異世界転生者のリトライ~これから起こることは全てわかっている。世界でただ一人の回復術師はとても有能でした~

マーラッシュ

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プロローグ

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 俺は今、満身創痍になりながらも、暗く長い廊下を走っていた。

「まさか最後までユートと一緒とはな」

 俺の隣には、幼なじみであるザインがおどけた様子で語りかけてくる。

「この戦いに勝てば富も名誉も何もかも思いのままだ。女の子にもモテモテだぞ」
「そうだな。なら絶対に勝たないと」

 俺とザインはあり得ないことを口にする。何故なら人類は既に絶滅寸前まで追い込まれており、例えこの先にいる魔王を倒しても、滅亡することは逃れられないからだ。

「だが英雄は二人もいらない。ユートがピンチになっても俺は絶対に助けねえからそのつもりでいろよ」
「安心しろ。ザインの助けなんか必要ない。魔王なんか俺一人で十分だ」

 もし俺が女性だったら、反対の言葉が台詞が返ってきただろう。長い旅を共にしてきたが、ザインの女好きは結局治らなかったな。

「玉座の間が見えてきたぞ。無駄口もここまでだ」
「これで俺達の旅も終わりだ。さっさと魔王を倒して凱旋と行こうぜ」
「ああ」

 そして俺達は玉座の間に到着し、魔王との激闘が始まる。


「はあはあ⋯⋯やっぱ魔王って名乗るだけはあるわ。マジでつええよ」

 戦いが始まってから一時間程経った。俺とザインは魔王の猛攻に押され、床に膝を着いてしまう。
 このまま戦えば敗北は必須だ。
 こっちは伝説級のアイテムをいくつも使ってるのに⋯⋯魔王の壁はこれ程高いのか。

「だけどこれが最後の戦いだ。勝利したら凱旋が待っているんだろ?」
「その通り。こんな辺境の地で死んでたまるか。俺が死ぬ時は女の子の腕の中って決まってるんだ!」
「それなら床に手を着いている暇はないな」
「そのとおりだ!」

 俺達は立ち上がり、再度魔王へと攻撃を開始する。
 そしてさらに三十分程経った頃。

「くっ!」

 俺は魔王の攻撃を受け、壁まで吹き飛ばされる。
 魔王はその様子を見て好機と捉えたのか、こちらに向かってきた。

 やばい⋯⋯身体が動かない。
 魔王の攻撃で血を流し過ぎた。どのみち魔王を倒したとしても助からないだろう。それならせめて⋯⋯

 ザイン⋯⋯後は頼んだぞ。
 お前が英雄になるんだ。

 魔王の剣が、俺の心臓を狙って迫ってきた。
 いいさ。俺の心臓はくれてやる。だけど代償としてお前の動きを封じさせてもらうぞ。
 剣が突き刺さった瞬間、魔王の手首を掴む。その隙にザインが魔王を倒してくれれば、俺達の勝利だ。
 俺は死を覚悟して魔王の剣が心臓を貫くのを待つ。

 だがその未来がくることはなかった。何故なら魔王の剣が俺に到達することがなかったからだ。

「ぐあっ!」

 魔王の攻撃が迫る瞬間、突如横から影が現れて、身体で剣を受け止める。

「ザイン!」

 ザインが俺をかばい、魔王の剣が腹部に突き刺さっていた。

「な、何で俺を⋯⋯」

 日頃から男のために身体を張ることはないと言っていたのに。現にこの長い旅でザインが男のために自分から動くことはなかった。

「勝手に⋯⋯身体が動いちまった。英雄の座はお前に譲ってやるから⋯⋯早く⋯⋯ごふっ!」

 ザインの口から大量の血が吐き出される。そして腹部からの出血も凄い。
 これは誰が見てももう助からない。
 くっ! ザインが作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。
 身体が動かないなんて、そんな言い訳を口にする暇があったら魔王を倒せ!

 俺は剣を力強く握り、立ち上がる。
 魔王はその場から離れようとするが、ザインは剣が腹部に刺さったまま腕を掴み、その行動を許さない。

「や⋯⋯れ⋯⋯」

 ザインのか細い声を聞きながら、俺は手に持った剣を横一閃になぎ払う。
 すると見事魔王の首を斬り落とすことに成功し、俺達の勝利となった。

「ザ、ザイン⋯⋯勝った⋯⋯ぞ」

 俺は床を這いずりながらザインの元へと向かう。

「ザ⋯⋯イン?」

 だがザインの目は閉じられていて、身体からは鼓動が感じられなかった。

「俺達⋯⋯英雄になったん⋯⋯だぞ。目を⋯⋯開けてくれ⋯⋯」

 しかしザインは俺の問いかけに答えてくれない。
 わかってる。ザインは俺を庇って死んでしまったんだ。
 目の前の現実を信じたくなかったけど、これまで何度も⋯⋯そう何度も同じ光景を俺は見てきた。
 病気で死ぬ者、毒で死ぬ者、戦いで死ぬ者⋯⋯
 俺達をここに導くため友人が、仲間が、愛する人が何人も死んでいった。
 その度に俺の胸は張り裂けそうになる。
 だけどそんな思いをするのはこれで最後だ。

 魔王を倒した代償か、俺も目が開けられなくなってきた。
 せっかく魔王を倒したのに結末がこれか⋯⋯
 でもこれで死んでいった人達に会えるなら、それも悪くない。
 閉じていく瞼に逆らわずにいると、そのまま意識は暗闇へと落ちていくのだった。
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