッハ! 補助魔法使いごときが何を言う! 補助魔法なんてちょっと身体を強くするだけだろ? そもそも勇者パーティーに入れたのも、エミリア様のコネがあったからだ。身の程を知れ!」
デイドの取り巻き達が、ジリジリと距離を詰めてくる。
「デイド様! 勝ったらあの女は好きにしていいんですか?」
「ああ……娼婦の女など汚らわしくて、俺は抱く気にはならないからな」
「了解でさぁ!」
取り巻き達はデイドの許可を得て、一斉に襲いかかってくる。
「リ、リックちゃん……」
母さんは取り巻き達が迫ってくるのを見て、恐怖で声を震わせた。
デイドよ……母さんを侮辱し、怖がらせた罪は重いぞ!
「クラス2・剛力創聖魔法」
自分自身に創聖魔法をかけると、力がみなぎってきた。
「まずはてめえからだ! その後じっくり女を嬲ってやるぜ!」
こいつらもデイドと同じ穴の狢だ! デイド同様に痛い目を見てもらうぞ!
「簡単に殺すなよ。俺にも殴ら……」
しかしデイドは、命令を全て言い終えることはできなかった。
何故なら俺が、取り巻き達五人の腹部を目掛けて拳を繰り出し、一瞬で西門の壁まで吹き飛ばしたからだ。
「せ……ろ……ってはぁぁ! な、なんでお前達がやられている!」
「俺の攻撃を食らったからに決まってるだろ」
俺はデイドに向かって、ゆっくりと近づいていく。
デイドは腰を抜かし、必死に後退った。
「く、来るな! 補助魔法の支援なんて、一割くらい能力が上がるだけだろ……な、なんでリックにそんな力が……」
おかしなことを言う。俺は補助魔法でも、二、三倍くらいには能力を上げることができるぞ。だが今使用した創聖魔法なら、四、五倍はいける。
「ま、まさか……リックが勇者パーティーに選ばれたのは実力だったのか!」
勇者パーティーがどうだとかそんなことに興味はない。
俺は母さんを侮辱したデイドを許せないだけだ。
ふと地面を見ると、握り拳くらいの大きさの石があったため拾い上げる。
「ま、まさかその石を使って、俺の頭を砕くつもりか!」
デイドは取り巻き達を一瞬で倒した俺に恐れを成したのか、先程までの強気な態度は見る影もない。
「それもいいかもな」
俺が右手を思いっきり握ると、石は音を立てて砕けた。
「次はお前の頭がこうなる番だ」
「ひぃぃっ!」
デイドは自分の頭が砕けるのを想像したのか、悲鳴をあげる。
見ると、デイドの股関に染みが広がっていた。
「お、おい? デイド様を見ろ」
「股が濡れてる?」
「まさか漏らしたのか!」
どうやらデイドは恐怖のあまり失禁してしまったようだ。
こいつもこれで終わりだな。公衆の面前で漏らした貴族なんて、もう権威のかけらもない。
俺が処分しなくても、ゴルドが処罰を下すだろう。
「母さん、行こう」
「うん」
俺達は、失禁したデイドを置いて西門の外へと向かう。
すると母さんは、自分の腕を俺の右腕に絡めてきた。
母さんに視線を向けると、笑顔で今にもスキップでもしそうな様子だ。
「母さん、なんか機嫌がいいね」
デイドに好き勝手言われたから、機嫌が悪くてもおかしくないのだが。
「そうね。気分は悪漢から救われたお姫様って感じだわ」
デイドが悪漢? 確かにそんな感じだな。
俺は母さんのたとえが面白くて、思わず笑ってしまった。
「これからの旅や、実家があるズーリエでの暮らしを考えると楽しくなってきたわ。だってリックちゃんが側にいるんだもん」
だもんって子持ちの母親が言う言葉ではないけど、可愛らしい母さんが言うとなんだか似合ってしまう。
「俺も母さんとの暮らしが楽しみだよ」
本当に楽しみだ。
ようやく勇者パーティーからも、父親と兄、婚約者からも逃れることができたんだ。
後は新しい土地で母さんと幸せに暮らすだけだ。
こうして俺は因縁をつけてきたデイド達を痛い目に遭わせ、母さんと共にドルドランドから実家があるジルク商業国へと向かった。
第四章 運命? の出会いは突然に
リックがズーリエに向けて出発した頃。
ドルドランドにあるルーンセイバー公爵家の別荘にて。
エミリアはここ数日自室に閉じこもり、終始イライラして落ち着かない様子を見せていた。
自室を出なかったのは、誰かに会ってしまったらこの苛立ちをぶつけてしまうと思ったからである。
エミリアの心を乱す原因……それはもちろんリックだ。
──今まで私に従順だったのに逆らうなんて……
エミリアの知っているリックなら、母親や今の生活を守るために、彼女の足を舐めるはずだった。
しかし、拒絶された。
今は父に待ってもらっているが、このままでは正式に婚約がなくなってしまう。
──それだけは絶対に嫌! リックは私のものよ!
