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フレスヴェルグ討伐戦(1)

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「リズ、どういうことか教えてくれ。あの宝石はなんなんだ」
「あ、あれはエメラルドの宝石です」
「エメラルド?」

 あれだけデカイとどれくらいの価格になるんだと、思わず庶民根性が出てしまう。

「はい。かつてムーンガーデン王国が建国される以前、この地には果樹園が拡がり、今より多くの人々が住んでいました。気候も過ごしやすく豊かな土壌で民は幸せに暮らしていたようです。ですがその平穏な日々は一瞬で崩されてしまいました。突如現れた白い凶鳥⋯⋯フレスヴェルグによって全て破壊されたと言われています」

 えっ? ちょっとまて。ということは⋯⋯

「まさかあの宝石にそのフレスヴェルグが封印されていたのか!」
「はい。私の祖である初代ムーンガーデン王国の国王が、満月の日にフレスヴェルグをエメラルドの宝石に封印したと聞いてます。宝物庫に保管したものをグラザムが持ち出したようです」

 あの男は本当にろくなことをしないな。こんなことになるなら初めて会った時に始末しておけば良かったか。その時の行動が悔やまれる。

「ともかく封印が破られてしまったのは仕方ない。こうなったらそのフレスヴェルグを倒すしかないな」
「無茶です! 伝承では世界の風はフレスヴェルグが起こしたと言われ、多くの人間の命を奪い、その死体を何千何万も食らったとされているのですよ。いくらユート様でもそのような相手に立ち向かえば⋯⋯」
「だけどこのまま逃げたら街が滅ぼされてしまう。それにもう考えてうる時間はないようだ」

 砕けたエメラルドから、黒い霧のようなものが立ち上る。そして霧が一ヶ所に集まると、突如その空間が裂け始めた。

「なな、なんだこれは⋯⋯」

 レッケさんは空の様子を見て腰を抜かし座り込んでしまう。
 だがその気持ちはわかる。
 裂け始めている空間は優に三十メートルは越えており、その空間と同じくらいの白い何かが、こちらの世界に来ようと暴れている。
 この空間が裂け切った時、フレスヴェルグはこの世界に降臨するという訳か。

「リズリット王女の言うように、フレスヴェルグを倒すのは不可能だ! せめて住人の避難を」
「その役目はレッケさんにお願いしてもいいですか?」
「どういうことだ? まさかユートはあの化物と戦うというのか!」
「ええ。足止めくらいはしてみせますよ」
「無茶だ!」
「無茶でも何でもやらなくては街の人が犠牲になるだけだ。あなたはムーンガーデン王国の騎士団長なのだから、国王陛下や民を守る義務があります。早く行って下さい」
「くっ! わかった⋯⋯リズリット王女も早く避難して下さい」
「私はここに残ります」
「「えっ?」」

 リズの言葉に俺とレッケさんは、思わず声を上げてしまう。

「何を仰っているのか私には理解できません! リズリット様はこの国の王女です。あなたが逃げなくてどうするのですか」
「王女だからこそ見届ける義務があるのです。それに私は何の関係もないユート様を巻き込んでしまいました。そのユート様を置いて私だけ安全な場所に逃げるなど出来ません」
「リズリット王女、このような時に我が儘を言わないで下さい」
「レッケ騎士団長、もう時間がありません。早く街の人達に避難するよう伝えて下さい」
「くっ! わ、わかりました」

 レッケさんはリズを説得したかったようだけど、もう時間がないため諦めたようだ。

「ユート! リズリット王女を任せたぞ! もし傷の一つでつけたら私は許さんからな」
「わかりました。リズのことは命をかけて守ります」
「それと⋯⋯お前も無事に帰ってこい。わかったな」
「はい。レッケさんも気をつけて」

 レッケさんはこの事態を知らせるため、急ぎ街へと戻る。
 さて、ああは言ったけどどうしたものか。これだけの巨体だチマチマした攻撃では倒すことなど出来ないだろう。

「無駄なことを。どこに逃げようがフレスヴェルグが全て破壊するだろう。街も人も⋯⋯そしてお前達もだ」

 さっきまで震えていたグラザムはどこへ行ったのやら、勝ち誇った顔で邪悪な笑みを浮かべていた。

「街にはリスティヒもいるんだぞ」
「父上などどうでもいい。しょせんは血が繋がっただけのただの他人だ」

 こいつは自分さえよければいいというタイプか。グラザムのこれまでの態度を見て、リズがこいつと結婚しなくて良かったと改めて思った。

「それに俺達だけじゃなく、お前もフレスヴェルグに殺されるんじゃないか」
「残念だがフレスヴェルグは、封印を解いたものの言うことを聞くようになっているらしいぞ」

 俺は本当かどうか確かめるために、リズに視線を向けた。
 するとリズは静かに頷いた。

「お前達の死に様を特等席で見物してやる。せいぜい生き残るために足掻くんだな。その方が良い余興となってこちらも楽しめる」
「悪趣味な奴だな。そんなんだからリズに振られるんだぞ」
「それは関係ないだろ!」
「関係あります。昔から自分のことしか考えないグラザムのことは苦手でした」
「ほらな」
「貴様ぁぁ⋯⋯フレスヴェルグがこちらの世界にきたら、真っ先に殺してやるぞ」
「やれるものならやってみればいい」
「ああ、その時が楽しみだ」

 これでいい。
 フレスヴェルグはグラザムが操れるらしいから、これでこの世界に来てもリズではなく、俺を狙ってくるだろう。
 レッケさんと約束したからではないが、なるべくならリズを危険に晒したくないからな。

 現在フレスヴェルグは空間の裂け目から三分の一くらい身体が出ている。もう少しでこちらの世界に来てしまいそうだ。

「ユート⋯⋯あの魔物は私が倒してもいいですか?」
「マシロ?」
「鳥の分際で私を見下ろしている所に腹が立ちます」
「倒せるならそれに越したことはないけど」

 マシロは自信があるのか? まあ聖獣で白虎と呼ばれる存在だし、期待しても良いかもしれない。

「マシロさん、僕も力を貸します」
「いいでしょう。許可します」

 マシロとノアがフレスヴェルグと対峙する。

「行きますよノア」
「はい」

 そして二人は体内で溜めた魔力を一気に放出するのであった。
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