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ブレイヴ学園
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ある晴れた日。
空に竜の姿が見えたため、俺は急ぎ屋敷の側にある開けた場所へと向かう。
すると竜に跨がったルリシアさんの姿が見えた。
竜であるルビーさんはゆっくりと地上に降り立つ。
「ユ、ユートくん⋯⋯あ、足がすくんで動けないから抱き止めてね」
「うん。わかった」
ルリシアさんがルビーさんの背中から飛び降り⋯⋯いや、落ちてきた。
俺はそのままお姫様だっこでキャッチする。
「ありがとうユートくん。会いたかったよ」
「僕も会いたかったです」
ルリシアが軽く抱きしめてきたので、俺も抱きしめ返す。
「どう? 立てそう?」
「うん、大丈夫」
俺はルリシアさんを地面に降ろす。
それにしてもわざわざここまで来てくれるなんて、もしかしてトアの治療方法が何か見つかったのかな?
「今日はどうしたの?」
俺は子供のように可愛らしく首を傾げ、用件を聞く。
「我はルリシアの付き添いで来ただけじゃ」
ということは本命はルリシアさんか。俺は少しだけ期待した眼差しをルリシアさんに送る。
「あれから禁書庫の本を全部確認したの」
「えっ? 全部!」
少なくとも千冊以上はあったと思うけど、経った一週間で?
「あっ? 私一人じゃないよ。お父様とお母様にも手伝ってもらって」
「皇帝陛下が?」
俺のことあれだけ嫌ってたのに、トアの治療方法を探してくれたのか。これは今度会った時、お礼を言った方がいいな。
「でもお母様のことはともかく、お父様のことは気にしないで」
「どういうこと?」
「前に玉座の間で暴れて、ユートくんに襲いかかってきた時があったでしょ? その時の罰だってお母様が」
「そ、そうなんだ」
「一日三時間の睡眠で調べてもらったの」
まるでどこかの強制労働だな。御愁傷様としかいえない。
それにしてもそんなブラック企業も真っ青な労働を皇帝陛下に強いるなんて。俺はフィリアさんを絶対に怒らせないことを心に誓う。
「そ、それでどうだったの?」
「⋯⋯残念だけどトアちゃんの治療方法は見つからなかった」
「そっか。探してくれてありがとう」
これで本当に振り出しに戻ってしまったな。
俺もこの一週間、冒険者の人達に聞き込みをしていたけど、全く成果は上がらなかった。
「我もトアの治療方法を探しておるが、見つけられなくてな。申し訳ない」
「ううん。二人共、トアのためにありがとう」
「そのような悲しい顔をするでない」
「そうよ。私達はユートくんにそんな顔をさせるためにここに来たわけじゃないから」
「それってどういうこと?」
「ユートくんは大図書館って知ってる?」
「大図書館? 確かブレイヴ学園にある図書館のことだよね」
「さっすがユートくん。よく知ってるね」
ブレイヴ学園か⋯⋯トアの治療方法を本で探している時に、その名前は何度か出てきていた。
ヴィンセント帝国とアイゼンシュッツ王国、ヘンデル商業国の間の中立地域にある学校だ。
ブレイヴ学園は次世代の若者を育成する場であり、入学試験を受けるにも推薦状が必要で、容易には合格出来ないと聞く。だが見返りもしっかりあり、その難関の学園を卒業した者は、将来が約束されていると言われていた気がする。
そして学園の成績優秀者は、大図書館の本を閲覧することが許されるのだ。
実は大図書館に関しては俺も気になっていた。この世界のあらゆる本が揃っているとのことなので、トアの治療方法がわかるんじゃないかと。
だけど推薦状を書いてくれる人もいないし、学園に入ったら拘束される時間が増えるんじゃないかと思って、後回しにしていたのだ。
「ルリシアさんは大図書館に入ることが出来るの?」
帝国のお姫様だからコネを持っていてもおかしくない。だけど確かあの学園は⋯⋯
「ううん、それは出来ないの。あの学園は貴族の権力とかそういうのは使えないから」
そう。ブレイヴ学園は完全実力主義を謳っている。権力によって優秀な若者が潰されないようにとのことらしい。
「それでユートくん、私と一緒にブレイヴ学園に入学してみない? 推薦状ならお父様が書いてくれるって言ってたよ」
「本当ですか?」
現状トアの治療方法については手詰まりな所がある。多少拘束はされるけど、それもありか。
「でもルリシアさんがブレイヴ学園に入ってもいいの?」
あの過保護な皇帝陛下のことだ。絶対に反対してきそうだけどな。
「それは大丈夫よ。実は私、最近狙われていて」
「えっ? それは大丈夫なの?」
まさか他にも皇帝の座を狙っている奴がいるというのか。これは冒険者ギルドで聞き込みをしている場合じゃなかったな。
「うん。まだ実害は出ていないけど、最近お見合いの話が多くて」
「お、お見合い?」
「お父様の地位を狙っているのが透けて見えるから、私もちょっと⋯⋯それに私には⋯⋯」
「私には?」
「ううん! 何でもないよ! それで身を隠すためにもブレイヴ学園に行こうかなって。もちろんトアちゃんの治療方法を探すのが一番の目的だけどね」
サハディンとデルカルトがいなくなったことで、ルリシアさんの結婚相手が次の皇帝になるだろう。
自分ではなく、その地位が目的だとわかると、嫌気がさすのは当たり前だ。
「そうなんだ⋯⋯合格出来るかわからないけど僕もブレイヴ学園の試験を受けるよ」
「本当!? ありがとうユートくん」
ありがとうはこっちのセリフなんだけどね。
トアのために治療方法を探してくれることに感謝しかない。
「それで試験は一週間後なんだけど⋯⋯」
「一週間!?」
「うん! 一緒に頑張ろうね」
ルリシアさんに無茶振りをされたけどトアの病を治すために、俺はブレイヴ学園に入学することを決めるのであった。
空に竜の姿が見えたため、俺は急ぎ屋敷の側にある開けた場所へと向かう。
すると竜に跨がったルリシアさんの姿が見えた。
竜であるルビーさんはゆっくりと地上に降り立つ。
「ユ、ユートくん⋯⋯あ、足がすくんで動けないから抱き止めてね」
「うん。わかった」
ルリシアさんがルビーさんの背中から飛び降り⋯⋯いや、落ちてきた。
俺はそのままお姫様だっこでキャッチする。
「ありがとうユートくん。会いたかったよ」
「僕も会いたかったです」
ルリシアが軽く抱きしめてきたので、俺も抱きしめ返す。
「どう? 立てそう?」
「うん、大丈夫」
俺はルリシアさんを地面に降ろす。
それにしてもわざわざここまで来てくれるなんて、もしかしてトアの治療方法が何か見つかったのかな?
「今日はどうしたの?」
俺は子供のように可愛らしく首を傾げ、用件を聞く。
「我はルリシアの付き添いで来ただけじゃ」
ということは本命はルリシアさんか。俺は少しだけ期待した眼差しをルリシアさんに送る。
「あれから禁書庫の本を全部確認したの」
「えっ? 全部!」
少なくとも千冊以上はあったと思うけど、経った一週間で?
