上 下
15 / 129

ベッドで寝ていた女の子

しおりを挟む
「何? まさかこの子が犯人?」

 女の子はまるで自分の家のようにぐっすり寝ている。
 けどこの子が魚と肉を食べた犯人として、こんな所で寝るか普通。捕まえてくれって言ってるようなものだ。
 そうなるとこの女の子は犯人じゃない? でもノアは犯人はこの部屋の中にいるって言ってたしなあ。何だかよくわからなくなってきたぞ。

「とりあえず無防備なうちに息の根を止めましょう」
「ダメだろそれ」
「何故ですか? 私の魚を食べたことは万死に値します」

 この猫、物騒なことを口にするな。
 本当に女神に仕える聖獣なのか?

「まだこの女の子が犯人と決まった訳じゃないだろ?」
「そうですね」
「それに例え犯人だとしても、息の根を止めるのはダメだ」
「⋯⋯わかりました」

 問いかけに対して間があったし、俺から目を逸らしている。絶対に納得してないよな。

「え~と⋯⋯すみません」

 俺は女の子を起こすため肩を揺する。すると女の子は目を閉じたまま言葉を発した。

「う~ん⋯⋯もう食べれません」
「クロですね。やはりこのまま息の根を止めましょう」
「だから待ってくれ。それとそろそろ喋るのをやめようか」

 やれやれ。それにしても何でその言葉が出てくるのか。益々マシロの殺意が大きくなったぞ。

「起きてくれ。ここは君の部屋じゃないぞ」

 今度はさっきより強く揺すってみる。

「うぅ⋯⋯はっ! ここは⋯⋯」
「船室のベッドの上だよ」

 俺は女の子の問いに答えた。
 だが寝起きのためか、女の子の視線がまだ定まっていないように見える。
 そしてようやく俺のことに気づいたのか、ベッドの上で土下座をし始めた。

「申し訳ありません!」

 な、何だ? 突然謝ってきて。これはどういう意味で土下座しているんだ。
 とりあえず事情を聞く前に、マシロを抱っこしておこ。
 女の子が魚を食べたって言ったら、マシロが襲いかかりそうだからな。

「その謝罪はどういう意味かな?」
「それは⋯⋯お肉とお魚を食べてしまったことと⋯⋯」

 女の子の言葉を聞き、マシロが俺の手から抜け出そうと暴れる。
 やはり抱っこしておいて正解だったな。

「ベッドで寝てしまったことです」

 女の子は謝罪してきたけど、何だか腑に落ちない。そもそもどうやって部屋に入ったのか。部屋には鍵がかけられているから、入ることは出来ないはず。そしてさっきも思ったが、何故ベッドで寝ていたか。食い逃げするつもりなら、ベッドで寝ているのはどう考えてもおかしい。
 それに気のせいかもしれないが、言葉遣いもそうだけど、何だか所作の一つ一つに気品を感じるのは気のせいか?

 船長に突き出すにしても理由は聞いておきたいな。

「お腹が減っていて、満腹になったから眠くなってベッドで寝てしまったということかな?」
「お腹が空いていたというのは事実ですが、全ては女神様の御心のままに」
「えっ?」

 なんか宗教染みたことを言ってきたな。もしかしてこの子は信仰者なのか?

「それはどういう意味なのかな?」
「女神様が夢で教えて下さったのです。夜中に船に乗船し、この部屋のクローゼットに隠れ、魚と肉が提供されたら食し、ベッドで寝れば救われると」

 え~と⋯⋯女神様が夢で? 何だかとんでもないことを言ってきたな。これが本当ならすごいことだけど。

 ん?

 マシロが俺の手を軽く引っ掻いてきた。
 そして視線を向けるとジェスチャーで、リビングに連れていけと言ってきた。

「ごめん。ちょっとここで待っててもらってもいいかな?」
「わかりました」

 俺はマシロを抱っこしたまま、ノアを引き連れてリビングへと向かう。
 そしてリビングに到着するとマシロが小声で話しかけてきた。

「あの女、ヤバイです。現実と夢が区別出来ていないのでは? 私はすぐに断罪すべきだと思います」

 確かに女神様が夢で神託をくれたなどおかしな話だ。だけど日本からきた俺にとってこの世界は、魔法があったり魔物がいたりと常識外なことばかりだ。だから神託を聞く能力があっても、不思議ではないと少し思っている。

「本当のことかも知れないですよ。女神様の声を聞くことが出来るなんてすごいなあ」

 マシロとは逆にノアは女の子の能力を信じているようだ。

「あなたはバカですか。そんなことでは悪徳業者に騙されて新鮮ではない魚を買わされてしまいますよ」
「でもあの方が嘘を言っているようには見えません。マシロさんにはどう見えますか?」
「そ、それは⋯⋯」

 どうやらマシロの印象でも、あの女の子は嘘を言ってないように見えるようだ。

「このような時にセレスティア様がいらっしゃれば真実を見抜いて下さるのに」
「そうですね。セレスティア様には相手の真実を見極める能力がありますから」
「それなら俺も出来るぞ」
「「えっ!」」

 突然二人が大声で驚いた声を上げる。隣の部屋にいる女の子に聞こえてしまうぞ。

「セレスティア様みたいに全てとは言えないけど、相手の能力とか称号くらいなら」
「ふふ⋯⋯う、嘘はダメですよ。セレスティア様と同じ力があるなんて」
「でもユートさんは神聖魔法が使えます。本当のことでは⋯⋯」
「とりあえず確認して見るよ」
「そうですね。ですが安心して下さい。出来なくても笑ったりしませんから。出来なくて当たり前なんです」

 マシロは疑り深いなあ。でも何もわからない可能性もあるからな。
 俺達は再び女の子がいる寝室へと戻る。

「今誰かとお話をされていましたか? 声が聞こえたので」
「いや、隣の部屋の人かなあ⋯⋯たぶん」

 やはりさっきの声は聞こえていたか。二人とも迂闊に声を出さないでもらいたい。
 とにかくまずはこの女の子を見てみるか。

真実の目ヴァールハイト

 俺はスキルを口にすると立体映像が目に映り、女の子の能力の詳細が見えてきた。
 だけどこれは⋯⋯

「えっ!」

 俺は女の子の能力を視て、思わず驚きの声を上げてしまうのであった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

処理中です...