17 / 86
可憐な暴走少女
しおりを挟む
炊き出しが終わった後。
俺はバッツ達と別れ、ボルゲーノさんと共に屋敷へと向かっていた。
「ユ、ユート。逸る気持ちはわかるが、もう少しゆっくり歩いてくれ」
「ご、ごめんなさい」
いかんいかん。トアの病が治るかもと考えていたら、いつの間にか早歩きをしていたようだ。
「私の屋敷に到着する前に、伝えておかなくてはならないことがある」
ボルゲーノさんが神妙な表情で語りかけてくる。
これまで話していると圧を感じていたが、今はその圧がさらに強くなった。それだけ重大なことなのだろう。
「ユートにはこれからある方に会って頂く。その方がユートの護衛を許可しなければ、この話はなしだ。そして私の屋敷であったことは全て忘れてもらう。いいな?」
「わかりました」
いくらボルゲーノさんが認めてくれても、その方という人が認めてくれなくては護衛の件はなしということか。望むところだ。
必ず俺のことを認めさせて、トアの病を治す方法を聞き出してみせる。
「本当は女性が望ましいが、ユートなら問題ないだろう」
「どういうことですか?」
「申し訳ない。今のは失言だった。気にしないでくれ」
気にしないでくれって言っても気になる。
女性の方が望ましい? どういうことだろう。
普通に考えると護衛対象が女性だから、女性がいいということなのか?
まあ俺としてはとにかくその人に気に入られ、トアの病を治す方法が聞けるよう務めるだけだ。
そして屋敷へと到着すると応接室へと通された。
さて、ボルゲーノさんが言うその方とはどんな人なのか。良い人だといいけど、テンプレのようなわがまま貴族は出来れば勘弁してほしい所だ。
俺はドキドキしながら待っていると、不意にドアが開いた。
「失礼します。あなたが私の護衛を⋯⋯えっ!」
部屋に入ってきたのは長い綺麗な髪を持った、可愛らしい少女だった。まあ少女と言っても俺より年上だけど。
それより何故俺の姿を見て驚いたのか気になる。
「子供じゃない!」
少女は声を上げるとこちらに駆け寄ってくる。
「ボルゲーノ、あなたこんなに小さい子に私の護衛をさせるつもりだったの!?」
「ルリシア様、この子供は⋯⋯」
「言い訳を聞きたくないわ。ごめんね⋯⋯突然こんな所に連れて来られて怖かったよね。もう大丈夫だから」
そして何を思ったのか、少女は少し屈むとさらに接近してきた。
少女の両手が首の後ろに回され、俺は抱きしめられる。
「んん⋯⋯」
えっ!? どういうこと!?
俺は少女に問いかけようとするも、顔が大きな胸に包まれ喋ることが出来ない。
「君のお家はどこかな? すぐに帰してあげるから安心してね」
それよりまずは離してほしいぞ。
柔らかい胸の感触が俺の空気と理性を奪っていく。
見た目は十歳でも中身は二十二歳だからな。さすがに意識するなというのは無理な話だ。
だけど会話を聞く限り、このルリシアという子は暴走気味ではあるが、俺の心配をしてくれているので、悪い人ではなさそうだ。
とりあえず分析するのは後にして、今はここから脱出しないと。でもこの子、中々力が強くて抜け出せない。
まずい⋯⋯このままでは息が⋯⋯
「ルリシア様! このユートは見た目は幼く見えますがBランクの冒険者です。先日一人でグリフォンを倒した報告を受けています」
「えっ? こんなに可愛い子が? うそ! 信じられない」
「事実です。ですからそろそろユートを離してあげて下さい。死んでしまいます」
「えっ?」
ルリシアさんはボルゲーノさんの言葉を聞いて、慌てた様子で俺を離す。
く、苦しかった。ルリシアさんみたいに可愛い人に抱かれながら死ぬのは本望だけど、今はまだその時じゃない。
「え~とユートくん? 大丈夫?」
「なんとか」
「ごめんね」
「大丈夫です」
「次はもう少し優しく抱きしめるから」
ルリシアさんは舌を出して可愛らしく謝罪してくるが、そういう問題じゃないと思う。この人、少しずれてるな。