そこまで固執するなら自分からリックに謝りに行けばいいのだが、エミリアはプライドが邪魔して行動に移すことができなかった。今のエミリアにできるのは、リックが泣きついてくるのを待つことだけだ。
トントン。
突然部屋のドアがノックされた。
エミリアはその音を聞いて気分を高揚させる。
──きっとリックが来たんだわ! そうよ、リックが私から離れられるわけないじゃない。ふふ……私の心を乱した罰よ。謝っても簡単には許してあげないから。
エミリアはにやけるのを我慢し、ドアの外にいる者に返事をする。
「入りなさい」
「エミリア様失礼します」
エミリア専属の執事であるセバスが、美しい所作で部屋に入る。
「セバスどうしたの?」
「お嬢様にお客様がいらしています」
「だ、だれ?」
「ニューフィールド家の者ですが、いかがいたしますか?」
──ふふ……やっぱりね。でも私はリックに会えなくて二日間つらい思いをしたわ。リックにも少しは苦しんでもらおうかしら。
「一時間くらい待たせてから行くわ。リックもこの私に会ってもらえるのだから、ありがたく思うことでしょうね」
──それにどうせなら服を着替えてお化粧もして、綺麗になった私を見てほしい。きっと可愛い私を見てさらに惚れ直すと思うわ。ふふ……リックは幸せ者ね。
「お嬢様……申しわけありませんが、来客はリック様ではなくデイド様です」
「えっ? リックじゃ……ない……誰よそれ」
「リック様の腹違いの兄君になります」
これまでニューフィールド家にもリックの兄にもまったく興味がなかったエミリアにとって、初めて知る名前だった。
「リックじゃないなら会う必要はないわ。帰ってもらいなさい」
「ですがお嬢様……デイド様はリック様のことでお伝えしたいことがあるとおっしゃっていますが……」
「すぐに部屋に案内しなさい!」
今のリックのことがわかる。そう考えるとエミリアは反射的にそう答えてしまった。
「承知しました。デイド様は応接室でお待ちになっております」
エミリアは逸る気持ちを抑えながら、早足で応接室に向かう。
そして彼女が勢いよく応接室のドアを開くと、豚のように太った醜い人間がイスに座っていた。
──これがリックの兄!? 不摂生な生活をしていることが一目でわかるわ。
「これはこれはエミリア様。本日も美しく……」
豚……いや、デイドはニヤリと笑い、舐めるような目でエミリアを見た。
エミリアの背筋に悪寒が走る。
──絶対無理! この人は生理的に受け付けられない!
