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入学試験(3)
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俺も他の受験生と同じ様に問題用紙を捲る。
さて、試験の内容はどんなものか。
この世界の一般的な試験内容は算術、国語、歴史、一般教養だ。物理や化学に関してはかなり遅れており、試験に出せるものではない。
正直な話、三十二年生きた俺に取っては難しいものではないはず。
俺はざっと問題文を見てみるが、やはり今の俺に取って簡単なものばかりだった。
とりあえず時間制限もあるし早く終わらそう。
俺は集中して問題を解き始める。
刻々と時が流れていく。
そして問題が解き終わる頃には、一時間半経過していた。
さすがに百問は結構きついな。
それに最後の問題だけやたら難しように感じたけど気のせいだろうか。
とにかく後三十分で問題を見直すとしよう。
俺はもう一度問題文を読み、解答が間違っていないか、解答欄からずれていないか確認するのだった。
「そこまで」
試験官の終了の合図が部屋に響き、筆記試験は終了となった。
手応えは悪くない。これなら筆記試験は問題なく突破出来そうだ。
「何だその顔は。筆記の試験は上手くいったって顔だな」
「そうかもしれませんね」
トールが懲りずにまた話しかけてきた。
もうこちらには関わらないでほしい。
「知ってるか? 実技試験は隣の席同士で模擬戦を行うんだ。負けたら不合格という訳じゃないが、手も足も出せずに敗北したら試験官はどう思うかな?」
「それはトールさんのことを言ってるんですか?」
「このガキ⋯⋯言うじゃないか。俺は努力が無駄になる瞬間を見るのが好きなんだ。一年間頑張って頑張って試験に挑み、落ちた時の顔といったら最高すぎてイッてしまいそうだぜ。だからこれまでわざと試験に落ちて、お前みたいな新人を蹴落として来たんだよ」
飴を渡してきた時から思っていたけど、こいつは最悪な奴だな。よくそんなことに労力を使えるものだ。
「だが今年は最後の年だからなあ。合格するためにお前を容赦なく叩き潰してやるよ」
「そうですか。でも一つだけ勘違いしているよ」
「どういうことだ」
「僕はこの試験のための勉強は一週間しかしてないから。だから試験に落ちても、絶望する表情は見せられないかもしれないよ」
「まさか本当に記念受験で来たのか。だがまあいい。さっき恥をかかされた分の恨みを込めて、お前の相手をしてやるよ」
「もしかしたらまた恥をかくかもしれないよ」
「出来るものならやってみな」
そう宣言するとトールは教室から出ていく。
やれやれ、とんでもない奴がブレイヴ学園の試験を受けているな。
もし万が一トールが合格し、将来国の中枢で仕事をするようになったら、とんでもないことになるぞ。
こんなに歪んでいる奴がそれなりの地位についてしまったら、戦争も起きかねない。
これは三国の平和のために、ここで叩き潰しておいた方がいいな。
俺はトールとの模擬戦を全力で戦うことを誓うのだった。
トールと別れた後。
俺は試験官の案内で、室内の訓練所へと来ていた。
どうやらブレイヴ学園には室内訓練所が十施設あり、室外には大きな闘技場があるらしい。
まあ千人の試験をやるなら、これぐらいのキャパがないと無理だろう。
「ではこれより実技試験の模擬戦を行う。名前を呼ばれた者は前に出てくるように。武器を使う場合は刃を潰したものを使ってもらう。そして模擬戦で勝利した者は、我々試験官との戦いとなる。まずは⋯⋯」
「試験官、質問よろしいでしょうか?」
試験官の話の途中でトールが割り込んできた。
「試験は全力でやってもいいんですよね?」
「もちろんだ。我々は模擬戦での君達の動きを見て点数をつけている」
「もし全力でやって相手を殺してしまった場合はどうなるんですか?」
「それは不幸な事故として処理される。だから気にせず全力で模擬戦を行うがいい」
「わかりました。ありがとうございます」
「一応勝負がついたと判断すれば、こちらで模擬戦を止めるつもりだ。今の話を聞いて怖じ気づいた者がいたら模擬戦を辞退するか、早めに降参をするんだな」
人の命を奪っても事故で処理されるのか。ここはとんでもない所だな。
だけどそれでも辞退する者は一人もいない。それだけブレイヴ学園卒業という証は魅力的なのだろう。
「それではまずは――」
受験生が次々と呼ばれて模擬戦を行っていく。
誰もが真剣に取り組み、どうしても合格するんだという気迫がこちらにも伝わってくる。
そのような中、人を妨害して落ちて悔しがる姿を愉悦としてるこいつは許せないな。
「何の用?」
「さっきの試験官の話を聞いて、模擬戦を辞退されたら困ると思ってな」
「そんなことしないよ。それよりトールさんが試験に落ちる心配をした方がいいんじゃないかな」
「そんなことは百パーセントあり得ない。筆記試験は高得点で間違いないし、模擬戦の相手はガキだからな」
トールは自信満々の表情をしている。自分は絶対に試験に落ちることはないって顔をしているな。
「あなたに忠告しておく。去年合格しなかったことを後悔させてあげるよ」
「それなら俺は、今年試験を受けたことを後悔させてやるよ」
俺とトールの視線が合い、火花か飛び散る。
「次は受験番号六百六十六番と五十七番前に出ろ」
俺とトールは試験官に呼ばれたので、指定の場所へと移動する。