「それでルリシア様、ユートを護衛として雇いたいと考えていますがよろしいでしょうか?」
俺としてはトアの病を治すためにも、雇ってもらわないと困る。
しかしルリシアさんの返答は俺の望むものではなかった。
「でも私のために子供のユートくんが傷つくのは⋯⋯」
「僕のことは気にしないでください」
「そんなこと出来ないわ。私を守ってくれた人を気にするのは当然じゃない。それに私なら護衛がいなくても大丈夫。こう見えてお姉ちゃんは強いのよ」
確かにさっき俺を抱きしめた時の力は強かった。だけどそれだけで、襲撃してくる者を倒せるという訳じゃない。
「ルリシア様は子供が傷つくのを見たくないということですね。わかりました。ですが護衛がなしというのは⋯⋯他の護衛を準備することで了承して下さい」
えっ? それは困る。
でもボルゲーノさんは最初の条件で、ルリシアさんの許可を得られたらと言っていた。
このままではトアの病を治す方法を、教えてもらえなくなってしまう。
俺はルリシアさんに護衛を受けてもらう方法を考える。
先程の会話を聞く限り、ルリシアさんは自分の力に自信を持っているようだ。それなら⋯⋯
そして一つの案にたどり着き、俺はルリシアさんに提案するのであった。
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、作品フォロー、応援等もして頂けると嬉しいです。
俺はバッツ達と別れ、ボルゲーノさんと共に屋敷へと向かっていた。
「ユ、ユート。逸る気持ちはわかるが、もう少しゆっくり歩いてくれ」
「ご、ごめんなさい」
いかんいかん。トアの病が治るかもと考えていたら、いつの間にか早歩きをしていたようだ。
「私の屋敷に到着する前に、伝えておかなくてはならないことがある」
ボルゲーノさんが神妙な表情で語りかけてくる。
これまで話していると圧を感じていたが、今はその圧がさらに強くなった。それだけ重大なことなのだろう。
「ユートにはこれからある方に会って頂く。その方がユートの護衛を許可しなければ、この話はなしだ。そして私の屋敷であったことは全て忘れてもらう。いいな?」
「わかりました」
いくらボルゲーノさんが認めてくれても、その方という人が認めてくれなくては護衛の件はなしということか。望むところだ。
必ず俺のことを認めさせて、トアの病を治す方法を聞き出してみせる。
「本当は女性が望ましいが、ユートなら問題ないだろう」
「どういうことですか?」
「申し訳ない。今のは失言だった。気にしないでくれ」
気にしないでくれって言っても気になる。
女性の方が望ましい? どういうことだろう。
普通に考えると護衛対象が女性だから、女性がいいということなのか?
まあ俺としてはとにかくその人に気に入られ、トアの病を治す方法が聞けるよう務めるだけだ。
そして屋敷へと到着すると応接室へと通された。
さて、ボルゲーノさんが言うその方とはどんな人なのか。良い人だといいけど、テンプレのようなわがまま貴族は出来れば勘弁してほしい所だ。
俺はドキドキしながら待っていると、不意にドアが開いた。
「失礼します。あなたが私の護衛を⋯⋯えっ!」
部屋に入ってきたのは長い綺麗な髪を持った、可愛らしい少女だった。まあ少女と言っても俺より年上だけど。
それより何故俺の姿を見て驚いたのか気になる。
「子供じゃない!」
少女は声を上げるとこちらに駆け寄ってくる。
「ボルゲーノ、あなたこんなに小さい子に私の護衛をさせるつもりだったの!?」
「ルリシア様、この子供は⋯⋯」
「言い訳を聞きたくないわ。ごめんね⋯⋯突然こんな所に連れて来られて怖かったよね。もう大丈夫だから」
そして何を思ったのか、少女は少し屈むとさらに接近してきた。
少女の両手が首の後ろに回され、俺は抱きしめられる。
「んん⋯⋯」
えっ!? どういうこと!?
