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密航は死罪

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 噂ではムーンガーデン王国はクーデターが起きたと聞いた。
 王国を取り戻して欲しいという願いだろうか。
 だがリズの願いは予想外のものだった。

「私と⋯⋯私とムーンガーデン王国に行ってもらえませんか?」
「それは国を取り戻して欲しいってことかな?」

 なかなか無茶なことを言ってくる。ムーンガーデン王国のことを何も知らない俺には厳しい注文だ。

「いえ⋯⋯確かにその願いもありますけど、それより国民の皆様が安心して暮らせているかが心配です。叔父が悪政を敷いていなければいいのですが⋯⋯」

 自分の権力より国民のためにか。
 どこぞの政治家達に、爪の垢を煎じて飲んで欲しいものだな。

「そしてお父様とお母様が無事なのか知りたいです」
「リズの父親と母親というと、国王様と王妃様?」
「はい⋯⋯私を逃がすためにムーンガーデンに残って⋯⋯」

 クーデターを起こした側からすれば、国王が生きていることは百害あって一利なしだ。もし捕まっていたら殺されている可能性が高いだろう。
 それを知ってて言ってるのか?

 俺はリズに視線を送る。
 するとリズは、真っ直ぐな瞳で俺の目を見ていた。
 覚悟は出来ているって感じだな。
 それなら力になってあげたい。

「ノア、マシロどうする?」
「僕はユートさんに従います。ですが心情的にはリズリットさんに協力したいです。僕の⋯⋯いえ、なんでもありません」

 何かを言いかけたのは気になるけど、ノアは賛成のようだ。
 後は⋯⋯

「仕方ないですね。私も協力してあげましょう」

 意外にもマシロはあっさりと協力すると口にした。

「マシロは反対すると思っていた」
「何故ですか?」
「私の魚を食べた不届き者を許してはおけませんとか言いそうじゃないか」
「私はそんなに食い意地が張ってはいません!」
「「えっ?」」

 俺とノアはマシロの予想外の言葉に、思わず驚きの声をあげてしまった。
 いやいや。リズが犯人だとわかった時、その憎しみで息の根を止めるとか口にしてたよな?
 ついさっきの出来事をもう忘れたのか?

「何ですか? その驚き方は。リズはセレスティア様のお導きがあってここにいるのでしょ? その願いを無下にするわけにはいきません」

 確かにそうだ。セレスティア様はリズを俺達の所に導いた。つまりは俺達に何とかしてほしいということだろう。

「皆様⋯⋯ありがとうございます」
「感謝して下さい」

 こうして俺達はリズの願いを叶えるため、改めてムーンガーデン王国へ向かうことを決意するのであった。

 トントン

 そしてこの時、部屋のドアがノックされた。
 誰だ? 
 俺はドアへと視線を向けると、声が聞こえてきた。

「俺だ。オゼアだ」

 どうやら部屋を訪ねて来たのは船長のオゼアさんだった。
 何だろう? ここに来たということは、俺に用があるのは間違いないと思うけど。

「どうぞ」

 とりあえず用件を聞くため、俺は部屋の中に入るように促す。
 すると何故かリズが慌て始めた。

「ど、どうしましょう」
「どうしたの?」
「え~と⋯⋯その⋯⋯あまりよろしくない状況と言いますか⋯⋯ですが今さら慌てても仕方ないです。全ては女神様に身をゆだねましょう」

 リズが何を言ってるのか俺にはわからなかった。
 そしてオゼアさんが奥の寝室に入ってくると、何故リズが慌ててるのか理解した。

「ユート、今乗客全員に伝えているんだが、この船は⋯⋯ってあんた誰だ? 俺は船に乗る客の顔は全て記憶しているんだが⋯⋯」
「わ、私はその⋯⋯」

 オゼアさんが言っていることが本当なら、リズは誰にも見られずに船に乗り込んだことになる。それってまさか⋯⋯密航!
 クーデターが起きて逃げてきたんだ。金など一切持っていなかったかもしれない。
 確か帝国では密航は重罪だ。下手をすれば死罪になってしまうかもしれない。
 俺は浅はかに部屋に入れてしまったことを後悔した。
 だけど俺はリズを助けると決めたんだ。このまま見捨てることなんて出来ない。

「この子は俺の連れです。事情があって少し遅れて乗船しました」
「そうか⋯⋯」

 記憶なんて曖昧だ。こうなったらオゼアさんの記憶違いだと押し通すしかない。
 俺は嘘をついていないと思わせるため、オゼアさんから目を逸らさず、真っ直ぐに見据える。
 だけど船長であるオゼアさんを欺ける可能性は低い気がする。もしリズが捕縛された場合、どうやって逃がすか。

「あ~⋯⋯俺の勘違いだった。そういえばこの子は一番最後に乗って
 たな」
「えっ?」

 俺は捕まった後の救出方法を考えていると、オゼアさんから予想外の言葉が出てきた。
 もしかしてオゼアさんはリズのことを見逃してくれるのか?

「この子は何か悪さをするために、ムーンガーデン王国に行く訳じゃないよな?」
「はい。元々ムーンガーデンに住んでいたので戻るだけです」
「そうか⋯⋯とりあえずいつまた魔物が現れるかわからないから、部屋から出ないようにしてくれ」
「わかりました」

 おそらく船長という立場上、ハッキリと口にすることは出来ないが、暗に他の人に見つかると厄介だから隠れていろと言うことだろう。
 たぶん船を半魚人から守ったお礼という所か。まさかこのような形で恩を返されるとは思わなかった。だけどそのお陰でこちらとしては助かったな。半魚人に襲われた時に見て見ぬふりをしなくて良かった。

「それで乗客全員に伝えなくちゃならないことがあってな」

 そういえばオゼアさんは、何かを言いにこの部屋に来たんだっけ?
 神妙な顔をしているので何だか嫌な予感がするな。

「残念だがこの船は、ムーンガーデン王国に行くことは出来なくなった」

 そしてオゼアさんから告げられた言葉は、リズにとっては看過できるものではなかった。
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