異世界転生者のリトライ~これから起こることは全てわかっている。世界でただ一人の回復術師はとても有能でした~

マーラッシュ

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酒飲み勝負

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「お客様、アーノルド様は本当にお酒が強いですよ」
「今まで飲み比べで負けた所を見たことありませんわ」

 アリッサさんとダリアさんが、不安げに問いかけてくる。

「心配してくれてありがとう。でもアーノルドが今まで勝てたのは、俺に出会わなかったからだ」
「いちいち面白いことを言うな。だがこれからは言葉ではなく、飲んだ量で語るぞ」

 グラフト産のボトルが次々と運ばれてくる。
 それを俺とアーノルドは飲み干していく。

「やるじゃねえか。だが俺はまだまだ余裕だぞ」
「俺もだ。ようやく身体が温まった所だ」

 ボトルを三本づつ開けた所だが、言葉通りアーノルドはまだまだ余裕だろう。

「アーノルド様は凄くお酒に強いのはわかっていましたけど、ユート様もお強いですね」
「ありがとう。それとフローラさん、トイレはどこにあるのかな?」
「あっ! こちらになります」
「お酒を飲むとすぐにトイレに行きたくなるんだ」

 俺は席を立ち上がり、フローラさんの後に着いていく。するとアーノルドが背中に言葉を投げ掛けてきた。

「もう限界で吐くつもりじゃないだろうな?」
「まさか。すぐに戻って来るよ」
「どうだか。無理はしない方がいいぞ。だがあれだけデカイ口を叩いたんだ。負けたらその代償として裸踊りでもしてもらおうかな」
「それは俺に勝ってから言ってくれ。でないと恥をかくのはアーノルドの方だぞ」

 舌戦を繰り広げた後、俺はトイレへと向かう。
 そして再びテーブルに戻り、酒飲みの勝負が始まった。

 ボトルがさらに二本開けられたが、俺はまだまだ余裕がある。
 対するアーノルドも俺と同じペースで飲んではいるが、余裕がないのか口を開かなくなった。
 そしてさらにボトルを二本飲み干した後。

「悪い。またトイレに行ってくる」
「ゆ、ゆっくりでいいぞ。酔っぱらって転けたら大変だからな」
「ご忠告どうも」

 俺は少しふらつきながらトイレへと向かう。
 そして用事を済ませた後、しっかりした足取りで席へと戻った。

「それじゃあ再開するか」
「お、おう」
「だけどこのままだとなかなか決着がつきそうにないな」
「どういうことだ?」
「ミュルヘン産の酒で勝負を決めないか?」
「ミュ、ミュルヘン産の酒⋯⋯だと⋯⋯」

 平静を装っていたアーノルドが顔をしかめる。
 グラフト産の酒と比べてミュルヘン産の酒は、アルコール度数が三倍だと言われている。
 そのため早期決着をつけるのであれば、打ってつけの酒だ。

「いいだろう。吐いて醜態をさらしてもしらんぞ」
「アーノルドこそ立場があるんだ。醜い姿を見せないでくれよ」

 こうして酒飲み勝負は終盤へと突入していく。

「アーノルド様、ユート様⋯⋯どうぞ」

 フローラさんがミュルヘン産の酒をグラスに注いでいく。
 見た目はグラフト産と違いはないが、すぐにそれが間違いだと気づいた。
 グラスから離れているのにアルコール臭がすごい。こんな物を何杯も飲んだら間違いなくぶっ倒れて、二日酔いコースまっしぐらだ。
 俺とアーノルドはグラスに手を伸ばし、一気にミュルヘン産の酒を口に入れる。
 するとお互いに苦悶の表情を浮かべた。
 こ、これは人が飲む物なのか? 喉や胃への刺激が強く、とても多く飲めるものではない。
 だがこの勝負に負ける訳には行かないので、俺はフローラさんに再び酒を注いでもらうよう催促をする。

「どうしたアーノルド。もう降参か?」
「ふっ⋯⋯俺を舐めてもらっちゃ困る。ユートこそやせ我慢は身体に毒だぞ」

 どうやらまだ決着はつかなそうだ。
 アーノルドも酒を一気に飲み干し、互いにボトルを一本空ける。
 強がってはみたが、このままだと後ボトル二本で俺は限界が来るだろう。
 アーノルドもきつそうだが、どこまで飲めるかはわからない。後一本で勝負がつくといいが。
 しかし俺の願いも虚しく、それぞれボトルを一本空けたが、アーノルドはまだ戦う意志を示していた。

「凄い勝負ですね」
「アーノルド様が勝つと思ってたけど、ユート様も負けていません」
「けれどさすがに二人とも限界が近いと思うわ」

 三人のメイド達も息を飲んで勝負を見守る。
 そのような中、俺は席を立つ。

「ど、どうした? ゲ、ゲロでも吐きに⋯⋯行くのか?」
「いや、普通にトイレだ」

 俺はふらつきながらもトイレに行く。
 そして一分程で席に戻り、再び勝負を開始する。

「フローラさん注いで下さい」
「ユート様、大丈夫ですか? ご無理はしない方が⋯⋯」
「俺は大丈夫ですよ。俺よりアーノルドを心配してあげて下さい」

 俺はチラリとアーノルドに視線を送る。

「何を⋯⋯言ってる。俺⋯⋯は⋯⋯まだまだ⋯⋯いけるぜ⋯⋯」

 強気の言葉とは裏腹に、アーノルドの言葉はたどたどしくなっていた。

「アーノルド様⋯⋯」
「だ、大丈夫⋯⋯だ。心⋯⋯配⋯⋯するな⋯⋯」

 もう限界を越えているだろうに。その根性には称賛を送りたいが、無理をすると辛くなるのはお前自身だぞ。
 こうなったら俺にはどうやっても勝てないと、わからせてやった方がいいな。
 俺は注がれた酒を一気に飲み、ボトルを空ける。

「フローラさん次を」
「は、はい」

 そして続けざまにもう一本開けた後、透かさず飲み干してアーノルドとの差を二本に広げた。
 アーノルドが俺に勝つには、ここから三本飲まなければならない。
 この状況でも負けを認めないのか?

 アーノルドはうつむいており、表情が見えない。
 俺は最後通告をするため、問いかける。

「このまま終わりにするか、続けるか⋯⋯選んでくれ」

 しかし返事はない。もしかして酒を飲みすぎて寝落ちしてしまったのだろうか。
 だが俺の予想は間違っていた。

「ふっ⋯⋯ふっはっはっは!」

 アーノルドは突然顔を上げたかと思ったら、笑い始めたのだ。
 酒に酔い過ぎて頭がおかしくなったのか?
 突然の奇行に俺は心配になってしまう。

「まさか⋯⋯俺が負けるとは⋯⋯お前の勝ち⋯⋯だ⋯⋯バタッ」

 そして俺の目を見据えて敗北宣言をすると、そのままテーブルに倒れてしまう。

「「「アーノルド様!」」」

 メイドの三人は声を上げ、テーブルに突っ伏しているアーノルドに駆け寄るのであった。
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