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娘達は変わった?

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 俺は娘達の自宅へと向かっていると通り行く人達の視線が俺達の方へと向いていることに気づいた。

「すれ違う人達が皆こちらを注視してないか?」

 俺は気になって娘達聞いてみる。

「パパを見ているんじゃない? イケメンだから」
「こんな30前のおっさんを見るやつなんかいないだろう」

 ミリアの問いに俺は苦笑いをしながら答えるが思わぬ所から反論される。

「そんなことありません! パパはとても魅力溢れる人だと思います」
「トアはパパよりカッコいい人を見たことないよ」

 セレナとトアも俺のことを褒めてくる。

「娘達にそんな風に思ってもらえるなんてうれしいよ」

 世の中には父親を毛嫌いする子供もいるから好かれているだけ喜ばしいことだ。

「おそらく称号のせいでしょうか⋯⋯初めは戸惑いましたが今は慣れました」

 セレナの⋯⋯いや娘達の顔に暗い影がかかる。
 かなりレアな称号だからすぐに帝都中に知れわたってしまったのだろう。そう考えると娘達の帝都での暮らしは不便なものなのかもしれない。

「まあ確かに称号のせいで注目をあびているかもしれないが、3人が素敵な女の子だからってこともあるんじゃないか」
「わ、私なんてそんな⋯⋯」
「パパに素敵って言われてボク凄くうれしいよ」
「トア⋯⋯パパに褒められると照れてしまいます」

 褒めたからなのか3人は顔を真っ赤にしている。
 親バカなのかもしれないが娘達は本当に綺麗になったと思う。年を重ねてきたことにより以前と比べて大人っぽくなっているし皆が注視する気持ちもわかる。

「おい? あれって称号が有名な⋯⋯」
「一緒にいる男は誰だ!?」

 どうやら娘達と一緒にいることで俺にも周囲の視線が集まってきた。

「さすがに人にじろじろ見られるのは恥ずかしいです」
「ボクはあまり気にしないけど良い気分にはならないよね」
「トアはちょっと怖いかな。早くお家に行こう」

 ブルク村なら人が少ないし知り合いしかいないので大丈夫だと思うが、帝都にいる大勢の知らない人に見られるのはストレスでしかないのだろう。

「けど⋯⋯」
「ねえ⋯⋯」

 そして特に女性達の視線がこちらに集まっているのは気のせいか?

「可憐な3人に負けてませんね」
「あんなにカッコいい人帝都にいたかしら」
「あの三姉妹の方とお似合いですね? どなたかの恋人でしょうか」

 本当は父親ですと言ったら周囲の人はビックリするだろうか。
 それにしても恋人か⋯⋯一応まだまだ若いつもりだが、帝都で有名な娘達と一緒にいて恥をかかせないレベルなら安心した。
 しかししばらくブルク村にいたこともあるせいかこの視線の多さは慣れないな。娘達も早歩きをしているようだし俺もそれに合わせて⋯⋯と思ったが突如娘達は先程と違ってゆっくりと歩き始めた。

「戦場ではもっと多くの視線に晒されるかもしれません。これも訓練と思って頑張ります」

 セレナは突然何を言ってるのだろうか? 別に上がり症でもないしそんな訓練に意味が⋯⋯。

「なんかボク凄く良い気分になってきたよ」

 ミリアは先程とは真逆のことを口にし始めてきた。そういえば女心は移りやすいとリリーが昔言っていた。これがそうなのか?

「何だか今のトア達の姿を皆にみてほしくなっちゃった」

 トアもか!? これはどういうことなんだ? 帝都の空気が娘達を変えたとでも言うのか!?

 だが娘達がゆっくり歩くというなら俺も付き合うしかない。なぜならこれから行く娘達の家がどこにあるかわからないからだ。

 こうして娘達の歩くスピードに合わせ、すれ違う人達の視線をたっぷりと浴びながら俺は自宅へと向かうのであった。


「ここが3人が住んでいる家か⋯⋯」

 2階建てのレンガで出来た家で、まだ造られたばかりなのか建物は新しく見えた。

「ブルク村の家と比べると狭いですけど学校まで近いので便利です」

 確かにセレナの言うとおり自宅の半分くらいの広さだが、辺りは煩すぎず静かすぎず食糧が買える場所も近いので確かに利便性は良さそうだ。

「さあ入って⋯⋯今日はパパのためにご馳走を用意したから!」
「用意したのはトアちゃんでしょ!」

 トアの料理も2年ぶりか。トアは努力家で料理に対するセンスもあったからあの頃よりさらに腕が向上していそうだ。

「トア頑張って作ったからパパいっぱい食べてね」
「ありがとう。楽しみにしているよ」


 そして夜の闇が色濃くなった頃

 リビングでトアが作った夕食を食べた俺は満足し、食後の紅茶を頂いている。

 夕食はトアが以前ブルク村で作ったことがあるものばかりだった。
 だからこそ2年前と比べその料理の火のとおり加減、味付けが洗練されていることがわかり、トアの腕が上がっていることが理解できた。

「トアは料理が上手くなったな。もう俺が教えることはなさそうだ」
「そんなことないよ。まだまだパパにいっぱい教えてほしいよ」
「トアは向上心もあるし素敵なお嫁さんになれるな」
「お、お嫁さん!?」
「ああ⋯⋯トアの旦那さんになれる人は幸せだ」
「そ、そうかな?」
「そうだぞ。男の俺が言うのだから間違いない」
「えへへ⋯⋯嬉しいなあ」

 トアはとろけるような笑顔で嬉しそうにしている。お嫁さんは女の子の夢だったりすることがあるようだが、どうやらトアもその1人のようだ。

 そしてユクトがトアと話している中、その様子をセレナとミリアは冷ややかな目で見ていた。

「何かトアとパパ良い雰囲気だねえ」
「そうですね。こうなったら今度私も料理を⋯⋯」
「「「えっ!?」」」

 セレナの提案に俺達は皆恐怖を覚え声を出してしまう。

「セ、セレナ姉今なんていったの?」

 怖いもの知らずのミリアが震えながらセレナに問いかける。

「私もパパに褒められたいから料理を作ろうと思いまして。さっそく明日の朝食から⋯⋯」
「セレナ姉! 人には向き不向きがあるんだよ! ボクはやめた方がいいと思うけどなあ」

 俺はミリアの言葉に心の中で頷く。何故ならセレナは料理が得意ではなく、味も個性的だからだ。

「確かにトアちゃんみたいに上手くは出来ませんが、そこは気合いと根性で何とかするから大丈夫です」

 せめてそこは愛情と言って欲しかったが⋯⋯セレナらしい言葉だった。

「この間だってセレナ姉が作った緑色のスープを飲んでボク達は死にかけたんだからね!」
「あ、あれは見た目と味は良くなかったかもしれませんが身体には良いんですよ」
「身体にはいい? トアが毒消しの魔法を使ってくれなきゃ今頃天国に行ってたよ!」

 緑色のスープ!? それに毒消しの魔法って⋯⋯やはりセレナの料理はブルク村にいた時と変わっていないようだ。

「もしセレナ姉が料理の称号を持っていたらマイナスレベルだと思うよ⋯⋯せっかくパパと会えたのにボク死にたくない」
「トアも⋯⋯セレナお姉ちゃんごめんなさい」

 2人の妹に見捨てられてセレナは意気消沈してしまった。ただ気持ちはわかる。俺も3年前ブルク村で⋯⋯。

「セレナ⋯⋯この2年間で色々新しいレシピを考えたんだ。だから暫くは俺が食事を作ってもいいかな?」
「ですが⋯⋯」

 セレナはどうしても1人で料理を作りたいのか返事に困り悩んでいる。

「それなら新しいレシピの料理を一緒に作らないか?」
「パパと一緒に台所!? わ、わかりました。よろしくお願いします」

 どうやらセレナ1人で料理をするという事態は避けられたようだ。ミリアとトアも安堵のため息をついている。

「そ、そういえばパパは明日はどうするの? 何か予定があるの?」

 ミリアがこの件は終わりと言わんばかりに話を変えてきた。

「とりあえず日を分けて3人の学校へ行くつもりだ」

 セレナは騎士養成学校、ミリアは魔法養成学校、トアは神聖教会養成学校
 でそれぞれ別の所に通っている。1度親として娘達がお世話になっている方々に挨拶した方がいいだろう。

「それと⋯⋯昔の知り合いに会いに行ってくるよ」

 帝都に来たのなら避けては通れないことだ。会いにいけばどんなことを言われるかわからないが⋯⋯俺は施設から拾ってくれた育ての親に会いに行くことを決意する。

 こうして俺は食事の後、娘達と離れた2年間の思い出を埋めるために夜が更けるまで語り合うのであった。
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