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神武祭開催

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「えっ? えっ? 受付をしたのはユウトさんということは⋯⋯参加するのは私じゃない!?」
「そうだ。そもそもフローラは事前に神武祭の参加申請をしていないだろ?」
「よ、よかったです。もう驚かせないで下さいよ」
「俺は一言も神武祭に出ろとは言ってないぞ」
「けど昨日は、オルタンシアさんと戦ってみるか的なことを言っていたじゃないですか。けどあれ? ユウトさんは大人の部に参加するのですか?」
「いや、少年・少女の部だが。12歳の俺が13歳以上の大人の部に出れるはずがないじゃないか」
「何ですかそれは! 弱いものいじめがしたいんですか! ユウトさんが出るなんて反則です鬼畜です!」
「人聞きの悪いことをいうな。別にルールは破っていない」

 心は大人だが、身体は子供だからな。

「神武祭に出る子供達が可哀想です。ユウトさんに蹂躙されるなんて⋯⋯」
「少年は高い壁にぶつかることで成長するんだ」
「逆に挫折すると思いますが⋯⋯」

 まあその可能性も否定はできないがな。
 だが俺の目的のために、今回は子供達には泣いてもらおう。
 それに⋯⋯

「おら、どきやがれ! アーホ様のお通りだ!」

 突然辺りが騒がしくなり視線を向けると、三人の男達ときらびやかな装飾品を身につけた若い男の姿があった。

 こいつらは⋯⋯オルタンシアを襲った暴漢者達だ。やはりアーホの関係者だったか。

 受付に並んでいる人達は貴族のアーホのことを知っているのか、前を譲る。

「どうぞアーホ様」
「うむ、ご苦労」

 アーホは手早く受付を済ませる。

「ここはドブネズミの匂いがするな。早くVIP席に向かうぞ」
「承知しました」

 そしてアーホ達一行は周囲を威圧しながら、闘技場の中へと入っていった。

 これは⋯⋯アーホがとても恥ずべき者だということがわかった。
 取り巻きを引き連れて受付の順番を抜かし、辺りにいる者達を蔑む。
 もし現代なら、TPOをわきまえない奴としてネットに晒されるだろう。
 これはダインがバカダ家にクーソとアーホのことで、苦言を呈しにきたというのは間違いなさそうだ。
 これでより一層、クーソとアーホが父親の殺害に関わっていた疑惑が強まったな。

「あの方は貴族ですかね」
「そうだな。アーホの父親はオルタンシアの父親に殺されたんだ」
「えっ! そうなんですか! なるほど⋯⋯それでグレてあんな風になってしまったんですね」
「いや、たぶん初めから性根が腐っていたんだろう」

 例え父親が殺されたとしても真っ当に生きている者はいる。だからといって何をしてもいいとは限らない。こういう奴に限って権力を持っているから腹が立つな。

「ちょっとあなたどいて下さらないかしら」
「そうだぞ! 未来の大貴族で準男爵家の僕の邪魔をするなんていい度胸だね」

 そして今度は太めのおばさんと生意気そうな子供が背後から現れた。


「聞こえていないの? 言葉が通じてないのかしら? これだから素養のないガキは嫌ですわ」
「おい! 貴様! 僕のママがどけと言ってるんだぞ!」

 ん? どうやら俺達に言ってるようだ。
 正直な話、この自分勝手な奴らの言うことを聞くのはシャクだが、目立ちたくないので、ここは素直に道を譲る。

「ふん! さっさとどけよ」
「フードを被って怪しい子供だわ。もしかして神武祭に出場するのかしら」

 俺はおばさんの言葉に頷く。

「それならこのオロカ家の長男である、モーノ様の剣の錆にしてやるよ」
「ボクちゃんの活躍が今から楽しみだわ」

 そして高笑いをしながらこの場を立ち去るのであった。
 準男爵はいわば平民だ。貴族でもないのによくあそこまで偉そうに出来るな。今の様子を見ていると、もしあの二人が本当に貴族にでもなったら、権力を振りかざすことは間違いだろう

「ちょっと何なんですかあの人達は!」

 フローラは傍若無人なアーホ達が現れ、次に横柄なオロカ家の者が現れたことで憤慨しているようだ。

「あんな人達はユウトさんにこてんぱんにされればいいんです!」
「それはどうかな?」
「えっ? それはどういうことですか? まさかあのモーノという人はかなりの強者だということですか?」
「それは自分の目で確かめてくれ」
「わ、わかりました」

 そして俺達は闘技場の中へと向かう。
 闘技場にはいってまず目に入ったのが、舞台袖にある騎士の姿をした銅像だ。手には剣が握られており、俺の身長の五倍はあるな。
 そして観客席は既に満員で、この神武祭がとても注目されていることがわかる。

「この日が楽しみで昨日は眠れなかったぜ」
「今回はどんな強者が現れるか」
「毎年王族の誰かが観戦に来るらしいが、今回は――」

 だが闘技場の高い位置は人がまばらだ。おそらくあそこは貴族用の席だろう。
 そしてその貴族席から、こちらに向かって手を振ってくる者がいた。

「ユ、ユウトさん⋯⋯あれって⋯⋯」

 よくもまあこの人の多さの中で見つけたものだ。

「リアさ⋯⋯リシアンサス王女ですよ!」

 そう。俺達に向かって手を振ってきたのはリアだった。そしてフローラもリアに向かって手を振り返す。
 やれやれ。俺とリアが親密な関係だということは公にして欲しくないんだが。
 しかしリアは観客に手を振っているようにも見える。おそらく本人もそれがわかってやっているのだろう。

 リアのお茶目な行為はとりあえず見なかったことにしよう。
 何せ隣には、鋭い目付きでリアに視線を送る者がいるからな。

「リシャール王子か⋯⋯」

 リアにとっては気の休まる暇もないな。予めここに来ることは聞いていたが⋯⋯この神武祭で何か仕掛けてくると考えた方がいいだろう。

「皆の者静まれ!」

 リシャール王子が声を上げると辺りが一瞬で静寂を取り戻す。

「今日この日は、100年前にバカダ家の先祖が命をかけてファントムマスターゼノスを封印した日。ゼノスは我が国の半数の民を虐殺した最悪な魔物だ。この神武祭はゼノスのような脅威から、王国を守護する強者を探すための大会でもある。今日の神武祭から王国を担う英雄が生まれることを私は切に願う。さあ英雄達よ剣を取れ! これより神武祭の開催だ!」

 リシャールがそう宣言すると、周囲からは割れんばかりの歓声が上がるのだった。
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