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絶望
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漆黒の牙を倒した後、フィーナの後に続いてしばらく歩くと森が見えてきた。
「この森の中心部にレーベンの木があるのよ」
先頭を行くフィーナが、後ろを振り向いて嬉しそうに語りかけてくる。
上機嫌だな。まあ自分の両親と里のエルフ達をフォラン病から助けることが出来るんだ。その気持ちはわからないでもない。
これでフィーナのことを、傾国の姫と呼ぶものは完全にいなくなるだろう。
漆黒の牙を倒し、レーベンの実を持ち帰るんだ。
むしろ英雄として迎え入れられるだろう。
個人的には、フィーナのことをバカにした奴らには何か処罰を与えてやりたい所だけど、それは俺が決めれることじゃないからな。
だけど少なくとも、傾国の姫と噂を流していたジグベルトは、見る目がなかったと批判を受けることは間違いないだろう。
まあ死罪がほぼ確定しているジグベルトに取っては、今さら批判を受けた所で、意味がないと思うけど。
「え~と⋯⋯確か本にはこっちにあるって書いてあったけど⋯⋯あったわ!」
フィーナが指差す方向は少し開けた場所になっていた。
その中心部には三本の大きな木が立っていたため、おそらくあれがレーベンの木なのだろう。
レーベンの木を見つけると俺達の足は自然と足が早くなる。そしてレーベンの実を手に入れられるという期待から、ワクワクしていた。
「これよ! これがレーベンの木で間違いないわ」
逸早くレーベンの木に到着したフィーナが、興奮気味に声を上げる。
危険を冒してでもここまで来たかいがあった。
俺達はやったんだ。エルフ達の望みを叶えることが出来たんだ。
ここにいる誰もが達成感と喜びに満ちていると思っていた。
だが誰よりもレーベンの実を手に入れたがっていたフィーナが、突如その場に崩れ落ちる。
「フィーナ?」
俺はその行動が理解出来ず、急ぎフィーナの元へと駆け寄った。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
少し心配になって声をかける。誰かに何かをされたようには見えない。目的地に到達して緊張の糸が切れたのだろうか?
だが俺の想像は間違っていた。
この後フィーナから発せられる言葉に、俺達は絶望を味わうのであった。
「ないの⋯⋯」
「ない?」
「そう⋯⋯レーベンの実がないのよ!」
フィーナの悲痛の声が周囲に木霊する。
一瞬何を言っているのかわからなかった。
だがすぐにその言葉の意味を理解し、無意識に言葉が出る。
「レーベンの実がない⋯⋯だと⋯⋯」
俺は頭上に視線を向ける。
三本の木を見ると、葉っぱはたくさん生えていた。だけど実がないなんてあるのか?
そもそもこの短時間で、三本の木に実がなっていないことを把握出来たのか?
俺は信じたくない現実だったため、フィーナを疑ってしまう。
「光輝く黄色の実よ。大きさはりんごと同じくらい」
「そこそこ大きいな。それならすぐにわかりそうだ⋯⋯マシロとノアも探してくれ」
「仕方ないですね」
「わかりました」
二人は器用に木に登っていき、上から実を探してくれている。
俺も探さなくては。
これだけ葉が生い茂っているのに、実がないなんてそんな話はないだろ?
俺達は何のためにここに来たんだ!
