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未来への第一歩
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俺は肩に乗ったルルを連れて走る。
だが向かっている方向にルルは違和感を覚えたようだ。
「おかしいですね。貴方が向かってるのは西側ですよ。北側にある墓地に向かうのではないのですか?」
「間違ってないよ」
「まさか方向音痴というやつですか?」
「違います。ちょっと連れて行きたい男がいてね」
この旅には必ず必要な奴だ。前の時間軸では最後まで共にした男でもある。
ただ実力は申し分ないけど性格にちょっと難があるんだよな。
「ザインのことですね」
「そうだ」
「ユートの頭の中を読ませて頂くと、かなり女性にだらしないとされていますが」
「その通りだ。おそらく墓地に魔物がいるから来てくれと言っても、素直に従わないだろう」
「それならどうされるつもりですか?」
「まあここは俺に任せてくれ」
俺はザインの幼なじみであり、五年間共に旅をしてきたんだ。奴のことは熟知している。
「不安ですがここは貴方に任せてあげましょう」
そして少し偉そうなルルと共に、ザインの家へと急ぐのであった。
「はあ⋯⋯はあ⋯⋯」
つい前の時間軸と同じ様に走ったせいか、疲労で息が切れる。ここまで力が落ちているとは。五年後の俺ならもっと速く走れたし、この程度で息が上がることなどなかった。
異世界に転生して十七年間鍛練はしてきたけど、濃密だったこれからの五年間でやはり俺は相当強くなっていたようだ。
「この程度で疲れているなんてだらしないですね」
「か、肩の上に⋯⋯乗っていただけの奴に⋯⋯言われたくないぞ⋯⋯」
息が切れ切れで反論するのも億劫だ。
この猫⋯⋯いつか痛い目に遭わせてやると心に誓う。
「ですから貴方の浅はかな考えは読めてますよ」
「⋯⋯」
頭の中に何も思い浮かべるなというのは無理だろ。俺のプライバシーは守られることはないということか。
「余計なことを思い浮かべている間に、目的の場所に着きましたよ」
ルルの言う通り、俺達は木造で出来た建物に到着した。
この家に何度も遊びに行ったな。子供の頃の懐かしい思い出が蘇ってくる。だけどその思い出も今日破壊されてしまうのだ。
「ザイン! ザイン! 大変だ!」
俺は家のドアを強く叩き、ザインを呼ぶ。
すると程なくして家の中から気配がして、ドアが開かれた。
「なんだようるせえな。今何時だと思ってるんだ」
昼寝でもしていたのか、眠い目を擦りながら寝巻きでボサボサ頭のザインが現れた。
女好きでいつも憎まれ口を叩いているが、最後に俺を守って死んだ友人だ。
やばい⋯⋯涙が出て来そうだ。もう二度と会うことは出来ないと思っていた。だがセレスティア様のお力で今、目の前にザインがいる。
抱きしめたい衝動に駆られるが、グッと堪えて我慢する。
ザインからすれば何のことかわからないし、男に抱きしめられるなんて気持ち悪いって言われるのがわかっているからだ。
それに今は急いでやらなければならないことがある。
「髪の長い女性から、お前のことを呼んできてくれって頼まれているんだ」
「なんだと! ちょっと待ってろ!」
ザインは興奮した様子で答えると、家の中へと戻っていった。
「どういうことでしょうか? 魔物を退治しに行くのではないのですか?」
「まあ見ててくれ」
今は時間が惜しいから、こう言えばザインは急ぐはず。それに正直に話したら、魔物退治なんてめんどくさいって言って、着いてこない可能性があるしな。
「待たせたな!」
ザインはボサボサだった髪がオールバックに決められており、服装もカジュアルな物に変わっていた。
ちなみにザインが家の中に戻ってから十秒も経っていない。やはり女の子が関わると信じられないパワーを発揮するな。どうやって準備したの気になる所だ。
