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ユートVSリリシア
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結論から伝えると勝負は一瞬でついた。
それは俺の本気という言葉に、リリシアが応えてくれたからだ。
俺は対峙したリリシアに集中する。瞬き一つしようものなら、その隙をつかれて、一瞬で距離を詰められてしまうからだ。
「この勝負、リリシアちゃんの勝ちだろ。あのスピードをユートが見切れるとは思えねえ」
さすがザイン。わかってるな。
この頃の俺の剣の技量は、ザインと同じかもしくは劣っているくらいだろう。
そのザインがあっさり負けたのだ。本来なら俺が勝てる道理はない。
「父上はどちらが勝つと思いますか?」
「ネクロマンサーエンプレスを倒したとはいえ、リリシアには敵わないだろう。我が国の騎士団長でも勝てぬのだぞ」
「だけどユートは何か勝つための策があるんじゃないかな。僕はユートが勝つ方に賭けるよ」
「神速と呼ばれたリリシアが負ける? そんなバカなことがあるか」
「それは結果が教えてくれるよ」
国王陛下はテオ王子の突拍子のない言葉に、驚きを隠せずにいた。
「それでは始めましょう」
リリシアは開始の合図を出すと共に、猛然とこちらに迫ってきた。
俺は予定通り剣を下段に構える。
これは一気に勝負をかけてかけてきたな。
ザインの時のように、少しずつスピードを上げていく気はないようだ。
「フィアブリッツ!」
リリシアが技名を口にすると、閃光のような一撃が放たれた。
さっきは離れた位置から見ていたので、見切ることが出来ていたけど⋯⋯今の俺の実力ではかわすことも防ぐことも難しそうだ。
だが実力はなくとも、俺には何十回とフィアブリッツを見てきた経験がある。
まずはエストックが左肩に迫る。
俺は攻撃のタイミングに合わせて、右に移動しかわす。
次は右肩にエストックが向かってきたので、今度は左側に動きギリギリ攻撃をかわすことに成功した。
リリシアの攻撃は下手に受け止めると体勢を崩されてしまう。それだけフィアブリッツの威力は凄まじいものがある。実際ザインはそれで体勢を崩されて敗北した。
だからこの二撃だけはかわさなくてはならなかった。
そして三撃目が右脇腹に飛んできた。
俺は迫ってくるエストックに向かって、剣を下段から振り上げ弾く。
すると金属音が鳴り響くと共に、エストックが宙を舞った。
俺は透かさず首を目掛けて剣を突きつける。
「まだ終わっていませんよ」
リリシアはエストックを手放したことに動じず、身を低くして剣をかわす。そしてそのまま頭を目掛けて右足で蹴りを放ってきた。
普通なら丸腰にした時点で心が緩むだろう。しかし俺にとっては想定の範囲内だった。
俺は向かってきた蹴りを左手で掴んだ。
だがリリシアの攻撃はまだ終わらない。
今度は空いた左足で再び顔面に蹴りを放ってきたのだ。
俺は右手に持っていた剣を手放す。そして向かってきた左足を今度は右手で掴む。
そのため、今リリシアは逆さ吊りのような体勢になるのであった。
「わ、私の負けです」
さすがにこの体勢から攻撃することが出来ないのか、リリシアは涙目になりながら降参した。
ん? 涙目?
「ユ、ユート様。下ろしていただけると助かります」
リリシアの攻撃を凌ぐことに気を取られていたため、どうして涙目になっているかわからなかったが、今わかった。
リリシアは逆さ吊りになっていたため、両手でスカートが捲れないように抑えているのだ。
「ご、ごめん!」
俺は慌ててリリシアを地面に下ろす。
「ユート様ひどいです。辱しめを受けてしまいました」
「えっ? いや、これはその⋯⋯リリシアの攻撃を防ぐためには仕方なく⋯⋯」
「これは責任を取っていただかないといけませんね」
「せ、責任って⋯⋯」
た、確かにスカートを履いているのに逆さ吊りにするのはやり過ぎたか。だけど責任ってどうすればいいんだ。
俺が困っているとリリシアがクスクスと笑い始めた。
「冗談ですよ。これは真剣勝負ですから、何をされても文句は言えません」
「驚いた⋯⋯リリシアでも冗談を言うんだな」
「冗談くらい言いますよ」
俺は口にして気づいてしまった。これだと昔からリリシアを知っているような言い方だ。
前の時間軸のリリシアを思い浮かべ、思わず口にしてしまった。俺の知っているリリシアは冗談なんか言わなかったからな。
「王女だからといっても、私は普通の女の子ですから。幻滅しました?」
「いや、今のリリシアは楽しそうでいいと思う」
「そう言っていただけると嬉しいです」
笑わず、ただ敵を倒すだけの人生よりよっぽどいい。これが本当の姿だと思うと前の時間軸のリリシアは、自分を押し殺して生きていたことがわかる。
俺はそんな絶望した未来を回避するためにここにいるんだ。
「また私と戦ってくださいますか? 次は負けませんよ」
「ああ。またやろう」
