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入学試験(1)

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 中立地域ゲレーヒト。
 かつてこの場所は紛争地域であった。穏やかな気候、豊富な資源が眠り、ヴィンセント帝国とアイゼンシュッツ王国、ヘンデル商業国で争いが絶えなかった場所だ。
 しかし長い戦いの末に三国は疲弊しており、戦争終結の声が上がった。
 そして三国で話し合いをした結果、中立地域ゲレーヒトが生まれ、友好の証としてブレイヴ学園が出来たのだ。

「ここで昔戦争があったなんて信じられないよ」

 俺達はルビーさんに空から送ってもらった後、ブレイヴの街に入っていた。
 周囲には人通りが多く活気があり、帝都より栄えているように見える。

「ちなみにお父様とお母様は、ブレイヴ学園で出会って結婚したのよ」
「そうなの?」
「当時は三国の上層部の子供を学園に入れるようにしてたんだって。もちろん実力がない人は入学出来ないけど」
「なるほど。将来の上層部の子達が友好を深めて、戦争をしないようにってことかな?」
「さすがユートくん。その通りよ。相手の顔が見えないと、平気で戦争をするようになっちゃうから」

 まあ相手の顔が見えすぎることで、戦争になることもあるけどね。

「そういえば上層部の子供は学園に入れるようにって言ってたけど、ルリシアさんは今まで試験は受けなかったの?」

 その理念なら皇族こそ学園に入学した方が良さそうに思えるけど。

「私はお父様に反対されてたの」
「それはどうして?」
「⋯⋯ここに来る前にお母様が教えてくれけど、結婚相手を見つけて欲しくなかったみたい」
「そ、そうなんだ」

 まああの皇帝陛下ならありえない話ではないな。

「逆に今は帝都にいた方が危ないからって、許可してくれたの」
「それは良かったのかな?」
「良かったよ。ブレイヴ学園の入試試験は十歳から十五歳までしか受けれないの。私に取っては最後のチャンスだから。本当は十歳の時に受けたかったのに」
「じゃあ僕は皇帝陛下に感謝しないといけないね」
「えっ? どうして?」
「だってそのお陰で試験に受かったら、ルリシアさんと一緒に学園に通えるから」
「うぅぅぅっ! なんて可愛いことを言うのユートくんは!」
「うわっ!」

 ルリシアさんがいつものように抱きしめてきた。顔が胸に埋もれて苦しい。

「ル、ルリシアさん! そろそろ宿に着くよ!」
「いいの。しばらく一緒にいれなかったから、ユートくん成分を充電させて」
「そんなあ」

 俺はルリシアさんのされるがまま抱きしめられ、それは宿に着いてからも続くのだった。

 そして夜が明けた。

 朝食を食べた後、俺とルリシアさんは入学試験を受けるため、街の東区画にあるブレイヴ学園へと向かった。
 周囲には俺達と同じ年位の子達の姿が目に入る。

「もしかしてこれ全部受験する人達なの?」
「たぶんそうじゃないかな。毎年千人位受けるって聞いたことがあるわ」
「せ、千人!」
「合格者はその内の百名。でも卒業出来るのは五十人くらいらしいよ」
「倍率十倍、卒業も入れれば二十倍か」
「それに今まで十歳で合格した人はいないんだって」
「その情報は聞きたくなかったです」

 まあ普通に考えれば、年齢を重ねた方が有利な試験ではあるよな。その意味だと、前の世界と合わせて三十二年生きている俺はすごく有利ということだ。トアの治療方法を探すためにも、これは絶対に落ちる訳にはいかないな。

「ユートくんが歴史上初めての合格者になるんだね」
「そうなれるよう頑張ります」

 どうやらルリシアさんは俺が落ちるなど微塵も思っていないようだ。その期待は裏切れない。

「そういえばふと思ったけど、ユートくんの古文書とかカードは私でも触ったり使ったり出来るのかな?」
「実はセリカさんに試してもらったことがあるけど、触ることも出来なかったです」
「そうなの? 私もカッコよくカードが使えたらと思ったけど無理なのね」

バトル中に俺以外の人が使えたら戦術の幅が広がるけど、残念ながら不可能だった。
カードマスターのジョブを持ってないと使えないということなのだろう。

 そしてしばらくルリシアさんと話しながら歩いていると、ブレイヴ学園に到着するのだった。

 眼前には四階建ての大きな建物、長く続く壁に城と同じくらい広い敷地。さすが有名な学園なだけはある。

「それでは試験を受ける方はこちらで受付をして下さい」

 俺達は職員らしき人の声に従って受付を済ます。
 うわ、マジか。受験番号が六百六十六番だ。

「私は第一会場だって、ユートくんは?」
「僕は第六会場です」

 しかも第六会場って全部六がついているじゃないか。確か新約聖書のヨハネの黙示録で、六百六十六は悪魔の数字と言われていて、世界で一番不吉な数字と言われているんだぞ。
 これは縁起が悪い。女神様は俺に落ちろと言っているのだろうか。

「それじゃあユートくん頑張ってね」
「ルリシアさんも頑張って」
「合格したら抱きしめさせてあげるから。私が合格したら抱きしめてもいいかな?」
「うん」

 それはどっちが合格しても同じなのでは? 
 だけどそれがルリシアさんのモチベーションになるなら、余計なことは言わない。
 そして俺はルリシアさんと別れて、筆記試験を行う第六会場へと向かうのであった。




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