猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ

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エルフの誇り

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 フィーナが魔法を?
 フィーナの使える魔法の属性は水だ。もしかして炎を消すつもりなのか?

「いくわよ! 水津波魔法アクアウェーブ
  フィーナが魔法を解き放つと、炎に向かって水の津波が襲いかかる。だが津波が襲いかかったのは炎だけではなかった。
  水津波魔法アクアウェーブはフィーナを中心に全方位に放たれていたのだ。 
 当然横にいた俺とノアや、エルフ達はびしょ濡れになってしまった。

「フィーナ⋯⋯」 

 俺は恨めしそうにフィーナへと視線を向ける。

「悪かったわ。でもこれで頭が冷えたでしょ」
「えっ?」

 俺は別に頭に血が昇っていたわけじゃない。まあフィーナが傾国の姫と言われた時は腹が立ったけど。
 頭を冷やしたのは俺ではなくエルフ達のことだ。
 その証拠に先程まで右往左往していたエルフ達が、水をかけられたことで、動きを止めていた。

「みんな聞いて! 川まで水を取りに行っても間に合わないし、その程度の水で消せる程、火は小さくないわ! それより風魔法で周囲の木を切って、これ以上燃え広がらないようにしてほしいの」

 フィーナは適切な指示を下しているが、後はエルフ達が話を聞いてくれるかどうか。

「けどそれだけではこの炎は消えないぞ! どうするんだ?」

 エルフ達の視線がフィーナへと集まる。
 確かにこの炎を消さなければ問題解決にはならない。
 この炎を消すには、膨大な水が必要になるだろう。
 だけどそのような問題などフィーナには関係なかった。

「私が水魔法を使って消すわ」
「み、水魔法⋯⋯」

 エルフ達に取っては認められない水魔法。だけど今この状況で一番頼れるのはフィーナで間違いないだろう。

「⋯⋯わかった。頼む⋯⋯」
「任せて」

 エルフ達に取って何より大切な神樹の危機だ。己のプライドと比べてどちらが大切かなんて明白だ。エルフ達はフィーナに頭を下げる。

「それじゃあみんなは周りの木を切って」
「わかった」

 こうしてフィーナとエルフ達による消火作業が始まるのであった。

水津波魔法アクアウェーブ

 フィーナの声が周囲に鳴り響くと、津波が炎に襲いかかる。すると炎は消火され、炭になった木々が姿を見せた。

「どんどん行くわよ!」
  
 フィーナは休まず魔力を両手に集め始める。

「俺達もやるぞ! 風切断魔法ウインドカッター

 エルフ達もフィーナに負けじと魔法を放つと、木々が次々と伐採されていく。
 しかし勢いが弱まったかのように見えたが、その炎は止まることはなかった。むしろ炎の勢いはさらに増して行き、このままではエルフの里を飲み込むのは時間の問題に見えた。

「あ、水津波魔法アクアウェーブ

 そのような状況の中でも、フィーナは諦めずに魔法を放ち続ける。だがエルフ達からは少しずつ放たれる魔法が減ってきた。
 初めはMP切れかと思ったが、表情が暗いことから諦めてしまってるように感じた。

「無理だ⋯⋯こんなの消せないよ」
「もう逃げた方がいいんじゃないか」

 仲間の言葉を聞いたからなのか、一人⋯⋯また一人と魔法を放つ者がいなくなる。
 もうエルフ達はダメだ。心が折れてしまっている。自分達が頑張った所で無駄だと思い始めているようだ。
 だが一人だけ心が折れていない者がいた。

「ま、まだよ! 絶対にこの炎は消してみせるわ!」
「フィーナ⋯⋯」
「ここはあなた達の⋯⋯私達の故郷でしょ! こんな炎に負ける訳にはいかない」

 この中で誰よりも魔法を使っていたのはフィーナだ。
 息は切れ、足は震え、顔色が悪い。誰が見てもMPがほとんどないとわかる程だ。だがそのような中でも諦めることはせず、目の光は消えていなかった。

「私達は誇り高きエルフの民⋯⋯神樹や森、仲間を守るために諦めるなんて文字はないはずよ」

 ここまで言われて立ち直れないならもうダメだな。ここにいても危険なので、逃げた方がいい。

「ふっ⋯⋯傾国の姫がエルフの誇りを語るとはな」

 この後に及んでまだフィーナを蔑むことを言うなら、エルフは誇り高き民ではないと言ってやりたい。だけどどうやらその必要はなさそうだ。

「フィーナ姫⋯⋯エルフの誇りにかけて、必ず森を守ってみせましょう」
「お願いね」

 エルフ達の目に、再び光が灯る。
 そして傾国の姫ではなくフィーナ姫と呼んでいた。どうやらフィーナをガーディアンフォレストの姫として認めたようだ。
 エルフ達は次々と魔法を放ち、周囲の木を伐採し始めた。
 フィーナがエルフ達から認められた今、このまま火を消し止めることが出来れば、俺の願った通りの結末を迎えることが出来る。
 だが現実はそうは甘くない。
 気力を振り絞っていたフィーナやエルフ達のMPは少しずつ枯渇していき、激しく燃える炎を残したまま、その場に崩れ落ちてしまうのであった。

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