異世界転生者のリトライ~これから起こることは全てわかっている。世界でただ一人の回復術師はとても有能でした~

マーラッシュ

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ザインVSリリシア

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 さあ、リリシアはどんな剣技を見せてくれるか。手に持っている武器は刺突がやりやすいエストックだ。

 俺が知っているのはあくまで四年後の実力だ。この時のリリシアがどのくらいの腕前なのかはわからない。

「行きます」

 どうやら先手を取ったのはリリシアのようだ。
 まるで風のように駆け走り、一気にザインまで詰め寄った。
 速い! さすがは神速のリリシアと呼ばれているだけのことはある。
 そしてスピードに乗ったまま、得意の刺突をザインへと繰り出した。

「くっ!」

 ザインは苦悶の声を上げるが、何とか手に持ったロングソードで防ぐ。

「初見で刺突を受け止められる方にお会いするのは久しぶりです」
「可愛い顔をしてなんて攻撃をしてくるんだ。危うく串刺しにされるところだったぜ」

 リリシアの美しさに魅了され、ヘラヘラしていたザインの目が真剣なものへと変わる。
 真面目にやらないと痛い目を見ることを悟ったようだ。

「それでは、もう少しスピードを速くしますね」
「おいおい。まだ本気じゃなかったのかよ」

 リリシアは言葉通り、先程より鋭い突きを繰り出してきた。
 だがザインも負けてはいない。
 迫ってくる剣を受け止めたりかわしたりして、何とか攻撃を凌いでいた。

「ここまで打ち合えたのは久しぶりでとても楽しいです」
「こっちは全然楽しくねえよ。せめて木剣にしとけば良かった」

 リリシアは笑顔を浮かべて楽しそうに伝える。だが対象的にザインは楽しむ所ではなく、先程から苦悶の表情を浮かべていた。
 誰が見てもリリシアが優位に見える。このままだとリリシアの勝利は確実だ。
 だけど本来の実力であれば、二人の実力は拮抗していると俺は考えている。
 リリシアは自分に合ったスピードを重視する戦い方、対するザインは⋯⋯自分に合っていないスタイルで戦えば、本来の力が出せる訳がない。

「これで決めさせていただきます」

 リリシアはそう宣言すると、ザインに向かって突進する。
 そのスピードはこれまでより速く、さっきより本気だということがわかった。

「フィアブリッツ!」

 リリシアは刺突を繰り出しながら、声高く宣言する。
 出た! 刺突を光速で繰り出すリリシアの必殺技だ。その正体は閃光の如く繰り出される四連撃の突きだが、食らった相手は速すぎて何をされたかわからないうちに絶命する。
 だがさすがに訓練であるため、命を奪うことはしないだろう。
 果たしてザインはリリシアの攻撃を見切れるか。
 まず一撃目がザインの左肩に放たれる。

「はやっ!」

 ザインは手に持った剣で体勢を崩しながらも何とか防いだ。だが続け様に右肩に剣が迫ってくる。ザインは二撃目の刺突を剣で受け止めたが、一撃目で体勢が崩れていたため、地面に尻餅をついてしまう。
 そしてリリシアはザインの首にエストックを当て、決着が着くのであった。

「いてて⋯⋯見た目よりパワーがあるな」

 勝負はリリシアの一撃目でついていた。フィアブリッツは速さもあるが、威力も凄まじいため、一撃目を受けて体勢を崩してしまった時点で、ザインの負けはほぼ決まっていたのだ。

「大丈夫ですか?」

 リリシアは座り込んでいるザインに手を差し伸べる。

「俺の負けだぜ。完敗だ」
「良い勝負だったと思います」

 ザインはリリシアの手を掴み起き上がる。

「では次はユート様と手合わせですね。ですがお父様とお兄様がまだ来られていないので私、呼んできます」

 そしてリリシアは一度訓練所から離れ、城の中へと戻っていく。

「残念だったな」

 俺はザインに話しかける。だがザインは自分の右手を見ていて、心あらずと言った様子だった。

「どうした?」
「あの姫さんの手⋯⋯」
「可愛い女の子と手を繋いだことが嬉しかったのか?」
「いや、身体は如何にも女の子って感じで滅茶苦茶柔らかそうに見えるけど、掌はすげえ固かった」
「それだけ強くなる努力をしてきたんだろ」

 四年後のリリシアの掌も固かった。だからそのことに驚きはない。それより⋯⋯

「ザインも努力すればもっと強くなれるんじゃないか」
「まあ俺は天才だし、努力すれば向かうところ敵なしだろうな」

 すごい自信だな。リリシアに負けたことも堪えていないようだ。

「リリシアは自分の力を生かすために、スピードを重視した武器を使っていた。あのスピードに対抗するためにザインは盾とか使ってみたらどうだ?」
「盾だと? 防御なんてダサくねえか? 俺にタンク役をやれと言うのか?」

 やはり断ってきたか。
 前の時間軸では、盾を持ったザインは最強と言っても過言ではなく、それこそリリシアとも互角に戦っていた。
 しかしこのカッコつけたい性格が災いして、盾を持つことがなかった。だけどあることがきっかけで盾を使うようになるのだが⋯⋯

「まあ壁にでもぶち当たったら、俺が言ったことを考えてみてくれ」
「そんな機会は来ねえと思うけどな」

 何を言っても無駄だな。とりあえず強い相手に勝つためには努力が必要だと、身をもって体験してもらったことでよしとしよう。それより今はリリシアとの手合わせだ。

「ユート様、お待たせしました」

 リリシアがこの場を離れて五分程経った頃。国王陛下とテオ王子を連れてリリシアが戻ってきた。

「それでは手合わせをお願い致します」

 俺とリリシアは訓練所の中央に移動すると、互いの武器を構える。

「本気でやらせてもらう」
「ユート様はネクロマンサーエンプレスを倒した実力者。私も全力で当たらせていただきます」

 全力か。ザインと手合わせを見て、現時点では俺とリリシアの剣の腕は明確に差があることがわかった。だがリリシアが全力を出すことで、俺は勝機を得ることが出来る。
 俺は真っ直ぐとリリシアを見据え、剣を構えた。
 こうして本来この時代で起こることのなかった戦いが、今始まるのであった。
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