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嵌められたリリシア
しおりを挟む『ルーデウスよ。お前が大魔帝ニズゼルファに敗れてしまったのは余の責任なのだ』
俺がニズゼルファに敗れたのは父さんの責任?
どういう意味だ?
『今さらこんなことを話しても遅いのだが……やはり伝えないわけにはいかぬ。真実を知った上でどう判断するか。それをお前に任せたいと思う』
そんなひと言から真実の扉が開け放たれた。
◇◇◇
『まずはじめに。この世界の歴史にはまだ語られていない部分があるのだ』
「語られていない部分ですと?」
「ヤッザンちょっと黙って! お父さまの話が聞えないじゃん~!」
「す、すみませんっ……」
泣きはらしていたウェルミィもすっかり泣き止んで今は父さんの話に耳を傾けていた。
『これらすべてはエアリアル帝国の皇族の間だけで語り継がれてきた伝承だ』と前置きした上で父さんはこう続ける。
太古の昔、この世界にさまざまな種族が誕生した。
これは俺たちも知ってる歴史だ。
でも父さんいわく、それよりも前の歴史があったって話だ。
まずはじめに創造主たる神がこの世界を作った。
そして、神はこの世界に自らの分身たる〝半神〟という種族を作り上げる。
半神は世界に誕生した最初の種族だったようだ。
「ふむ……。そのような種族がおったとは聞いたことがないのぅ」
「うちも初耳だよぉ! 大昔のさらにずっ~と昔にそんな種族が存在したなんて……なんかロマンチックかも♪」
「続きを聞いてみましょう」
半神は神の分身であるがゆえに無敵の力を有していたみたいだ。
そこには万物を創造する力も含まれていた。
やがて。
半神族は力を使ってこの世界にさまざまな種族を誕生させる。
どうやらそれが今日の種族の起源ってわけらしい。
その際にオーブもそれぞれ生み出されたようだ。
そのあと。
多くの種族を生み出した半神は退化して亜人族となり、そのほかの種族と同列の存在としてこの世界で暮らすようになる。
「なっ……亜人族ですと!?」
「えぇっ!? 亜人族って人族が進化する前の種族じゃん!」
「この話が本当なら人族の祖先は半神ということになりますね」
「にわかに信じられん話じゃ……」
この話にはこの場にいる全員が驚きの声を上げた。
もちろん俺も驚きを隠せなかった。
『なぜ半神がこのように多くの種族を生み出したのか、その理由は今のところ明らかとなっていない。だが、それによって各地でさまざまな種族が繁栄し、今日の世界を形成することとなった。すべての歴史は最初の種族である半神からはじまったのだ』
ウィンドウ上の父さんがいちど言葉を区切ったのを確認すると。
ヤッザンのおっさんはこんなことを言い出す。
「しかし疑問ですなぁ……。争いの火種となる他の種族をどうして生み出したのでしょう」
「たしかにそうじゃのう。同胞たちだけで暮らせばこの世界はきっと楽園となったはずじゃ。わざわざ亜人族に退化した理由も分からん」
「……たぶん、友だちを作ろうとしたんじゃないかな?」
「友だちですか?」
不思議そうに訊ねるマキマに向けて俺は言う。
「だってそうじゃん? こんなだだっ広い世界に自分たちの種族しか存在しないなんて寂しすぎるよ。だからきっと仲良くなれる友だちを作りたくていろいろな種族を生み出したんじゃないか?」
規模は小さいかもしれないけど。
蒼狼王族、オーガ族、刀鎧始祖族のみんなと共存する国を作り上げた俺には半神の気持ちがなんとなく分かるような気がした。
「さすがお兄さまっ♡ 素敵な考えだよぉ~♪」
「そうですね。なんというかとてもティムさまらしい発想だと思います。わたしもそう信じたいです」
でも。
半神にどんな思いがあったのか分からないけど、実際の歴史はそんな夢のようにはいかなかった。
