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実力の差は経験則で埋めることができる
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「リリシアちゃんに勝っちまうなんてすげえなユート。いつの間に強くなったんだ?」
ザインが驚いた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「運が良かっただけだよ。それとリリシアが戦っているのを一度見ていたのが大きいかな」
「それはどういうことでしょうか? 気になります」
リリシアは興味津々といった様子で視線を送ってくる。
「フィアブリッツの軌道が見れたから。もしかして同じ場所を狙ってくるんじゃないかと思って動いたんだ」
「確かにその通りです。私はフィアブリッツで攻撃する時は左肩、右肩、右腹部、左腹部を狙って打つことにしています」
実際前の時間軸では初めて会った時、フィアブリッツは二パターンしかなかった。相手を殺さないものと殺すものだ。
殺さないものは先程リリシアが言っていたように左肩、右肩、右腹部、左腹部を狙うものだ。
だから俺は先読みして、三撃目を弾くことにしたのだ。それとこの三撃目を弾いたことにも理由がある。
「それと気のせいかもしれないけど、三撃目は一二撃目と比べて鋭さが劣っていたような⋯⋯」
「凄いです。一度見ただけでフィアブリッツの弱点を見抜くなんて。三撃目だけはどうしても威力、スピードが他と比べて劣っていることに気づいてはいるのですが⋯⋯ダメですね。鍛練が足りていませんね」
「技を無意識に出せるように反復練習するのと、いくつかのパターンを考えておくといいんじゃないかな」
「わかりました。御指導していただきありがとうございます」
リリシアはお礼の言葉を口にして、深々と頭を下げる。
ちなみにフィアブリッツの殺す方のパターンは、額、首、心臓、みぞおちとまさにどこを刺突しても仕留めることの出来る場所を狙っている。
リリシアはその強さゆえに、フィアブリッツを出せばほぼ勝利を収めてきたため、軌道のパターンが少なかったのだ。
そういえば前の世界では、それまで人を寄せ付けなかったリリシアが、フィアブリッツを俺が破ったことで話しをするようになったな。
やはり強者に対して心を許すのは、どの世界のリリシアも同じということか。
「すばらしい戦いだったね」
「まさかリリシアが敗れるとは⋯⋯信じられん」
テオ王子と国王陛下が観客席から闘技場へと降りてきた。
「ありがとうございます。これでリリシア王女の護衛は任せていただけるでしょうか?」
「むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」
「うむ。よろしく頼む」
ふう。これでリリシアだけを帝国に行かさずに済む。だけどこれはまだスタートラインに立っただけ。リリシアを⋯⋯世界を守ることで初めて俺の目的は達成されるんだ。
「それにしてもお兄様。私が負ける方に賭けていましたね? 妹を応援してくれないなんてひどい人です」
「いや、それは⋯⋯何となくそう思っただけで悪気はないんだ」
リリシアはむくれており、テオ王子は妹の機嫌が悪くなったことに慌てふためいている。
「ごめん。ただリリシアもユートに負けたことで課題も見えたし、有意義な手合わせだっただろ?」
「それはそうですけど⋯⋯次はちゃんと私を応援して下さいよ」
「わかってるよ」
仲がいい兄妹だ。さっきのやりとりも、リリシアは本気で怒っていないことがわかる。
だけどその幸せな空間は、この後壊されることとなる。
それを知っているだけに、二人のやりとりがとても尊く見えた。
(何をショボくれているのですか? そうしないために今、あなたがいるのですよね?)
