36 / 49
呪縛
しおりを挟む
ルドルフのメイド達がリリシアにドレスを着せた後。
「それじゃあ昨日話したようにやるけどいいかな」
「⋯⋯はい」
リリシアは神妙な顔つきで、ゆっくりとこちらに背中を向ける。
すると腰の近くまで焼けただれた皮膚が目に入った。
五年後に見た時と同じだ。あの時と違うのは火傷以外の傷がないことだ。
「⋯⋯背中にこんなものがあるなんて、びっくりしますよね⋯⋯」
「そんなことないよ」
初めて見た時は確かに驚いた。だけど今回は二度目だから初めて見た時程の驚きはない。
だが人に見せるのは⋯⋯ましてや異性に見せるのは相当勇気がいる行為だっただろう。
「気持ち悪い⋯⋯ですよね」
リリシアがポツリと呟く。
後ろからなので表情は見えないが、沈痛な思いをしていることだけはわかる。
この火傷の痕はこれまでずっとリリシアを苦しめてきた。それが女の子なら尚更だ。
だから俺はリリシアの火傷なら気持ち悪くないと伝えるため、そっと背中に触れる。
辛かったな⋯⋯そのような言葉では表せない程の苦しみを味わってきたのだろう。だけどそれも今日で終わりにする。
「例え火傷があっても、それがリリシアの魅力を下げる訳じゃない」
「ユート様ならきっとそう仰って下さると思っていました。ですがユート様にだけは見られたくはなかったという気持ちもあります」
どういうことだ? 俺が男だからか? なんにせよ背中の火傷を見せたいと思う者はいないだろう。
「だけど今日、その火傷は消え去る」
「信じられないような話ですが、ユート様のことを信じています。お願いしてもよろしいでしょうか」
この世界には一瞬で傷が消える回復薬や回復魔法などない。ましてや古い傷痕など消えるはずがない。
信じろと言われて信じる方がおかしいだろう。
だけどリリシアにこのことを話した時、全く疑うことなく俺の話を信じてくれた。
ならばその期待に答えるのが男というものだ。
リリシアの背中に左手を添える。
そして魔力を集め、火傷を⋯⋯リリシアの心を応癒す魔法を唱えた。
「回復魔法」
眩しい光がリリシアの背中を包み込む。
そして光が収まった時、雪のように真っ白な背中が目に入った。
綺麗だ⋯⋯あまりの美しさに、このまま触れていたくなる衝動に駆られるけど、俺は自重し背中から手を放す。
「ど、どうでしょうか?」
リリシアは不安気に問いかけてきた。
「火傷の痕はなくなったよ」
「本当⋯⋯ですか」
「自分で見てみたらどうだ」
姿見で確認するよう促してみる。
「わかりました」
リリシアは姿見の前に移動し、背中を鏡へと向けるが⋯⋯目を閉じていた。
「今までこの背中の火傷から逃れられることはないと思っていました。少し恥ずかしいですが、私の幼い頃の夢はその⋯⋯お嫁さんになることでした」
知ってるよ。最後の決戦の前に教えてくれたから。
「ですがこの背中を見るたびに、その夢は叶うことはないと諦めていました。今この目を開ければ、またお嫁さんになる夢を見てもいいのでしょうか?」
「もちろんだ。だからリリシアがまた夢をみるためにも、その目で確認してほしい」
「⋯⋯はい」
リリシアの瞳がゆっくりと開けられる。
そして視線が鏡に合い、背中に向けられると、リリシアの目から涙がポロポロと床に落ちていく。
「治ってる⋯⋯治ってます! 私の背中が治ってます!」
おしとやかなリリシアとは思えない程大きな声で、喜びの感情を表していた。
その様子を見て、俺は嬉しく思うと同時に、やはり前の時間軸のリリシアのことを考えてしまう。
もしあの時俺が回復魔法を使えたら、今と同じ様に喜んでくれただろうか。
いや、たらればのことを考えても仕方ないな。今はリリシアの火傷の痕を治せたことを素直に喜ぶとしよう。
「ユート様ユート様ユート様!」
リリシアが目にも止まらぬ速さで俺の胸に飛び込んで来たので受け止めた。
さすがは神速と呼ばれただけはある。あまりのスピードに目が追いつかなかったぞ。
「見て下さい私の背中を! 火傷の痕がありません!」
「あ、ああ⋯⋯見てるよ」
俺は視線を逸らしながら、リリシアの問いに答える。
「ユート様? 本当に見てくれてますか?」
そんな至近距離で見ろと言われても⋯⋯
さすがに女の子の背中をじっくりと見るのは恥ずかしい。その色っぽい背中を見ていると、思わず顔が赤くなってしまう。
「顔が明後日の方を向いていますよ。ちゃんと見て⋯⋯あっ!」
リリシアは俺の顔が赤くなっていることに気づいたのか、自分が男に向かって大胆なことをしていると理解したようだ。
「ももも、申し訳ありません! ユート様のお目を汚してしまいました」
「いや、そんなことない。とても綺麗な背中で見ているとドキドキするよ」
「わ、私の背中で⋯⋯ユ、ユート様はドキドキしていただけるのですか?」
「それは⋯⋯はい」
「あ、ありがとうございます⋯⋯」
百人いたら百人共、リリシアの背中に目を奪われるだろう。俺は正直に答えるとリリシアは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
何とも言えない空気がこの場に流れる。
だけどそろそろパーティーが始まる時間だ。
俺は顔が赤くなっているのを誤魔化しながら、ルドルフに対する対策を伝えるのであった。
