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入学試験(8)
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「そこまでよ!」
突然妙齢な女性が声を上げて模擬戦に乱入してきた。
「シズル、何故あなたがここにいるのか、説明してくれないかしら」
そして美しい声でシズルさんを問い詰める。
「わ、私も教員の一人だ。ここにいてもおかしくはないだろ?」
「おかしいわね。私が決めた試験官の配置に、シズルは入っていなかったと思うけど」
「あ~⋯⋯試験官が腹が痛いって言ってたから変わったんだ」
「シズル様、私は体調不良ではありません」
本当は俺と戦うはずだった試験官が声を上げる。
シズルさんは何ですぐバレるような嘘をつくんだ。
とりあえず今のやり取りで、あの女性がシズルさんより上の立場だということはわかった。
「とにかくあなたの個人的な趣向に受験生を付き合わせないで」
「わかったわかった。退散すればいいんだろ」
どうやら俺は助かったようだ。あのまま戦っていたら百パーセント負けていただろう。
「六百六十六番の試験はどうしましょうか?」
「やるまでもないわ。ユートくんは拳聖を相手に素手でこれだけ持ちこたえたのよ。本や岩を使った策も素晴らしかったし、何より諦めない心が気に入ったわ」
こ、この人⋯⋯シズルさんに苦言を呈していたけど、自分も止めずに見てたんじゃないか。どうせなら模擬戦をする前に止めてほしかった。
「それじゃあ邪魔したわね。シズル、行くわよ」
「痛い痛い! 耳を引っ張らないでくれ」
そして女性はシズルさんの耳を掴み、引きずるようにしてこの場を去っていく。
周囲は突然の出来事に呆然としている。
嵐のような人達だったな。
ん? そういえばあの人は何で俺の名前を知ってたんだ? 受験票でも見たのかな?
まあ気になるけど考えてもしょうがないか。
「あの⋯⋯僕はもう下がってもいいですか?」
「あ、ああ⋯⋯では次は受験番号三十九番――」
そして再び試験が始まっていく。
俺はもう出番がないので、訓練所の隅へと向かうが。
「ちょっとあの子やばくない?」
「シズル様と戦って生き残ったぞ」
「私なんて途中まであの子が勝つと思ったわ」
何だかトールに勝った時より、噂されているような気がする。正直居心地が悪いぞ。
だけどこの場を離れる訳にも行かないから、ここで待つしかない。俺は好奇の目に晒されながら模擬戦を観戦する。
そして次々と模擬戦が始まり一時間程経った後、試験は終了となった。
「これで試験は終わりだ。合否については明日の朝学園の入口に張り出す。以上だ。解散!」
試験官の終了の合図で受験生はこの場を去っていく。
さて、ルリシアさんと合流して宿に帰るか。
俺も受験生達と共に訓練所を出ていく。すると出口付近で何やら人垣のようなものが出来ていた。
「あの子メチャクチャ可愛くないか」
「だけどどこかで見たことがあるような⋯⋯」
「あっ! ヴィンセント帝国のルリシア皇女だ! 俺、何度か見たことがあるから間違いない」
ルリシアさん? もしかして迎えに来てくれたのか?