ルルの励まし? の言葉が胸に刺さる。
(それとどうしてこれからこの国は滅びることになるのですか? あなたが頭に思い浮かべてくれないから、私にはわからないのですが)
(そうだな。ルルにはちゃんと自分の口で伝えるよ。この後起こる悲劇を)
(そうですか。それでは部屋に戻ったら教えて下さい)
(わかった)
この場では一度解散となり、明日の朝、帝国へ出発することを国王陛下から伝えられた。
そして俺はルルと共に部屋へと戻った。
正直この後の王国の行く末をリリシアが聞いてしまったら、発狂してしまうだろう。それだけ本人に取って辛い未来になる。
ルルは定位置になりつつある枕の上に座り、俺を見上げる。
これは早く聞きたくてしょうがないといった様子だな。
別に待たせるつもりはないので、俺はこれから起こるフリーデン王国の未来を語るのであった。
―――――――――――――――
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ザインが驚いた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「運が良かっただけだよ。それとリリシアが戦っているのを一度見ていたのが大きいかな」
「それはどういうことでしょうか? 気になります」
リリシアは興味津々といった様子で視線を送ってくる。
「フィアブリッツの軌道が見れたから。もしかして同じ場所を狙ってくるんじゃないかと思って動いたんだ」
「確かにその通りです。私はフィアブリッツで攻撃する時は左肩、右肩、右腹部、左腹部を狙って打つことにしています」
実際前の時間軸では初めて会った時、フィアブリッツは二パターンしかなかった。相手を殺さないものと殺すものだ。
殺さないものは先程リリシアが言っていたように左肩、右肩、右腹部、左腹部を狙うものだ。
だから俺は先読みして、三撃目を弾くことにしたのだ。それとこの三撃目を弾いたことにも理由がある。
「それと気のせいかもしれないけど、三撃目は一二撃目と比べて鋭さが劣っていたような⋯⋯」
「凄いです。一度見ただけでフィアブリッツの弱点を見抜くなんて。三撃目だけはどうしても威力、スピードが他と比べて劣っていることに気づいてはいるのですが⋯⋯ダメですね。鍛練が足りていませんね」
「技を無意識に出せるように反復練習するのと、いくつかのパターンを考えておくといいんじゃないかな」
「わかりました。御指導していただきありがとうございます」
リリシアはお礼の言葉を口にして、深々と頭を下げる。
ちなみにフィアブリッツの殺す方のパターンは、額、首、心臓、みぞおちとまさにどこを刺突しても仕留めることの出来る場所を狙っている。
リリシアはその強さゆえに、フィアブリッツを出せばほぼ勝利を収めてきたため、軌道のパターンが少なかったのだ。
そういえば前の世界では、それまで人を寄せ付けなかったリリシアが、フィアブリッツを俺が破ったことで話しをするようになったな。
やはり強者に対して心を許すのは、どの世界のリリシアも同じということか。
「すばらしい戦いだったね」
「まさかリリシアが敗れるとは⋯⋯信じられん」
テオ王子と国王陛下が観客席から闘技場へと降りてきた。
「ありがとうございます。これでリリシア王女の護衛は任せていただけるでしょうか?」
「むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」
「うむ。よろしく頼む」
ふう。これでリリシアだけを帝国に行かさずに済む。だけどこれはまだスタートラインに立っただけ。リリシアを⋯⋯世界を守ることで初めて俺の目的は達成されるんだ。
「それにしてもお兄様。私が負ける方に賭けていましたね? 妹を応援してくれないなんてひどい人です」
「いや、それは⋯⋯何となくそう思っただけで悪気はないんだ」
リリシアはむくれており、テオ王子は妹の機嫌が悪くなったことに慌てふためいている。
「ごめん。ただリリシアもユートに負けたことで課題も見えたし、有意義な手合わせだっただろ?」
「それはそうですけど⋯⋯次はちゃんと私を応援して下さいよ」
「わかってるよ」
仲がいい兄妹だ。さっきのやりとりも、リリシアは本気で怒っていないことがわかる。
だけどその幸せな空間は、この後壊されることとなる。
それを知っているだけに、二人のやりとりがとても尊く見えた。
(何をショボくれているのですか? そうしないために今、あなたがいるのですよね?)
ルルの励まし? の言葉が胸に刺さる。
(それとどうしてこれからこの国は滅びることになるのですか? あなたが頭に思い浮かべてくれないから、私にはわからないのですが)
(そうだな。ルルにはちゃんと自分の口で伝えるよ。この後起こる悲劇を)
(そうですか。それでは部屋に戻ったら教えて下さい)
(わかった)
この場では一度解散となり、明日の朝、帝国へ出発することを国王陛下から伝えられた。
そして俺はルルと共に部屋へと戻った。
正直この後の王国の行く末をリリシアが聞いてしまったら、発狂してしまうだろう。それだけ本人に取って辛い未来になる。
ルルは定位置になりつつある枕の上に座り、俺を見上げる。
これは早く聞きたくてしょうがないといった様子だな。
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