上 下
123 / 129

兆候

しおりを挟む
 ルルを背負ったまま歩いていると、王妃様の所まで追い付くことが出来た。

「あら? もしかしてルルさんは疲れているの?」
「はい。そのため俺が背負って行くことにしました」
「そうなの? それなら少し休憩しますか?」

 ルルの体調を考えるならその方がいいかもしれないな。そんなに急ぐ旅でもないし。

「いえ! 大丈夫です! 私のせいで到着を遅らせる訳にはいきません」

 だがルルは王妃様の提案を断ってしまう。俺の背中より、地面に座って休んだ方が疲れは取れると思うけどな。
 でもみんなの歩みを止めたくないという気持ちもわかる。

「う~ん。わかったわ。そういうことにしておくわね」
「そ、それ以外に理由なんてないですよ?」
「何故に疑問系?」
「べ、別にいいじゃないですか! ユートさんはうら若き乙女の身体を堪能していればいいんです」
「やめてくれ。俺がそれ目的でルルをおんぶしていると思われるじゃないか」
「えっ? 違うんですか?」

 こ、こいつは⋯⋯
 今の言葉を聞いていたのか、メイドさんの一人が冷たい視線で俺を見ているぞ。
 このまま下に降ろしてやろうか。

「ふふ⋯⋯二人はとても仲がいいのね」
「そんなことないです。いいように使われているだけです」
「ユートさんが背中に乗っていいって言うから、私は乗っただけですよ」
「た、確かにそうだけど」
「いいじゃないですか仲良しで。ユートさんは何が不満なんですか?」
「まあ仲が悪いよりはいいかな?」
「ですです」

 ルルと話すのは嫌いじゃないからいいけど、王妃様がさっきからクスクスと笑っている。
 何だか恥ずかしいぞ。
 早くこの場から逃げ出したいけど、前方にいるフィーナや国王陛下の所に行くと、それはそれで何か言われそうな気が⋯⋯

「わんわん」

 俺が困っていると、王妃様の側にいたノアが突然吠え始める。
 ん? 何だ? まさか敵か?
 でもノアは慌てている様子はない。これは俺に何か伝えたいことがあるということか?
 王妃様の周囲にはメイドさんと兵士がいるから、ここは少し距離をおくか。

 俺は歩いているスピードを遅くする。
 すると周囲に人がいなくなったタイミングで、ノアが話しかけてきた。

「すみません。ちょっとお伝えしたいことがあって」
「謝ることはないよ。俺もある意味助かったし」
「そうですか? それなら良かったです」

 あのまま王妃様と一緒だったら、ルルとの仲をからかわれそうだったからな。

「実はもっと前からお伝えすれぱ良かったのですが⋯⋯」
「どういうこと?」
「ローレリアに戻ってから身体がおかしくて、背中がムズムズするというか」
「えっ? もしかして何かの病気?」
「いえ、嫌な感じはしないのですが⋯⋯すみません、漠然とした話で」

 どういうことだ? 嫌な感じではないということは病気ではないのか?
 神獣はおろか、動物の病気のことも俺はわからない。
 神獣の生体のことは誰に聞けばいいんだ?

「それと実はこの症状は僕だけじゃなくて⋯⋯」
「まさかマシロも?」
「はい。何日か経てば元に戻ると思ったのですが⋯⋯」
「ごめん。俺には何の要因でそうなっているのか全くわからない」
「いえ、僕も変な相談をしてごめんなさい。でも調子が悪い訳じゃないんです。むしろ調子はいいというか⋯⋯」
「そうだ。フェリに聞いてみようか。神獣のことも知っていたし、フェリならわかるかもしれない」

 ちょうど今エルフの里にいるしな。

「フェリ? 誰ですか? 名前からして女性っぽいですが」

 背中のルルから疑問の声が上がる。

「神樹の妖精だよ」
「妖精さんですか? 見てみたいですね」
「もう見られているかもしれないぞ」
「ん? どういうことですか?」
「まあ会えばわかるよ」

 以前猫化したフィーナも、どうやったか知らないけど見られていたからな。
 もしかして今の会話も聞いているかも知れない。

「楽しみにしてますね」

 ある意味からかうことが好きな二人だから相性がいいのかな。
 ルルの嬉しそうな言葉を聞きながら、俺達は城へと向かうのであった。





しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

処理中です...