異世界転生者のリトライ~これから起こることは全てわかっている。世界でただ一人の回復術師はとても有能でした~

マーラッシュ

文字の大きさ
上 下
11 / 49

白金貨の使い道

しおりを挟む
「リリ⋯⋯シア⋯⋯」

 頭の中に、前の時間軸で過ごしたリリシアとの思い出が蘇り、思わず呟いてしまう。

(どうしたのですか? あなた⋯⋯涙が出ていますよ)

 俺はルルの言葉で現実に戻らされ、急いで涙をふく。

「あらあら⋯⋯お父様がプレッシャーをかけるから怖がっていますよ」
「私はそのようなことはしていない。変な言いがかりをつけないでくれ」

 国王陛下とリリシアは笑顔を見せている。
 おそらく俺の緊張をほぐすために、わざとおどけた様子で話をしているのだろう。

(大丈夫ですか?  今は人間の王の前なのよ)
(大丈夫。懐かしい顔に会ったから驚いただけだ)
(⋯⋯嘘つき)

 ルルには俺の頭の中が読めるから、誤魔化しても無駄なようだ。
 確かにリリシアが目の前にいることがとても嬉しい。そしてそのリリシアの笑顔が見れて思わず涙が出てしまった。
 何故なら前の時間軸では、リリシアの笑った顔を一度も見たことがなかったからだ。
 俺と初めて会ったのは約四年後で、冷徹沈着な復讐者と言った感じだった。
 この時は幸せに暮らしていたんだな。
 しかしこの後、彼女の人生は一変してしまう。
 元々助けるつもりだったけど今の笑顔を見て、俺は改めてリリシアを救う決意をする。

(何だか訳がありそうですけどどうするつもりですか?)
(まあ見ててくれ)

「それなら何故この方は涙を流していたのかしら?」
「申し訳ありません。何でもないので気にしないで下さい」
「そうですか。父のせいではなくてほっとしました」

 国王陛下もリリシアもどこか納得している様子ではないが、わざわざ追求してくることはないだろう。

「では魔物を討伐したそなたへの褒美だが⋯⋯」

 国王陛下の歯切れが悪くなっていた。
 理由はわかっている。
 この時の王国は財政難に陥っており、褒美を渡すものがないのだ。
 理由は魔物が増えてきたことにより流通が回っていないことと、異常気象のせいだ。
 まあそのお陰で昨日大雨が降り、今日のレースで馬場が荒れていて勝てたのだが。
 国王としては権威を保つため、平民に金はないなど言うことは出来ないだろうな。

「こちらでもネクロマンサーエンプレス調査して、後日改めて褒美を渡すとする」
「その前に国王陛下にお聞きしたいことがあります」
「申してみよ」
「リリシア王女について」
「リリシアだと?」
「はい。リリシア王女は隣国にある、スロバスト帝国に嫁がれるという噂は本当でしょうか?」

 俺の言葉によって、ここにいる王国側の人達が驚きの表情を浮かべる。

「どこでその話を聞いた」
「詳細は言えませんが、とある筋から」

 未来から来たので知っています⋯⋯なんて言っても信用してもらえないだろうな。

「王国と帝国は国境を封鎖しています。そのような国に我が国の至宝であるリリシア王女を嫁がせてもよいのですか?」
「⋯⋯」

 国王陛下はうつむき、寂しそうな表情を見せた。
 わかってる。この人だって本当は娘を帝国に行かせたくないと思っている。だけど国のために仕方なくリリシアを嫁がせるしかなかったんだ。
 後から知ったことだけど、帝国はリリシアを渡せば資金援助をすると約束していたらしい。
 それにもしかしたら国王陛下は、婚姻関係を結ぶことが出来れば、両国は友好関係になって経済的にも潤うと考えていたかもしれない。
 だけどそんな未来は永久に来ない。
 むしろ婚姻を結ぶことによって、フリーデン王国は破滅への道を進むことになるのだ。
 だからその未来だけは、何を犠牲にしても阻止しなければならない。

