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悪が栄えることはなし
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「兄上ももう長くはない。明後日には私がこのガーディアンフォレスト王国の王になっているだろう」
「なんですって!」
「手始めに長老会の評決を撤廃し、この国を王政にするつもりだ」
「そんなこと私がさせないわ」
「傾国の姫の言うことなど、誰も聞きはしないさ」
ん? こいつは何を言ってるんだ?
火災があった時の活躍や、レーベンの実を取って来たことを知らないのか?
けどよくよく考えてみると火災の件はともかく、レーベンの実については、俺達は吹聴してないし、最長老様とフェリもすぐに治療薬作製に入っていたから誰も知らない可能性があるな。
「傾国の姫? あなたはいつの話をしているんですか?」
「なんだと!」
「フィーナはレーベンの実を手に入れた功労者ですよ」
俺は異空間から治療薬が入った小瓶を取り出し見せる。
「ま、まさかそれがフォラン病の⋯⋯」
「そもそも息子であるジグベルトの不始末について、親であるあなたが無関係でいられると思っているのですか?」
「昨日ジグベルトに会ったが、無実だと言っていたぞ!」
呆れてものが言えないな。
証拠を突きつけて自分がやったと自白したことを忘れたのか?
もし本当にそんなことを言っているなら、全く反省していないことになる。
「それと神剣を抜き、漆黒の牙を倒した男はフィーナの味方だ」
俺は背中に背負った神剣を抜き、天に掲げた。
「もしこれ以上、フィーナに余計なことをしたら俺が黙っていないぞ」
「ユート⋯⋯」
恐れをなしたのか、ハウアーの取り巻きと思われる奴らは廊下の端に寄る。
「あなた達も誰につくのか考えた方がいいですよ。まあ破滅を望むなら止めはしませんが」
取り巻き達は伏し目がちになる。
どうやら俺の言葉をちゃんと理解しているようだ。
そもそもフィーナの両親がかかっているフォラン病は治るのだ。もうハウアーが王になることはないだろう。
「それでは俺達は先を急ぐので」
「くっ!」
ハウアーは床に膝をつき、その場に崩れ落ちる。
そしてその時のハウアーを助ける者は誰もいなかった。
「何故こんなことに⋯⋯だがまだ終わらんぞ。私はこの国の王になるのだ」
ハウアーは常軌を逸した目をして、うわ言のように何かを呟いている。
「行こう。フィーナ、リズ」
「そうね」
「承知しました」
今の俺達に取っては、落ち目のハウアーなどどうでもいいことだ。だけどこの絶望の中で、ハウアーの目がまだ死んでいなかったことが気になる。
だがそれよりも今は、早くこの治療薬をフィーナの両親に届けなくては。
俺達はハウアーには目もくれず、長い廊下を進んで行くのであった。
一つの部屋に入ると、そこには一人の医師と二人の兵士がいた。
そしてベッドには中年の男性と女性が寝ている。
かろうじて目は開いていたが、表情は苦しそうだ。
あれがフィーナのご両親か。
「お父さん、お母さん! ただいま戻りました」
フィーナが声をかけると、二人は微笑んだように見えた。だがとても力弱く、今すぐ目を閉じてもおかしくないと感じた。
「フィーナ様、残念ですがお二人には時間がありません。持って後一日程かと」
「それなら大丈夫よ。ここにフォラン病を治す薬があるわ」
俺は異空間から二つの小瓶を取り出し、フィーナに渡す。
「おお! これが治療薬ですか! レーベンの実を手に入れたのですね!」
「ええ⋯⋯みんなの力を借りてね」
「それではさっそく国王様と王妃様に薬を!」
フィーナは小瓶を開けて、少しずつ国王様と王妃様に薬を飲ませていく。
これでダメだったら二人は助からないかもしれない。
いや、フェリと最長老様を信じろ。あの二人が作った薬ならきっと大丈夫だ。
国王様と王妃様は治療薬を全て飲み干した。
治療薬はすぐに効き目が現れるのだろうか? それともある程度時間が経たないと効果はないのか?