その後の歴史は周知のとおりだ。
数えきれないほどの争いを繰り返し、多くの種族が繁栄しては滅んでいく。
『その過程で亜人族にも変化が生じるようになったのだ』と父さんは語る。
当然、亜人族が人族に進化することを指してそう言ってるんだって思ったけど。
どうやらそういうわけじゃないらしい。
『ここから先話す内容はとても繊細な問題を含んでいる。皆どうか驚かないで聞いてほしい』
父さんはそこでひと呼吸置くとゆっくりとこう続けた。
『実は亜人族が種族進化して生まれたのは人族だけではなかったのだ。亜人族から分裂するようにもうひとつの種族も生まれてしまった。それが……魔族なのだよ』
「ふぇっ、亜人族から魔族も生まれちゃったの!?」
「分裂して人族と魔族が誕生した……と。これが事実だとすれば……」
じいさんの言葉を先読みするように父さんはこう口にする。
『そうだ。話を聞いて皆も分かったことだろう。人族と魔族はいわば肉親のような存在なのだよ』
退化したとはいえ亜人族はもともと無敵の力を有していた半神だ。
己の中に眠るその圧倒的な力を前に。
亜人族の中では、光と闇の心がせめぎ合っていたのかもしれない。
結果的にそのせめぎ合いが溢れ出る形で人族と魔族は誕生することになる。
(マジかよこの話。肉親って……)
ひょっとしてスキルと極意が似てるのはそのせいなんじゃないか?
半神の血を引いてるからお互いこれだけ優れた異能を扱うことができるって……そういうことなのか?
ここでなにか思いついたようにマキマが声を上げる。
「ちょっと待ってください。ということは魔族は遥か以前から存在してたってことではないでしょうか?」
「人族と分裂する形で誕生したのなら、つまりそういうことですぞ」
「じゃあ……今から10年前に突然変異的に出現したっていう話はどういうことなんだ?」
俺が疑問を口にすると、ブライのじいさんが首を横に振る。
「おそらくそれは誤った認識だったんじゃろう」
「……だよね。魔族はもっとずっと前からこの世界に誕生してて、表舞台の歴史に出てこなかったってことなんじゃない?」
どうやらウェルミィのその予想は当たってたようだ。
亜人族から分裂進化した魔族はひっそりとこの世界で暮らしてきた。
やがて、魔族の中で力をつけてくる者がいくつか現れるようになる。
それが魔族の王――魔王だったってわけだ。
『魔王は同胞から知恵を奪い、獰猛なケモノに変える力を持っていたと言われている。それが魔獣の正体なのだよ』
そして、魔王たちは頃合いを見計らって獰猛なケモノに変えた同胞――つまりモンスターを世界各地に送り込み、多くの種族を襲撃させた。
これが『死の大暴乱』の真実だったようだ。
そこまで父さんの話を聞いてマキマが異を唱えた。
「でもちょっとおかしいです。どうしてそんな魔族しか知り得ないような事実がエアリアル帝国の伝承に残っていたのでしょうか?」
「たしかにそうだな」
それは俺も不思議に思ってたところだ。
こんな話、魔族じゃないと知ることはできないはず。
すると。
ふたたびこちらの言葉を読むようにウィンドウ上の父さんはこう切り出す。
『どうして魔族に関するこんな事実が分かるのかと、疑問に思った者もいると思う。もちろんこれには理由がある。これから話すことはエアリアル帝国の秘密とも大きく関わっているからできれば覚悟のある者だけが耳を傾けてほしい』
その瞬間、地下室に緊張が走った。
これまでとは一線を画す話をしようとしてるってのが画面越しから伝わってきたからだ。
けれど。
誰もこの場から出て行こうとはしない。
(そうだよ。ここまで話を聞いたんだ。今さら耳を塞ぐなんてことはできない)
俺は真実が知りたいんだ。
そして、その気持ちはこの場にいるみんなも同じようだった。
俺がニズゼルファに敗れたのは父さんの責任?