俺は少女に問いかけようとするも、顔が大きな胸に包まれ喋ることが出来ない。
「君のお家はどこかな? すぐに帰してあげるから安心してね」
それよりまずは離してほしいぞ。
柔らかい胸の感触が俺の空気と理性を奪っていく。
見た目は十歳でも中身は二十二歳だからな。さすがに意識するなというのは無理な話だ。
だけど会話を聞く限り、このルリシアという子は暴走気味ではあるが、俺の心配をしてくれているので、悪い人ではなさそうだ。
とりあえず分析するのは後にして、今はここから脱出しないと。でもこの子、中々力が強くて抜け出せない。
まずい⋯⋯このままでは息が⋯⋯
「ルリシア様! このユートは見た目は幼く見えますがBランクの冒険者です。先日一人でグリフォンを倒した報告を受けています」
「えっ? こんなに可愛い子が? うそ! 信じられない」
「事実です。ですからそろそろユートを離してあげて下さい。死んでしまいます」
「えっ?」
ルリシアさんはボルゲーノさんの言葉を聞いて、慌てた様子で俺を離す。
く、苦しかった。ルリシアさんみたいに可愛い人に抱かれながら死ぬのは本望だけど、今はまだその時じゃない。
「え~とユートくん? 大丈夫?」
「なんとか」
「ごめんね」
「大丈夫です」
「次はもう少し優しく抱きしめるから」
ルリシアさんは舌を出して可愛らしく謝罪してくるが、そういう問題じゃないと思う。この人、少しずれてるな。
「それでルリシア様、ユートを護衛として雇いたいと考えていますがよろしいでしょうか?」
俺としてはトアの病を治すためにも、雇ってもらわないと困る。
しかしルリシアさんの返答は俺の望むものではなかった。
「でも私のために子供のユートくんが傷つくのは⋯⋯」
「僕のことは気にしないでください」
「そんなこと出来ないわ。私を守ってくれた人を気にするのは当然じゃない。それに私なら護衛がいなくても大丈夫。こう見えてお姉ちゃんは強いのよ」
確かにさっき俺を抱きしめた時の力は強かった。だけどそれだけで、襲撃してくる者を倒せるという訳じゃない。
「ルリシア様は子供が傷つくのを見たくないということですね。わかりました。ですが護衛がなしというのは⋯⋯他の護衛を準備することで了承して下さい」
えっ? それは困る。
でもボルゲーノさんは最初の条件で、ルリシアさんの許可を得られたらと言っていた。
このままではトアの病を治す方法を、教えてもらえなくなってしまう。
俺はルリシアさんに護衛を受けてもらう方法を考える。
先程の会話を聞く限り、ルリシアさんは自分の力に自信を持っているようだ。それなら⋯⋯
そして一つの案にたどり着き、俺はルリシアさんに提案するのであった。
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、作品フォロー、応援等もして頂けると嬉しいです。
21
お気に入りに追加
1,214
あなたにおすすめの小説
転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~
詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
かつて剣聖として無類の強さを誇っていた剣士ゼナリオは神族との戦争によって崩壊寸前の世界を救うため自らの命を引き換えにし、そして世界を救った。剣で始まり剣で人生を終えたゼナリオは自らの身が亡ぶ直前にある願いを抱く。
だが再び意識を取り戻し、目を覚ますとそこは緑いっぱいの平原に囲まれた巨大な樹木の下だった。突然の出来事にあたふたする中、自分が転生したのではないかと悟ったゼナリオはさらに自らの身体に異変が生じていることに気が付く。
「おいおい、マジかよこれ。身体が……」
なんと身体が若返っており、驚愕するゼナリオ。だがそんな矢先に突然国家騎士の青年から騎士団へのスカウトを受けたゼナリオは、後にある事件をきっかけに彼は大きな決断をすることになる。
これは若返り転生をした最強剣士が前世の知識を用いて名声を高め、再び最強と呼ばれるまでのお話。
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話
湯島二雨
恋愛
彼女いない歴イコール年齢、アラサー平社員の『俺』はとあるラブコメ漫画のお色気担当ヒロインにガチ恋していた。とても可愛くて優しくて巨乳の年上お姉さんだ。
しかしそのヒロインはあくまでただの『お色気要員』。扱いも悪い上にあっさりと負けヒロインになってしまい、俺は大ダメージを受ける。
その後俺はしょうもない理由で死んでしまい、そのラブコメの主人公に転生していた。
俺はこの漫画の主人公になって報われない運命のお色気担当負けヒロインを絶対に幸せにしてみせると誓った。
※この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる