18 / 49
ユートVSリリシア
しおりを挟む
結論から伝えると勝負は一瞬でついた。
それは俺の本気という言葉に、リリシアが応えてくれたからだ。
俺は対峙したリリシアに集中する。瞬き一つしようものなら、その隙をつかれて、一瞬で距離を詰められてしまうからだ。
「この勝負、リリシアちゃんの勝ちだろ。あのスピードをユートが見切れるとは思えねえ」
さすがザイン。わかってるな。
この頃の俺の剣の技量は、ザインと同じかもしくは劣っているくらいだろう。
そのザインがあっさり負けたのだ。本来なら俺が勝てる道理はない。
「父上はどちらが勝つと思いますか?」
「ネクロマンサーエンプレスを倒したとはいえ、リリシアには敵わないだろう。我が国の騎士団長でも勝てぬのだぞ」
「だけどユートは何か勝つための策があるんじゃないかな。僕はユートが勝つ方に賭けるよ」
「神速と呼ばれたリリシアが負ける? そんなバカなことがあるか」
「それは結果が教えてくれるよ」
国王陛下はテオ王子の突拍子のない言葉に、驚きを隠せずにいた。
「それでは始めましょう」
リリシアは開始の合図を出すと共に、猛然とこちらに迫ってきた。
俺は予定通り剣を下段に構える。
これは一気に勝負をかけてかけてきたな。
ザインの時のように、少しずつスピードを上げていく気はないようだ。
「フィアブリッツ!」
リリシアが技名を口にすると、閃光のような一撃が放たれた。
さっきは離れた位置から見ていたので、見切ることが出来ていたけど⋯⋯今の俺の実力ではかわすことも防ぐことも難しそうだ。
だが実力はなくとも、俺には何十回とフィアブリッツを見てきた経験がある。
まずはエストックが左肩に迫る。
俺は攻撃のタイミングに合わせて、右に移動しかわす。
次は右肩にエストックが向かってきたので、今度は左側に動きギリギリ攻撃をかわすことに成功した。
リリシアの攻撃は下手に受け止めると体勢を崩されてしまう。それだけフィアブリッツの威力は凄まじいものがある。実際ザインはそれで体勢を崩されて敗北した。
だからこの二撃だけはかわさなくてはならなかった。
そして三撃目が右脇腹に飛んできた。
俺は迫ってくるエストックに向かって、剣を下段から振り上げ弾く。
すると金属音が鳴り響くと共に、エストックが宙を舞った。
俺は透かさず首を目掛けて剣を突きつける。
「まだ終わっていませんよ」
リリシアはエストックを手放したことに動じず、身を低くして剣をかわす。そしてそのまま頭を目掛けて右足で蹴りを放ってきた。
普通なら丸腰にした時点で心が緩むだろう。しかし俺にとっては想定の範囲内だった。
俺は向かってきた蹴りを左手で掴んだ。
だがリリシアの攻撃はまだ終わらない。
今度は空いた左足で再び顔面に蹴りを放ってきたのだ。
俺は右手に持っていた剣を手放す。そして向かってきた左足を今度は右手で掴む。
そのため、今リリシアは逆さ吊りのような体勢になるのであった。
「わ、私の負けです」
さすがにこの体勢から攻撃することが出来ないのか、リリシアは涙目になりながら降参した。
ん? 涙目?
「ユ、ユート様。下ろしていただけると助かります」
リリシアの攻撃を凌ぐことに気を取られていたため、どうして涙目になっているかわからなかったが、今わかった。
リリシアは逆さ吊りになっていたため、両手でスカートが捲れないように抑えているのだ。
「ご、ごめん!」
俺は慌ててリリシアを地面に下ろす。
「ユート様ひどいです。辱しめを受けてしまいました」
「えっ? いや、これはその⋯⋯リリシアの攻撃を防ぐためには仕方なく⋯⋯」
「これは責任を取っていただかないといけませんね」
「せ、責任って⋯⋯」
た、確かにスカートを履いているのに逆さ吊りにするのはやり過ぎたか。だけど責任ってどうすればいいんだ。
俺が困っているとリリシアがクスクスと笑い始めた。
「冗談ですよ。これは真剣勝負ですから、何をされても文句は言えません」
「驚いた⋯⋯リリシアでも冗談を言うんだな」
「冗談くらい言いますよ」
俺は口にして気づいてしまった。これだと昔からリリシアを知っているような言い方だ。
前の時間軸のリリシアを思い浮かべ、思わず口にしてしまった。俺の知っているリリシアは冗談なんか言わなかったからな。
「王女だからといっても、私は普通の女の子ですから。幻滅しました?」
「いや、今のリリシアは楽しそうでいいと思う」
「そう言っていただけると嬉しいです」
笑わず、ただ敵を倒すだけの人生よりよっぽどいい。これが本当の姿だと思うと前の時間軸のリリシアは、自分を押し殺して生きていたことがわかる。
俺はそんな絶望した未来を回避するためにここにいるんだ。
「また私と戦ってくださいますか? 次は負けませんよ」
「ああ。またやろう」
リリシアは再戦の約束が嬉しいのか笑顔を見せ、初めての手合わせは俺の勝利で終わるのであった。
それは俺の本気という言葉に、リリシアが応えてくれたからだ。
俺は対峙したリリシアに集中する。瞬き一つしようものなら、その隙をつかれて、一瞬で距離を詰められてしまうからだ。
「この勝負、リリシアちゃんの勝ちだろ。あのスピードをユートが見切れるとは思えねえ」
