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アンノウンVSシグルド
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「お待たせしました! それでは神武祭少年・少女の部決勝戦を初めます」
昼下がりの時間。
審判が高らかに宣言すると観客達は一斉に沸き立つ。
俺は周囲に目を向けると貴族が使用する観覧席には、リアとリシャール、そして二人の隣にはもう一人の姿があった。
「まさか神武祭に王族が三人も来られるとは」
「それだけ注目されている闘技大会ということじゃないか?」
そう。観客達の視線の先にはリアとリシャール、そしてセインの姿があった。
俺が昨日リアに命令したことは、セインをこの場に連れてくることだ。
セインが王になるためには、今日この場所で起こる出来事を利用しない手はない。
多少危険ではあるが、セインは後継者争いで遅れを取っているため、無理は承知で来てもらったのだ。
そして15時の鐘が鳴ると審判が舞台に上がる。
すると観客達の声がより一層大きくなった。
「決勝戦の舞台に立つのは、ここまで圧倒的な強さで勝ち続けてきたシグルドくん。シグルドくんは前回大会で準優勝だったため、今回は優勝が期待されます」
シグルドは手を上げて、観客席の声に答えながら舞台に上がる。
「そして対するは、一回戦から激闘を制して勝ち上がってきたアンノウンくん。下馬評ではシグルドくんが有利とされていますが、アンノウンくんはどこまで食い下がれるか見ものです」
そして俺も舞台へと上がる。
だが先程のシグルドと比べて歓声が明らかに少ない。
「決勝戦はシグルドくんの勝ちで間違いないでしょう」
「去年はオルタンシアさんがいなければ優勝だったからな」
「アンノウンくんは⋯⋯ここまで勝ち上がったのが不思議なくらいだ」
まあギリギリの戦いを繰り広げてきたから、誰もがそう思うのは当然だ。
それは俺の対戦相手であるシグルドも同じで、余裕の笑みを浮かべながら木剣を構える。
「君の戦いを見せてもらったが、俺に勝つことはできないぞ」
「⋯⋯⋯⋯」
「優勝してリア王女の祝福を受けるのは俺だ」
「⋯⋯⋯⋯」
「何か言ったらどうだ」
「⋯⋯余計なおしゃべりはしちゃいけないって言われてるんだ」
「なるほど。言葉は剣で語るというわけか」
そのようなことは一切考えていない。
だが勘違いしてくれたなら、これ以上喋らなくて済む。
そして俺も木剣を構える。
「それでは神武祭少年・少女の部決勝戦⋯⋯はじめ!」
審判が開始の合図をするが、シグルドは向かってこない。
先程の会話から自信家に見えたので、突撃してくると思ったが⋯⋯
「君は相手の攻撃をかわすのが上手かった。だからここは慎重に行かせてもらう」
どうやら俺の試合を見ていたというのは本当のようだ。これまでの試合は相手に攻めさせて、疲れた所を狙って勝ってきたからな。
だがこのままだと埒があかない。
観客達も互いに動かない俺とシグルドを見て、痺れを切らし始めている。
「早く攻めろ!」
「いつまでもにらめっこをしているんじゃないぞ!」
しかし罵声を受けてもシグルドは動く気配がない。
子供にしては冷静じゃないか。少しだけ見直したぞ。
それならこちらから行かせてもらうか。
「いやあ」
俺は気が抜けたような声を出し、シグルドの肩を狙って木剣を振り下ろす。
だがシグルドは軽々と木剣で俺の攻撃を受け止めた。
「やはり遅いな。何故この決勝の舞台までこれたのか理解できない。それなら!」
シグルドは俺の木剣を弾くと、次々と連続攻撃を放ってくる。
やはり子供だな。たった一振の剣を見てシグルドは勝てると踏んだようだ。
手を抜いている、実力を隠しているとは考えないか。
それに木剣を振るスピードは早いが、攻撃が素直過ぎる。目線で次に狙っている場所がバレバレだ。
右、左、右、頭、胴。
俺が読んだ所に攻撃が来るので、俺はわざとギリギリの所でかわす。
「な、何故当たらない!」
決勝まで残るくらいだから、どれほどの実力があるのか少しだけ期待したがこんなものか。
やはりこの神武祭で俺の目にかなうのは、オルタンシアしかいないようだ。
「はあ⋯⋯はあ⋯⋯俺は戦術を見余ったというのか」
シグルドは攻撃が当たらないことで焦り、肩で息をしている。
そろそろこの茶番を終わらせるか。
俺はシグルドの動きを先読みし、左側に向かって木剣をなぎ払う。
すると俺の右側に回り込もうとしたシグルドは、自ら木剣に当たりに行く形となり、胸部を負傷する。
「バ、バカな!」
そして信じられないといった表情で、胸を手で抑えながら片膝をついた。
いくら木剣とはいえ、まともに食らえば悶絶する痛みだろう。
「えっ? チャ、チャンスだ」
俺は偶然の出来事に驚いた演技をしながら、シグルドの右肩に向かって木剣を振り下ろす。
するとシグルドは胸部の痛みで動くことが出来なかったため、俺は寸止めで止める。
「くっ! 俺の⋯⋯敗けだ」
