異世界を裏から支配する~表舞台は信頼できる仲間に任せて俺は無能を装って陰で暗躍する~

マーラッシュ

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ユウトの目的

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 そして時は現在に戻る。
 リシアンサス王女の言葉通り、俺は様々な能力を解放し強化することが出来る。自分はもちろんのこと他者も強化できる力で、弱点らしい弱点はない。強いて言うなら強化は永久的ではなく、持続時間が24時間だということくらいか。

「そうですね。あなたの仰る通り、今私の身体には力が漲っています」
「だがそれはあくまで能力がアップしているだけで、剣や魔法を使う技術が高くなったら訳ではない。本当の力を手にするためにはこれから訓練が必要だ」
「承知しました」
「俺の指導は厳しいぞ」
「覚悟は出来ています」

 リシアンサス王女の目に生気が戻ってきたな。失うものがない彼女ならこれからどんな困難にも立ち向かって行けそうだ。

「1つだけよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「御存知だと思いますが私はリシアンサス・フォン・エルスリア。あなたのお名前を教えて頂けないでしょうか?」
「俺はユウトだ」
「ユウト様⋯⋯ですね」
「王女⋯⋯あなたのことはリアと呼ばせてもらおう」
「承知しました。ユウト様」

 こうして俺は異世界を裏から支配するために、王女であるリアを仲間に引き入れることに成功するのであった。

「リア、この場は通りすがりの旅人が助けてくれたということにしろ。幸いにも御者は気絶しているだけだから、目覚めれば馬車を走らせることができるはずだ」

 もし悪漢から王女を救ったことが知られれば、今回の黒幕は必ず俺を危険人物としてマークするだろう。そうなると今後裏で動けなくなるため、今はまだ表の舞台に上がるつもりはない。

「ユウト様はどうするのですか?」
「まだリアを狙う残党がいるかもしれない。気配を消して馬車の後ろからついていってやるから安心しろ」
「ありがとうございます」
「近いうちに必ず会いに行く。そしてしばらくは母親を失い、突然暗殺者に襲われて人間不信になった少女を演じるんだ」

 悲劇のヒロインを演じれば世間から同情されるだろうが、目立てばそれだけまた命を狙われる可能性がある。今は堪え忍ぶ時だ。

「うう⋯⋯」

 馬車の近くで気絶していた御者がうめき声を上げていた。そろそろ目が覚めるようだ。

「それじゃあ俺は行く」
「はい。またお会いできる時をお待ちしています」
「今夜にでも会いに行くさ」

 そして俺はリアに別れを告げてこの場から離脱する。
 すると御者が意識を取り戻し、リアと共に馬車を使って王都へと向かうのだった。

 さてと。リシアンサス王女とのファーストコンタクトは上々だ。思っていた以上に、彼女の心は壊れそうになっていた。
 後は母親を殺害した犯人を見つけることが出来れば、リアは俺の良き仲間となってくれるだろう。
 俺は頭の中で、これから王女をどう護っていくかの算段をつけながら、馬車の後をついていく。

 そしてリアが無事に王都へと到着した深夜。
 俺は王城の外壁からリアの部屋へと向かっていた。
 深夜にもかかわらず、以前より警備の人数が倍近く増えている。
 王女が襲われたから仕方ないと言えば仕方ないな。
 だが俺から見れば、まだまだ警備に穴がある。その証拠に、地上には人がたくさんいるが、城の外壁部分は手薄になっていた。それに巡回のルートが規則正しいため、タイミングを見計らえば侵入は容易いだろう。もしかしたらリアのことなどどうでもいいと思っているのか? それとも警備の人数が増えたことによって逆に油断しているのかもしれない。
 しかし俺に取っては都合がいいので、外壁を軽やかに進んで行き、リアの部屋へと向かう。
 実は下見がてら、何度かこの王城には忍び込んだことがあるので、目ぼしい者達の部屋は把握済みだ。
 そしてリア王女の部屋の前までたどり着くと、俺はガラスの窓をノックする。
 すると窓が開いたため、俺は部屋の中へと侵入する。

