猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ

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犯人はこの中にいる

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 フェリアリア様から殺気が放たれる。

「くっ!」

 俺も予想外の出来事で、思わず怯んでしまった。
 この見た目は十歳の少女から、まさかこんなに大きな殺気が出るとは誰が思うか。
 やはり神樹の妖精という名は、伊達ではないということか。
 それにしても突然のことで驚いたぞ。
 だが殺気を向けられた相手は俺以上に驚愕していた。そして恐怖で地面に座り込んでいる。

「な、何をする⋯⋯いくら神樹の妖精とはいえ、次期公爵家当主への無礼は許さんぞ」
「無礼? 我に向かって無礼と言ったのか? この若僧が!」

 フェリアリア様から殺気を向けられた相手、それはジグベルトであった。
 確かにジグベルトは不遜な態度だが、そこまで怒らせるようなことをしたか? それとも神樹の妖精という生物は感情の起伏が激しいのかもしれない。これは少しでも無礼を働けば、粛清されるということか。

「お主はとんでもないことをしてくれたな。我の目は誤魔化せんぞ」
「な、何のことだ。私は恥じるようなことは何もしていない」
「あくまでしらを切るということか。それなら教えてやろう。エルフの里に結界が張られていることは知っておるな?」
「それはここに住んでいる者なら誰もが知っていることだ」
「その結界を張っているのは我だ」

 神樹の妖精であるフェリアリア様が結界を張っていたのか。一人でこんなに大規模な結界を作るなんて、とんでもないことをしているな。

「それがどうしたんだ」
「にぶい奴じゃのう。つまりは結界内の出来事は手に取るようにわかるということじゃ」
「な、なんだと!」

 あの驚きよう。ジグベルトは何かやましいことがあるということだ。それはたぶんあのことだろう。
 そして今のフェリアリア様の言葉に恐怖している者が、もう一人いた。

「どどど、どういうことですか! ま、まさか私の⋯⋯」

 フィーナは声が震えていた。
 おそらく昨日の夜のことを考えているのだろう。

「ユ、ユートどうしよう」
「もしかして猫化のことを言ってるのか?」
「そうよ」
「でも何か大きな出来事でもない限り、一人一人の行動を把握しているとは思えないけど」
「そ、そうね。いくら神樹の妖精であるフェリアリア様でも無理よね」

 さすがにエルフの里の人達をずっと監視していることはないだろう。
 だがフィーナの希望的観測は甘かったことが、この後のフェリアリア様の言葉でわかった。

「今日の早朝のこと

 ん? にゃ⋯⋯だと⋯⋯しかもフィーナの方を見て。

「ユートぉぉぉ⋯⋯今、にゃって言ったよ。にゃって」
「これは完全にバレているな。こうなったら後で口止めをするしかないぞ」
「そんなあ」

 フィーナは絶望からか、情けない声を出してその場に座り込んでしまう。
 気持ちはわかるぞ。俺から見ればただ可愛いだけだったが、本人からすればたまったもんじゃないだろう。
 それにしてもフェリアリア様はこちらに視線を向けた時、ニヤリと笑みを浮かべていたな。
 おそらく人をからかうのが好きなのだろう。
 俺もエルフの里にいる時は油断しないようにしないと。

「ユート様、フィーナさんはどうされたのですか? 猫化とはどういうことでしょうか?」
「さ、さあ⋯⋯俺にはよくわからないなあ」

 ここでもし俺が猫化のことを話せばフィーナに怒られる。ここは誤魔化すしかない。

「でしたらフィーナさんが教えて下さい」
「そ、そんなことよりフェリアリア様の発言が気になるわ」
「そうですね。ですが後で教えて下さいね」
「か、考えとくわ」

 フィーナがどうやって誤魔化すのか面白そうだが、今はフェリアリア様の言葉に注視する。

「べ、別に今朝のことでやましいことなどない。何を言いたいのだ」
「自分の口からは言わぬということか。ならば我が言ってやろう。お主は森に火をつけたのじゃ」

 やはりフェリアリア様が見たのは火災のことだったか。
 俺が問い詰めた時は惚けていたが、さすがにこれで言い逃れをすることは出来ないだろう。

「ジグベルト⋯⋯お前は何てことを⋯⋯」

 最長老様はフェリアリア様の言葉を聞いて怒りに震えていた。
 エルフは俗に森の民と呼ばれている。だがその森の民が森に火をつけたのだ。エルフをまとめる者として、信じられないのだろう。

「あ、あれはたまたま森に火が移ってしまっただけだ。狙って燃やそうとした訳じゃない」

 ジグベルトは森が燃やしたことは認めたが、あくまで不可抗力だと言い始めた。

「我にはそのように見えなかったがな。わざわざ風魔法で火を強くしていたではないか」
「ぐっ!」

 フェリアリア様の的を得た追求に言葉が出ないと言った所か。そういえばノアも同じようなことを口にしていた。改めてノアの探知能力の高さが窺えるな。

「エルフの民は森を大事にする種族だ。何故このような馬鹿げたことをした! 答えよジグベルト!」
「⋯⋯全てはそこの人族が悪いんだ。フィーナの近くはチョロチョロと⋯⋯目障りだから森を燃やした犯人に仕立てて追い出してやろうと思っただけだ!」
「なんという愚かなことを⋯⋯」

 予想通り嫉妬心から犯行に及んだか。だがいくら嫉妬したからといってやって良いことと悪いことがある。お前はその線を越えたんだ。報いを受けるがいい。

「私は悪くない⋯⋯私は悪くない⋯⋯私は悪くないんだあぁぁぁっ!」

 ジグベルトはこの後に及んで罪を認めない。

「このまま捕まってたまるか!」

 そしてこの場から逃げるためか、転移魔方陣に向かって走り出すのであった。

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