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消火の後
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「ふう⋯⋯何とかなったな」
だけど全力で魔法を放ったから、もうMP切れだ。
俺は安堵のため息をつきながら、その場に座り込む。
するとノアが駆け寄ってきて、俺の頬にスリスリしてきた。
「わんわ~ん」
とても嬉しそうだな。ノアもフィーナのことを心配していたから、上手くいって本当に良かった。
「ユ、ユート⋯⋯あなたいったい何者なの?」
「何者って」
「私の何倍もある津波の魔法を⋯⋯あんなの見たことも聞いたこともないわ」
「前も言ったけど俺はただの無職だ」
「そのネタはもういいわ」
ネタじゃなくて本当のことなんだが。
「それとも私なんかには話せないことなの。それなら諦める」
フィーナは悲しそうな表情を浮かべうつむく。
ずるいなあ。たぶん本人はその気はないだろうけど、そんな顔をされたら言わないなんて選択肢を選べないじゃないか。
でもフィーナのことは正直好ましく思っている。蔑まれても自分の中の信念を真っ直ぐ貫く所や、フォラン病を治すために一人でレーベンの実を取りに行く優しさとか、猫語を話す可愛い所とか。
だから天界にいたことを教えてもいいと考えている。それに既にマシロとノアのことがバレているから、今さら秘密の一つや二つ話した所で問題ないだろう。
「それについては後でね」
「ん、わかったわ」
僅かにフィーナの顔がほころぶ。どうやら俺の答えに満足してくれたようだ。
だが話はこれで終わりではない。何故なら俺の魔法を見ていた者は他にもいたのだから。
「炎が一瞬で消えただと⋯⋯」
「あれが人の成せる魔法なのか」
「しかもその魔法を使ったのが人族とは⋯⋯」
周囲になんとも言えない空気が流れる。
神聖大海流魔法の威力に恐れをなしているのだろうか。それとも人族に救われたことが屈辱だと思っているのか?
こちらから何か話しかけた方がいいのか? だけど人族はエルフ達から拒絶されているから、余計なことはしない方がいいかもしれない。
俺はどうすればいいのか悩んでいると、エルフ達はこちらに向かってきた。
何をするつもりだ? 俺は少し身構えてしまう。
しかしこの後エルフ達がとった行動は、予想外のものであった。
「火を消してくれて助かったよ」
「里を守ってくれてありがとう」
「すごい魔法だったな。人族を少し見直したぜ」
皆、膝をついて感謝の言葉を口にしてくれた。そしてエルフ達の感謝の言葉はフィーナにも向けられていた。
「フィーナ姫、あなたの言葉で目が覚めました」
「里への思いが誰よりも強かったのはあなただった。日頃蔑むことを言っていたわしらを許して欲しい」
「魔法の特性とか関係ない。あなたは王族として相応しい行動でした」
噂とか魔法の特性とか関係なく、フィーナという人物を見てくれれば、きっと認められると思っていた。俺はこの光景をとても嬉しく思う。
「でも私は結局火を消すことは出来なかったわ。全てはユートが一人でやったことよ。みんなに褒められるようなことは何も⋯⋯」
「確かに火を消してくれたのは、そこにいる人族です。しかしその人族を里に連れてきたのはあなただ。我らは人族というだけで、里に連れてくることはなかったでしょう」
「それに燃え広がった炎を消す義務はなかった。だけどそこの人族はエルフ族のために尽力してくれた。それはフィーナ姫がいたからじゃないか?」
まあエルフの里に来て良くしてくれたのは、フィーナとステラさんくらいだ。大抵のエルフは俺達に悪意を持って接していたからな。
「さすがにこの状況を見て、見捨てることはしませんよ。でもフィーナの故郷だから、より一層火を消したいと思ったのは事実です」
「ユート⋯⋯」
ともかくこれで少しはエルフの人達からの悪意はなくなるかな? 出来れば争いなんかしたくはないからな。
