異世界を裏から支配する~表舞台は信頼できる仲間に任せて俺は無能を装って陰で暗躍する~

マーラッシュ

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三人目の解放者

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 オルタンシアはアーホの攻撃を受け止めたことで、体勢も崩れている。
 コンマ数秒後には間違いなく死が訪れるだろう。

 だが!

「やらせない」

 俺は剣を受け止め、先程オルタンシアが食らったように、アーホの隙だけの腹部目掛けて蹴りを入れる。
 するとアーホを後方へと下げることに成功した。

「何奴!」
「貴様に名乗る名はない」

 今はアーホに構っている暇はない。
 俺は沈痛な面持ちをしているオルタンシアに視線を向ける。

「もう一度聞く⋯⋯手を貸すか?」
「わ、私の手で⋯⋯絶対に父の仇を!」

 ダメだ。オルタンシアはこの後に及んでまだ自分の手で決着をつけようとしている。
 その心意気は嫌いではないが頭に血が昇っているのか、アーホとの実力差もわかっていないようだ。
 仕方ない。ここは現実というのをわからせてやるとしよう。

「お前が今成さねばならないことはなんだ?」
「成さねばならないこと? それは⋯⋯父の仇を取ることです!」
「違うな」
「違わなくない! あなたに何がわかるのですか!」
「オルタンシアが成さねばならないことは、何を差し置いても⋯⋯どんな手段を使ってでもアーホに勝つことだ。今のお前では九十九%負けるぞ」
「それなら⋯⋯あなたと一緒に戦えば勝てるというのですか!」
「いや、戦うのはお前一人だ。俺が勝てる手段を授けてやる」
「本当ですか? 父の仇を討てるなら悪魔との契約だってしてみせます!」
「その言葉、忘れるなよ」

 俺はオルタンシアの唇に口づけをかわす。

「ななな、何を!」

 オルタンシアは突然の出来事に俺を突き放すが、俺は構わず再びキスをする。
 するとオルタンシアは抵抗をやめ、頬を赤らめて俺を受け入れた。
 初めて年相応の反応を示したな。その行動は可愛らしく見えるが今はじっくりと眺めている暇はない。

 オルタンシアの能力が解放され、俺達を中心に風が舞い上がる。

「こ、これは⋯⋯力が溢れてきます」
「その力を持ってアーホを倒せ。そしてあの手に持っている剣を奪い、俺の元へと届けてくれ」
「わかりました!」

 オルタンシアは勢いよく動き出し、手放した剣を拾う。その周囲には
 やはりそういうことか。俺は解放の能力を少しだけ理解することが出来た。

 さて、こっちはオルタンシアに任せて俺は元凶の方へと移動するか。そろそろ動きがありそうだ。

 俺は急ぎ闘技場の舞台へ向かう。
 すると黒い霧は、銅像があった場所を中心に集まり始めていた。

「くそっ! 忌々しい霧め! 私の邪魔をするな!」

 リシャールが何やら喚いているが、霧が濃くて何も見えない。しかしクーソとには霧がない。
 そしてリアとオルタンシアの二人もだ。
 おそらくだがクーソの剣を奪うため、隠れて隙を窺っているフローラの周囲にも霧はないはず。
 何故ならこの霧は闇の属性を持ち、俺達は聖なる加護を受けているからだ。
 俺は一度死んだ後、女神の力を使って転生したことで聖なる力を授かった。
 その俺の解放の力を受け取ったことで、リア、フローラ、オルタンシアも聖属性を得ることが出来たと考えられる。
 そしてアーホとクーソが持っている剣も、聖の属性を持っているため、周囲に黒い霧がないのだ。

 俺は二人が持っている剣を以前とある宝物庫で見たことがある。確か魔物を封印する力を持っていたはずだ。
 そのため二人が銅像を破壊して霧が発生した。その答えは一つしかない。

「あれ? 霧がなくなっていくぞ」
「今のうちに逃げろ!」

 そして観客達を覆っていた霧は完全に消え去り、全て銅像があった場所に集束した。

「霧がなければこちらのものだ。クーソよ、覚悟するがいい」
「覚悟するのはリシャール王子、あなたの方だ」
「なんだと!」
「さあ見るがいい! これがお前達王族を滅ぼす者だ!」

 クーソが高らかな宣言をすると、霧は空中で人の形をつかさどる。しかしその姿は黒いモヤがかかっており、ハッキリと認識することが出来ない。わかることといえば右手に大きな鎌を持ち、背中に壺を背負っていることくらいだ。

「まるで亡霊だな」

 だがその表現はある意味正しいだろう。何故なら⋯⋯

「それが貴様の秘密兵器というわけか。魔物ごとき、私が切り裂いてくれるわ!」
「やはり王族には何も伝わっていないようだ。この魔物をただの魔物だと思うなよ」

 クーソは不敵な笑みを浮かべる。

「これはかつて王国を混乱に陥れた⋯⋯ファントムマスターゼノスだ!」
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