猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ

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 王都ローレリアの西門を出た後、 先頭を行くリズが後ろを振り向く。

「まずは西にある港街、マーレポルトに行き、そしてそこで船に乗り帝都に向かう予定です」
「ふ、船!?」

 リズの言葉に俺の肩に乗っていたマシロが反応する。そして地面に降り、驚愕の表情を浮かべてこちらに視線を送ってきた。
 マシロは水が苦手だからな。もしかしたら前に船上で魔物に襲われたことを思い出しているのかもしれない。
 あの時は船に穴を開けられて、船が沈没する可能性もあったからな。
 濡れることが嫌いなネコ⋯⋯じゃなくて白虎にとってはあまり行きたい場所ではないのだろう。

「なんですか? こちらを見て。まさか何か失礼なことを考えていたのではないですか?」
「い、いや⋯⋯突然声を上げたから気になって見てただけだ」

 中々勘の鋭いネコだな。余計なことは考えない方が良さそうだ。

「船が沈没するかもって考えていたのか? たぶん大丈夫じゃないかな」
「その根拠はなんですか?」
「船長のオゼアさんが言ってたぞ。魔物に襲われるなんて滅多にないって」
「あの胡散臭い男がですか? 信用できませんね」

 胡散臭い男呼ばわりされるとは。オゼアさんも可哀想に。だけど去り際にリズの正体を告げてきたこともあり、マシロの言いたいこともわからないでもない。

「けど日程も決まっているから、今さら歩いて帝都に行くことは出来ないぞ」
「マシロちゃんごめんなさい」

 この予定を組んだのはムーンガーデン王国だから、リズが申し訳なさそうに頭を下げる。

「前にも言ったけど船が沈むようなことがあれば、必ずマシロを助けるから安心してくれ」
「⋯⋯わかりました。ですが船が沈んでからではなく、船が沈まないように努力して下さい」
「わかったわかった」
「返事は一回」
「⋯⋯わかりました」

 普段非常識なことを言うマシロに正論を言われて少しイラッとしたが、船に乗ることを了承したので、ここはおとなしく従っておく。

「そ、そうよ。船は沈まないように出来ているの。知らなかった? 大丈夫大丈夫⋯⋯」
「フィーナの言う通りだ」
「夕方までにはマーレポルトの街に着く予定です」
「それじゃあ行こうか」

 俺達はマーレポルトへと向かう街道を歩きだす。
 そしてマシロがまた俺の肩に乗るが、すぐにその重さが消えた。

「マシロさんはこっち」
「ノアちゃんはこっちです」

 マシロはフィーナに、ノアはリズに抱っこされていた。
 フィーナとリズの二人は、大好きなマシロとノアに触れることが出来てご満悦だ。
 マシロとノアも歩かなくて済むからか、特に抵抗する素振りはない。
 こうしてマシロの説得に成功し、俺達はマーレポルトへと歩きだすが、俺は一つだけ気になっていた。それは最後尾を歩くルルの元気がないことだ。
 今のやり取りでも会話にいっさい入って来なかったし、ローレリアを出発してから一言二言しか喋ってない。あのお喋りなルルがだ。
 でも正直な話、今のおとなしいルルの方が最初に会った時のイメージに合っている。
 初めて会った時はネコを被っていたのか。それとも⋯⋯
 俺は少し心配になり、ルルの横に移動する。

「ルル⋯⋯もしかして体調が悪いのか?」
「えっ? そ、そんなことないですよ! 私はいつも元気元気です⋯⋯あっ!」

 ルルは地面にあった石に躓いてしまい、バランスを崩す。

「大丈夫か?」

 俺は倒れないように腕を掴む。そのためルルが倒れることは回避出来た。しかしルルが背負っていたリュックの中身が地面にぶちまけられる。

「だ、大丈夫です」

 ルルは慌てた様子で地面に散らばった物をリュックに積め始めた。その際に本のタイトルが目に入る。
 ファンタジー小説、武術指南書、地理、経済の本か。色々なジャンルを読んでいるんだな。本好きというのは嘘じゃないようだ。

「え~と⋯⋯何の話でしたっけ?」
「体調は大丈夫かって話だ」
「大丈夫ですよ。ユートさんは心配性ですね」

 急に笑顔になって、空元気だということがバレバレだ。
 少なくともフェリに騙されて、マシロとノアと契約した時は嬉しそうに見えた。あの後起きたことと言えば一つしか考えられないけど⋯⋯

「ひょっとして帝都に行くのが嫌だ⋯⋯とか?」
「!?」

 ルルの表情は変わらないが、身体がビクッと反応していた。わかりやすい奴だな。
 もしかしたら父親に会いたくないとか? 
 先日ルルと共に父親であるダグラス公爵と会ったけど、お世辞にも二人の関係がいいとは思えなかった。
 帝都に帰りたくない理由として疑ってもおかしくない。

「そそそ、そんなことないですよ。お兄様やお姉様、パパに会えるかと思うと嬉しくて嬉しくて」
「ん? もしかして兄や姉とも会いたくないのか?」

 俺の指摘にルルが慌て始める。

「な、何を言ってるんですかユートさんは! よく見るといつものユートさんと違いますね。鈍感で無自覚すけこまし主人公のユートさんが、こんなに鋭い意見を口にするなんて信じられないです」

 このやろう。ルルはいつも俺のことをそんな風に思っていたのか。これは後でお仕置きが必要だな。
 でもその前にテンパっているルルを正常に戻さないとな。

「ていっ!」
「あうっ!」

 俺はルルの額に軽くチョップを繰り出す。
 するとルルは可愛らしい声を上げて額を抑える。

「痛いです⋯⋯いきなり何するんですか」
「少しは落ち着いたか?」
「まさかそのために⋯⋯でも乙女の額を傷つけたことはまた別です。慰謝料を請求します」
「い、慰謝料!?」
「はい」
「軽くやったつもりだけど痛かったか? 回復魔法をかけるから見せてくれ」
「回復魔法でなかったことにするつもりですか?」

 た、確かにいきなり女の子の額にチョップするのは良くなかったかもしれない。でも俺とルルの仲じゃないか。
 なんか急にいつものルルに戻ったぞ。

「慰謝料ってお金を払えってことか?」
「そうですね。白金貨一枚お願いします」
「は、白金貨⋯⋯だと。ちょっと⋯⋯いや、かなり多くないか?」
「私、こう見えて公爵令嬢なので」

 そういえばそうだった。気さくに話しかけてくるから忘れていたけど、ルルは公爵令嬢だ。その公爵令嬢に無礼を働いたんだ。これは相場的にはおかしくないのか?

「払えないんですか?」
「え~と⋯⋯その⋯⋯」

 そんな金額払える訳がない。ルルも冗談で言ってるはず⋯⋯たぶん。

「払えないんですね? それなら今日の夜、少しお話を聞いてもらってもいいですか?」
「話? それはもちろん」
「ではよろしくお願いします」

 ルルめ。驚かせやがって。
 でもここでは話せないってことは、ルルにとって深刻な悩みなのかもしれない。俺は真面目に話を聞くことを心掛け、マーレポルトへと向かうのであった。

――――――

表題につきまして、この度【狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・】改め【猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る】が、アルファポリス様より1月21日に書籍化されることが決定しました!
これも日頃より読者の皆様が応援して下さったおかげです。
書籍化によりマシロやノア、リズの可愛らしい絵が入り、小説の内容もより素敵なものになっております。
書店等で見かけた時、手に取って頂けると幸いです。
今後とも【猫を拾ったら・・・】をよろしくお願い致します。
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