29 / 49
遊び人
しおりを挟む
「グラフト地方の酒を頼むなんて、景気がいいねえ」
「こう見えて酒は好きなんですよ」
「奇遇だな。俺も酒は飲める口でね」
「それなら一緒に飲みますか? 帝都は初めてだから知り合いが一人もいなくて」
「いいぜ。俺はアーノルドだ」
「俺はユート。よろしく」
話しかけて来たのは、両手に女の子をはべらしていた金髪の青年だ。酒好きであるがゆえに、俺がグラフト地方の酒を頼んだことで気になったようだ。
「アーノルド様、席を移動したらダメですよ」
「ユートが良いって言ったんだ。固いことを言うなよ。ほら、お前達もこっちにくればグラフト地方の酒が飲めるぞ。いいよな?」
「構わないよ。みんなで一緒に飲もう」
「本当ですか?」
「グラフト地方のお酒が飲めるなんて嬉しいわ」
アーノルドとメイドの店員さん二人がこちらの席に来て、一気に華やかになる。
「お待たせしました」
そしてタイミングよく、フローラさんがお酒を持ってきた。
「あら? 二人共どうしたの?」
「こちらのお客様が私達も御一緒していいと仰って」
「そうですか。ではお客様、私がおつぎ致しますね」
フローラさんがお酒をグラスに入れていく。
「ではユート。乾杯の音頭を頼む」
「この出会いに⋯⋯乾杯」
乾杯の合図を出すと、それぞれグラスを合わせ酒を飲む。
むっ! やはり高い酒だけはあって旨いな。まろやかで飲みやすく、いくらでも入りそうだ。
「ユートは帝都は初めてだって言ってたな。何か用事でもあったのか?」
「ああ。実は仕事で⋯⋯」
「いや! ちょっとまて。俺が当てて見せる」
「それは面白そうだ。ぜひ当てて見てくれ」
アーノルドが俺の頭の先から足の先まで、じっくりと視線を送ってくる。
「アーノルド様の観察眼はすごいのよ」
「私が知る限りでは、一度も外したことがないわ」
アリッサさんとダリアさんが、ワクワクした様子で教えてくれる。
知ってるよ。前の時間軸で会った時も当てられたからな。
「掌でも見せようか?」
「よく俺の考えていることがわかったな」
俺は指摘される前に掌を見せる。
「アーノルド様どうですか?」
「わかりましたか?」
「難しいな。だいたいのことはわかったが、肝心なことがわからない」
「わかっていることだけでも教えてくれないか」
この反応は前の時と違うな。この青年と出会うのは二年後だから今はまだ成長途中なのかもしれない。
「高い酒を頼んでいることから貴族かと思ったが、そのわりには掌がおかしい。相当鍛練を積んでいる手だ。ただの貴族がここまで鍛練をするとは考えられない」
「ということは冒険者とか兵士さんですか?」
「いや、冒険者ならランクを示す首飾りを持っているはずだが、ユートはしてない。それに兵士から感じる規律の匂いが感じられない。兵士だけは腐る程見てきたから、俺の勘に間違いはないはずだ」
「驚いたよ。確かに俺は貴族でも冒険者でも兵士でもない。帝都に来たのは、ある人の護衛を頼まれたからだ。それと高い酒を頼んでいるのは賭け馬で当てたからだ」
「賭け馬だと!? 少し前にとんでもない倍率を当てた奴がいると聞いたが。まさかお前はフリーデン王国の人間か?」
他国の情報も仕入れているとはさすがだな。
この青年はぱっと見た所いい加減な奴に見えるが、観察眼や勘が優れており、広い情報網を持っている。そして決断力もあるため、この青年が最も力を発揮できる立場は⋯⋯
「兄貴に会いにリリシア王女が来ていたな。その護衛という訳か」
「その通りです。俺もあなたと話していてわかりましたよ」
「何がわかったんだ? 教えてくれないか?」
「あなたは帝国の第三皇子⋯⋯アルドリック様ですね」
「どうしてそう思う。帝国の第三皇子は遊び人だからか?」