さすがザイン。わかってるな。
この頃の俺の剣の技量は、ザインと同じかもしくは劣っているくらいだろう。
そのザインがあっさり負けたのだ。本来なら俺が勝てる道理はない。
「父上はどちらが勝つと思いますか?」
「ネクロマンサーエンプレスを倒したとはいえ、リリシアには敵わないだろう。我が国の騎士団長でも勝てぬのだぞ」
「だけどユートは何か勝つための策があるんじゃないかな。僕はユートが勝つ方に賭けるよ」
「神速と呼ばれたリリシアが負ける? そんなバカなことがあるか」
「それは結果が教えてくれるよ」
国王陛下はテオ王子の突拍子のない言葉に、驚きを隠せずにいた。
「それでは始めましょう」
リリシアは開始の合図を出すと共に、猛然とこちらに迫ってきた。
俺は予定通り剣を下段に構える。
これは一気に勝負をかけてかけてきたな。
ザインの時のように、少しずつスピードを上げていく気はないようだ。
「フィアブリッツ!」
リリシアが技名を口にすると、閃光のような一撃が放たれた。
さっきは離れた位置から見ていたので、見切ることが出来ていたけど⋯⋯今の俺の実力ではかわすことも防ぐことも難しそうだ。
だが実力はなくとも、俺には何十回とフィアブリッツを見てきた経験がある。
まずはエストックが左肩に迫る。
俺は攻撃のタイミングに合わせて、右に移動しかわす。
次は右肩にエストックが向かってきたので、今度は左側に動きギリギリ攻撃をかわすことに成功した。
リリシアの攻撃は下手に受け止めると体勢を崩されてしまう。それだけフィアブリッツの威力は凄まじいものがある。実際ザインはそれで体勢を崩されて敗北した。
だからこの二撃だけはかわさなくてはならなかった。
そして三撃目が右脇腹に飛んできた。
俺は迫ってくるエストックに向かって、剣を下段から振り上げ弾く。
すると金属音が鳴り響くと共に、エストックが宙を舞った。
俺は透かさず首を目掛けて剣を突きつける。
「まだ終わっていませんよ」
リリシアはエストックを手放したことに動じず、身を低くして剣をかわす。そしてそのまま頭を目掛けて右足で蹴りを放ってきた。
普通なら丸腰にした時点で心が緩むだろう。しかし俺にとっては想定の範囲内だった。
俺は向かってきた蹴りを左手で掴んだ。
だがリリシアの攻撃はまだ終わらない。
今度は空いた左足で再び顔面に蹴りを放ってきたのだ。
俺は右手に持っていた剣を手放す。そして向かってきた左足を今度は右手で掴む。
そのため、今リリシアは逆さ吊りのような体勢になるのであった。
「わ、私の負けです」
さすがにこの体勢から攻撃することが出来ないのか、リリシアは涙目になりながら降参した。
ん? 涙目?
「ユ、ユート様。下ろしていただけると助かります」
リリシアの攻撃を凌ぐことに気を取られていたため、どうして涙目になっているかわからなかったが、今わかった。
リリシアは逆さ吊りになっていたため、両手でスカートが捲れないように抑えているのだ。
「ご、ごめん!」
俺は慌ててリリシアを地面に下ろす。
「ユート様ひどいです。辱しめを受けてしまいました」
「えっ? いや、これはその⋯⋯リリシアの攻撃を防ぐためには仕方なく⋯⋯」
「これは責任を取っていただかないといけませんね」
「せ、責任って⋯⋯」
た、確かにスカートを履いているのに逆さ吊りにするのはやり過ぎたか。だけど責任ってどうすればいいんだ。
俺が困っているとリリシアがクスクスと笑い始めた。
「冗談ですよ。これは真剣勝負ですから、何をされても文句は言えません」
「驚いた⋯⋯リリシアでも冗談を言うんだな」
「冗談くらい言いますよ」
俺は口にして気づいてしまった。これだと昔からリリシアを知っているような言い方だ。
前の時間軸のリリシアを思い浮かべ、思わず口にしてしまった。俺の知っているリリシアは冗談なんか言わなかったからな。
「王女だからといっても、私は普通の女の子ですから。幻滅しました?」
「いや、今のリリシアは楽しそうでいいと思う」
「そう言っていただけると嬉しいです」
笑わず、ただ敵を倒すだけの人生よりよっぽどいい。これが本当の姿だと思うと前の時間軸のリリシアは、自分を押し殺して生きていたことがわかる。
俺はそんな絶望した未来を回避するためにここにいるんだ。
「また私と戦ってくださいますか? 次は負けませんよ」
「ああ。またやろう」
リリシアは再戦の約束が嬉しいのか笑顔を見せ、初めての手合わせは俺の勝利で終わるのであった。
10
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!

悪役貴族に転生した俺は悪逆非道の限りを尽くす
美鈴
ファンタジー
酷いイジメを受けていた主人公大杉静夜(おおすぎせいや)。日に日にイジメは酷くなっていった。ある日いつものように呼び出された静夜は仕方無く呼び出された場所向かう。それが自分の最後とは知らずに…
カクヨム様にも投稿しておりますが内容が異なります

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる