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森に注意
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紬ちゃんが指差す方に視線を向けると20メートルくらい先の茂みに黒い影が2つ見えた。
「お家の側にいたから追いかけてきちゃった」
なるほど紬ちゃんが1人でこんな所に来たのはそういう理由があったのか。
「さっきまでは近くにいてさわれたんだよ~。大きな声を出したから今は逃げちゃったけど」
触れたっていうから動物なのか?
でもこんな森の中にいるってことは野生の動物の確率が高いな。
「紬ちゃんが追いかけてきた動物って何かな?」
「ワンワンだよ。ワンワン」
「犬?」
野生の犬だったからけっこう危ないな。もし噛まれていたら狂犬病になってしまう可能性がある。
「噛まれてない?」
「人懐っこかったから大丈夫だよ」
「そっか」
ともかく紬ちゃんが無事に見つかって良かった。神奈さん達も心配しているから早く戻った方がいいな。
「あっ! ワンワンがこっちに来たよ」
紬ちゃんが走り出したので、俺は動物の方へと目を向けると茂みから何かが飛び出してきた。
「えっ!」
それは黒い毛を持ち、大きさは中型犬、いや大型犬くらいか。だがこの時の俺は混乱していて状況が上手く飲み込めていなかった。
俺も実物を見たのは初めてだけどあれは間違いない。
くくく、熊ですとぉぉぉ!
見た目は50センチ程しかないが間違いない⋯⋯あれは子熊だ!
俺は恐怖で叫びたい気持ちでいっぱいだったが、子熊を刺激したくないので何とか堪える。
「ほらほら! お兄さんワンワン! ワンワンだよ!」
しかし俺の心知らず、紬ちゃんは子熊が近づいてくると大はしゃぎしてしまう。
「つ、紬ちゃん⋯⋯それは⋯⋯ワ、ワンワンじゃないよ。ゆ、ゆっくりこっちに来るんだ」
すでに紬ちゃんは森の熊さんまで5メートル程の距離の所にいて、俺からは15メートル離れている。
とにかく子熊に警戒心を持たれないように紬ちゃんを一刻も早くこちらに引き寄せたい。
「え~、ワンワンだよ。違うならあの動物は何なの?」
「あ、あれは熊さんだよ」
俺は紬ちゃんに緊張感を持って欲しかったので真実を伝えることにした。
「えっ! 熊さん? 森の熊さんだあ! 私初めて見たあ!」
子熊を刺激しないようにしていたら紬ちゃんを刺激してしまった。
「つ、紬ちゃん、熊さんが驚いちゃうから静かにしようか」
俺は何とか紬ちゃんを落ち着かせようと試みる。
正直な話、子熊二頭だけならもし襲いかかって来ても逃げれば紬ちゃんを護ることはできるだろう。
だがおそらくこの周囲には子熊二頭ともう一頭雌の親熊がいるはずだ。もしその親熊に遭遇してしまったら⋯⋯命を失う可能性が大だ。
「ほら、お姉ちゃんも心配しているから」
「え~熊さん可愛いからもう少し見ていたいなあ」
子供の恐いもの知らずの所はすごいと思うが、それも時と場合による。
今ここにとどまる時間が長くなればなるほど死へのカウントダウンが迫ってくるのは間違いないからだ。
とにかくここから早く離れよう。
俺は子熊を刺激する覚悟で、急ぎ紬ちゃんを回収するために足を前に向けるが⋯⋯。
ボキッ! ボキッ!
突然背後から木々が折れるような音が聞こえてきた。
ま、まさか⋯⋯。
後ろを振り向かなくても身体中の汗が滝のように流れているのがわかる。
そして木々が折れるような音が段々と大きくなり、俺は意を決して後ろを振り向くとそこには四足歩行でこちらに迫ってくる熊が一匹いた。
「ヒィィィッ!」
俺はすぐ側に熊がいるという事実に、恐怖で思わず悲鳴を上げてしまう。
熊を刺激しないためにも声を出すつもりはなかったが、四足歩行の時点で1メートル程の大きさがあり、子熊と違ってつぶらな瞳ではなく、獲物狙う鋭い眼力を見たらとても正常ではいられなかった。
「グオー!」
熊は俺から15メートル程の距離で止まり、低い威嚇をするような声を出しながら立ち上がる。
こここ、こえぇぇ! 怒ってらっしゃるよ!
