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竜への道

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 竜へと続く道を進み始めて三十分程が過ぎた。

「前に進んでいるのかわからないね」
「うん」

 ルリシアさんの言いたいことはわかる。
 関所からここまで、前方の景色がほとんど変わらないのだ。
 森には竜の結界が張られているらしいから、もしかして落雷以外に同じ所をグルグル回る効果もあったりして。
 そんな不安も抱えつつ俺達は前へと進んでいく。

「竜っておっきいのかなあ」
「本で見た竜は大きな身体、剣を通さない硬い皮膚、角が生えてて鋭い牙を持ち、爪は大地を引き裂き、炎を吐くらしいです」
「ユートくんよく知ってるね。物知りだ」

 前の世界の竜と特徴が同じだったからね。
 とりあえず怒らせてバトル的な展開は避けたい所だ。俺なんか一瞬でやられてしまうだろう。

「竜に会うの楽しみだね」
「僕は少し怖いかな。機嫌が悪いって言うし」

 もしかして竜が激昂する逆鱗にでも触れたのだろうか。そうだとしたらどうやって怒りを静めればいいのかわからない。
 とにかく竜を怒らせてしまったら、トアの病を治すことも出来なくなる。
 言葉は慎重に選んだ方が良さそうだ。

「ユートくん私がついているから大丈夫よ」

 ルリシアさんはそう言うと、俺の手を取る。

「何があってもユートくんは私が守るから」
「あ、ありがとう」

 普段は抱きつかれているから手を握られてびっくりしてしまった。
 少し照れくさいけど、子供のユートだったら振り払うことはしないので、このままの状態で進む。

 ん?

 ルリシアさんと手を繋ぎながら歩いて、十分程が経った頃。
 俺は周囲の景色の異変に感じた。

「ルリシアさん止まって」
「どうしたの?」
「何かがおかしいよ」

 前方を飛んでいた蝶が突然消えたのだ。
 何かに攻撃された気配はないし、蝶が地面に落ちたり上空に飛び去った訳ではもない。本当に目の前から消えたのだ。

「私には全然わからないけど」
「僕もわからない。でも飛んでいた蝶が消えたんだ」
「蝶が?」

 前方には変わらぬ一本道が目に映っている。
 わからない。いったい何が起きているんだ。

「どうするのユートくん。進んでみる?」
「いや、何が起きているのかわからないのに進むのは⋯⋯」

 俺だけならともかく、ルリシアさんを危険な目に遭わせる訳にはいかない。だけど前に進まないとトアの病を治す方法が⋯⋯

 現状俺に対して何か攻撃を仕掛けられているわけじゃない。もし俺を狙っているなら皇帝時間インペリアルタイムが発動しているはずだ。
 とにかく何が起きているのか状況を把握しないと、これ以上進むことは出来ない。
 俺は地面に落ちている石を手に取る。
 そしてさっき蝶が消えた所に投げてみた。

 すると⋯⋯

「「消えた!」」

 やはり蝶が消えたのは見間違いじゃなかったんだ!

「どど、どういうこと? 石が消えるなんて⋯⋯」
「わからない。でも僕達も進んだら消えちゃうのかな」

 これは益々先に進むことが出来なくなった。これは竜がやったことなのか?
 ルリシアさんもこのことは知らなかったようだ。
 もし竜の仕業なら皇帝陛下も事前に教えておいて欲しい。結界のことも一言も言ってなかったしな。
 それともこの消える現象はイレギュラーなものなのか?

 俺とルリシアさんは、これ以上足を前に進めることが出来ないでいた。

 だがその時。

「前に進むのじゃ」

 どこからか声が聞こえてきた。

「えっ? 誰?」

 俺は剣を手に取り、左右を見渡すが誰もいない。
 今の声は女性のように感じたが、視認出来ないし気配も感じない。どうする? 声に従って前に進むか? だけどもし罠だとしたら⋯⋯
 前にも後ろにも進めず時間だけが過ぎていく。

「我の結界の力で認識出来ないようにしているだけじゃ。我としてはこのまま帰ってもらっても問題ないが」

 結界? 結界ということはこの声はもしかして⋯⋯

「竜⋯⋯ですか」

 ルリシアさんも俺と同じ結論にたどり着いたようだ。
 それにしても竜は喋るのか。だけどこれで意志疎通が出来るので、トアの病を治す方法を聞くことが出来る。

「行こう。前に進もう」
「うん」

 俺とルリシアさんは手を繋いだまま、足を前に進める。
 すると石が消えた辺りを過ぎると、突然景色が変わり、目の前には人の数十倍はありそうな赤い竜の姿が見えた。




  
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