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皇家の墓

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 朝陽が照らす中、俺は帝都グランツヴァインの北門に1人来ていた。
 皇家の墓までは徒歩で約三時間。途中で関所があり、許可書がないと先に進めないとのことだ。

 俺は北の門を潜り抜け、街道に一歩足を踏み入れようとしたが、その時いないはずの人物の姿が目に入った。

「ルリシアさん⋯⋯何でここに⋯⋯」
「ユートくんひどいわ。私を置いていくなんて」

 俺が部屋を出た時はまだ寝ていたはずだ。
 実は起きてて、先回りしてここに来たという訳か。

「ルリシアさんはこの国のお姫様です。危険があるかもしれないのに連れて行けないよ」
「ユートくんは私の護衛でしょ? まだ護衛の任は解けてないわ」
「でも皇帝陛下からは、皇家の墓に一人で行っていいと言われました」
「お父様が? きっとお父様から私を連れて行ったらダメって言われたんでしょ?」
「⋯⋯⋯⋯」
「でも私は行きたいの⋯⋯ユートくんには色々助けてもらったから、今度は私が助けたいの。トアちゃんを病から治すために協力するって約束したじゃない」
「⋯⋯ルリシアさん本当についてくるの? 竜に会うんだよ」
「私はユートくんについていく。ダメって言われても諦めないわ」

 ふう⋯⋯ルリシアさんは一度決めたら意見を曲げないからな。俺が何を言っても無駄かもしれない。

「わかったよ。ルリシアさんも一緒に行こう」
「本当に!? ありがとうユートくん!」

 そしていつものように俺はルリシアさんに抱きしめられる。
 柔らかいし苦しいし良い匂いがする。

「僕もルリシアさんと一緒にいれて嬉しいです」
「ふふ⋯⋯私もよ。でもこれでお父様に怒られてしまうわね」
「え~と⋯⋯それについては大丈夫です」
「えっ? どういこと?」
「実は昨日、夕食の時に皇帝陛下から、ルリシアさんを一緒に連れていくな、早朝に一人で出発しろって言われて」
「こそこそ話をしていたけど、そんなことをお父様が?」

 ルリシアさんが少しムッとしている。過保護な父親の行為に少し怒っているといった所か。

「でもその後、もし娘がどうしてもついてくるようなら、一緒に連れていって守ってくれないかとも言われたよ」
「お父様⋯⋯」
「だからルリシアさんが皇家の墓に行っても、怒られることはないよ」
「うん⋯⋯今度会ったらお父様にありがとうって伝えるね」

 先程とは違い、すごく嬉しそうだ。
 良かったな皇帝陛下。

「それじゃあ気を取り直して行きましょう」
「うん」

 こうして俺達は竜がいると言われている皇家の墓へと向かうのだった。

 グランツヴァインから徒歩で二時間程歩くと、森が見えてきた。
 そして森の前には大きな関所というか要塞がある。

「これはルリシア様、ユート様お待ちしておりました」

 要塞の前では十数名の兵士達が俺達を出迎えてくれた。
 ルリシアさんがいることに驚いていないということは、事前に皇帝陛下が手を回していたのだろう。
 どうやらルリシアさんが城を抜け出すことは、皇帝陛下に予測されていたようだ。

「この関所から皇家の墓までは一本道道になっております」
「そうなの? 教えてくれてありがとう」

 ここから先は、許可がない者は入れない。だけど辺りの様子を見て、ふと疑問に思ったことがあり、俺は口にしてしまう。

「皇家の墓に行くには関所を通らなくても行けますよね?」
「そうだな。君の言うとおりだ」 

 関所の左右は森になっており、木々の中を進んで行くのは少し大変だけど行けないことはなさそうだ。皇族の墓なら、棺の中に金銀宝石など高価な物が眠っている可能性がある。リスクを犯して侵入する奴はいそうだ。

「だけど答えはノーだ。皇家の墓には、この関所の向こうにある一本道を通らねば行くことは出来ない」

 どういうことだ? 兵士の人が言っている意味がわからない。

「私、聞いたことがあるわ。皇家の墓の周囲には竜が作った結界があって、決められた道を通らないと天罰が下るみたいよ」
「姫様の仰る通りです。道を外れてしまうと落雷を受けることになるので、くれぐれも気をつけて下さい」
「わかりました」
「毎年墓を荒らそうと侵入してくる者がいますが、全員天罰を食らい、消し炭になって発見されています」

 こわっ! 許可書がもらえなかった時、無理矢理侵入しようと考えていたけど、やらずに済んで助かった。

「それと竜って本当にいるの?」

 俺に取って一番大切なことなので、ついでに聞いてみる。

「私達は見たことないけど、皇家の墓に行かれた皇帝陛下からは竜に会った話は聞いています。ただ、ここ五十年程機嫌が悪いようですよ」
「ご、五十年ですか」

 そんなに長い間機嫌が悪いだなんて、さすが竜はスケールが違うなあ。

「ここから一時間程歩けば皇家の墓に到着することが出来ますが、もう出発しますか?」

 俺とルリシアさんは顔を見合せ頷く。

「はい。行ってきます」
「わかりました。ではこちらへ」

 俺達は要塞を越えると、森を切り払いた一本道に到着した。
 どうやら歩道はちゃんと整備されているようだ。これなら苦もなく進んでいくことができるな。

 竜か。正直怖い気持ちもある。
 だけどこれでトアの病が少しでも良くなるかもしれないなら、足を止める理由にはならない。 
 そして俺とルリシアさんは、関所の兵士達に見送られながら、竜の元へと続く道を進んで行くのであった。
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