「それじゃあ昨日話したようにやるけどいいかな」
「⋯⋯はい」
リリシアは神妙な顔つきで、ゆっくりとこちらに背中を向ける。
すると腰の近くまで焼けただれた皮膚が目に入った。
五年後に見た時と同じだ。あの時と違うのは火傷以外の傷がないことだ。
「⋯⋯背中にこんなものがあるなんて、びっくりしますよね⋯⋯」
「そんなことないよ」
初めて見た時は確かに驚いた。だけど今回は二度目だから初めて見た時程の驚きはない。
だが人に見せるのは⋯⋯ましてや異性に見せるのは相当勇気がいる行為だっただろう。
「気持ち悪い⋯⋯ですよね」
リリシアがポツリと呟く。
後ろからなので表情は見えないが、沈痛な思いをしていることだけはわかる。
この火傷の痕はこれまでずっとリリシアを苦しめてきた。それが女の子なら尚更だ。
だから俺はリリシアの火傷なら気持ち悪くないと伝えるため、そっと背中に触れる。
辛かったな⋯⋯そのような言葉では表せない程の苦しみを味わってきたのだろう。だけどそれも今日で終わりにする。
「例え火傷があっても、それがリリシアの魅力を下げる訳じゃない」
「ユート様ならきっとそう仰って下さると思っていました。ですがユート様にだけは見られたくはなかったという気持ちもあります」
どういうことだ? 俺が男だからか? なんにせよ背中の火傷を見せたいと思う者はいないだろう。
「だけど今日、その火傷は消え去る」
「信じられないような話ですが、ユート様のことを信じています。お願いしてもよろしいでしょうか」
この世界には一瞬で傷が消える回復薬や回復魔法などない。ましてや古い傷痕など消えるはずがない。
信じろと言われて信じる方がおかしいだろう。
だけどリリシアにこのことを話した時、全く疑うことなく俺の話を信じてくれた。
ならばその期待に答えるのが男というものだ。
リリシアの背中に左手を添える。
そして魔力を集め、火傷を⋯⋯リリシアの心を応癒す魔法を唱えた。
「回復魔法」
眩しい光がリリシアの背中を包み込む。
そして光が収まった時、雪のように真っ白な背中が目に入った。
綺麗だ⋯⋯あまりの美しさに、このまま触れていたくなる衝動に駆られるけど、俺は自重し背中から手を放す。
「ど、どうでしょうか?」
リリシアは不安気に問いかけてきた。
「火傷の痕はなくなったよ」
「本当⋯⋯ですか」
「自分で見てみたらどうだ」
姿見で確認するよう促してみる。
「わかりました」
リリシアは姿見の前に移動し、背中を鏡へと向けるが⋯⋯目を閉じていた。
「今までこの背中の火傷から逃れられることはないと思っていました。少し恥ずかしいですが、私の幼い頃の夢はその⋯⋯お嫁さんになることでした」
知ってるよ。最後の決戦の前に教えてくれたから。
「ですがこの背中を見るたびに、その夢は叶うことはないと諦めていました。今この目を開ければ、またお嫁さんになる夢を見てもいいのでしょうか?」
「もちろんだ。だからリリシアがまた夢をみるためにも、その目で確認してほしい」
「⋯⋯はい」
リリシアの瞳がゆっくりと開けられる。
そして視線が鏡に合い、背中に向けられると、リリシアの目から涙がポロポロと床に落ちていく。
「治ってる⋯⋯治ってます! 私の背中が治ってます!」
おしとやかなリリシアとは思えない程大きな声で、喜びの感情を表していた。
その様子を見て、俺は嬉しく思うと同時に、やはり前の時間軸のリリシアのことを考えてしまう。
もしあの時俺が回復魔法を使えたら、今と同じ様に喜んでくれただろうか。
いや、たらればのことを考えても仕方ないな。今はリリシアの火傷の痕を治せたことを素直に喜ぶとしよう。
「ユート様ユート様ユート様!」
リリシアが目にも止まらぬ速さで俺の胸に飛び込んで来たので受け止めた。
さすがは神速と呼ばれただけはある。あまりのスピードに目が追いつかなかったぞ。
「見て下さい私の背中を! 火傷の痕がありません!」
「あ、ああ⋯⋯見てるよ」
俺は視線を逸らしながら、リリシアの問いに答える。
「ユート様? 本当に見てくれてますか?」
そんな至近距離で見ろと言われても⋯⋯
さすがに女の子の背中をじっくりと見るのは恥ずかしい。その色っぽい背中を見ていると、思わず顔が赤くなってしまう。
「顔が明後日の方を向いていますよ。ちゃんと見て⋯⋯あっ!」
リリシアは俺の顔が赤くなっていることに気づいたのか、自分が男に向かって大胆なことをしていると理解したようだ。
「ももも、申し訳ありません! ユート様のお目を汚してしまいました」
「いや、そんなことない。とても綺麗な背中で見ているとドキドキするよ」
「わ、私の背中で⋯⋯ユ、ユート様はドキドキしていただけるのですか?」
「それは⋯⋯はい」
「あ、ありがとうございます⋯⋯」
百人いたら百人共、リリシアの背中に目を奪われるだろう。俺は正直に答えるとリリシアは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
何とも言えない空気がこの場に流れる。
だけどそろそろパーティーが始まる時間だ。
俺は顔が赤くなっているのを誤魔化しながら、ルドルフに対する対策を伝えるのであった。
11
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる