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世話係三号

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「マシロさんが聖獣でノアさんが神獣!」
「だから喋ることができる。それとこのことは誰にも言わないで欲しい」
「わかったわ」

 これはフィーナの良心にかけるしかないな。マシロとノアことがバレて、エルフの人達に益々奇異の目で見られるのは勘弁してほしい所だ。

「マシロさん」
「何ですか?」
「マシロさん」
「だから何ですか?」
「私⋯⋯猫さんと喋ってる。夢の一つが叶ったわ」

 今のセリフ、どこかで聞いたことがあるぞ。確かリズも似たようなことを言っていたな。
 女の子は誰しも動物と話すことが夢なのだろうか。

「フィーナ、魚を早く準備しなさい」
「承知しました」

 ん? 何かフィーナの口調がおかしくないか?

「いや、ご飯はもう食べただろ? 食べるなら明日にしてくれ」

 夜食べすぎるのは身体によくない。俺はマシロのためを思って意見する。

「仕方ないですね。明日の朝御飯は焼き魚にしなさい。わかりましたね?」
「マシロさんの仰せのままに」

 何だかフィーナがマシロに逆らえないようになっていないか? 猫というだけで優遇されるなんて、羨ましい。

「フィーナ、マシロをあまり甘やかさないでくれよ」
「マシロさんの願いを叶えることが私の喜びよ」
「フィーナはわかっていますね。それに比べてお世話係一号は⋯⋯」
「まさかフィーナは世話係二号とでもいうつもりか?」
「いえ、フィーナは三号で、二号はリズですよ」

 この駄猫はどんだけ偉そうなんだ。普段人の肩に乗って歩かないし、楽しすぎじゃないか?  

「それにしてもフィーナがここまで猫が好きだとは思わなかったよ」
「私は猫じゃありません! シャーッ!」

 さっきフィーナが猫って言った時は何もしなかったのにひどくない? 世話係一号が一番地位が低いのか?

「ユート、マシロさんが怒っているわ。ここは謝罪した方がいいんじゃない?」
「猫って言ったことは謝るよ」

 やれやれ。フィーナも完全にマシロの味方だな。
 これ以上ここにいても、良いことはなさそうだ。

「リズ達が心配するからそろそろ帰らないか?」
「そうですね」

 マシロは俺の肩に乗ってきたため、そのままフィーナの家へと向かった。だがこの時、フィーナが恨めしそうな表情をしていたことに俺は気づくことが出来なかった。

 フィーナの家に戻ると旅の疲れもあったのか、すぐに就寝することにした。
 そして夜が明けて朝になると、朝食の時間となった。

「マシロさんお約束のものです」
「よきにはからいなさい」

 フィーナはマシロに焼き魚を進呈する。
 本当にマシロは偉そうだな。一度痛い目を見た方がいい気がしてきたぞ。
 そして朝食の席の中。

「ユート様、今日はどうなさいますか?」
「どうって言われても⋯⋯」

 俺はチラリと窓に目を向ける。すると外の景色は真っ白で何も見えなかった。

「この霧じゃあどこへも行けなさそうだ」
「そうですね」

 今日は朝から霧が多く出ており、数メートル先すら見えない状況だった。こんな日に外に出ると怪我をするだけだ。

「エルフの里ではよくあることよ。たぶん昼過ぎくらいから晴れると思うわ」 
「それなら今日は神剣を抜きに行きましょう。フィーナ、手配しなさい」
「マシロさんのお願いなら聞いてあげたいけど、長老達は許可を出さない可能性が高いわ」
「やりもしない内に諦めてどうするのですか」
「そ、そうね。霧が晴れたら長老達の所へ向かうわよ」

 えっ? 本当に神剣を抜きに行くの? もし許可をもらったとしても、抜けなければ滅茶苦茶気まずい雰囲気になるんですけど。
 だけどリズもノアもワクワクした様子でこちらを見ている。とてもやりたくないとは言えない雰囲気だ。
 そして昼食を取り午後になると、フィーナの言った通り霧が晴れてきた。

「それじゃあ長老達の所へ行くわよ」

 俺達はフィーナさんの後に続いて家の外に出る。
 すると昨日は暗くて気づかなかったが、北西方向に巨大な木が見えた。

「もしかしてあれが神樹か」

 上の方が見えないぞ。でもこんなに高い木なら離れていてもわかりそうなものだけど。

「エルフはこの神樹の木の周辺に街を作り住んでいるのよ」
「このような大きな木なら、ローレリアから見えてもいいとは思うのですが」

 リズが俺が疑問に思っていたことを聞いてくれた。

「それは人間に場所を知らせないために、結界が張ってあるの。エルフの里に入らなければ神樹は見えないようになっているのよ」

 なるほど。確かにエルフを捕まえたければ、神樹という目印に向かって進めばいいということになってしまうからな。

「こっちに長老達の住まいがあるわ」

 俺達はフィーナの後に続いて東へと進む。
 すると周囲にあるいくつもの目がこちらに向けられていた。

 あれはエルフ達か。
 何だかその視線はとてもじゃないが友好的には見えなかった。その証拠に聞くに堪えない言葉がこちらに聞こえてくる。

「あれがジグベルト様の言っていた人間か」
「傾国の姫は厄介な者達を連れてきたな」
「フォラン病の患者は増え続けているし、本当あの姫様は疫病神だよ」
「早く出ていってくれないかな」

 たぶんこの声はフィーナにも聞こえているだろう。だがフィーナは何事もなかったかのように振る舞っている。
 しかしこの陰口に我慢出来なかった者がいた。

「あなた達⋯⋯」
「リズいいの!」

 リズは周囲のエルフ達に抗議しようとするが、フィーナに止められる。

「ですが⋯⋯友人が誹謗されているのを黙っている訳にはいきません」
「リズの気持ちは凄く嬉しいわ。でもここで問題を起こしたら長老達に会えなくなってしまうわ。私は気にしてないから。ほら、行きましょ」

 フィーナは納得していないリズの手を取り、長老達の所へ向かう。

 フィーナはフォラン病が広がった後、こんなに酷いことを言われながらここで生きてきたのか。それなのに病気で倒れた人達のために危険を犯してレーベンの実を⋯⋯

 俺はエルフの里の人達に怒りを覚えるが、フィーナの行動に心を打たれた。これは何としてもレーベンの実を手に入れて、里の奴らを見返してやらないとな。
 俺はフィーナのためにも絶対に漆黒の牙シュヴァルツファングを倒すと決意するのであった。
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