「民を守るためには仕方のないことです。それに帝国に嫁げば贅沢な暮らしが出来ますし」

 リリシアは笑顔で答えるが本心ではないことがわかる。
 何故ならリリシアは嘘をつくと両手を組み、親指同士を弄るクセがあるからだ。

「実は今日は魔物討伐の報告と、もう一つ用件がありまして」

 俺は懐から小袋を取り出す。

「こちらを国王陛下に献上させていただきたく、参りました」
「その袋の中身はなんだ?」
「今、フリーデン王国で一番必要なものです」

 宰相と思わしき人が小袋を受け取る。
 そして小袋が危険な物かどうか確認するためか中を見た。

「こ、これは!」

 宰相と思わしき人は誰が見てもわかる程動揺して、小袋を国王陛下へと渡す。
 そして国王陛下も小袋の中を覗く。すると先程の宰相らしき人と同じ様に、大きな声をあげるのだった。

「は、白金貨! しかも三十枚だと!?」

 そう。俺が国王陛下に献上したのは、さっきレースで当てた金だ。
 これだけの金があれば、王国を持ち直せるくらいにはなるはずだ。

「このような大金、どこで手に入れたのだ」
「賭け馬で儲けさせてもらったお金です」
「そういえば私も国王杯を観戦しに行きましたが、賭け馬史上最も高い配当金だったと聞いています」

 リリシアもあの場にいたのか。話が早くて助かる。

「リリシア王女がこの白金貨三十枚で望まぬ結婚をしなくてすむなら、喜んで献上させていただきます」
「余も出来るならリリシアを帝国に嫁がせたくはない。だがこれだけの大金があれば一生遊んで暮らすことが出来るぞ」
「白金貨三十枚でリリシア王女を守れるなら安いものです」

 敵を斬るだけの機械になったリリシアはもう見たくない。それにこれはズルをして稼いだ金だ。惜しくない。

「あなたは⋯⋯あなたの名前を教えていただいてもよろしいですか?」
「俺は⋯⋯ユートです」

 リリシアが俺の前に来て両手を握り、真っ直ぐと目を見据えてきた。

「ユート様。一度は国のためと思い、嫁ぐことを決意しました。ですが私はこの地で民のために働き、フリーデンをより良い国にしたいと願っています。その夢をもう一度見てもよろしいのでしょうか?」

 前の時間軸でリリシアが願っていたことと同じだ。
 互いの立場は違ってしまったけど、リリシアの幸せを願う気持ちは変わっていない。
 だから答えは決まってる。

「もちろんです。リリシア王女」

 俺は力強くリリシアの手を握り返す。

「ありがとう⋯⋯ございます⋯⋯」

 リリシアは言葉がつまりながら礼を述べると、その目から光るものが地面にポタポタと落ちるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生してモンスター診療所を始めました。

十本スイ
ファンタジー
 日本で普通の高校生として日常を送っていた三月倫斗だったが、ある日、車に引かれそうになっていた子犬を助けたことで命を落としてしまう。  気づけばそこは地球ではない異世界――【エテルナ】。  モンスターや魔術などが普通に存在するファンタジーな世界だった。  倫斗は転生してリント・ミツキとして第二の人生を歩むことに。しかし転生してすぐに親に捨てられてしまい、早くもバッドエンディングを迎えてしまいそうになる。  そこへ現れたのは銀の羽毛に覆われた巨大な鳥。  名を――キンカ。彼女にリントは育てられることになるのだ。  そうして時が経ち、リントは人よりもモンスターを愛するようになり、彼らのために何かできないかと考え、世界でも数少ないモンスター専門の医者である〝モンスター医〟になる。  人とのしがらみを嫌い、街ではなく小高い丘に診療所を用意し腕を揮っていた。傍には助手のニュウという獣人を置き、二人で閑古鳥が鳴く診療所を切り盛りする。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...