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親しき中にも礼儀あり
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「何だか騒がしい方達でしたね」
俺とセリカさん、ソルトさんは飛び立つ竜を見送る。
「でも二人共良い人だから、セリカさんとソルトさんも仲良くしてくれると嬉しいな」
「そ、そうですね」
「トア様の命の恩人でもありますからね。承知しました」
ソルトさんは冷静に答えていたけどセリカさんは目が泳いでいた。
やっぱり帝都のお姫様だから気後れしちゃってるのかな?
「セリカさんはルリシアさんのことが苦手なの?」
「そそそ、そんなことないですよ」
「すごくそんなことあるように見えるけど。ルリシアさんは本当に良い人だよ。いきなり無礼者って剣で斬りつけるようなことはしないから」
「いくら皇族でもそれはヤバい人なのでは?」
実は父親の皇帝陛下が、そのヤバい奴だってことは言わないでおこう。セリカさんが益々萎縮してしまうからな。
「ユート様⋯⋯体調が良くなられたからといって、トア様を一人にするのは心配です」
「そうだね。セリカさんトアのことお願い出来ますか?」
「も、もちろんです! では行って参りま~す」
セリカさんは少し慌てた様子で、屋敷の中へと走っていく。
何だかソルトさんが上手く助け船を出したようにも見えたけど、今の俺はただの十歳の子供だから、そのことを指摘しない。
「ユート様が今回護衛をされたのはルリシア様だったんですね」
「うん」
「突然侯爵家の使いの者から、ユート様が帰って来られないと聞いて心配しました」
「ごめんなさい。冒険者ギルドの依頼を受けたらボルゲーノ侯爵に気に入られちゃってそれで」
「今皇族は後継者争いで危険な場所となっています。出来ればユート様には近づいてほしくないのですが」
「それならもう大丈夫だよ」
「どういうことでしょうか?」
「もうその人達は死んじゃったから」
「ど、どういうことでしょうか?」
ソルトさんが驚きの表情を浮かべている。
狼狽えている姿を初めて見た。
ソルトさんはどんな時でも冷静沈着だからな。それだけ皇族の争いが終わったことが、信じられないことだったのだろうか。
「え~と皇帝陛下の弟さんが――」
俺は帝都で起こったことをソルトさんに話す。
もしかしたらさすがです、ユート様って褒めてもらえるのかな?
俺はそんな光景を頭に思い浮かべていたが、実際には違った。
「ユート様」
ソルトさんは突然しゃがみ込み、俺と目線を合わす。
「無事で良かった⋯⋯本当に良かったです」
そしてゆっくりと抱きしめてきた。
「ソルト⋯⋯さん⋯⋯」
ここまで感情的なソルトさんなんて初めてみた。
幼き頃、俺とトアが魔物に襲われた時もここまで動揺していなかったのに。
それだけ皇族に関わることは危険だということなのだろうか。
「私やセリカ、それに何よりトア様を心配させないで下さい」
「う、うん」
俺はソルトさんの予想していなかった行動に、思わず頷いてしまう。
「さて、それでは私も屋敷に戻ります。ユート様はどうされますか?」
「えっ? あ、うん⋯⋯街に行こうかと」
「左様ですが。お気をつけていってらっしゃいませ」
そして俺はソルトさんと別れた後、セレノアの街へと足を向けた。
その時に考えていたことは、もちろんセリカさんとソルトさんのことだ。
何かあの二人は隠している。
どう見ても、二人の態度がいつも違った。
聞いてみたい気持ちもあるけど、隠しているということは知られたくないということだ。
それにもし俺に必要なことだったら、いつか話してくれるだろう。
俺はこれ以上詮索しないことを決めた。
それより今日はやらなくてはならないことがある。
以前冒険者ギルドから報酬をもらった時、日頃お世話になっているセリカさんとソルトさんに、何かプレゼントをしようと考えていたのだ。
だけど帝都に行ったり、皇家の墓に行ったりと忙しくて買う暇がなかった。
だから今日こそはセレノアの街でプレゼントを買う予定だ。
そして街の東門が見えてきた時、何やらこちらを指差して騒いでいる子供がいた。
「ユート! やっと会えたな!」
「あれは⋯⋯ドイズか」
しかも俺の名前を呼んでいる。
何だかあまり良い予感がしないのだが、気のせいだろうか。
しかし今から引き返す訳にもいかない。
俺は嫌な予感を覚えつつも街へと足を踏み入れるのであった。
俺とセリカさん、ソルトさんは飛び立つ竜を見送る。
「でも二人共良い人だから、セリカさんとソルトさんも仲良くしてくれると嬉しいな」
「そ、そうですね」
「トア様の命の恩人でもありますからね。承知しました」
ソルトさんは冷静に答えていたけどセリカさんは目が泳いでいた。
やっぱり帝都のお姫様だから気後れしちゃってるのかな?
