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結果は既に決まっていた

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「まずい! このままでは逃げられる!」

 俺は慌ててジグベルトを追いかける。

「絶対に逃がさないわ!」

 フィーナは背中に背負っていた弓を取り出し、矢を構えている。
 だがこのタイミングだと二人とも間に合わない。ここは転移魔方陣に入って追いかけるしかないな。
 けど少しおかしくないか? 成敗すると言っていたフェリアリア様は、特にジグベルトを攻撃する素振りもなければ、追いかける気もなさそうに見える。むしろ余裕の表情を浮かべている気がした。
 もしかしてジグベルトを逃がさない策でもあるのか?
 フィーナをからかったフェリアリア様ならあり得そうな話だ。
 しかし万が一何もなかったらのことを考えて、俺は念のため追いかける。

「さらばだ! 魔方陣で移動さえしてしまえぱ逃げることなど⋯⋯」

 ジグベルトが転移魔法陣に足を踏み入れてしまう。このまま逃げれると思うなよ。地上に降りて、行方をくらます前に絶対捕まえてやる。
 俺はそう考えていたが、ここで予想外のことが起きた。

「ど、どういうことだ!」

 ジグベルトが驚愕の表情を浮かべながら喚き散らす。
 何故なら魔方陣に入ったジグベルトは転移されず、その場に留まっているのだ。

「何故転移されない!」

 もしかしてフェリアリア様はこのことを知っていたのか?
 俺はフェリアリア様の方にチラリと視線を向けると、ニヤリと笑みを浮かべていた。
 あっ⋯⋯これはわかってたっぽいな。だからジグベルトを追いかけることをしなかったのか。

「どうした! 何故作動しない! このままだと私は⋯⋯ぎゃっ!」

 ジグベルトが言葉を言い終わる前に悲鳴を上げた。どうやらフィーナの放った矢が左肩に刺さったようだ。

「ジグベルト、逃がさないわよ」
「き、貴様ぁぁっ!」

 ジグベルトは左肩を抑えながら、周囲に威圧を振り撒く。だがその程度で俺が怯むとでも思っているのか?
 俺はジグベルトに接近し、神剣の切っ先を眼前に向ける。

「ひぃっ!」

 すると先程まで強気な発言をしていたジグベルトは悲鳴を上げ、その場に膝をついた。

「逃げられなくて残念じゃったな」
「くっ! 転移魔方陣が動けばこんなことには⋯⋯」
「なんじゃ? 気づいてなかったのか? この転移魔方陣は我が作ったものじゃからな。誰を転移させるかなど我の思うがままじゃ」
「な、何だと! それでは何をしても無駄だったという訳か⋯⋯」

 ジグベルトの身体から力が抜けていく。もう何をしてもここから逃げることは出来ないと悟ったようだ。
 それにしても転移出来る者はフェリアリア様の思うがままか。なかなか怖いことを言ってくれる。転移魔方陣が使えないならここから脱出する方法は一つしかない。雲の高さにいるこの場所から飛び降りるなんて、自殺をするようなものだ。
 空を飛べるならともかく、この転移魔方陣に入った時点で、フェリアリア様に生殺与奪権を握られているということになる。

「さて、この者の処分じゃが⋯⋯ここから下に突き落とすとするか。我はなんて優しいのじゃ」
「や、優しいだと。どこがだ!」

 確かに優しくない。地面に接触した瞬間に身体が粉々になり死に至る。そのような未来は想像しただけで気分が悪くなるな。

「なんじゃ? お主は拷問されて死ぬ方が好みか? ならばまずは全ての指の爪を剥ぎ、歯を無理矢理抜くところから始めるとしよう」
「ひぃぃぃっ!」

 ジグベルトは自分に訪れる未来を想像してしまったのか悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちてしまった。

「気絶するとは情けない。これだから最近の若い者は⋯⋯」
「いや、今のは気絶してもおかしくないですよ」

 俺はフェリアリア様の言葉に思わず、つっこんでしまった。

「まあ冗談じゃがな。そのような野蛮なことを我は好まぬ」

 冗談だったのか? それにしては迫力があったぞ。

「この者の処分は鼻たれ小僧に任せる」
「承知しました」

 五千年生きた最長老様も、フェリアリア様にとっては鼻たれ小僧か。スカート捲りの件といい、最長老様の威厳がどんどん落ちていくな。

「じゃが我の納得のいく裁きをしなければどうなるかわかっておるな?」
「も、もちろんです」

 これは死罪が決まったようなものだな。
 だがジグベルトがしたことは、森の住民と呼ばれるエルフにとっては許しがたいことだろう。
 刑が執行されるまで、自分の行動を悔いてもらいたいものだ。

 こうして俺は神剣を抜くことに成功し、フェリアリア様の登場によって、思わぬ所から火災の犯人を捕らえることになるのであった。
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