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心の洗濯
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「どどど、どうしてここにいるんですか!」
俺は慌てて目を逸らす。
おもいっきりルリシアさんの裸を見てしまったぞ! 男が入っているお風呂に入ってくるなんて、このお姫様無防備過ぎないか!
「だって私は先にいっててって言ったよね」
「だからって男が入っているお風呂に入るのは⋯⋯」
「男の子でしょ。私は気にしないわ」
「僕が気にするんです!」
「でも私が向こうの部屋にいる時に襲われてもいいの?」
「うっ⋯⋯それは⋯⋯」
確かに浴室にいる時にルリシアさんが襲われたら、すぐに駆けつけることは出来ない。
皇帝時間が発動しても無理だろうな。
「だからお風呂も一緒、寝るのも一緒、病める時も健やかなる時も一緒なのよ」
何か全然関係ない言葉を入れてないか?
「わかったなら頭を洗ってあげるから、ちゃんと前を向いて。それともお姉さんの裸に興味があるのかな?」
「そそそ、そんなことないです!」
俺はしっかりと前を向き、完全にルリシアさんが視界に入らないようにする。
「ふふ⋯⋯何だか新鮮で楽しいわ」
「⋯⋯どういうことですか」
ルリシアさんが俺の髪を洗いながら、問いかけてくる。
「だってユートくんってすごい大人びてて⋯⋯」
やば。自分では子供を演じているつもりだったけど、ルリシアさんの目にはそんな風に映っていたのか。
これからはもっと子供っぽくしなくちゃダメだな。
「いつも落ち着いてて、冷静沈着って感じじゃない。それが今はすごい狼狽えてて⋯⋯何だか面白いじゃない」
「僕はおもちゃじゃないですよ」
「わかってるわ。ユートくんは私にとって大切な人よ」
大切って⋯⋯何だか意味深な言い方だ。
けどルリシアさんがそう思ってくれるのは嬉しい。
「今日は本当にありがとう」
ルリシアさんがそう口にした時。突然俺の背中に柔らかい感触を感じた。
「ル、ルリシアさん!! 何を!」
思わず声が上ずってしまった。あろうことかルリシアさんはいつもと同じ様に抱きついてきたのだ。
さすがにこれはまずいだろ! いくら見た目は子供でも俺は大人なんだぞ!
俺は力ずくで振り払おうとするが止めた。
何故ならルリシアさんが震えていたからだ。
「怖かった⋯⋯本当に怖かったの⋯⋯」
「ルリシアさん⋯⋯」
「お母様が段々冷たくなって⋯⋯問いかけても何も答えてくれなくて⋯⋯もう二度と話すことが出来ない気がして」
母親の命が失われそうになったのだ。怖いのは当然だ。
俺も人生二回目だけど、母さんが亡くなった時は本当に辛かった。十五歳の少女が受け止められるはずがない。
「心が痛かった⋯⋯とっても痛かった。でもユートくんが私の心の痛みを取り除いてくれた」
「僕もルリシアさんの力になれて良かったです」
ルリシアさんがゆっくりと俺から離れ、また髪を洗い始める。
「ユートくんには本当に感謝しているの。お礼じゃないけどトアちゃんの病を治す方法は必ず見つけてみせるわ」
「ありがとうございます」
「筋力低下の治療法については、禁書庫の本に書いてあると思うの」
「禁書庫? それって何?」
「禁書庫は、皇族か限られた人しか見ることができない本が保管されている場所なの」
そうなると俺は入ることは出来ないのか。
「そんな心配そうな顔をしないで。私がすぐに見つけてくるから。本当はユートくんも禁書庫に入れてあげたいけど、私だけの権限じゃ出来ないの」
それなら残念だけど諦めるしかないか。ここはルリシアさんにお願いしよう。
「それにしてもユートくんの髪ってサラサラで綺麗ね」
「ルリシアさんの方が綺麗だよ。僕、初めて会った時、ルリシアさんのこと女神様みたいに見えたもん」
「め、女神様!? もう! ユートくんは口が上手いんだから」
ルリシアさんは照れているのか、俺の頭をかく力が段々強くなっていく。
「い、痛い! 痛いですルリシアさん!」
「ご、ごめんね」
俺の主張を聞いて我に返ったのか、ルリシアさんの髪をかく力が弱くなる。
「ユートくんはいつもそんなことを言ってるの? 何だか私、ユートくんの将来が心配になってきた」
まずい。子供っぽく正直に言ったらナンパ師だと疑われてしまった。
ここはそんなことないと否定した方がいいな。
「こ、こんなことを言うのはルリシアさんだけだよ」
「わ、私だけ! も、もう⋯⋯そう言えば私が好きになると思っているの?」
「そんなことないよ」
なんか益々軽い男になってしまったな。これ以上は余計なことは言わない方が良さそうだ。
「はい。これで頭は洗い終わったよ。次は身体を洗ってあげるね」
「か、身体はもう洗ったから大丈夫です」
「そう? それじゃあ今度は私の背中を洗ってもらおうかな」
「それくらい自分で洗って下さい!」
このお姫様はなんてことを言ってくるんだ! 本当に危機意識が足りない。俺は紳士だからいいものを、これが普通の男だったら正気を保てないぞ。だけどこのままここにいれば、いつおかしな気分になるかわからない。
「ルリシアさん! 僕、もう出ますね」
俺は紳士でいるために、魅惑の空間になっている浴室から逸早く逃げ出すのであった。
俺は慌てて目を逸らす。
おもいっきりルリシアさんの裸を見てしまったぞ! 男が入っているお風呂に入ってくるなんて、このお姫様無防備過ぎないか!