「確かにそれも判断材料の一つです。それとアルドリック様の勘が鋭いことは有名ですから」
「遊び人で勘が鋭い、そんな奴この世に五万といるぞ」
「もう一つ気になることを仰っていたので。兵士だけは腐る程見てきたと。幼少の頃から城で過ごしていれば、兵士を日常的に見ていることは当然かと」
「まあ⋯⋯隠すことじゃないからな。ユートの指摘通り、俺はアルドリックだ。正体を見破った褒美を取らせればいいのか?」
「そのようなものはいりません。ただ俺はわかっていて指摘しないのは騙すような気がして⋯⋯」
「なるほど。お前少し変わってるな」
「普通だと自分は思っています」
「これまで会ってきた奴等は俺が皇族とわかったら媚びへつらったり、恐れる奴しかいなかった。それなのにユートからはどちらの感情も感じられない」
アルドリックには、正直に話した方が好感度が高くなることはわかっていたからな。前の時間軸だとその役割はザインだった。ザインは思ったことを口にするタイプで、アルドリックと同じ遊び人ということもあり、二人は馬が合ったのだ。
「とりあえず今ここにいるのはただのアーノルドだ。敬語は必要ない」
「わかった」
ちなみにメイドさん達は、アルドリックが皇族と明かしても驚いた様子はない。おそらく最初から知っていたのだろう。
「グラフトの酒を頼むということは、ユートはいける口だろ?」
「まあね。そんじょそこらの人には負けないと自負してるよ」
「ほう⋯⋯それは俺への挑戦と受け取ってもいいか?」
「負けたら何でも言うことを聞くよ」
「いいだろう。俺も負けたら何でも言うことを聞いてやる」
賭け事に簡単に乗ってくる所は変わらないな。だが悪いが今回はそれを利用させてもらうぞ。
こうして負けたら何でも言うことを聞くということを賭けて、俺とアルドリックは酒飲みの勝負をするのであった。
「こう見えて酒は好きなんですよ」
「奇遇だな。俺も酒は飲める口でね」
「それなら一緒に飲みますか? 帝都は初めてだから知り合いが一人もいなくて」
「いいぜ。俺はアーノルドだ」
「俺はユート。よろしく」
話しかけて来たのは、両手に女の子をはべらしていた金髪の青年だ。酒好きであるがゆえに、俺がグラフト地方の酒を頼んだことで気になったようだ。
「アーノルド様、席を移動したらダメですよ」
「ユートが良いって言ったんだ。固いことを言うなよ。ほら、お前達もこっちにくればグラフト地方の酒が飲めるぞ。いいよな?」
「構わないよ。みんなで一緒に飲もう」
「本当ですか?」
「グラフト地方のお酒が飲めるなんて嬉しいわ」
アーノルドとメイドの店員さん二人がこちらの席に来て、一気に華やかになる。
「お待たせしました」
そしてタイミングよく、フローラさんがお酒を持ってきた。
「あら? 二人共どうしたの?」
「こちらのお客様が私達も御一緒していいと仰って」
「そうですか。ではお客様、私がおつぎ致しますね」
フローラさんがお酒をグラスに入れていく。
「ではユート。乾杯の音頭を頼む」
「この出会いに⋯⋯乾杯」
乾杯の合図を出すと、それぞれグラスを合わせ酒を飲む。
むっ! やはり高い酒だけはあって旨いな。まろやかで飲みやすく、いくらでも入りそうだ。
「ユートは帝都は初めてだって言ってたな。何か用事でもあったのか?」
「ああ。実は仕事で⋯⋯」
「いや! ちょっとまて。俺が当てて見せる」
「それは面白そうだ。ぜひ当てて見てくれ」
アーノルドが俺の頭の先から足の先まで、じっくりと視線を送ってくる。
「アーノルド様の観察眼はすごいのよ」
「私が知る限りでは、一度も外したことがないわ」
アリッサさんとダリアさんが、ワクワクした様子で教えてくれる。
知ってるよ。前の時間軸で会った時も当てられたからな。