少なくとも2メートルはあるその体躯から放たれる声は俺の脚をすくませるには十分だった。
この熊はどうやら俺達を敵として認定したようだ。確か熊は鼻が良いから紬ちゃんの匂いが子熊についているのがバレているのかもしれない。
熊が穏やかだったらそのままゆっくりと逃げることが出来たかもしれないけどもう無理だ。
「リウトお兄さん熊さんおっきいね! 私、一昨日熊さんの歌を歌ったんだよ! もしかして忘れ物を届けに来てくれたのかな?」
「そそそ、そうかもしれないね⋯⋯」
確かに森の熊さんの歌で、熊が後ろから追ってきて落とし物を渡してくれると歌詞にあるが、本当にあったら恐怖でしかない。
紬ちゃんは熊の威嚇を見てもまだよくわかっていないのか楽しそうにはしゃいでいる。だが幸いなことに親熊が立ち上がったことで紬ちゃんが興味を引かれ、俺の手が届く範囲に来てくれた。
とにかくやることは一つ。この場から速やかに逃げることだ。よく熊が人里に降りてきて、空手をやっているおじいさんが撃退したというニュースがあるが、俺には無理だ。
自慢じゃないが俺は避けることに関しては自信があるが、攻撃することに関しては素人より多少強い程度だ。下手に攻撃すると熊の怒りをさらに買う可能性があるのでそれは出来ない。
それに自分1人なら無茶をすることができるが、ここには紬ちゃんがいる。
最低でもこの子だけはこの場から逃がさなくては。
俺は側に来た紬ちゃんの手をとり逃げる。
「お兄さん?」
紬ちゃんは何で手を繋いできたのかわからないのかキョトンとした表情をしている。
だが今はそれでいい。死ぬかもしれない恐怖を紬ちゃんには味合わせたくはない。
熊は子熊の近くを彷徨いている俺達の元へ、ジリジリと距離を詰めてくる。
おそらく俺達を殺して子熊のエサにでもするつもりだろう。
だがそう簡単にやられるわけにはいかない。俺には秘策がある。
俺は熊から逃れるため、ズボンのポケットから人類の科学の結晶を取り出すのであった。
「お家の側にいたから追いかけてきちゃった」
なるほど紬ちゃんが1人でこんな所に来たのはそういう理由があったのか。
「さっきまでは近くにいてさわれたんだよ~。大きな声を出したから今は逃げちゃったけど」
触れたっていうから動物なのか?
でもこんな森の中にいるってことは野生の動物の確率が高いな。
「紬ちゃんが追いかけてきた動物って何かな?」
「ワンワンだよ。ワンワン」
「犬?」
野生の犬だったからけっこう危ないな。もし噛まれていたら狂犬病になってしまう可能性がある。
「噛まれてない?」
「人懐っこかったから大丈夫だよ」
「そっか」
ともかく紬ちゃんが無事に見つかって良かった。神奈さん達も心配しているから早く戻った方がいいな。
「あっ! ワンワンがこっちに来たよ」
紬ちゃんが走り出したので、俺は動物の方へと目を向けると茂みから何かが飛び出してきた。
「えっ!」
それは黒い毛を持ち、大きさは中型犬、いや大型犬くらいか。だがこの時の俺は混乱していて状況が上手く飲み込めていなかった。
俺も実物を見たのは初めてだけどあれは間違いない。
くくく、熊ですとぉぉぉ!
見た目は50センチ程しかないが間違いない⋯⋯あれは子熊だ!