リックと結婚したら親戚付き合いは最低限にすると、エミリアは心に誓った。
「そういう話はいいから……それで? 私に言いたいことがあるんでしょ」
早くリックのことを知りたいというエミリアの願いが叶ったのか、デイドはリックのことを話し出す。だがそれはエミリアにとって、到底受け入れがたい内容だった。
「リックは勇者パーティーから追い出されたことにより、ニューフィールド家からも追放となりました」
「ニュ、ニューフィールド家から追放!」
だがそうなると……
「ですので、リックとエミリア様の婚約は解消させていただきたく……」
──リックはもう貴族ではないということ? さすがに父も私が平民と婚約することは認めてくれないわ。まさかニューフィールド家がこんなに早く手を打ってくるなんて、迂闊だったわ。
「ですがせっかく結ばれた、ルーンセイバー家とニューフィールド家の縁。リックの代わりに私と婚約していただきたく馳せ参じました」
「ねえあなた……」
「はい」
「リ、リックはそれでどこへ行ったの?」
リックがいなくなったショックで、エミリアの目の焦点は合っていなかった。
しかしこれだけは聞いておかないと後悔すると考え、彼女は声を振り絞る。
「リックですか? ドルドランドから逃げるように西へと向かいました」
本当は逃げるようにリックから離れたのはデイドだが、デイドはエミリアに弱いところを見せたくないので強がりを言った。
「そう……」
「それで……私との婚約は考えていただけるのでしょうか?」
リックごときがエミリア様と婚約することができたんだ、俺ができないはずがない、とデイドは自信に溢れていた。
「セバス……この方はお帰りになるわ」
「承知しました。ではデイド様……お帰りはあちらになります」
セバスはデイドに部屋から出るよう促す。
「えっ? あっ? ちょっと! 婚約の件は……リックごときより私の方がエミリア様に相応しいと思います」
デイドがこのまま黙って出ていくなら、エミリアも大人しく彼を見送ろうと思っていた。だがデイドが自分の方がリックより上だと発言したことで、エミリアの中で何かが切れた。
「あなたが私と婚約? それは自分の顔を見てから言いなさい!」
「えっ?」
エミリアは殺気を含んだ目でデイドを睨む。
デイドは突如変貌した令嬢に驚き、思わず声をあげた。
「あなたは見た目だけではなく心も汚れているわ! 家族が傷ついて帰って来たのに労るどころか追い出すなんて……二度と私の前に現れないでちょうだい!」
──私もリックに頼って欲しくて、ニューフィールド家から勘当されると本人に言ったけど、まさか本当に実行するだなんて。こんな豚に構っていられない。今は一秒でも時間がおしい。
「エミリア様! 必ず私が幸せにしてみせます! ですから……」
「セバス!」
エミリアが声をあげると、セバスは瞬時にデイドのふくよかな腹部に拳を放つ。するとデイドはなす術もなく気絶し、その場で取り押さえられた。
「この豚はどこかに棄てておきなさい。それより一刻も早くリックの居場所を調べて!」
「はっ! 承知いたしました」
◇ ◇ ◇
俺と母さんはドルドランドを出て、街道を西へと進んでいた。
途中の村で一泊すると、ちょうどジルク商業国に向かう馬車を見つけたので、銀貨十枚を支払い乗せてもらうことにした。ちょっと痛い出費だが、背に腹は代えられない。
この世界、エールドラドは魔物が蔓延っていて、街や村の移動はとても危険なものだと言われている。そのため、冒険者として魔物を生み出すダンジョンや集落を多く浄化すると、国に勇者認定されて様々な特権を得られる。たとえば、武器や防具が格安で購入できる他、宿への宿泊は無料だ。非常時には、公爵以上の権限が与えられることもある。
ちなみに日本の通貨と比べると、銅貨一枚は百円。銀貨は一万円。金貨は百万円。白金貨は一億円だ。だから銀貨十枚は高額ではあるが、母さんの安全を考えると安いものだ。
「リックちゃんごめんなさい。私の分のお金まで払わせて……」
「母さん、俺達は親子だろ? そんなこと気にしないでくれ」
最近魔物が増え、異常な活動をしている。
ハインツ達に裏切られた誘いの洞窟でも、前もって手に入れた情報では、ミノタウロスは一匹のはずだった。だが突然十匹も召喚され、死にそうになったのだ。どんな時でも用心するにこしたことはない。
「坊主の言う通りだ。最近この辺りも魔物が増えてきた……あんたら馬車に乗って正解だよ」
今話しかけてきたのは、この馬車の所有者であるトーマスさんだ。
「そうだぜ! 護衛で俺達もいるからな」
そう言ったのはBランク冒険者のパウロさん。