俺は少し早歩きで出口に向かうと、そこにはやはりルリシアさんの姿があった。
「ユートくん!」
ルリシアさんは俺の姿を見つけると、小走りで近寄ってきた。
そして手を広げると、いつものに抱きしめてくる。
「ユートくん試験はどうだった? 私、頑張ったよ。だから御褒美にいっぱいギュッとしてね」
いや、もう俺が抱きしめられているから。
それに周りの視線が痛い。
ただでさえシズルさんと戦って注目されているのに、さらに視線が集まってしまった。
「ルリシアさん、ここじゃ人が多いから」
「あっ!」
もうこれ以上目立ちたくない。
俺はルリシアさんの手を引いて、逃げるようにこの場から立ち去る。
そして俺達は宿に泊まり夜が明けた。
翌日早朝。俺達は試験結果を確認するために、ブレイヴ学園の入口にいた。
突然妙齢な女性が声を上げて模擬戦に乱入してきた。
「シズル、何故あなたがここにいるのか、説明してくれないかしら」
そして美しい声でシズルさんを問い詰める。
「わ、私も教員の一人だ。ここにいてもおかしくはないだろ?」
「おかしいわね。私が決めた試験官の配置に、シズルは入っていなかったと思うけど」
「あ~⋯⋯試験官が腹が痛いって言ってたから変わったんだ」
「シズル様、私は体調不良ではありません」
本当は俺と戦うはずだった試験官が声を上げる。
シズルさんは何ですぐバレるような嘘をつくんだ。
とりあえず今のやり取りで、あの女性がシズルさんより上の立場だということはわかった。
「とにかくあなたの個人的な趣向に受験生を付き合わせないで」
「わかったわかった。退散すればいいんだろ」
どうやら俺は助かったようだ。あのまま戦っていたら百パーセント負けていただろう。
「六百六十六番の試験はどうしましょうか?」
「やるまでもないわ。ユートくんは拳聖を相手に素手でこれだけ持ちこたえたのよ。本や岩を使った策も素晴らしかったし、何より諦めない心が気に入ったわ」
こ、この人⋯⋯シズルさんに苦言を呈していたけど、自分も止めずに見てたんじゃないか。どうせなら模擬戦をする前に止めてほしかった。
「それじゃあ邪魔したわね。シズル、行くわよ」
「痛い痛い! 耳を引っ張らないでくれ」
そして女性はシズルさんの耳を掴み、引きずるようにしてこの場を去っていく。
周囲は突然の出来事に呆然としている。
嵐のような人達だったな。
ん? そういえばあの人は何で俺の名前を知ってたんだ? 受験票でも見たのかな?
まあ気になるけど考えてもしょうがないか。
「あの⋯⋯僕はもう下がってもいいですか?」
「あ、ああ⋯⋯では次は受験番号三十九番――」
そして再び試験が始まっていく。
俺はもう出番がないので、訓練所の隅へと向かうが。
「ちょっとあの子やばくない?」
「シズル様と戦って生き残ったぞ」
「私なんて途中まであの子が勝つと思ったわ」
何だかトールに勝った時より、噂されているような気がする。正直居心地が悪いぞ。
だけどこの場を離れる訳にも行かないから、ここで待つしかない。俺は好奇の目に晒されながら模擬戦を観戦する。
そして次々と模擬戦が始まり一時間程経った後、試験は終了となった。
「これで試験は終わりだ。合否については明日の朝学園の入口に張り出す。以上だ。解散!」
試験官の終了の合図で受験生はこの場を去っていく。
さて、ルリシアさんと合流して宿に帰るか。
俺も受験生達と共に訓練所を出ていく。すると出口付近で何やら人垣のようなものが出来ていた。
「あの子メチャクチャ可愛くないか」
「だけどどこかで見たことがあるような⋯⋯」
「あっ! ヴィンセント帝国のルリシア皇女だ! 俺、何度か見たことがあるから間違いない」
ルリシアさん? もしかして迎えに来てくれたのか?
俺は少し早歩きで出口に向かうと、そこにはやはりルリシアさんの姿があった。
「ユートくん!」
ルリシアさんは俺の姿を見つけると、小走りで近寄ってきた。
そして手を広げると、いつものに抱きしめてくる。
「ユートくん試験はどうだった? 私、頑張ったよ。だから御褒美にいっぱいギュッとしてね」
いや、もう俺が抱きしめられているから。
それに周りの視線が痛い。
ただでさえシズルさんと戦って注目されているのに、さらに視線が集まってしまった。
「ルリシアさん、ここじゃ人が多いから」
「あっ!」
もうこれ以上目立ちたくない。
俺はルリシアさんの手を引いて、逃げるようにこの場から立ち去る。
そして俺達は宿に泊まり夜が明けた。
翌日早朝。俺達は試験結果を確認するために、ブレイヴ学園の入口にいた。
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