フィーナも治療薬の効果が気になるのか、ソワソワしているように見えた。
俺達は祈るように二人を見守っていると、異変は起きた。
突然国王様と王妃様が目を見開く。
すると二人はゆっくりと身体を起こすのであった。
「なんですって!」
「手始めに長老会の評決を撤廃し、この国を王政にするつもりだ」
「そんなこと私がさせないわ」
「傾国の姫の言うことなど、誰も聞きはしないさ」
ん? こいつは何を言ってるんだ?
火災があった時の活躍や、レーベンの実を取って来たことを知らないのか?
けどよくよく考えてみると火災の件はともかく、レーベンの実については、俺達は吹聴してないし、最長老様とフェリもすぐに治療薬作製に入っていたから誰も知らない可能性があるな。
「傾国の姫? あなたはいつの話をしているんですか?」
「なんだと!」
「フィーナはレーベンの実を手に入れた功労者ですよ」
俺は異空間から治療薬が入った小瓶を取り出し見せる。
「ま、まさかそれがフォラン病の⋯⋯」
「そもそも息子であるジグベルトの不始末について、親であるあなたが無関係でいられると思っているのですか?」
「昨日ジグベルトに会ったが、無実だと言っていたぞ!」
呆れてものが言えないな。
証拠を突きつけて自分がやったと自白したことを忘れたのか?
もし本当にそんなことを言っているなら、全く反省していないことになる。
「それと神剣を抜き、漆黒の牙を倒した男はフィーナの味方だ」
俺は背中に背負った神剣を抜き、天に掲げた。
「もしこれ以上、フィーナに余計なことをしたら俺が黙っていないぞ」
「ユート⋯⋯」
恐れをなしたのか、ハウアーの取り巻きと思われる奴らは廊下の端に寄る。
「あなた達も誰につくのか考えた方がいいですよ。まあ破滅を望むなら止めはしませんが」
取り巻き達は伏し目がちになる。
どうやら俺の言葉をちゃんと理解しているようだ。
そもそもフィーナの両親がかかっているフォラン病は治るのだ。もうハウアーが王になることはないだろう。
「それでは俺達は先を急ぐので」
「くっ!」
ハウアーは床に膝をつき、その場に崩れ落ちる。
そしてその時のハウアーを助ける者は誰もいなかった。
「何故こんなことに⋯⋯だがまだ終わらんぞ。私はこの国の王になるのだ」
ハウアーは常軌を逸した目をして、うわ言のように何かを呟いている。
「行こう。フィーナ、リズ」
「そうね」
「承知しました」
今の俺達に取っては、落ち目のハウアーなどどうでもいいことだ。だけどこの絶望の中で、ハウアーの目がまだ死んでいなかったことが気になる。
だがそれよりも今は、早くこの治療薬をフィーナの両親に届けなくては。
俺達はハウアーには目もくれず、長い廊下を進んで行くのであった。
一つの部屋に入ると、そこには一人の医師と二人の兵士がいた。
そしてベッドには中年の男性と女性が寝ている。
かろうじて目は開いていたが、表情は苦しそうだ。
あれがフィーナのご両親か。
「お父さん、お母さん! ただいま戻りました」
フィーナが声をかけると、二人は微笑んだように見えた。だがとても力弱く、今すぐ目を閉じてもおかしくないと感じた。
「フィーナ様、残念ですがお二人には時間がありません。持って後一日程かと」
「それなら大丈夫よ。ここにフォラン病を治す薬があるわ」
俺は異空間から二つの小瓶を取り出し、フィーナに渡す。
「おお! これが治療薬ですか! レーベンの実を手に入れたのですね!」
「ええ⋯⋯みんなの力を借りてね」
「それではさっそく国王様と王妃様に薬を!」
フィーナは小瓶を開けて、少しずつ国王様と王妃様に薬を飲ませていく。
これでダメだったら二人は助からないかもしれない。
いや、フェリと最長老様を信じろ。あの二人が作った薬ならきっと大丈夫だ。
国王様と王妃様は治療薬を全て飲み干した。
治療薬はすぐに効き目が現れるのだろうか? それともある程度時間が経たないと効果はないのか?
フィーナも治療薬の効果が気になるのか、ソワソワしているように見えた。
俺達は祈るように二人を見守っていると、異変は起きた。
突然国王様と王妃様が目を見開く。
すると二人はゆっくりと身体を起こすのであった。
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