リリシアは再戦の約束が嬉しいのか笑顔を見せ、初めての手合わせは俺の勝利で終わるのであった。
それは俺の本気という言葉に、リリシアが応えてくれたからだ。
俺は対峙したリリシアに集中する。瞬き一つしようものなら、その隙をつかれて、一瞬で距離を詰められてしまうからだ。
「この勝負、リリシアちゃんの勝ちだろ。あのスピードをユートが見切れるとは思えねえ」
さすがザイン。わかってるな。
この頃の俺の剣の技量は、ザインと同じかもしくは劣っているくらいだろう。
そのザインがあっさり負けたのだ。本来なら俺が勝てる道理はない。
「父上はどちらが勝つと思いますか?」
「ネクロマンサーエンプレスを倒したとはいえ、リリシアには敵わないだろう。我が国の騎士団長でも勝てぬのだぞ」
「だけどユートは何か勝つための策があるんじゃないかな。僕はユートが勝つ方に賭けるよ」
「神速と呼ばれたリリシアが負ける? そんなバカなことがあるか」
「それは結果が教えてくれるよ」
国王陛下はテオ王子の突拍子のない言葉に、驚きを隠せずにいた。
「それでは始めましょう」
リリシアは開始の合図を出すと共に、猛然とこちらに迫ってきた。
俺は予定通り剣を下段に構える。
これは一気に勝負をかけてかけてきたな。
ザインの時のように、少しずつスピードを上げていく気はないようだ。
「フィアブリッツ!」
リリシアが技名を口にすると、閃光のような一撃が放たれた。
さっきは離れた位置から見ていたので、見切ることが出来ていたけど⋯⋯今の俺の実力ではかわすことも防ぐことも難しそうだ。
だが実力はなくとも、俺には何十回とフィアブリッツを見てきた経験がある。
まずはエストックが左肩に迫る。
俺は攻撃のタイミングに合わせて、右に移動しかわす。
次は右肩にエストックが向かってきたので、今度は左側に動きギリギリ攻撃をかわすことに成功した。
リリシアの攻撃は下手に受け止めると体勢を崩されてしまう。それだけフィアブリッツの威力は凄まじいものがある。実際ザインはそれで体勢を崩されて敗北した。
だからこの二撃だけはかわさなくてはならなかった。
そして三撃目が右脇腹に飛んできた。
俺は迫ってくるエストックに向かって、剣を下段から振り上げ弾く。
すると金属音が鳴り響くと共に、エストックが宙を舞った。
俺は透かさず首を目掛けて剣を突きつける。
「まだ終わっていませんよ」
リリシアはエストックを手放したことに動じず、身を低くして剣をかわす。そしてそのまま頭を目掛けて右足で蹴りを放ってきた。
普通なら丸腰にした時点で心が緩むだろう。しかし俺にとっては想定の範囲内だった。
俺は向かってきた蹴りを左手で掴んだ。
だがリリシアの攻撃はまだ終わらない。
今度は空いた左足で再び顔面に蹴りを放ってきたのだ。
俺は右手に持っていた剣を手放す。そして向かってきた左足を今度は右手で掴む。
そのため、今リリシアは逆さ吊りのような体勢になるのであった。
「わ、私の負けです」
さすがにこの体勢から攻撃することが出来ないのか、リリシアは涙目になりながら降参した。
ん? 涙目?
「ユ、ユート様。下ろしていただけると助かります」
リリシアの攻撃を凌ぐことに気を取られていたため、どうして涙目になっているかわからなかったが、今わかった。
リリシアは逆さ吊りになっていたため、両手でスカートが捲れないように抑えているのだ。
「ご、ごめん!」
俺は慌ててリリシアを地面に下ろす。
「ユート様ひどいです。辱しめを受けてしまいました」
「えっ? いや、これはその⋯⋯リリシアの攻撃を防ぐためには仕方なく⋯⋯」
「これは責任を取っていただかないといけませんね」
「せ、責任って⋯⋯」
た、確かにスカートを履いているのに逆さ吊りにするのはやり過ぎたか。だけど責任ってどうすればいいんだ。
俺が困っているとリリシアがクスクスと笑い始めた。
「冗談ですよ。これは真剣勝負ですから、何をされても文句は言えません」
「驚いた⋯⋯リリシアでも冗談を言うんだな」
「冗談くらい言いますよ」
俺は口にして気づいてしまった。これだと昔からリリシアを知っているような言い方だ。
前の時間軸のリリシアを思い浮かべ、思わず口にしてしまった。俺の知っているリリシアは冗談なんか言わなかったからな。
「王女だからといっても、私は普通の女の子ですから。幻滅しました?」
「いや、今のリリシアは楽しそうでいいと思う」
「そう言っていただけると嬉しいです」
笑わず、ただ敵を倒すだけの人生よりよっぽどいい。これが本当の姿だと思うと前の時間軸のリリシアは、自分を押し殺して生きていたことがわかる。
俺はそんな絶望した未来を回避するためにここにいるんだ。
「また私と戦ってくださいますか? 次は負けませんよ」
「ああ。またやろう」
リリシアは再戦の約束が嬉しいのか笑顔を見せ、初めての手合わせは俺の勝利で終わるのであった。
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