「あっ? 私一人じゃないよ。お父様とお母様にも手伝ってもらって」
「皇帝陛下が?」
俺のことあれだけ嫌ってたのに、トアの治療方法を探してくれたのか。これは今度会った時、お礼を言った方がいいな。
「でもお母様のことはともかく、お父様のことは気にしないで」
「どういうこと?」
「前に玉座の間で暴れて、ユートくんに襲いかかってきた時があったでしょ? その時の罰だってお母様が」
「そ、そうなんだ」
「一日三時間の睡眠で調べてもらったの」
まるでどこかの強制労働だな。御愁傷様としかいえない。
それにしてもそんなブラック企業も真っ青な労働を皇帝陛下に強いるなんて。俺はフィリアさんを絶対に怒らせないことを心に誓う。
「そ、それでどうだったの?」
「⋯⋯残念だけどトアちゃんの治療方法は見つからなかった」
「そっか。探してくれてありがとう」
これで本当に振り出しに戻ってしまったな。
俺もこの一週間、冒険者の人達に聞き込みをしていたけど、全く成果は上がらなかった。
「我もトアの治療方法を探しておるが、見つけられなくてな。申し訳ない」
「ううん。二人共、トアのためにありがとう」
「そのような悲しい顔をするでない」
「そうよ。私達はユートくんにそんな顔をさせるためにここに来たわけじゃないから」
「それってどういうこと?」
「ユートくんは大図書館って知ってる?」
「大図書館? 確かブレイヴ学園にある図書館のことだよね」
「さっすがユートくん。よく知ってるね」
ブレイヴ学園か⋯⋯トアの治療方法を本で探している時に、その名前は何度か出てきていた。
ヴィンセント帝国とアイゼンシュッツ王国、ヘンデル商業国の間の中立地域にある学校だ。
ブレイヴ学園は次世代の若者を育成する場であり、入学試験を受けるにも推薦状が必要で、容易には合格出来ないと聞く。だが見返りもしっかりあり、その難関の学園を卒業した者は、将来が約束されていると言われていた気がする。
そして学園の成績優秀者は、大図書館の本を閲覧することが許されるのだ。
実は大図書館に関しては俺も気になっていた。この世界のあらゆる本が揃っているとのことなので、トアの治療方法がわかるんじゃないかと。
だけど推薦状を書いてくれる人もいないし、学園に入ったら拘束される時間が増えるんじゃないかと思って、後回しにしていたのだ。
「ルリシアさんは大図書館に入ることが出来るの?」
帝国のお姫様だからコネを持っていてもおかしくない。だけど確かあの学園は⋯⋯
「ううん、それは出来ないの。あの学園は貴族の権力とかそういうのは使えないから」
そう。ブレイヴ学園は完全実力主義を謳っている。権力によって優秀な若者が潰されないようにとのことらしい。
「それでユートくん、私と一緒にブレイヴ学園に入学してみない? 推薦状ならお父様が書いてくれるって言ってたよ」
「本当ですか?」
現状トアの治療方法については手詰まりな所がある。多少拘束はされるけど、それもありか。
「でもルリシアさんがブレイヴ学園に入ってもいいの?」
あの過保護な皇帝陛下のことだ。絶対に反対してきそうだけどな。
「それは大丈夫よ。実は私、最近狙われていて」
「えっ? それは大丈夫なの?」
まさか他にも皇帝の座を狙っている奴がいるというのか。これは冒険者ギルドで聞き込みをしている場合じゃなかったな。
「うん。まだ実害は出ていないけど、最近お見合いの話が多くて」
「お、お見合い?」
「お父様の地位を狙っているのが透けて見えるから、私もちょっと⋯⋯それに私には⋯⋯」
「私には?」
「ううん! 何でもないよ! それで身を隠すためにもブレイヴ学園に行こうかなって。もちろんトアちゃんの治療方法を探すのが一番の目的だけどね」
サハディンとデルカルトがいなくなったことで、ルリシアさんの結婚相手が次の皇帝になるだろう。
自分ではなく、その地位が目的だとわかると、嫌気がさすのは当たり前だ。
「そうなんだ⋯⋯合格出来るかわからないけど僕もブレイヴ学園の試験を受けるよ」
「本当!? ありがとうユートくん」
ありがとうはこっちのセリフなんだけどね。
トアのために治療方法を探してくれることに感謝しかない。
「それで試験は一週間後なんだけど⋯⋯」
「一週間!?」
「うん! 一緒に頑張ろうね」
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