「掌でも見せようか?」
「よく俺の考えていることがわかったな」
俺は指摘される前に掌を見せる。
「アーノルド様どうですか?」
「わかりましたか?」
「難しいな。だいたいのことはわかったが、肝心なことがわからない」
「わかっていることだけでも教えてくれないか」
この反応は前の時と違うな。この青年と出会うのは二年後だから今はまだ成長途中なのかもしれない。
「高い酒を頼んでいることから貴族かと思ったが、そのわりには掌がおかしい。相当鍛練を積んでいる手だ。ただの貴族がここまで鍛練をするとは考えられない」
「ということは冒険者とか兵士さんですか?」
「いや、冒険者ならランクを示す首飾りを持っているはずだが、ユートはしてない。それに兵士から感じる規律の匂いが感じられない。兵士だけは腐る程見てきたから、俺の勘に間違いはないはずだ」
「驚いたよ。確かに俺は貴族でも冒険者でも兵士でもない。帝都に来たのは、ある人の護衛を頼まれたからだ。それと高い酒を頼んでいるのは賭け馬で当てたからだ」
「賭け馬だと!? 少し前にとんでもない倍率を当てた奴がいると聞いたが。まさかお前はフリーデン王国の人間か?」
他国の情報も仕入れているとはさすがだな。
この青年はぱっと見た所いい加減な奴に見えるが、観察眼や勘が優れており、広い情報網を持っている。そして決断力もあるため、この青年が最も力を発揮できる立場は⋯⋯
「兄貴に会いにリリシア王女が来ていたな。その護衛という訳か」
「その通りです。俺もあなたと話していてわかりましたよ」
「何がわかったんだ? 教えてくれないか?」
「あなたは帝国の第三皇子⋯⋯アルドリック様ですね」
「どうしてそう思う。帝国の第三皇子は遊び人だからか?」
「確かにそれも判断材料の一つです。それとアルドリック様の勘が鋭いことは有名ですから」
「遊び人で勘が鋭い、そんな奴この世に五万といるぞ」
「もう一つ気になることを仰っていたので。兵士だけは腐る程見てきたと。幼少の頃から城で過ごしていれば、兵士を日常的に見ていることは当然かと」
「まあ⋯⋯隠すことじゃないからな。ユートの指摘通り、俺はアルドリックだ。正体を見破った褒美を取らせればいいのか?」
「そのようなものはいりません。ただ俺はわかっていて指摘しないのは騙すような気がして⋯⋯」
「なるほど。お前少し変わってるな」
「普通だと自分は思っています」
「これまで会ってきた奴等は俺が皇族とわかったら媚びへつらったり、恐れる奴しかいなかった。それなのにユートからはどちらの感情も感じられない」
アルドリックには、正直に話した方が好感度が高くなることはわかっていたからな。前の時間軸だとその役割はザインだった。ザインは思ったことを口にするタイプで、アルドリックと同じ遊び人ということもあり、二人は馬が合ったのだ。
「とりあえず今ここにいるのはただのアーノルドだ。敬語は必要ない」
「わかった」
ちなみにメイドさん達は、アルドリックが皇族と明かしても驚いた様子はない。おそらく最初から知っていたのだろう。
「グラフトの酒を頼むということは、ユートはいける口だろ?」
「まあね。そんじょそこらの人には負けないと自負してるよ」
「ほう⋯⋯それは俺への挑戦と受け取ってもいいか?」
「負けたら何でも言うことを聞くよ」
「いいだろう。俺も負けたら何でも言うことを聞いてやる」
賭け事に簡単に乗ってくる所は変わらないな。だが悪いが今回はそれを利用させてもらうぞ。
こうして負けたら何でも言うことを聞くということを賭けて、俺とアルドリックは酒飲みの勝負をするのであった。
20
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる