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暗殺の真相

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   干し肉を周囲の大人達にも配っていると俺の所に人が殺到したが、そこはスラムでも知名度があるデニーロが上手く暴動が起きないよう取り直してくれたため、大きな騒ぎになることはなかった。

「ユクトの兄貴⋯⋯やるなら事前に言ってくれ」
「悪いな。スラムに顔が利くデニーロがいれば何とかなると思っていたから」
「信じて貰えて嬉しいが⋯⋯」

 そこで言葉を切りデニーロは照れくさそうに頭をかく。どうやらデニーロは褒められることにあまり慣れていないのかもしれない。

「スリをしなくちゃ生きられないような子供達がここにはまだたくさんいるんだろ?」
「そうですね。本当はスラムなんてない方が良いに決まっているけどここにいる奴等らはスラムがないと生きられない者が大半だ」

 デニーロの言うことは正しいと思う。例えばもしさっきの子供達が外の世界でスリをしたら憲兵に取り押さえられ牢獄に行くのは間違いないだろう。そして大人達ももしスラムがなければ全うな仕事に就くしかないが教養も職の技術もないから雇って貰うこともできず結局は犯罪に手を染めるしかない。
 だから先程デニーロが口にしかけたように、今一時的に食糧を与えた所で改善することにはならず、もっと大きな力を持って成さなければスラムを失くすことはできないだろう。


「兄貴こちらです」

 デニーロが案内してくれた先は廃墟にある地下だった。
 一概には言えないがスラムでもっとも危険な場所に思える。地下だと視界が悪く攻撃をかわすこと逃げることも容易ではなく、それにもし火魔法でも使われた時は空気を失い窒息する可能性もある。
 初めて行く場所で周囲の治安状況も考えとなるべくなら足を運びたくないがそうも言ってられない。
 俺はデニーロに続いて地下への階段を降りる。
 すると予想通り部屋の視界は悪く狭いため、俺は何があっても対処できるよう周りに注意を促す。
 ここは何だ? テーブルがいくつもあるため飲食店関係に見えるがスラムにそのようなものがあるのだろうか。

「おっ? 予想通りここにいやがった」

 デニーロの視線の先にはくたびれた服を着た一人の男がテーブルの椅子に座り、コップに入っている飲み物を口にしていた。

「久しぶりだなボイ」

 デニーロが声をかけると男はこちらに顔を向けるが、どうもその視線は定まっていないように見える。
 そして男の様子がおかしいのは近づいてみてすぐにわかった。コップに入っているのはどうやら酒のようだ。しかも距離があるのに嗅覚で酒だとわかるということは相当アルコール度数が高いものを飲んでいるな。

「おお~デニーロさん久しぶりじゃないですか」
「ボイも相変わらず酒に溺れているようだな」
「ええ、酒は人生でもっとも大事なものですからね。心を楽しい気分にしてくれます」

 心は楽しくなるかも知れないが飲み過ぎると身体を悪くする。俺はその言葉は胸に秘めデニーロとこのボイという男のやり取りに耳を傾ける。

「今日はお前に聞きたいことがあってな⋯⋯こっちにいるのは俺の兄貴分のユクトさんだ」

 俺はボイに頭を下げる。

「デニーロさんの兄貴分ですか⋯⋯こりゃあ失礼なことをしたらえらいことになりそうだ」

 どうやデニーロのお陰でボイは俺のことを友好的に見てくれそうが⋯⋯。

「時間がないので単刀直入に言う。半年前に商家の暗殺依頼を受けたと思うがそのクライアントを教えてほしい」
「いきなりですね⋯⋯ですがそれは教えられません。いくらデニーロさんの知り合いだからといって何故私がクライアントの情報を渡すという仁義に反することをしなければならないのですか? まあスラムに仁義などありませんが」

 全く持ってその通りだ。依頼主の情報を俺に話すメリットはボイにはない。

「それにクライアントのことを話して恨まれたらたまったもんじゃないですよ」
「その点は心配ない。依頼した奴は何らかの処分が下るようにする」

 言葉にはしないがもしそれが叶わないような場合は俺が直接手を下す。

「そうは言ってもその依頼を受けた奴が誰だとわかればユクトさんが私を捕まえないとも限らなし初対面の者を信用するほど私は愚かではない」
「それは俺を信じてもらうしかないな」
「ユクトの兄貴はAランクの俺より強いことは間違いない。それにSランクのゴードンさんとパーティーだった人だから信用できるぞ」

 デニーロも俺のことを後押ししてくれるがボイの口は重い。

「それなら暗殺の依頼料はいくらだったか教えてくれないか?」
「そのくらいなら教えましょう。金貨5枚です」
「なら俺はそのクライアントを教えてもらう代わりに依頼料として倍の金貨10枚支払おう」
「き、金貨10枚⋯⋯ですか」

 デニーロは俺の提案に驚きの表情を浮かべる。
 俺は初めて会うスラムの者に信用してもらおうなどと思わない。それこそ今の会話の流れで俺を信じると口にしたら何か裏があると疑うだろう。それなら誰でも信頼する価値があるもの⋯⋯金を支払って情報をもらう方が信用できるというものだ。

「私がそれだけの価値がある情報を持っていないかもしれませんよ」
「価値があるかないかは俺が決める。だから知っていることを話してほしい」
「私が嘘の情報を教えると思わないのですか?」
「その時は⋯⋯相応の報いを受けてもらうだけだ」

 俺は言葉が終わると同時にボイに向かって手加減なしに殺気を放つ。

「ひぃっ!」

 するとボイは殺気に押されたのか悲鳴を上げると椅子から転げ落ち、部屋の壁まで後退る。

「い、今のは⋯⋯」
「ボイさんには誠意ある対応をお願いしますよ」
「わ、わかりました。確かにデニーロさんの言うとおり、これ程の殺気を放てる人ならクライアントからの報復があったとしても私を守ってくれそうですね」

 どうやらボイさんは暗殺を依頼したクライアントについて話してくれるようだ。
 一見俺が脅したように見えるかもしれないが、ボイにも金という旨味があるから真実を語ってくれるだろう。それに出来れば今後スラムの情報が必要になってくることがあるかもしれないのでボイさんとは有効な関係を築いておきたい。

 俺は異空間から約束どうり金貨10枚を出し、ボイさんに渡す。

「ありがとうございます」

 そしてボイさんは金貨を受け取ると半年前にあった出来事を語り出すのであった。
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