他に仲間の方が四人いて、馬車の前後左右を護衛してくれている。
Bランクの冒険者か……一応、俺も少し前まではSランク冒険者だった。
冒険者のランクにはSSランクからFランクまであり、依頼の達成状況によってランク分けされる。
Fが一番下のランクで、SSランクになると単独でダンジョン攻略ができるレベルらしい。しかし今までSSランクに認定された者はいないようだ。
ちなみに勇者パーティーのメンバーは自動的にSランクに認定されるけど、今の俺って何ランクになるのだろう? 勇者パーティーを抜けたからSランクじゃないことは確かだ。そうなると最底辺のFランクか……何かちょっとショックだな。
「このまま人類は魔物にやられてしまうのかねえ」
トーマスさんがため息をつく。
「そうだなあ。俺達は儲かるからいいが、こうも多忙だとそのうち倒れちまいそうだぜ」
「あなた達に倒れられたら俺達が困るよ」
魔物が多いこのご時世、商人は冒険者がいなくては街の外を出歩くことは難しいだろう。
「勇者様が早く魔物を滅ぼしてくれればいいのにな」
勇者……その言葉を聞くと、どうしてもハインツ達の顔を思い浮かべてしまう。
もう忘れろ。そう思っていても、リックとしての記憶が奴らのことを忘れさせてくれない。
「確かグランドダイン帝国の第二皇子であるハインツ様が勇者で、いくつかのダンジョンを攻略してたな。この調子でもっと頑張ってほしいものだ」
トーマスさんの口から、ピンポイントでハインツの話題が出た。
「それってリックちゃんがいた……」
母さんも俺がいた勇者パーティーのことだと気づいたようだ。
「トーマスさんよ。その情報はちょっと古いぜ」
「古いとはどういうことですか?」
「そのハインツ皇子の勇者パーティーだが、二回連続でダンジョン攻略に失敗したらしい」
「それって本当ですか!」
「お、おう。どうしたいきなり話に食いついて」
パウロさんが口にした勇者パーティーの話に驚き、思わず割って入ってしまった。
ハインツ達がダンジョン攻略に失敗?
一回目はミノタウロスが十匹出てきた時だな。
その次も失敗なんて、俺の代わりに入った神聖魔法を使う娘との連携がうまくいかなかったのだろうか。
「すみません。それでハインツ皇子のパーティーはどうなったのですか?」
「あ、ああ……その二回の失敗のことを聞いて、公爵家がクレームを出しているらしい。大事な娘をそんなパーティーに入れておけないと」
公爵家というとサーシャの父親だ。
以前サーシャが、父親は自分が旅に出ることに反対していると言っていた。
「それで今、三回目の挑戦をしているらしい。噂だともし今回ダンジョン攻略に失敗したら、勇者の認定を取り消されるようだぜ」
「そうですか……」
正直な話、何がうまくいっていないのかわからない。
だが、今の俺にとっては、勇者パーティーの認定なんてどうでもいい。
ハインツ達は俺を殺そうとしたんだ……むしろいい気味だ。
ダンジョンの最深部にあるコアを破壊しないと、魔物の発生を食い止めることはできない。そういえば創聖魔法に目覚めた時、ミノタウロスは倒したけどコアは壊してなかったな。
俺がざまぁみろと思っている間に、馬車はリズムのいい音を立ててジルク商業国へと向かっていった。
◇ ◇ ◇
暗闇の洞窟の中、元騎士であるレイラを先頭に、ハインツ達は誘いの洞窟の最深部を目指していた。
「くそっ! 前回はミノタウロスと戦うどころか、洞窟の最深部まで行くこともできなかったぞ! お前らちゃんと戦っているのか!」
リックをパーティーから追放した後、ハインツ達はリディアを迎え入れ、再度誘いの洞窟に挑戦した。しかし、魔物に阻まれて撤退したのだ。
「ハインツ様申しわけありません~。前回は身体の調子が悪くて~、思うように動けませんでした~」
フェニスはハインツをこれ以上怒らせないようにと頭を下げる。
「私もそう感じました。もしかしたら魔物討伐で多忙だったせいで、疲れが溜まっていたのかもしれません」
レイラは冷静な声でフェニスに同調する。
「そんなことが言いわけになるか! 次に失敗したら、俺は勇者の称号を剥奪されるんだぞ! そうなったら次期皇帝の座が……」
グランドダイン帝国の次期皇帝には第一皇子が指名される可能性が高いが、ハインツは勇者として名をあげて、自分が皇帝になろうと企んでいた。しかしダンジョン攻略に二度失敗し、サーシャの父親である公爵に見限られようとしている今、ハインツにはもう後がない。
勇者の称号を剥奪されれば、ハインツが皇帝になる道は完全に絶たれるだろう。
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