どういう意味だ?
『今さらこんなことを話しても遅いのだが……やはり伝えないわけにはいかぬ。真実を知った上でどう判断するか。それをお前に任せたいと思う』
そんなひと言から真実の扉が開け放たれた。
◇◇◇
『まずはじめに。この世界の歴史にはまだ語られていない部分があるのだ』
「語られていない部分ですと?」
「ヤッザンちょっと黙って! お父さまの話が聞えないじゃん~!」
「す、すみませんっ……」
泣きはらしていたウェルミィもすっかり泣き止んで今は父さんの話に耳を傾けていた。
『これらすべてはエアリアル帝国の皇族の間だけで語り継がれてきた伝承だ』と前置きした上で父さんはこう続ける。
太古の昔、この世界にさまざまな種族が誕生した。
これは俺たちも知ってる歴史だ。
でも父さんいわく、それよりも前の歴史があったって話だ。
まずはじめに創造主たる神がこの世界を作った。
そして、神はこの世界に自らの分身たる〝半神〟という種族を作り上げる。
半神は世界に誕生した最初の種族だったようだ。
「ふむ……。そのような種族がおったとは聞いたことがないのぅ」
「うちも初耳だよぉ! 大昔のさらにずっ~と昔にそんな種族が存在したなんて……なんかロマンチックかも♪」
「続きを聞いてみましょう」
半神は神の分身であるがゆえに無敵の力を有していたみたいだ。
そこには万物を創造する力も含まれていた。
やがて。
半神族は力を使ってこの世界にさまざまな種族を誕生させる。
どうやらそれが今日の種族の起源ってわけらしい。
その際にオーブもそれぞれ生み出されたようだ。
そのあと。
多くの種族を生み出した半神は退化して亜人族となり、そのほかの種族と同列の存在としてこの世界で暮らすようになる。
「なっ……亜人族ですと!?」
「えぇっ!? 亜人族って人族が進化する前の種族じゃん!」
「この話が本当なら人族の祖先は半神ということになりますね」
「にわかに信じられん話じゃ……」
この話にはこの場にいる全員が驚きの声を上げた。
もちろん俺も驚きを隠せなかった。
『なぜ半神がこのように多くの種族を生み出したのか、その理由は今のところ明らかとなっていない。だが、それによって各地でさまざまな種族が繁栄し、今日の世界を形成することとなった。すべての歴史は最初の種族である半神からはじまったのだ』
ウィンドウ上の父さんがいちど言葉を区切ったのを確認すると。
ヤッザンのおっさんはこんなことを言い出す。
「しかし疑問ですなぁ……。争いの火種となる他の種族をどうして生み出したのでしょう」
「たしかにそうじゃのう。同胞たちだけで暮らせばこの世界はきっと楽園となったはずじゃ。わざわざ亜人族に退化した理由も分からん」
「……たぶん、友だちを作ろうとしたんじゃないかな?」
「友だちですか?」
不思議そうに訊ねるマキマに向けて俺は言う。
「だってそうじゃん? こんなだだっ広い世界に自分たちの種族しか存在しないなんて寂しすぎるよ。だからきっと仲良くなれる友だちを作りたくていろいろな種族を生み出したんじゃないか?」
規模は小さいかもしれないけど。
蒼狼王族、オーガ族、刀鎧始祖族のみんなと共存する国を作り上げた俺には半神の気持ちがなんとなく分かるような気がした。
「さすがお兄さまっ♡ 素敵な考えだよぉ~♪」
「そうですね。なんというかとてもティムさまらしい発想だと思います。わたしもそう信じたいです」
でも。
半神にどんな思いがあったのか分からないけど、実際の歴史はそんな夢のようにはいかなかった。
その後の歴史は周知のとおりだ。
数えきれないほどの争いを繰り返し、多くの種族が繁栄しては滅んでいく。
『その過程で亜人族にも変化が生じるようになったのだ』と父さんは語る。
