6 / 49
旅立ちの日
しおりを挟む
「倒した⋯⋯のか⋯⋯」
「ああ。見ての通りだ」
「骸骨女は白い光を食らったら苦しそうにしてたが、あれはなんだ?」
いきなり魔物が消滅したんだ。気になるよな。
これから長い旅をするザインには素直に話すしかないだろう。
「さっきのは傷を治す魔法なんだ」
「傷を治す魔法だと⋯⋯そんな魔法聞いたことねえぞ」
「信じられない話だけど本当のことだぞ」
「だがそれで魔物が消滅するなんておかしくないか?」
「そう言われても結果は見ての通りだからな」
理解してもらうためには、生命の力や死の力の説明から入らなきゃいけないから、適当に濁しておこう。
「つい先日突然使えるようになったんだ。誰にも言うなよ」
回復魔法のことを知られれば、俺の自由はなくなるだろう。然るべき時に公表するつもりではあるが、今はその時ではない。
「しかたねえな」
さすがのザインも、回復魔法が使える意味がわかっているのか、俺の言葉に同意してくれたようだ。
そして俺はネクロマンサーエンプレスが消滅した場所に視線を向ける。
するとそこには黒い光を放つものが見えた。
「何だそれ? 綺麗な石だな。まさか宝石か?」
「魔物が持っていたのかな。もらっておくか」
特殊な魔物は倒すと宝石になる。その強さは十ある硬度の内、数値が高い宝石程強力だという証明になるのだ。ちなみに今拾った宝石はブラックオパールで、硬度は六だ。
今回は回復魔法でダメージを与えるという裏技を使ったから倒せたが、今の俺達では硬度六の魔物もまともに倒すことは出来ない。
前の時間軸の経験からいって、硬度八以上の魔物はまさに化物といった強さだった。
これからもっと実力をつけなければ、待っているのは死だけだ。
「最近各地で見たことのない魔物が出現しているらしいな。今回の魔物もそうなのか?」
「さあ?」
「お前はどうしてここに魔物がいるってわかったんだ?」
「何となく嫌な予感がして。一人で勝てるかわからなかったからザインにも来てもらったんだ」
「本当ひでえ話だよ。俺は魔物と戦う気なんてねえからな」
「それは困る」
女好きでどうしょもない奴だが、その強さは本物だし、信頼出来る友人で、世界を救うためには必要な人材だ。
「はあ? まさかお前、魔物を倒すために旅に出るつもりか?」
「そのまさかだが」
「そんなの一人で行ってくれ。俺はここで面白おかしく暮らすんだ」
やはり断ってきたか。前の時間軸ではヴァルトベルクの村が滅亡したから、強制的に旅立つしかなかった。
だがその答えは想定内だ。お前と何年一緒にいたと思ってるんだ? 俺にかかれば、ザインを旅に出させることなんてわけない。
「魔物を倒せば今回みたいに宝石が手に入るかもしれないぞ? 昔金持ちになりたいって言ってなかったか」
「そんな夢もあったな」
ザインは淡々と答える。もうその夢はなくなったみたいだ。
「あまり言いたくないが、ヴァルトベルクは田舎だ。外の世界ではまだ見ぬ美女が待ってるんじゃないか?」
「そ、それは⋯⋯」
先程の金持ちになるという夢とは違い、明らかに動揺していた。
「魔物に襲われて困っている美女を助ければ⋯⋯この先は言わなくてもわかってるよな」
「し、しかたねえな。俺も一緒に行ってやるよ」
言葉では嫌々といった感じだが、美女を助けたことを思い浮かべているのか、顔はにやけていた。
単純な奴め。だが扱いやすくてこっちは助かる。
「ユート何やってんだ! 早く旅支度をするぞ!」
「わかったわかった。ルル」
俺はルルに肩に乗るよう促す。
するとルルは軽やかに飛び上がり、俺の肩に着地する。
「なんだ? お前猫を飼ったのか?」
「今気づいたのか」
おそらくザインは墓場で待っている女の子が気になっていて、ルルのことが目に入らなかったのだろう。
「まあまあ可愛い猫じゃん」
ザインはルルを撫でるため、頭に手を伸ばす。
「シャー!」
しかしルルに威嚇され、ひっかき攻撃を放たれる。
「おっとあぶねえ。この猫、とんだじゃじゃ馬だな」
ザインの反射神経が勝っていたのか、軽く爪攻撃をかわす。
(私、この人嫌いです。セレスティア様の神獣である私に触れようなど一万年早いですよ)
どうやらルルはザインのことがお気に召さないようだ。
これから長い旅になるから出来れば仲良くして欲しいのだが。
「ニャー! ニャー!」
「おっと甘いな」
だが俺の思いとは裏腹に、ルルは再びザインに向かって攻撃し始めるのだった。
そしてネクロマンサーエンプレスを倒した翌日