そしてルルは呆れた目で俺とザインを見ている。ザインはともかく、俺までそんな目で見ないで欲しい。もしかして同類だと思われているのか。
「すぐに女の子の所に案内してくれ!」
「わ、わかった。こっちだ」
ルルに反論したい所だけど、今は時間がないので後にする。
そして俺はルルとザインを連れて村の北にある墓場へと向かう。
この村、ヴァルトベルクには不釣り合いな大きさの墓場がある。
かつてこの地では大きな戦争があり、多くの者が命を失ったらしい。その影響で遠く離れた故郷に遺体を持っていくことが出来ず、この地で埋葬したため、ヴァルトベルクには広い墓場があるという訳だ。
確か以前の時間軸では、夕陽が沈んだ頃、村に魔物が溢れ出て来た。そして夕陽は今まさに沈もうとしている。足は疲れているが走れないことない。
俺は墓場に向かって駆け走る。後ろではザインが涼しい顔で着いてきていた。
やはり女の子が絡むと普段以上のパワーを発揮するな。いつもなら呆れてしまう所だが、今は御しやすいので助かる。
そしてようやく墓場が見えてきたが、周囲には誰かがいる気配はない。
まあ夕方に墓場に来ようなどという人は、ほとんどいないからな。
だが墓場の中止部に到着すると長い髪をなびかせ、黒いローブを着た女性がいた。
「あれが俺を呼んでいる女の子か! 俺の観察眼で見たところ、後ろ姿で可愛いことがわかるぜ!」
「油断するなよ」
「わかってる。がっつくなってことだろ。徐々に俺の魅力で落としてみせるぜ」
そういう意味で言った訳ではないけどまあザインなら大丈夫か。
「君が僕を呼んだ女の子かい? まずはその美しい顔を見せてくれないか」
ザインはがっつかないと言っていたが、黒いローブの女性に向かって抱きつこうとしていた。
「まずは俺とデートを⋯⋯ぎゃあああっ!」
しかし黒いローブの女性がこちらを振り向いた瞬間、ザインは悲鳴をあげながら急ブレーキをかける。
だがその勢いは止まらない。
そして黒いローブの女性は、どこから出したのか長い鎌を取り出し、ザインに向かって攻撃を仕掛けるのであった。
だが向かっている方向にルルは違和感を覚えたようだ。
「おかしいですね。貴方が向かってるのは西側ですよ。北側にある墓地に向かうのではないのですか?」
「間違ってないよ」
「まさか方向音痴というやつですか?」
「違います。ちょっと連れて行きたい男がいてね」
この旅には必ず必要な奴だ。前の時間軸では最後まで共にした男でもある。
ただ実力は申し分ないけど性格にちょっと難があるんだよな。
「ザインのことですね」
「そうだ」
「ユートの頭の中を読ませて頂くと、かなり女性にだらしないとされていますが」
「その通りだ。おそらく墓地に魔物がいるから来てくれと言っても、素直に従わないだろう」
「それならどうされるつもりですか?」
「まあここは俺に任せてくれ」
俺はザインの幼なじみであり、五年間共に旅をしてきたんだ。奴のことは熟知している。
「不安ですがここは貴方に任せてあげましょう」
そして少し偉そうなルルと共に、ザインの家へと急ぐのであった。
「はあ⋯⋯はあ⋯⋯」
つい前の時間軸と同じ様に走ったせいか、疲労で息が切れる。ここまで力が落ちているとは。五年後の俺ならもっと速く走れたし、この程度で息が上がることなどなかった。
異世界に転生して十七年間鍛練はしてきたけど、濃密だったこれからの五年間でやはり俺は相当強くなっていたようだ。
「この程度で疲れているなんてだらしないですね」
「か、肩の上に⋯⋯乗っていただけの奴に⋯⋯言われたくないぞ⋯⋯」
息が切れ切れで反論するのも億劫だ。
この猫⋯⋯いつか痛い目に遭わせてやると心に誓う。
「ですから貴方の浅はかな考えは読めてますよ」
「⋯⋯」
頭の中に何も思い浮かべるなというのは無理だろ。俺のプライバシーは守られることはないということか。
「余計なことを思い浮かべている間に、目的の場所に着きましたよ」
ルルの言う通り、俺達は木造で出来た建物に到着した。