俺は恐怖で叫びたい気持ちでいっぱいだったが、子熊を刺激したくないので何とか堪える。
「ほらほら! お兄さんワンワン! ワンワンだよ!」
しかし俺の心知らず、紬ちゃんは子熊が近づいてくると大はしゃぎしてしまう。
「つ、紬ちゃん⋯⋯それは⋯⋯ワ、ワンワンじゃないよ。ゆ、ゆっくりこっちに来るんだ」
すでに紬ちゃんは森の熊さんまで5メートル程の距離の所にいて、俺からは15メートル離れている。
とにかく子熊に警戒心を持たれないように紬ちゃんを一刻も早くこちらに引き寄せたい。
「え~、ワンワンだよ。違うならあの動物は何なの?」
「あ、あれは熊さんだよ」
俺は紬ちゃんに緊張感を持って欲しかったので真実を伝えることにした。
「えっ! 熊さん? 森の熊さんだあ! 私初めて見たあ!」
子熊を刺激しないようにしていたら紬ちゃんを刺激してしまった。
「つ、紬ちゃん、熊さんが驚いちゃうから静かにしようか」
俺は何とか紬ちゃんを落ち着かせようと試みる。
正直な話、子熊二頭だけならもし襲いかかって来ても逃げれば紬ちゃんを護ることはできるだろう。
だがおそらくこの周囲には子熊二頭ともう一頭雌の親熊がいるはずだ。もしその親熊に遭遇してしまったら⋯⋯命を失う可能性が大だ。
「ほら、お姉ちゃんも心配しているから」
「え~熊さん可愛いからもう少し見ていたいなあ」
子供の恐いもの知らずの所はすごいと思うが、それも時と場合による。
今ここにとどまる時間が長くなればなるほど死へのカウントダウンが迫ってくるのは間違いないからだ。
とにかくここから早く離れよう。
俺は子熊を刺激する覚悟で、急ぎ紬ちゃんを回収するために足を前に向けるが⋯⋯。
ボキッ! ボキッ!
突然背後から木々が折れるような音が聞こえてきた。
ま、まさか⋯⋯。
後ろを振り向かなくても身体中の汗が滝のように流れているのがわかる。
そして木々が折れるような音が段々と大きくなり、俺は意を決して後ろを振り向くとそこには四足歩行でこちらに迫ってくる熊が一匹いた。
「ヒィィィッ!」
俺はすぐ側に熊がいるという事実に、恐怖で思わず悲鳴を上げてしまう。
熊を刺激しないためにも声を出すつもりはなかったが、四足歩行の時点で1メートル程の大きさがあり、子熊と違ってつぶらな瞳ではなく、獲物狙う鋭い眼力を見たらとても正常ではいられなかった。
「グオー!」
熊は俺から15メートル程の距離で止まり、低い威嚇をするような声を出しながら立ち上がる。
こここ、こえぇぇ! 怒ってらっしゃるよ!
少なくとも2メートルはあるその体躯から放たれる声は俺の脚をすくませるには十分だった。
この熊はどうやら俺達を敵として認定したようだ。確か熊は鼻が良いから紬ちゃんの匂いが子熊についているのがバレているのかもしれない。
熊が穏やかだったらそのままゆっくりと逃げることが出来たかもしれないけどもう無理だ。
「リウトお兄さん熊さんおっきいね! 私、一昨日熊さんの歌を歌ったんだよ! もしかして忘れ物を届けに来てくれたのかな?」
「そそそ、そうかもしれないね⋯⋯」
確かに森の熊さんの歌で、熊が後ろから追ってきて落とし物を渡してくれると歌詞にあるが、本当にあったら恐怖でしかない。
紬ちゃんは熊の威嚇を見てもまだよくわかっていないのか楽しそうにはしゃいでいる。だが幸いなことに親熊が立ち上がったことで紬ちゃんが興味を引かれ、俺の手が届く範囲に来てくれた。
とにかくやることは一つ。この場から速やかに逃げることだ。よく熊が人里に降りてきて、空手をやっているおじいさんが撃退したというニュースがあるが、俺には無理だ。
自慢じゃないが俺は避けることに関しては自信があるが、攻撃することに関しては素人より多少強い程度だ。下手に攻撃すると熊の怒りをさらに買う可能性があるのでそれは出来ない。
それに自分1人なら無茶をすることができるが、ここには紬ちゃんがいる。
最低でもこの子だけはこの場から逃がさなくては。
俺は側に来た紬ちゃんの手をとり逃げる。
「お兄さん?」
紬ちゃんは何で手を繋いできたのかわからないのかキョトンとした表情をしている。
だが今はそれでいい。死ぬかもしれない恐怖を紬ちゃんには味合わせたくはない。
熊は子熊の近くを彷徨いている俺達の元へ、ジリジリと距離を詰めてくる。
おそらく俺達を殺して子熊のエサにでもするつもりだろう。
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