俺は旅支度を済ませて、ルルとザインと共に自宅の前にいた。
「気をつけていってらっしゃい。辛くなったらいつでも帰ってきていいのよ」
旅に出る俺達を母さんが見送ってくれている。
母さんには昨晩ヴァルトベルクを旅立つことを伝えた。突然のことだったし、母さんは少し子離れ出来ていないから反対されるかと思っていた。
だけど俺の予想は外れ、「もうあなたも十七歳なんだから、自分のやりたいように生きなさい。ただし人に迷惑をかけちゃだめよ」と言われただけだった。
「王都にはここより娯楽があるからって、羽目をはずさないように」
「わかってるよ。もう子供じゃないんだから」
俺達はまず北西にある王都、バルクシュタインを目指すつもりだ。
「子供じゃないから心配なのよ」
母さんの心配する気持ちもわからなくもない。王都は薄着で接客してくれる大人の店が多いからな。
「そこは俺に任せてくれ! ユートをちゃんと監視するからよ」
「ザインくんがいるから心配なのよ」
母さんもよくわかっている。
一番誘惑に負けそうな奴が言っても何の説得力もない。
「おばさんそりゃひでえよ」
「私は事実を言っただけよ。ユートを悪い道に引き込んだら一生許さないから」
「わ、わかりました」
母さんがネクロマンサーエンプレスに負けない殺気を放つ。するとザインは声を振るわせながら頷いていた。
「それじゃあ行ってきます」
俺は母さんと軽く抱擁をかわし、自宅を離れる。
これは世界を救う旅であり、友人や仲間、恋人を救う旅でもある。
俺は二度と悲劇を繰り返さないため、まずは王都であるバルクシュタインへと足を向けるのであった。
「ああ。見ての通りだ」
「骸骨女は白い光を食らったら苦しそうにしてたが、あれはなんだ?」
いきなり魔物が消滅したんだ。気になるよな。
これから長い旅をするザインには素直に話すしかないだろう。
「さっきのは傷を治す魔法なんだ」
「傷を治す魔法だと⋯⋯そんな魔法聞いたことねえぞ」
「信じられない話だけど本当のことだぞ」
「だがそれで魔物が消滅するなんておかしくないか?」
「そう言われても結果は見ての通りだからな」
理解してもらうためには、生命の力や死の力の説明から入らなきゃいけないから、適当に濁しておこう。
「つい先日突然使えるようになったんだ。誰にも言うなよ」
回復魔法のことを知られれば、俺の自由はなくなるだろう。然るべき時に公表するつもりではあるが、今はその時ではない。
「しかたねえな」
さすがのザインも、回復魔法が使える意味がわかっているのか、俺の言葉に同意してくれたようだ。
そして俺はネクロマンサーエンプレスが消滅した場所に視線を向ける。
するとそこには黒い光を放つものが見えた。
「何だそれ? 綺麗な石だな。まさか宝石か?」
「魔物が持っていたのかな。もらっておくか」
特殊な魔物は倒すと宝石になる。その強さは十ある硬度の内、数値が高い宝石程強力だという証明になるのだ。ちなみに今拾った宝石はブラックオパールで、硬度は六だ。
今回は回復魔法でダメージを与えるという裏技を使ったから倒せたが、今の俺達では硬度六の魔物もまともに倒すことは出来ない。
前の時間軸の経験からいって、硬度八以上の魔物はまさに化物といった強さだった。
これからもっと実力をつけなければ、待っているのは死だけだ。
「最近各地で見たことのない魔物が出現しているらしいな。今回の魔物もそうなのか?」
「さあ?」
「お前はどうしてここに魔物がいるってわかったんだ?」
「何となく嫌な予感がして。一人で勝てるかわからなかったからザインにも来てもらったんだ」
「本当ひでえ話だよ。俺は魔物と戦う気なんてねえからな」
「それは困る」
女好きでどうしょもない奴だが、その強さは本物だし、信頼出来る友人で、世界を救うためには必要な人材だ。
「はあ? まさかお前、魔物を倒すために旅に出るつもりか?」
「そのまさかだが」
「そんなの一人で行ってくれ。俺はここで面白おかしく暮らすんだ」
やはり断ってきたか。前の時間軸ではヴァルトベルクの村が滅亡したから、強制的に旅立つしかなかった。
だがその答えは想定内だ。お前と何年一緒にいたと思ってるんだ? 俺にかかれば、ザインを旅に出させることなんてわけない。
「魔物を倒せば今回みたいに宝石が手に入るかもしれないぞ? 昔金持ちになりたいって言ってなかったか」
「そんな夢もあったな」
ザインは淡々と答える。もうその夢はなくなったみたいだ。
「あまり言いたくないが、ヴァルトベルクは田舎だ。外の世界ではまだ見ぬ美女が待ってるんじゃないか?」