そしてシグルドが敗北を認めたため、神武祭少年・少女の部の優勝者がアンノウンに決定するのであった。
昼下がりの時間。
審判が高らかに宣言すると観客達は一斉に沸き立つ。
俺は周囲に目を向けると貴族が使用する観覧席には、リアとリシャール、そして二人の隣にはもう一人の姿があった。
「まさか神武祭に王族が三人も来られるとは」
「それだけ注目されている闘技大会ということじゃないか?」
そう。観客達の視線の先にはリアとリシャール、そしてセインの姿があった。
俺が昨日リアに命令したことは、セインをこの場に連れてくることだ。
セインが王になるためには、今日この場所で起こる出来事を利用しない手はない。
多少危険ではあるが、セインは後継者争いで遅れを取っているため、無理は承知で来てもらったのだ。
そして15時の鐘が鳴ると審判が舞台に上がる。
すると観客達の声がより一層大きくなった。
「決勝戦の舞台に立つのは、ここまで圧倒的な強さで勝ち続けてきたシグルドくん。シグルドくんは前回大会で準優勝だったため、今回は優勝が期待されます」
シグルドは手を上げて、観客席の声に答えながら舞台に上がる。
「そして対するは、一回戦から激闘を制して勝ち上がってきたアンノウンくん。下馬評ではシグルドくんが有利とされていますが、アンノウンくんはどこまで食い下がれるか見ものです」
そして俺も舞台へと上がる。
だが先程のシグルドと比べて歓声が明らかに少ない。
「決勝戦はシグルドくんの勝ちで間違いないでしょう」
「去年はオルタンシアさんがいなければ優勝だったからな」
「アンノウンくんは⋯⋯ここまで勝ち上がったのが不思議なくらいだ」
まあギリギリの戦いを繰り広げてきたから、誰もがそう思うのは当然だ。
それは俺の対戦相手であるシグルドも同じで、余裕の笑みを浮かべながら木剣を構える。
「君の戦いを見せてもらったが、俺に勝つことはできないぞ」
「⋯⋯⋯⋯」
「優勝してリア王女の祝福を受けるのは俺だ」
「⋯⋯⋯⋯」
「何か言ったらどうだ」
「⋯⋯余計なおしゃべりはしちゃいけないって言われてるんだ」
「なるほど。言葉は剣で語るというわけか」
そのようなことは一切考えていない。
だが勘違いしてくれたなら、これ以上喋らなくて済む。
そして俺も木剣を構える。
「それでは神武祭少年・少女の部決勝戦⋯⋯はじめ!」
審判が開始の合図をするが、シグルドは向かってこない。
先程の会話から自信家に見えたので、突撃してくると思ったが⋯⋯
「君は相手の攻撃をかわすのが上手かった。だからここは慎重に行かせてもらう」
どうやら俺の試合を見ていたというのは本当のようだ。これまでの試合は相手に攻めさせて、疲れた所を狙って勝ってきたからな。
だがこのままだと埒があかない。
観客達も互いに動かない俺とシグルドを見て、痺れを切らし始めている。
「早く攻めろ!」
「いつまでもにらめっこをしているんじゃないぞ!」
しかし罵声を受けてもシグルドは動く気配がない。
子供にしては冷静じゃないか。少しだけ見直したぞ。
それならこちらから行かせてもらうか。
「いやあ」
俺は気が抜けたような声を出し、シグルドの肩を狙って木剣を振り下ろす。
だがシグルドは軽々と木剣で俺の攻撃を受け止めた。
「やはり遅いな。何故この決勝の舞台までこれたのか理解できない。それなら!」
シグルドは俺の木剣を弾くと、次々と連続攻撃を放ってくる。
やはり子供だな。たった一振の剣を見てシグルドは勝てると踏んだようだ。
手を抜いている、実力を隠しているとは考えないか。
それに木剣を振るスピードは早いが、攻撃が素直過ぎる。目線で次に狙っている場所がバレバレだ。
右、左、右、頭、胴。
俺が読んだ所に攻撃が来るので、俺はわざとギリギリの所でかわす。
「な、何故当たらない!」
決勝まで残るくらいだから、どれほどの実力があるのか少しだけ期待したがこんなものか。
やはりこの神武祭で俺の目にかなうのは、オルタンシアしかいないようだ。
「はあ⋯⋯はあ⋯⋯俺は戦術を見余ったというのか」
シグルドは攻撃が当たらないことで焦り、肩で息をしている。
そろそろこの茶番を終わらせるか。
俺はシグルドの動きを先読みし、左側に向かって木剣をなぎ払う。
すると俺の右側に回り込もうとしたシグルドは、自ら木剣に当たりに行く形となり、胸部を負傷する。
「バ、バカな!」
そして信じられないといった表情で、胸を手で抑えながら片膝をついた。
いくら木剣とはいえ、まともに食らえば悶絶する痛みだろう。
「えっ? チャ、チャンスだ」
俺は偶然の出来事に驚いた演技をしながら、シグルドの右肩に向かって木剣を振り下ろす。
するとシグルドは胸部の痛みで動くことが出来なかったため、俺は寸止めで止める。
「くっ! 俺の⋯⋯敗けだ」
そしてシグルドが敗北を認めたため、神武祭少年・少女の部の優勝者がアンノウンに決定するのであった。
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