当然、亜人族が人族に進化することを指してそう言ってるんだって思ったけど。
どうやらそういうわけじゃないらしい。
『ここから先話す内容はとても繊細な問題を含んでいる。皆どうか驚かないで聞いてほしい』
父さんはそこでひと呼吸置くとゆっくりとこう続けた。
『実は亜人族が種族進化して生まれたのは人族だけではなかったのだ。亜人族から分裂するようにもうひとつの種族も生まれてしまった。それが……魔族なのだよ』
「ふぇっ、亜人族から魔族も生まれちゃったの!?」
「分裂して人族と魔族が誕生した……と。これが事実だとすれば……」
じいさんの言葉を先読みするように父さんはこう口にする。
『そうだ。話を聞いて皆も分かったことだろう。人族と魔族はいわば肉親のような存在なのだよ』
退化したとはいえ亜人族はもともと無敵の力を有していた半神だ。
己の中に眠るその圧倒的な力を前に。
亜人族の中では、光と闇の心がせめぎ合っていたのかもしれない。
結果的にそのせめぎ合いが溢れ出る形で人族と魔族は誕生することになる。
(マジかよこの話。肉親って……)
ひょっとしてスキルと極意が似てるのはそのせいなんじゃないか?
半神の血を引いてるからお互いこれだけ優れた異能を扱うことができるって……そういうことなのか?
ここでなにか思いついたようにマキマが声を上げる。
「ちょっと待ってください。ということは魔族は遥か以前から存在してたってことではないでしょうか?」
「人族と分裂する形で誕生したのなら、つまりそういうことですぞ」
「じゃあ……今から10年前に突然変異的に出現したっていう話はどういうことなんだ?」
俺が疑問を口にすると、ブライのじいさんが首を横に振る。
「おそらくそれは誤った認識だったんじゃろう」
「……だよね。魔族はもっとずっと前からこの世界に誕生してて、表舞台の歴史に出てこなかったってことなんじゃない?」
どうやらウェルミィのその予想は当たってたようだ。
亜人族から分裂進化した魔族はひっそりとこの世界で暮らしてきた。
やがて、魔族の中で力をつけてくる者がいくつか現れるようになる。
それが魔族の王――魔王だったってわけだ。
『魔王は同胞から知恵を奪い、獰猛なケモノに変える力を持っていたと言われている。それが魔獣の正体なのだよ』
そして、魔王たちは頃合いを見計らって獰猛なケモノに変えた同胞――つまりモンスターを世界各地に送り込み、多くの種族を襲撃させた。
これが『死の大暴乱』の真実だったようだ。
そこまで父さんの話を聞いてマキマが異を唱えた。
「でもちょっとおかしいです。どうしてそんな魔族しか知り得ないような事実がエアリアル帝国の伝承に残っていたのでしょうか?」
「たしかにそうだな」
それは俺も不思議に思ってたところだ。
こんな話、魔族じゃないと知ることはできないはず。
すると。
ふたたびこちらの言葉を読むようにウィンドウ上の父さんはこう切り出す。
『どうして魔族に関するこんな事実が分かるのかと、疑問に思った者もいると思う。もちろんこれには理由がある。これから話すことはエアリアル帝国の秘密とも大きく関わっているからできれば覚悟のある者だけが耳を傾けてほしい』
その瞬間、地下室に緊張が走った。
これまでとは一線を画す話をしようとしてるってのが画面越しから伝わってきたからだ。
けれど。
誰もこの場から出て行こうとはしない。
(そうだよ。ここまで話を聞いたんだ。今さら耳を塞ぐなんてことはできない)
俺は真実が知りたいんだ。
そして、その気持ちはこの場にいるみんなも同じようだった。
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