「準備はいいな。それでは⋯⋯始め!」
そして審判が開始の合図をすると、世界の時が止まるのであった。
さて、試験の内容はどんなものか。
この世界の一般的な試験内容は算術、国語、歴史、一般教養だ。物理や化学に関してはかなり遅れており、試験に出せるものではない。
正直な話、三十二年生きた俺に取っては難しいものではないはず。
俺はざっと問題文を見てみるが、やはり今の俺に取って簡単なものばかりだった。
とりあえず時間制限もあるし早く終わらそう。
俺は集中して問題を解き始める。
刻々と時が流れていく。
そして問題が解き終わる頃には、一時間半経過していた。
さすがに百問は結構きついな。
それに最後の問題だけやたら難しように感じたけど気のせいだろうか。
とにかく後三十分で問題を見直すとしよう。
俺はもう一度問題文を読み、解答が間違っていないか、解答欄からずれていないか確認するのだった。
「そこまで」
試験官の終了の合図が部屋に響き、筆記試験は終了となった。
手応えは悪くない。これなら筆記試験は問題なく突破出来そうだ。
「何だその顔は。筆記の試験は上手くいったって顔だな」
「そうかもしれませんね」
トールが懲りずにまた話しかけてきた。
もうこちらには関わらないでほしい。
「知ってるか? 実技試験は隣の席同士で模擬戦を行うんだ。負けたら不合格という訳じゃないが、手も足も出せずに敗北したら試験官はどう思うかな?」
「それはトールさんのことを言ってるんですか?」
「このガキ⋯⋯言うじゃないか。俺は努力が無駄になる瞬間を見るのが好きなんだ。一年間頑張って頑張って試験に挑み、落ちた時の顔といったら最高すぎてイッてしまいそうだぜ。だからこれまでわざと試験に落ちて、お前みたいな新人を蹴落として来たんだよ」
飴を渡してきた時から思っていたけど、こいつは最悪な奴だな。よくそんなことに労力を使えるものだ。
「だが今年は最後の年だからなあ。合格するためにお前を容赦なく叩き潰してやるよ」
「そうですか。でも一つだけ勘違いしているよ」
「どういうことだ」
「僕はこの試験のための勉強は一週間しかしてないから。だから試験に落ちても、絶望する表情は見せられないかもしれないよ」
「まさか本当に記念受験で来たのか。だがまあいい。さっき恥をかかされた分の恨みを込めて、お前の相手をしてやるよ」
「もしかしたらまた恥をかくかもしれないよ」
「出来るものならやってみな」
そう宣言するとトールは教室から出ていく。
やれやれ、とんでもない奴がブレイヴ学園の試験を受けているな。
もし万が一トールが合格し、将来国の中枢で仕事をするようになったら、とんでもないことになるぞ。
こんなに歪んでいる奴がそれなりの地位についてしまったら、戦争も起きかねない。
これは三国の平和のために、ここで叩き潰しておいた方がいいな。
俺はトールとの模擬戦を全力で戦うことを誓うのだった。
トールと別れた後。
俺は試験官の案内で、室内の訓練所へと来ていた。
どうやらブレイヴ学園には室内訓練所が十施設あり、室外には大きな闘技場があるらしい。
まあ千人の試験をやるなら、これぐらいのキャパがないと無理だろう。
「ではこれより実技試験の模擬戦を行う。名前を呼ばれた者は前に出てくるように。武器を使う場合は刃を潰したものを使ってもらう。そして模擬戦で勝利した者は、我々試験官との戦いとなる。まずは⋯⋯」
「試験官、質問よろしいでしょうか?」
試験官の話の途中でトールが割り込んできた。
「試験は全力でやってもいいんですよね?」
「もちろんだ。我々は模擬戦での君達の動きを見て点数をつけている」
「もし全力でやって相手を殺してしまった場合はどうなるんですか?」
「それは不幸な事故として処理される。だから気にせず全力で模擬戦を行うがいい」
「わかりました。ありがとうございます」
「一応勝負がついたと判断すれば、こちらで模擬戦を止めるつもりだ。今の話を聞いて怖じ気づいた者がいたら模擬戦を辞退するか、早めに降参をするんだな」
人の命を奪っても事故で処理されるのか。ここはとんでもない所だな。
だけどそれでも辞退する者は一人もいない。それだけブレイヴ学園卒業という証は魅力的なのだろう。
「それではまずは――」
受験生が次々と呼ばれて模擬戦を行っていく。
誰もが真剣に取り組み、どうしても合格するんだという気迫がこちらにも伝わってくる。
そのような中、人を妨害して落ちて悔しがる姿を愉悦としてるこいつは許せないな。
「何の用?」
「さっきの試験官の話を聞いて、模擬戦を辞退されたら困ると思ってな」
「そんなことしないよ。それよりトールさんが試験に落ちる心配をした方がいいんじゃないかな」
「そんなことは百パーセントあり得ない。筆記試験は高得点で間違いないし、模擬戦の相手はガキだからな」
トールは自信満々の表情をしている。自分は絶対に試験に落ちることはないって顔をしているな。
「あなたに忠告しておく。去年合格しなかったことを後悔させてあげるよ」
「それなら俺は、今年試験を受けたことを後悔させてやるよ」
俺とトールの視線が合い、火花か飛び散る。
「次は受験番号六百六十六番と五十七番前に出ろ」
俺とトールは試験官に呼ばれたので、指定の場所へと移動する。
「準備はいいな。それでは⋯⋯始め!」
そして審判が開始の合図をすると、世界の時が止まるのであった。
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