「だって私は先にいっててって言ったよね」
「だからって男が入っているお風呂に入るのは⋯⋯」
「男の子でしょ。私は気にしないわ」
「僕が気にするんです!」
「でも私が向こうの部屋にいる時に襲われてもいいの?」
「うっ⋯⋯それは⋯⋯」
確かに浴室にいる時にルリシアさんが襲われたら、すぐに駆けつけることは出来ない。
皇帝時間が発動しても無理だろうな。
「だからお風呂も一緒、寝るのも一緒、病める時も健やかなる時も一緒なのよ」
何か全然関係ない言葉を入れてないか?
「わかったなら頭を洗ってあげるから、ちゃんと前を向いて。それともお姉さんの裸に興味があるのかな?」
「そそそ、そんなことないです!」
俺はしっかりと前を向き、完全にルリシアさんが視界に入らないようにする。
「ふふ⋯⋯何だか新鮮で楽しいわ」
「⋯⋯どういうことですか」
ルリシアさんが俺の髪を洗いながら、問いかけてくる。
「だってユートくんってすごい大人びてて⋯⋯」
やば。自分では子供を演じているつもりだったけど、ルリシアさんの目にはそんな風に映っていたのか。
これからはもっと子供っぽくしなくちゃダメだな。
「いつも落ち着いてて、冷静沈着って感じじゃない。それが今はすごい狼狽えてて⋯⋯何だか面白いじゃない」
「僕はおもちゃじゃないですよ」
「わかってるわ。ユートくんは私にとって大切な人よ」
大切って⋯⋯何だか意味深な言い方だ。
けどルリシアさんがそう思ってくれるのは嬉しい。
「今日は本当にありがとう」
ルリシアさんがそう口にした時。突然俺の背中に柔らかい感触を感じた。
「ル、ルリシアさん!! 何を!」
思わず声が上ずってしまった。あろうことかルリシアさんはいつもと同じ様に抱きついてきたのだ。
さすがにこれはまずいだろ! いくら見た目は子供でも俺は大人なんだぞ!
俺は力ずくで振り払おうとするが止めた。
何故ならルリシアさんが震えていたからだ。
「怖かった⋯⋯本当に怖かったの⋯⋯」
「ルリシアさん⋯⋯」
「お母様が段々冷たくなって⋯⋯問いかけても何も答えてくれなくて⋯⋯もう二度と話すことが出来ない気がして」
母親の命が失われそうになったのだ。怖いのは当然だ。
俺も人生二回目だけど、母さんが亡くなった時は本当に辛かった。十五歳の少女が受け止められるはずがない。
「心が痛かった⋯⋯とっても痛かった。でもユートくんが私の心の痛みを取り除いてくれた」
「僕もルリシアさんの力になれて良かったです」
ルリシアさんがゆっくりと俺から離れ、また髪を洗い始める。
「ユートくんには本当に感謝しているの。お礼じゃないけどトアちゃんの病を治す方法は必ず見つけてみせるわ」
「ありがとうございます」
「筋力低下の治療法については、禁書庫の本に書いてあると思うの」
「禁書庫? それって何?」
「禁書庫は、皇族か限られた人しか見ることができない本が保管されている場所なの」
そうなると俺は入ることは出来ないのか。
「そんな心配そうな顔をしないで。私がすぐに見つけてくるから。本当はユートくんも禁書庫に入れてあげたいけど、私だけの権限じゃ出来ないの」
それなら残念だけど諦めるしかないか。ここはルリシアさんにお願いしよう。
「それにしてもユートくんの髪ってサラサラで綺麗ね」
「ルリシアさんの方が綺麗だよ。僕、初めて会った時、ルリシアさんのこと女神様みたいに見えたもん」
「め、女神様!? もう! ユートくんは口が上手いんだから」
ルリシアさんは照れているのか、俺の頭をかく力が段々強くなっていく。
「い、痛い! 痛いですルリシアさん!」
「ご、ごめんね」
俺の主張を聞いて我に返ったのか、ルリシアさんの髪をかく力が弱くなる。
「ユートくんはいつもそんなことを言ってるの? 何だか私、ユートくんの将来が心配になってきた」
まずい。子供っぽく正直に言ったらナンパ師だと疑われてしまった。
ここはそんなことないと否定した方がいいな。
「こ、こんなことを言うのはルリシアさんだけだよ」
「わ、私だけ! も、もう⋯⋯そう言えば私が好きになると思っているの?」
「そんなことないよ」
なんか益々軽い男になってしまったな。これ以上は余計なことは言わない方が良さそうだ。
「はい。これで頭は洗い終わったよ。次は身体を洗ってあげるね」
「か、身体はもう洗ったから大丈夫です」
「そう? それじゃあ今度は私の背中を洗ってもらおうかな」
「それくらい自分で洗って下さい!」
このお姫様はなんてことを言ってくるんだ! 本当に危機意識が足りない。俺は紳士だからいいものを、これが普通の男だったら正気を保てないぞ。だけどこのままここにいれば、いつおかしな気分になるかわからない。
「ルリシアさん! 僕、もう出ますね」
俺は紳士でいるために、魅惑の空間になっている浴室から逸早く逃げ出すのであった。
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