この家に何度も遊びに行ったな。子供の頃の懐かしい思い出が蘇ってくる。だけどその思い出も今日破壊されてしまうのだ。
「ザイン! ザイン! 大変だ!」
俺は家のドアを強く叩き、ザインを呼ぶ。
すると程なくして家の中から気配がして、ドアが開かれた。
「なんだようるせえな。今何時だと思ってるんだ」
昼寝でもしていたのか、眠い目を擦りながら寝巻きでボサボサ頭のザインが現れた。
女好きでいつも憎まれ口を叩いているが、最後に俺を守って死んだ友人だ。
やばい⋯⋯涙が出て来そうだ。もう二度と会うことは出来ないと思っていた。だがセレスティア様のお力で今、目の前にザインがいる。
抱きしめたい衝動に駆られるが、グッと堪えて我慢する。
ザインからすれば何のことかわからないし、男に抱きしめられるなんて気持ち悪いって言われるのがわかっているからだ。
それに今は急いでやらなければならないことがある。
「髪の長い女性から、お前のことを呼んできてくれって頼まれているんだ」
「なんだと! ちょっと待ってろ!」
ザインは興奮した様子で答えると、家の中へと戻っていった。
「どういうことでしょうか? 魔物を退治しに行くのではないのですか?」
「まあ見ててくれ」
今は時間が惜しいから、こう言えばザインは急ぐはず。それに正直に話したら、魔物退治なんてめんどくさいって言って、着いてこない可能性があるしな。
「待たせたな!」
ザインはボサボサだった髪がオールバックに決められており、服装もカジュアルな物に変わっていた。
ちなみにザインが家の中に戻ってから十秒も経っていない。やはり女の子が関わると信じられないパワーを発揮するな。どうやって準備したの気になる所だ。
そしてルルは呆れた目で俺とザインを見ている。ザインはともかく、俺までそんな目で見ないで欲しい。もしかして同類だと思われているのか。
「すぐに女の子の所に案内してくれ!」
「わ、わかった。こっちだ」
ルルに反論したい所だけど、今は時間がないので後にする。
そして俺はルルとザインを連れて村の北にある墓場へと向かう。
この村、ヴァルトベルクには不釣り合いな大きさの墓場がある。
かつてこの地では大きな戦争があり、多くの者が命を失ったらしい。その影響で遠く離れた故郷に遺体を持っていくことが出来ず、この地で埋葬したため、ヴァルトベルクには広い墓場があるという訳だ。
確か以前の時間軸では、夕陽が沈んだ頃、村に魔物が溢れ出て来た。そして夕陽は今まさに沈もうとしている。足は疲れているが走れないことない。
俺は墓場に向かって駆け走る。後ろではザインが涼しい顔で着いてきていた。
やはり女の子が絡むと普段以上のパワーを発揮するな。いつもなら呆れてしまう所だが、今は御しやすいので助かる。
そしてようやく墓場が見えてきたが、周囲には誰かがいる気配はない。
まあ夕方に墓場に来ようなどという人は、ほとんどいないからな。
だが墓場の中止部に到着すると長い髪をなびかせ、黒いローブを着た女性がいた。
「あれが俺を呼んでいる女の子か! 俺の観察眼で見たところ、後ろ姿で可愛いことがわかるぜ!」
「油断するなよ」
「わかってる。がっつくなってことだろ。徐々に俺の魅力で落としてみせるぜ」
そういう意味で言った訳ではないけどまあザインなら大丈夫か。
「君が僕を呼んだ女の子かい? まずはその美しい顔を見せてくれないか」
ザインはがっつかないと言っていたが、黒いローブの女性に向かって抱きつこうとしていた。
「まずは俺とデートを⋯⋯ぎゃあああっ!」
しかし黒いローブの女性がこちらを振り向いた瞬間、ザインは悲鳴をあげながら急ブレーキをかける。
だがその勢いは止まらない。
そして黒いローブの女性は、どこから出したのか長い鎌を取り出し、ザインに向かって攻撃を仕掛けるのであった。
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