「そ、それは⋯⋯」
先程の金持ちになるという夢とは違い、明らかに動揺していた。
「魔物に襲われて困っている美女を助ければ⋯⋯この先は言わなくてもわかってるよな」
「し、しかたねえな。俺も一緒に行ってやるよ」
言葉では嫌々といった感じだが、美女を助けたことを思い浮かべているのか、顔はにやけていた。
単純な奴め。だが扱いやすくてこっちは助かる。
「ユート何やってんだ! 早く旅支度をするぞ!」
「わかったわかった。ルル」
俺はルルに肩に乗るよう促す。
するとルルは軽やかに飛び上がり、俺の肩に着地する。
「なんだ? お前猫を飼ったのか?」
「今気づいたのか」
おそらくザインは墓場で待っている女の子が気になっていて、ルルのことが目に入らなかったのだろう。
「まあまあ可愛い猫じゃん」
ザインはルルを撫でるため、頭に手を伸ばす。
「シャー!」
しかしルルに威嚇され、ひっかき攻撃を放たれる。
「おっとあぶねえ。この猫、とんだじゃじゃ馬だな」
ザインの反射神経が勝っていたのか、軽く爪攻撃をかわす。
(私、この人嫌いです。セレスティア様の神獣である私に触れようなど一万年早いですよ)
どうやらルルはザインのことがお気に召さないようだ。
これから長い旅になるから出来れば仲良くして欲しいのだが。
「ニャー! ニャー!」
「おっと甘いな」
だが俺の思いとは裏腹に、ルルは再びザインに向かって攻撃し始めるのだった。
そしてネクロマンサーエンプレスを倒した翌日
俺は旅支度を済ませて、ルルとザインと共に自宅の前にいた。
「気をつけていってらっしゃい。辛くなったらいつでも帰ってきていいのよ」
旅に出る俺達を母さんが見送ってくれている。
母さんには昨晩ヴァルトベルクを旅立つことを伝えた。突然のことだったし、母さんは少し子離れ出来ていないから反対されるかと思っていた。
だけど俺の予想は外れ、「もうあなたも十七歳なんだから、自分のやりたいように生きなさい。ただし人に迷惑をかけちゃだめよ」と言われただけだった。
「王都にはここより娯楽があるからって、羽目をはずさないように」
「わかってるよ。もう子供じゃないんだから」
俺達はまず北西にある王都、バルクシュタインを目指すつもりだ。
「子供じゃないから心配なのよ」
母さんの心配する気持ちもわからなくもない。王都は薄着で接客してくれる大人の店が多いからな。
「そこは俺に任せてくれ! ユートをちゃんと監視するからよ」
「ザインくんがいるから心配なのよ」
母さんもよくわかっている。
一番誘惑に負けそうな奴が言っても何の説得力もない。
「おばさんそりゃひでえよ」
「私は事実を言っただけよ。ユートを悪い道に引き込んだら一生許さないから」
「わ、わかりました」
母さんがネクロマンサーエンプレスに負けない殺気を放つ。するとザインは声を振るわせながら頷いていた。
「それじゃあ行ってきます」
俺は母さんと軽く抱擁をかわし、自宅を離れる。
これは世界を救う旅であり、友人や仲間、恋人を救う旅でもある。
俺は二度と悲劇を繰り返さないため、まずは王都であるバルクシュタインへと足を向けるのであった。
10
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転生してモンスター診療所を始めました。
十本スイ
ファンタジー
日本で普通の高校生として日常を送っていた三月倫斗だったが、ある日、車に引かれそうになっていた子犬を助けたことで命を落としてしまう。
気づけばそこは地球ではない異世界――【エテルナ】。
モンスターや魔術などが普通に存在するファンタジーな世界だった。
倫斗は転生してリント・ミツキとして第二の人生を歩むことに。しかし転生してすぐに親に捨てられてしまい、早くもバッドエンディングを迎えてしまいそうになる。
そこへ現れたのは銀の羽毛に覆われた巨大な鳥。
名を――キンカ。彼女にリントは育てられることになるのだ。
そうして時が経ち、リントは人よりもモンスターを愛するようになり、彼らのために何かできないかと考え、世界でも数少ないモンスター専門の医者である〝モンスター医〟になる。
人とのしがらみを嫌い、街ではなく小高い丘に診療所を用意し腕を揮っていた。傍には助手のニュウという獣人を置き、二人で閑古鳥が鳴く診療所を切り盛りする。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる