没落貴族のやりすぎ異世界転生者は妹の病を治すため奔走する~しかし僕は知らなかった。どうやらこの世界はショタ好きが多いようです~

マーラッシュ

文字の大きさ
上 下
57 / 86

ブレイヴ学園

しおりを挟む
 ある晴れた日。
 空に竜の姿が見えたため、俺は急ぎ屋敷の側にある開けた場所へと向かう。

 すると竜に跨がったルリシアさんの姿が見えた。
 竜であるルビーさんはゆっくりと地上に降り立つ。

「ユ、ユートくん⋯⋯あ、足がすくんで動けないから抱き止めてね」
「うん。わかった」

 ルリシアさんがルビーさんの背中から飛び降り⋯⋯いや、落ちてきた。
 俺はそのままお姫様だっこでキャッチする。

「ありがとうユートくん。会いたかったよ」
「僕も会いたかったです」

 ルリシアが軽く抱きしめてきたので、俺も抱きしめ返す。

「どう? 立てそう?」
「うん、大丈夫」

 俺はルリシアさんを地面に降ろす。
 それにしてもわざわざここまで来てくれるなんて、もしかしてトアの治療方法が何か見つかったのかな?

「今日はどうしたの?」

 俺は子供のように可愛らしく首を傾げ、用件を聞く。

「我はルリシアの付き添いで来ただけじゃ」

 ということは本命はルリシアさんか。俺は少しだけ期待した眼差しをルリシアさんに送る。

「あれから禁書庫の本を全部確認したの」
「えっ? 全部!」

 少なくとも千冊以上はあったと思うけど、経った一週間で?

「あっ? 私一人じゃないよ。お父様とお母様にも手伝ってもらって」
「皇帝陛下が?」

 俺のことあれだけ嫌ってたのに、トアの治療方法を探してくれたのか。これは今度会った時、お礼を言った方がいいな。

「でもお母様のことはともかく、お父様のことは気にしないで」
「どういうこと?」
「前に玉座の間で暴れて、ユートくんに襲いかかってきた時があったでしょ? その時の罰だってお母様が」
「そ、そうなんだ」
「一日三時間の睡眠で調べてもらったの」

 まるでどこかの強制労働だな。御愁傷様としかいえない。
 それにしてもそんなブラック企業も真っ青な労働を皇帝陛下に強いるなんて。俺はフィリアさんを絶対に怒らせないことを心に誓う。

「そ、それでどうだったの?」
「⋯⋯残念だけどトアちゃんの治療方法は見つからなかった」
「そっか。探してくれてありがとう」

 これで本当に振り出しに戻ってしまったな。
 俺もこの一週間、冒険者の人達に聞き込みをしていたけど、全く成果は上がらなかった。

「我もトアの治療方法を探しておるが、見つけられなくてな。申し訳ない」
「ううん。二人共、トアのためにありがとう」
「そのような悲しい顔をするでない」
「そうよ。私達はユートくんにそんな顔をさせるためにここに来たわけじゃないから」
「それってどういうこと?」
「ユートくんは大図書館って知ってる?」
「大図書館? 確かブレイヴ学園にある図書館のことだよね」
「さっすがユートくん。よく知ってるね」

 ブレイヴ学園か⋯⋯トアの治療方法を本で探している時に、その名前は何度か出てきていた。
 ヴィンセント帝国とアイゼンシュッツ王国、ヘンデル商業国の間の中立地域にある学校だ。
 ブレイヴ学園は次世代の若者を育成する場であり、入学試験を受けるにも推薦状が必要で、容易には合格出来ないと聞く。だが見返りもしっかりあり、その難関の学園を卒業した者は、将来が約束されていると言われていた気がする。
 そして学園の成績優秀者は、大図書館の本を閲覧することが許されるのだ。
 実は大図書館に関しては俺も気になっていた。この世界のあらゆる本が揃っているとのことなので、トアの治療方法がわかるんじゃないかと。
 だけど推薦状を書いてくれる人もいないし、学園に入ったら拘束される時間が増えるんじゃないかと思って、後回しにしていたのだ。

「ルリシアさんは大図書館に入ることが出来るの?」

 帝国のお姫様だからコネを持っていてもおかしくない。だけど確かあの学園は⋯⋯

「ううん、それは出来ないの。あの学園は貴族の権力とかそういうのは使えないから」

 そう。ブレイヴ学園は完全実力主義を謳っている。権力によって優秀な若者が潰されないようにとのことらしい。

「それでユートくん、私と一緒にブレイヴ学園に入学してみない? 推薦状ならお父様が書いてくれるって言ってたよ」
「本当ですか?」

 現状トアの治療方法については手詰まりな所がある。多少拘束はされるけど、それもありか。

「でもルリシアさんがブレイヴ学園に入ってもいいの?」

 あの過保護な皇帝陛下のことだ。絶対に反対してきそうだけどな。

「それは大丈夫よ。実は私、最近狙われていて」
「えっ? それは大丈夫なの?」

 まさか他にも皇帝の座を狙っている奴がいるというのか。これは冒険者ギルドで聞き込みをしている場合じゃなかったな。

「うん。まだ実害は出ていないけど、最近お見合いの話が多くて」
「お、お見合い?」
「お父様の地位を狙っているのが透けて見えるから、私もちょっと⋯⋯それに私には⋯⋯」
「私には?」
「ううん! 何でもないよ! それで身を隠すためにもブレイヴ学園に行こうかなって。もちろんトアちゃんの治療方法を探すのが一番の目的だけどね」

 サハディンとデルカルトがいなくなったことで、ルリシアさんの結婚相手が次の皇帝になるだろう。
 自分ではなく、その地位が目的だとわかると、嫌気がさすのは当たり前だ。

「そうなんだ⋯⋯合格出来るかわからないけど僕もブレイヴ学園の試験を受けるよ」
「本当!? ありがとうユートくん」

 ありがとうはこっちのセリフなんだけどね。
 トアのために治療方法を探してくれることに感謝しかない。

「それで試験は一週間後なんだけど⋯⋯」
「一週間!?」
「うん! 一緒に頑張ろうね」

 ルリシアさんに無茶振りをされたけどトアの病を治すために、俺はブレイヴ学園に入学することを決めるのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。 しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。 高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。 パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。 ※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...