だがそう思ったのも束の間。俺達の背後から、争いの種をまく者が現れるのであった。
だけど全力で魔法を放ったから、もうMP切れだ。
俺は安堵のため息をつきながら、その場に座り込む。
するとノアが駆け寄ってきて、俺の頬にスリスリしてきた。
「わんわ~ん」
とても嬉しそうだな。ノアもフィーナのことを心配していたから、上手くいって本当に良かった。
「ユ、ユート⋯⋯あなたいったい何者なの?」
「何者って」
「私の何倍もある津波の魔法を⋯⋯あんなの見たことも聞いたこともないわ」
「前も言ったけど俺はただの無職だ」
「そのネタはもういいわ」
ネタじゃなくて本当のことなんだが。
「それとも私なんかには話せないことなの。それなら諦める」
フィーナは悲しそうな表情を浮かべうつむく。
ずるいなあ。たぶん本人はその気はないだろうけど、そんな顔をされたら言わないなんて選択肢を選べないじゃないか。
でもフィーナのことは正直好ましく思っている。蔑まれても自分の中の信念を真っ直ぐ貫く所や、フォラン病を治すために一人でレーベンの実を取りに行く優しさとか、猫語を話す可愛い所とか。
だから天界にいたことを教えてもいいと考えている。それに既にマシロとノアのことがバレているから、今さら秘密の一つや二つ話した所で問題ないだろう。
「それについては後でね」
「ん、わかったわ」
僅かにフィーナの顔がほころぶ。どうやら俺の答えに満足してくれたようだ。
だが話はこれで終わりではない。何故なら俺の魔法を見ていた者は他にもいたのだから。
「炎が一瞬で消えただと⋯⋯」
「あれが人の成せる魔法なのか」
「しかもその魔法を使ったのが人族とは⋯⋯」
周囲になんとも言えない空気が流れる。
神聖大海流魔法の威力に恐れをなしているのだろうか。それとも人族に救われたことが屈辱だと思っているのか?
こちらから何か話しかけた方がいいのか? だけど人族はエルフ達から拒絶されているから、余計なことはしない方がいいかもしれない。
俺はどうすればいいのか悩んでいると、エルフ達はこちらに向かってきた。
何をするつもりだ? 俺は少し身構えてしまう。
しかしこの後エルフ達がとった行動は、予想外のものであった。
「火を消してくれて助かったよ」
「里を守ってくれてありがとう」
「すごい魔法だったな。人族を少し見直したぜ」
皆、膝をついて感謝の言葉を口にしてくれた。そしてエルフ達の感謝の言葉はフィーナにも向けられていた。
「フィーナ姫、あなたの言葉で目が覚めました」
「里への思いが誰よりも強かったのはあなただった。日頃蔑むことを言っていたわしらを許して欲しい」
「魔法の特性とか関係ない。あなたは王族として相応しい行動でした」
噂とか魔法の特性とか関係なく、フィーナという人物を見てくれれば、きっと認められると思っていた。俺はこの光景をとても嬉しく思う。
「でも私は結局火を消すことは出来なかったわ。全てはユートが一人でやったことよ。みんなに褒められるようなことは何も⋯⋯」
「確かに火を消してくれたのは、そこにいる人族です。しかしその人族を里に連れてきたのはあなただ。我らは人族というだけで、里に連れてくることはなかったでしょう」
「それに燃え広がった炎を消す義務はなかった。だけどそこの人族はエルフ族のために尽力してくれた。それはフィーナ姫がいたからじゃないか?」
まあエルフの里に来て良くしてくれたのは、フィーナとステラさんくらいだ。大抵のエルフは俺達に悪意を持って接していたからな。
「さすがにこの状況を見て、見捨てることはしませんよ。でもフィーナの故郷だから、より一層火を消したいと思ったのは事実です」
「ユート⋯⋯」
ともかくこれで少しはエルフの人達からの悪意はなくなるかな? 出来れば争いなんかしたくはないからな。
だがそう思ったのも束の間。俺達の背後から、争いの種をまく者が現れるのであった。
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