「セリカさんはルリシアさんのことが苦手なの?」
「そそそ、そんなことないですよ」
「すごくそんなことあるように見えるけど。ルリシアさんは本当に良い人だよ。いきなり無礼者って剣で斬りつけるようなことはしないから」
「いくら皇族でもそれはヤバい人なのでは?」
実は父親の皇帝陛下が、そのヤバい奴だってことは言わないでおこう。セリカさんが益々萎縮してしまうからな。
「ユート様⋯⋯体調が良くなられたからといって、トア様を一人にするのは心配です」
「そうだね。セリカさんトアのことお願い出来ますか?」
「も、もちろんです! では行って参りま~す」
セリカさんは少し慌てた様子で、屋敷の中へと走っていく。
何だかソルトさんが上手く助け船を出したようにも見えたけど、今の俺はただの十歳の子供だから、そのことを指摘しない。
「ユート様が今回護衛をされたのはルリシア様だったんですね」
「うん」
「突然侯爵家の使いの者から、ユート様が帰って来られないと聞いて心配しました」
「ごめんなさい。冒険者ギルドの依頼を受けたらボルゲーノ侯爵に気に入られちゃってそれで」
「今皇族は後継者争いで危険な場所となっています。出来ればユート様には近づいてほしくないのですが」
「それならもう大丈夫だよ」
「どういうことでしょうか?」
「もうその人達は死んじゃったから」
「ど、どういうことでしょうか?」
ソルトさんが驚きの表情を浮かべている。
狼狽えている姿を初めて見た。
ソルトさんはどんな時でも冷静沈着だからな。それだけ皇族の争いが終わったことが、信じられないことだったのだろうか。
「え~と皇帝陛下の弟さんが――」
俺は帝都で起こったことをソルトさんに話す。
もしかしたらさすがです、ユート様って褒めてもらえるのかな?
俺はそんな光景を頭に思い浮かべていたが、実際には違った。
「ユート様」
ソルトさんは突然しゃがみ込み、俺と目線を合わす。
「無事で良かった⋯⋯本当に良かったです」
そしてゆっくりと抱きしめてきた。
「ソルト⋯⋯さん⋯⋯」
ここまで感情的なソルトさんなんて初めてみた。
幼き頃、俺とトアが魔物に襲われた時もここまで動揺していなかったのに。
それだけ皇族に関わることは危険だということなのだろうか。
「私やセリカ、それに何よりトア様を心配させないで下さい」
「う、うん」
俺はソルトさんの予想していなかった行動に、思わず頷いてしまう。
「さて、それでは私も屋敷に戻ります。ユート様はどうされますか?」
「えっ? あ、うん⋯⋯街に行こうかと」
「左様ですが。お気をつけていってらっしゃいませ」
そして俺はソルトさんと別れた後、セレノアの街へと足を向けた。
その時に考えていたことは、もちろんセリカさんとソルトさんのことだ。
何かあの二人は隠している。
どう見ても、二人の態度がいつも違った。
聞いてみたい気持ちもあるけど、隠しているということは知られたくないということだ。
それにもし俺に必要なことだったら、いつか話してくれるだろう。
俺はこれ以上詮索しないことを決めた。
それより今日はやらなくてはならないことがある。
以前冒険者ギルドから報酬をもらった時、日頃お世話になっているセリカさんとソルトさんに、何かプレゼントをしようと考えていたのだ。
だけど帝都に行ったり、皇家の墓に行ったりと忙しくて買う暇がなかった。
だから今日こそはセレノアの街でプレゼントを買う予定だ。
そして街の東門が見えてきた時、何やらこちらを指差して騒いでいる子供がいた。
「ユート! やっと会えたな!」
「あれは⋯⋯ドイズか」
しかも俺の名前を呼んでいる。
何だかあまり良い予感がしないのだが、気のせいだろうか。
しかし今から引き返す訳にもいかない。
俺は嫌な予感を覚えつつも街へと足を踏み入れるのであった。
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