猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ

文字の大きさ
上 下
56 / 93
連載

絶望の帰還

しおりを挟む
 レーベンの実がないことを理解してから、どれくらいの時間が経っただろう。
 一時間? 二時間? いや、十秒すら経っていないのかもしれない。
 時間がわからなくなる程、俺はショックを受けていた。
 だけど縁もゆかりもない俺がこれだけショックを受けているということは、関係者であるフィーナのショックは計り知れないだろう。
 フィーナは先程から瞬き一つせず、ただレーベンの木を見つめていた。
 これからどうするべきか。
 漆黒の牙シュヴァルツファングを倒したとしても、レーベンの実が手に入れられなかったら意味がない。
 俺は頭の中で、エルフ達が大勢亡くなることを想像してしまった。
 もう俺には何も出来ないのか?
 いくら神聖魔法でもそんなに都合がいい魔法はない。
 このまま何も出来ず、里に帰るしかないのか。
 いや、俺は何も出来なくても他の人なら何とか出来るかもしれない。

「フィーナ⋯⋯一度里に戻ろう」
「そうね⋯⋯レーベンの実を持ち帰ることが出来なかったことを報告しないといけないわね」
「違う。それもあるけど最長老様やフェリに相談してみよう。レーベンの木はここにあるんだ。あの二人なら何か良い方法を考えてくれるかも」

 二人は五千年前から生きているんだ。もしかしたら俺達が思いつかないことも知っている可能性がある。

「無理よ。今から里に戻ってフェリ達をここに連れて来ても、時間が足りないわ。フォラン病の薬を作るには一日半くらい必要なの」
「だったら木を持っていけばいい」
「木を持っていくってそんなこと⋯⋯あっ!」

 どうやらフィーナも気づいたようだ。
 俺はレーベンの木に手を置く。そして異空間へと収納するのであった。

「これでいい。異空間の中は時間が流れていないから枯れることもない」

 レーベンの木は種から芽にするのは大変でも、大樹になれば安定して育てられるってフィーナが言っていた。そのため、ここにある一本の木をエルフの里に移しても問題ないだろう。
 そこで最長老様とフェリに見てもらおう。

「さあ、急いでエルフの里に戻ろう」
「ええ」

 こうして実のついていないレーベンの木を異空間に収納し、俺達は急ぎエルフの里へと足を向けるのであった。

 エルフの里に戻ると、既に辺りは夕陽で照らされており、俺達はフィーナの家へと向かった。
 ノアの探知能力で調べてもらったら、そこに最長老様とフェリがいると教えてくれたからだ。

「おかえりなさいませ」

 フィーナの家の前に到着するとリズが俺達を出迎えてくれた。
 もしかしてリズはずっと外で待っていてくれたのだろうか。献身的なリズならあり得そうだな。

「ただいま」

 俺はリズの言葉に応える。するとリズは慌てた様子でこちらに駆け寄って来た。

「ユート様! 大丈夫ですか! フィーナさんもいっぱい血が服に!」

 そういえば服が汚れたままだったな。

「ちょっと爪で引き裂かれたけど、今は魔法で治したから何ともないよ」
「私はユートの血がついただけだから、傷一つ負っていないわ」
「ユート様の血が⋯⋯それはどういう状況だったのでしょうか?」
「べ、別に大したことじゃないわよ! それよりフェリと最長老様はいる?」

 フィーナは顔を赤くして誤魔化そうとしている。
 思わず抱きついてキスしてしまったことを思い出してしまったのだろうか。
 俺も何だか顔が暑くなってきたぞ。

「わかりました。お呼びしてきますね」

 リズはフィーナの慌てた様子を特に気にせず、家の中へと入っていく。
 そして一分程経つとフェリと最長老様を連れて、リズが戻ってきた。

「どうやら漆黒の牙シュヴァルツファングを倒したようじゃな。我にはお見通しじゃぞ」
「それは本当ですか! さすが神剣に選ばれた英雄じゃ!」
「ユート様おめでとうございます」

 三人はとても喜んでくれているが、今はそのことより伝えなくちゃならないことがある。

「でも、レーベンの実が一つも生ってなかったの」
「何だと! それではフォラン病にかかったエルフ達は⋯⋯」
「一応レーベンの木は持ってきたので、何か実を取る方法があったら知りたくて⋯⋯とりあえず木を見てください」
「木を見る? ユートは何を言ってるのだ?」

 説明するより実際に見せた方が早いだろう。

「フィーナ、ここに出してもいいか?」
「いいわよ」

 俺は家主に許可を得たのでフィーナの家の庭に、異空間に収納していたレーベンの木を出す。

「な、何だと! 何もない所からレーベンの木が!」
「なるほど。異空間収納魔法じゃな」

 最長老様は驚いているけど、フェリは冷静だ。どうやらフェリは異空間収納魔法のことを知っていたようだ。

「本当にユートは規格外の存在だな。それにしてもレーベンの実が一つもないか⋯⋯おそらく漆黒の牙シュヴァルツファングが食べてしまったのだろう」
漆黒の牙シュヴァルツファングが?」

 そういえばフィーナから漆黒の牙シュヴァルツファングはレーベンの実が好物だと聞いていたな。
 でもまさか全部食べてしまうとは。

「残念だが、わしはレーベンの実を復活させる方法はわからん。このまま時間が経てば、自然に実が生るとは思うが」

 それでは遅い。フォラン病にかかっている人を救うには、今必要なのだ。

「フェリはどうかな? 何かこう神樹の妖精の力で、実を作る方法とか知らないかな?」

 俺は一縷の望みをかけて問いかける。
 だがフェリから返ってきた言葉は、とても残酷なものだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。