「お待ちしていました。すぐに温かい飲み物を御用意致します」
「いや、時間がないから気を使わなくていい。それより何か変わったことはあったか?」
「お父様と弟のセインが心配してお見舞いに来て下さいました」

 国王には今、第1王妃と第3王妃、そして王子が4人、リアを含めて王女が2人いるはずだ。普通は家族が命の危機に陥ったら心配で様子を見に来るものだが、やはり王族内では王位継承問題があるため、相当仲が悪いことがわかる。

「そうか。それでリアの望みは母親の仇を取ること。それで間違いないな?」
「それが私の悲願です。私もユウト様にお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「許可しよう」
「ユウト様の目的とは何でしょうか?」
「目的はこの世の悪を始末するためだ。そのためにもリアにはこの国の権力を使える立場になって欲しい」
「わ、私がですか!? 私は王位継承権も低いのでユウト様の御期待に答えられるかどうか⋯⋯」
「それならこれから俺の力で、リアが実績を作れるようにしてやろう。もしくは王族内に信頼をおける者がいるなら、俺が支援してやる」
「それでしたら弟のセインを王位に就かせたいです。セインは聡明で優しい子です。きっとエルスリアを良き方向へと導いてくれます」

 セイン王子か。リアと同じ様に王位継承権は低い存在だな。しかしセイン王子は11歳。まだ周囲の影響を受けやすい子供というのが気に入った。リアと同様に、今のうちから思想を植え付けていけば、俺の力になるかもしれないな。

「だがあくまで俺が支援するのはリアだ。俺が授けたものをリアからセイン王子へと渡すがいい」
「わかりました。ありがとうございます」
「そしてまずは国王に献上品を送りたいのだが、リアはお抱えの商人や工房を持っていたりするのか?」
「いえ、私は城の外の方とはほとんど関わりがないため、お付き合いがある商家はありません」
「わかった。ではこちらで探すとしよう」

 出来ればリアのように世俗に汚れきっていない者が理想だが、商人となると難しいかもしれない。子供の商人など普通はいないからな。商家の子供を狙ってアプローチをかけるか、もしくは俺の考えに同調してくれる大人を探すしかないだろう。

「ユウト様、私はこれから何をすればよろしいでしょうか?」
「本当は戦う方法を直接俺から指導したいところだが、現状それは難しい」

 自分で言うのも何だけど、俺のように胡散臭い者に対して入城許可を出すことはないだろう。

「もう既にいるかもしれないが、最低限身体が動かせるように護身術の指南役を就けてもらってくれ」
「すぐにお父様にお願いしてみます」
「では夜も更けてきたので俺は行く。定期的にここには来るので、わからないことがあればその都度言ってくれ」
「わかりました」

 俺はリアが頷くのを確認した後、警備の兵士の目を掻い潜り、闇夜へと消えていくのだった。

 そしてリアを暗殺者から救った翌日。
 俺は王都にある商店街へと向かっていた。
 周囲には食糧、雑貨、アクセサリーなどの店が多くあるため、買い物好きの主婦であれば、1日楽しめることが出来るだろう。
 この日の午前は色々な商店を回り店員と話をしたが、誰も俺の仲間にしたいと思う人材はいなかった。
 まあ焦っても仕方ないし、変な奴に俺の目的を話す訳にもいかないから、これは気長にやるしかないな。
 やはりここは無垢な商家の子供をターゲットにして、ゆっくりと俺の思想に誘導していくのが得策かもしれない。
 そして今日は収穫がないと判断し、昼食でも食べに行こうかと思い始めた時。

「まだ発注が終わってないのか! 昼休憩なしでやっておけ!」

 突然商店の中から怒号が聞こえたので、俺は気になって様子を見ることにした。
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