「大丈夫、レーベンの実は絶対にある。きっと木の陰で見えないだけだよ。葉っぱが隠しているかもしれないな」
「そ、そうね。私ももう一度探してみる」
俺達は必死にレーベンの実を探す。
ここまで来てないなんてあんまりだ。
もしレーベンの実を見つけることが出来なかったら、フォラン病のステージ四にいるフィーナの両親やエルフ達を、助けることが出来なくなってしまう。
「もしかして季節によって生らなかったりするのか?」
「いえ⋯⋯レーベンの実は一年中取れると本には書いてあったわ」
「そうか⋯⋯」
それから一時間程経ち、マシロとノアが木から降りて来た。
「フィーナ、ユート⋯⋯残念だけどレーベンの実はどこにもありません」
そしてマシロの口から絶望の言葉が発せられ、俺達はその場に膝をつくのであった。
「この森の中心部にレーベンの木があるのよ」
先頭を行くフィーナが、後ろを振り向いて嬉しそうに語りかけてくる。
上機嫌だな。まあ自分の両親と里のエルフ達をフォラン病から助けることが出来るんだ。その気持ちはわからないでもない。
これでフィーナのことを、傾国の姫と呼ぶものは完全にいなくなるだろう。
漆黒の牙を倒し、レーベンの実を持ち帰るんだ。
むしろ英雄として迎え入れられるだろう。
個人的には、フィーナのことをバカにした奴らには何か処罰を与えてやりたい所だけど、それは俺が決めれることじゃないからな。
だけど少なくとも、傾国の姫と噂を流していたジグベルトは、見る目がなかったと批判を受けることは間違いないだろう。
まあ死罪がほぼ確定しているジグベルトに取っては、今さら批判を受けた所で、意味がないと思うけど。
「え~と⋯⋯確か本にはこっちにあるって書いてあったけど⋯⋯あったわ!」
フィーナが指差す方向は少し開けた場所になっていた。
その中心部には三本の大きな木が立っていたため、おそらくあれがレーベンの木なのだろう。
レーベンの木を見つけると俺達の足は自然と足が早くなる。そしてレーベンの実を手に入れられるという期待から、ワクワクしていた。
「これよ! これがレーベンの木で間違いないわ」
逸早くレーベンの木に到着したフィーナが、興奮気味に声を上げる。
危険を冒してでもここまで来たかいがあった。
俺達はやったんだ。エルフ達の望みを叶えることが出来たんだ。
ここにいる誰もが達成感と喜びに満ちていると思っていた。
だが誰よりもレーベンの実を手に入れたがっていたフィーナが、突如その場に崩れ落ちる。
「フィーナ?」
俺はその行動が理解出来ず、急ぎフィーナの元へと駆け寄った。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
少し心配になって声をかける。誰かに何かをされたようには見えない。目的地に到達して緊張の糸が切れたのだろうか?
だが俺の想像は間違っていた。
この後フィーナから発せられる言葉に、俺達は絶望を味わうのであった。
「ないの⋯⋯」
「ない?」
「そう⋯⋯レーベンの実がないのよ!」
フィーナの悲痛の声が周囲に木霊する。
一瞬何を言っているのかわからなかった。
だがすぐにその言葉の意味を理解し、無意識に言葉が出る。
「レーベンの実がない⋯⋯だと⋯⋯」
俺は頭上に視線を向ける。
三本の木を見ると、葉っぱはたくさん生えていた。だけど実がないなんてあるのか?
そもそもこの短時間で、三本の木に実がなっていないことを把握出来たのか?
俺は信じたくない現実だったため、フィーナを疑ってしまう。
「光輝く黄色の実よ。大きさはりんごと同じくらい」
「そこそこ大きいな。それならすぐにわかりそうだ⋯⋯マシロとノアも探してくれ」
「仕方ないですね」
「わかりました」
二人は器用に木に登っていき、上から実を探してくれている。
俺も探さなくては。
これだけ葉が生い茂っているのに、実がないなんてそんな話はないだろ?
俺達は何のためにここに来たんだ!
「大丈夫、レーベンの実は絶対にある。きっと木の陰で見えないだけだよ。葉っぱが隠しているかもしれないな」
「そ、そうね。私ももう一度探してみる」
俺達は必死にレーベンの実を探す。
ここまで来てないなんてあんまりだ。
もしレーベンの実を見つけることが出来なかったら、フォラン病のステージ四にいるフィーナの両親やエルフ達を、助けることが出来なくなってしまう。
「もしかして季節によって生らなかったりするのか?」
「いえ⋯⋯レーベンの実は一年中取れると本には書いてあったわ」
「そうか⋯⋯」
それから一時間程経ち、マシロとノアが木から降りて来た。
「フィーナ、ユート⋯⋯残念だけどレーベンの実はどこにもありません」
そしてマシロの口から絶望の言葉が発せられ、俺達はその場に膝をつくのであった。
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